第3弾です。
カキンは沼でした……。
その男は飽いていた。
世界そのものに。
彼の産まれは王の系譜。第四王子である。
最高級の教育環境、そして、望めば大抵の事は叶う地位。だが、彼はもっと欲しがった。権力の頂点、即ち国王の座を。
彼には才能があった。ありとあらゆる事に関する才能が。幼児の頃からその天才性は芽を出し、1歳になる頃には言語を自由自在に操ることができ、5歳になる頃には学問と呼べるものは全てマスターしていた。その早熟さは、天才というにはあまりにも異質すぎ、ある意味怪物とも言えた。それを支えたのは彼の勤勉さ…ではなく、彼の尋常ならざる好奇心によるものであった。
幼い頃から粘着的なその好奇心は留まるところを知らず、勉学、スポーツをはじめとした数々の分野……数え上げればキリがないが、その全てに興味を持ち、取り組んだ。それだけならまだ、ただの天才と言えるが、彼の異常性はその驚異的な集中力にもあった。
一般的に、一流と呼ばれる者になるためには10000時間の法則というものがある。その分野を極めるために費やす時間のことだ。
だが、彼は、常人が苦労して手に入れる技能を、少し集中して学んだだけで軽々と追い越した。その気になれば、どの分野でも超一流と呼ばれる者にもすぐなれただろう。当然、同世代の者に敵う者はいなかった。そして、やがて、彼は飽きはじめた。努力しなくともどの分野でも余裕で勝つ事ができたためだ。初めは流石だと褒められ、モチベーションもあったが、何でも出来てしまう彼は何事もつまらなくなっていった。本来ならば競う相手がいて、お互いに高め合う事でより才能を伸ばす事もできただろう。しかし、彼はあまりにも
そんな彼を例外はあれどたいていの周囲の者達は恐れた。
恐れた者が取る行動は二つ。
徹底的に避けるか、徹底的に排除するかだ。
彼の王子という立場から、彼を恐れた周りの者は前者を選択した。彼はますます孤独になっていった。そして孤高でもあった。
そんな彼ですら手を焼くのが、異母兄妹の存在であった。特に上の2人は自分とはまるで異質の存在。年齢の差はいかに彼が天才であろうとも通用しなかったし、彼らはむしろ彼を独自の理論でとことん振り回し、いじめ倒した。おかげで彼は傲慢な女が大嫌いであるし、脳筋の兄を蛇蝎のごとく嫌った。他の兄妹については、才能については言うまでもなく下であり、更にはそれでも皆が皆自分の世界観を持っており、その価値観が彼とあまりにも違いすぎて、彼をしても興味すら湧かない無視すべき存在であった。唯一、ハルケンブルグだけは評価できる愚物とは思っていたが。
そも、この歪んだ兄妹の関係は、彼らが最初から王位継承権をもつライバルとして育てられており、憎しみ合う間柄であったが故。いずれは衝突する存在であるためである。馴れ合いなどできるはずもない。だからこそ、彼は愛情など知らない。存在しない物を求めようとも思わない。
齢1桁でそのことを理解してしまった彼は、世の中の全てが下らないように映ってしまった。そして、悟る。
自分は特別であり、それ以外はゴミであると。
よって、頂点を望んだ。彼にとって、自分以下の才能しか無い目障りなゴミ共に上に立たれるのは論外である。特に上の兄姉。彼らが自分に勝っているのは年齢のみであり、低俗な愚物にマウントを取られるのは我慢がならなかった。
無論、彼は国王のことは一定以上評価していた。大国を治める王。それを過分なく勤め上げ、更には繁栄までもたらしている。トップとしては充分な成果と言える。問題は次の代だ。
自分は第4王子だ。そして、その順序は変えることができない。順当に行けば同腹で忌々しい脳筋の長兄が後継者であり、その下には自分の女不信の最たる原因である傲慢な姉もいる。そして、その更に下に何を考えているか分からない小男がいる。よって、いかなる不測の自体があっても自分までお鉢が回ってくることなど無きに等しい。暗躍して上の王子を暗殺して回っても良いが、それがバレたときのリスクが大きすぎる。その現実に彼は忸怩たる想いがあった。
だが、ある時、側近からカキン王国にまつわる噂を聞いた。王位継承戦なる噂を。王子達が血で血を洗う争いを行い、勝ち残った者が頂点に立つことができると。最初聞いたときは何を馬鹿なと思ったものだ。しかし、すぐに考えを改める。現国王に兄妹はいない。王位継承権を外された二線者はいるが、アレはハナから継承権がない者たちだ。王の直系の兄妹の不在。それに思い至り、噂は現実のことでは無いかと考えるようになった。
そうなれば、チャンスはある。彼はすぐに王国の隠された王家の歴史を調べ始め、それから、力を付けることに専念した。この場合の力とは、コネである。何をするにも自分の意のままに動く存在が必要だ。
兄妹の例にならって軍学校に進んだ彼は、そういった意図から地盤固めに専念した。天才である彼はここでもその力を十分に発揮し、彼に忠誠を誓うコネクションを築くことができた。その頃には、どのように行われるかほとんど分からないが、その継承戦が事実であると言うことをほぼ突き止めるに至っていた。
後はそのセレモニーとやらを待つのみ。だが、それがいつになるか分からない。少なくとももっと兄妹が増えた頃に行うはずだ。だから待たねばならぬ。争いになる程の駒が揃うまで。
◆
争いが開始されるまでの間、周りを愚物と断じ、全てに飽いていた愛情を知らない彼は、歪んだ趣味に手を染めるようになった。
即ち、人体収集である。
愚物は愚物でも、自らと同じ造形を持つ物。そこに彼は興味を惹かれた。生きている間は愚物でも、死んでからは自らと同じ似姿だ。そして、その中でも特に自分には無い奇形という神のイレギュラーは、鑑賞するに値する物であった。
そんな彼がとりわけ気に入ったのが、緋の眼だ。世界七代美色と呼ばれたその色は彼にとって宝石など遠く及ばないほど魅力的に映った。彼はカネに糸目を付けず手に入れようと画策したが、そもそもの絶対数が少ない。途方も無い値が付けられた緋の眼は彼をもってしても収集は困難であった。
欲しいと思えばどうしても手に入れたくなるのがコレクターという存在である。よって、彼はクルタ族を探しだし、殺して直接収集しようと目論んだ。
依頼したのは流星街の住人。彼らなら足が付かない。彼は軍時代に築いたコネを最大限に活用し、流星街の住人にコンタクトを取ることに成功していた。巨額の依頼料を受けた彼らは、まずクルタ族を捜索するための能力者である斥候を送り込み、その隠し村を見事に突き止めた。綿密に計画された襲撃計画。彼はその中心にいた。ここでも彼の天才性が遺憾なく発揮され、軍事的な襲撃計画は、細部に至るまで煮詰められた。そして、幾度も打ち合わせを重ね、100%成功する確信が持てた時に、計画は実行された。
決行の日。クルタ族の大人達が仕事に出払っている隙を見計らって流星街の能力者が大挙して襲いかかる。
当然彼も同行した。彼にとって、これほどのイベントを見逃すという手は無い。ありとあらゆるスケジュールの穴を縫って同行した彼は、容赦なく拷問、虐殺されるクルタ族の女子供達を前に強烈な絶頂を覚えていた。筆舌に尽くしがたい残虐行為の数々は、彼の退屈だった心の琴線に強く強く響いた。その萌芽であった彼の歪んだ性癖は、この時初めて禍々しく花開いた。
襲撃は短時間で恙なく行われ、終わりが見えてくる。初めて少し寂しい気持ちを覚えていた彼は、戯れに一人、跡形も無く破壊し尽くされた村々を練り歩く。
そんな中、彼が驚愕する出来事が起きた。圧倒的な戦力差に絶望せず、一人、満身創痍の中、流星街の能力者を掻い潜り、首謀者であり、依頼主でもある彼を突き止めて、その一歩手前まで迫った少年がいた。
少年は一矢報いる直前であえなく捕まってしまったが、憤怒の表情を浮かべ、至近距離から見たその瞳は紅に染まっており、彼はその色とその激情にいたく感動した。巨悪に復讐を誓う少年は、流星街の住人によってそのままあっけなく斬首された。
そのまま少年の眼は機械的に刳り抜かれる所だったが、彼がそれを拒否した。その首を捨ててしまうのは勿体ない、と。彼の人生観を塗り変えてしまうほどの芸術的な感情の発露。それは生涯忘れられそうに無いほどのものであったから。
他の眼とは違い、その少年は首ごと流星街のエンバーミング技能を持った者に加工させて持ち帰った。収穫は非常に多い。ほくほくしながら彼はプライベート飛行船でカキンへの帰路に就いた。
その少年の名をパイロといった。
余談ではあるが、大人達が大慌てで戻ってくる頃には彼らは暴虐の痕跡を残して全て撤収しており、それを見た大人達は後悔と絶対の復讐を誓う。そこに、別口から依頼を受けた幻影旅団が到着した。そして、復讐を誓うクルタ族の大人と幻影旅団の闘いが勃発し、旅団は彼らを殲滅したが、それはまた別の話である。
◆
それから5年の月日が経った。彼はそのころには現在の残虐な性質を隠しつつ、人体収集、そして拷問及び殺人の快楽にのめり込んでいった。彼はその地位から捕まることは無い。幾らかの犠牲者が彼によって生まれていった。
だが、まだ彼には理性もあり、抑制も利いていた。表向きは品行方正な王子を演じることができていた(長兄ベンジャミンにはバレていたが、そこはそれぞれお互い様の部分であり、お互いがお互いを嫌悪していた)。彼にとって幸いだったことは、幼なじみである私設兵が、彼の味方であったことだ。それは恐怖や金銭的なつながりでは無い。友としてのつながりである。故に、彼らに出世欲は無かった。階級が上がれば上がるほど、彼の命令に逆らえなくなるからだ。孤独と孤高を極めたような彼にとって、彼らは愛称で呼び合う貴重な友人であった。それが故に、決定的な一線を踏み外して破滅する事は無かった。つまり、彼の極僅かな人間性を保つ楔として機能していたとも言えた。
そして、待ちに待った王位継承戦。国内の関係者全員を巨大で閉鎖的な宮殿内に集め、大々的なセレモニーを開き、そこから二ヶ月を期限として行われたそれは、搦手を主眼とした謀殺合戦であった。そこには厳格なルールが存在し、直接殺す事や、武力全開でのゴリ押しは出来ない。
その中で、雇った護衛であった者から念能力の基礎を学び、超規格外の才能を再び遺憾なく発揮した彼は、同じく規格外の能力を持った兄妹達を赤子に至るまで殺し尽くした。
ライバルである長兄をはじめ、恐ろしい能力を持つ者ばかりではあったが、その全てを抑え、彼は結果として勝利した。
その過程で全く犠牲がなかった訳では無い。
継承戦の混乱の最中、彼がケツモチをしていたマフィアが暴走した。原因は破滅主義者であるボスのモレナ=プル-ド。彼女はこれを機に一切合切を破壊しようともくろみ、他のマフィアを手当たり次第に殺し始めた。彼は継承戦の邪魔になる存在であると彼女を見放し、彼女を抹殺しようとしたが、逆に彼の友人であった私設兵達が捕らえられた。
最終的に無惨に殺された友人達だったが、その結果、彼の中の最後の人間性は消え去った。
能力の覚醒である。
只人には及ばない次元の能力を得た彼は、機械的に裏切り者共を始末し、更に力を増した。皮肉にも、破滅を願ったモレナの願望は自身の破滅で幕を閉じた。いや、彼女はまだ
そうして、圧倒的なアドバンテージを得た彼に敵う存在はいなくなった。敵や味方を利用し、時には自分さえも囮にして他の兄妹を次々と謀殺していく彼は、敵対者に容赦はしなかった。その天才的な段取りの良さとなりふり構わない手法に他の王子は次々と敗れていった。その時点で、彼は王足る者の資格としては充分に満たされていた。
元国王は、彼が最後に生き残り、勝利したことを見届け、満足しながらシステムの礎へと還っていった。
◆
勝利した彼がまず行ったことは、大規模な粛正である。他の王子に与した勢力、ハンター全てを彼は根切りにした。その家族に至っても同様である。それは自身の母であろうと同様であった。
彼は常々口にしていた「使えるゴミと使えないゴミに分ける」を着実に実現していった。
そして、殺す度に彼の力は膨れ上がった。普通なら耐えられる物ではない。しかし、国王という特別。そして彼の人間離れした精神がそれを許容した。
そして、古今東西で敵う存在がいなくなる程の強大な力を身につけた。無論、自身に忠誠を誓う事を前提とした「使えるゴミ」は残していた。国とは1人で回せるものではない。彼らを使いこなす事で兄妹を始末していった彼は、当然そういう事も理解していた。彼は側近達に力を分け与え、その力でより大国の支配体制を強めた。
そうして、僅かな期間で盤石の体制を築いた彼に、最早敵う者は居なくなった。
国民は、大々的に戴冠式を終えた彼を歓迎した。大衆にとっては誰が国王となろうとも、自身に被害が無ければ関係ない。政府批判をした人間が収容所に強制的に送られて、二度と戻って来なくとも。彼らにとっては目の前の生活が大事なのだ。
彼はそんな国民を内心愚民共と見下し、大いに笑った。だが、そんな愛すべき愚図共を導くのが国王たる自分の責務であり、逆らうゴミ以外には誠実に向き合って統治していた。それが、連綿と受け継がれてきた伝統と国王の系譜足る自らの使命であるが故に。そんな新しい国王の国民からの人気は非常に高かった。
◆
ある時、全世界のマフィアの大部分を牛耳る組織の参謀から、極秘の連絡を受け取った。
曰く、自分を脅かす存在が居る。
それを倒す、又は封印する事が出来れば、全世界を支配する事すら視野に入れる事が出来る、と。
初めは一蹴した。
そもそも、今の彼を斃す事など限りなく不可能だ。仮に本当だったとしてもリスクにリターンが釣り合わない。
だが、連絡を寄越した男は彼に現在の世界状況が如何に危ういものかを説く。世界は単体で世界を滅ぼし得る厄災で溢れ、更にそれを粛正する〝救世主〟が跋扈している、と。
順当に行けば世界は〝救世主〟の元に団結し、厄災はおろか、旧体制まで駆逐されるだろうと。
彼は鼻で笑う。貴様は預言者か。預言者気取りの詐欺師めと彼は断じた。だが、男は食い下がる。
男は能力を開示する。自身が念能力者であり、広域の予知能力者である事を。試しに彼はカキンで起こりそうな事を尋ねた。すると男は幾つかの預言を残してその日の連絡は終わった。彼も似たような能力を持つ。限定的な範囲で彼の予知に敵う者はいない。それが故に興味が湧いた。また、その〝救世主〟の情報も別ルートから得ていたので興味が湧いた。
数日後、細部は異なるが、大枠で男の預言は当たる。天気などのその男が関われない事象に関しても悉く。もしかすると、使えるゴミかもしれない。暗黒大陸の事も他ならぬ前王に聞いてはいた。
本来ならば、暗黒大陸へ向けて国王一族が出航し、その巨大な船の中で継承戦が行われるはずだったと。そこへ、例の〝救世主〟が出現した。そのため、予定を大幅に変更せざるを得ず、やむなく陸の上で継承戦と相成った。ここまでは男の話と合致する。よって、少しは話を聞いてやろうと会談する事に決めた。
男からは世界を取り巻く状況について改めて説明を受けた。世界は思ったより脆く、厄災を始めとする厄介な事象で溢れていた。とりわけ、〝救世主〟。ふざけた称号を持つ者の情報に彼は衝撃を受ける。
200年前に、暗黒大陸に調査と称して旅立った男。そして取り残され、不老不死に近い能力を得て再び帰ってきたと言う事実に。
その〝救世主〟が念能力者と戦闘しているシーンも映像で見せて貰った。
相手は超一流と呼ばれるほどの使い手であり、そんな人間2人を相手に、まるで赤子の手をひねるように下していた。恐ろしいというフレーズが陳腐になるほどの怪物である。
取引相手の男は言う。現時点で彼を倒せる可能性があるのは貴方だけ。もし放置した場合、高確率でカキン王国の脅威となる。そうしたら、真っ先に始末されるのは貴方である、と。
だが、もし、〝救世主〟を抑えることができた場合、彼はのびのびと覇権国家の経営を行う事ができる。加えて、報酬として、その男の組織が持つマフィア利権をほぼ全て献上されるという。厄災でズタズタにされた各国やハンター協会に復興という名の恩を売りつけ、裏から手を回して気付いたときには首が回らなくすることも可能だ。さすれば広大な土地を持ち、世界の半数以上の人口を抱えるカキンは覇権国家となり、世界の支配者ともなり得る。駄目押しで裏の方も抑えれば、もう世界に王手を掛けるに等しい。
彼はしばし熟考し、その提案を吟味する。側近は何も口出しをしてこないが、内心は目の前の男を殺すべきだと主張している。本来ならそうだろう。明らかに詐欺にも等しい話であり、俄には信じがたい戯れ言の数々である。
だが、彼は継承戦で得た守護霊獣の力によって、男が本心で提案していることを理解していた。どんな人物であろうと彼の前で虚飾を行えば、その者はたちどころに異形の生物へと化してしまうからだ。それが無いと言うことはこの男は偽りを述べていない。であるからにはこの話は本当のことだ。
彼は面白がった。〝救世主〟とやらを見てみたい。そして、もしも仮にそんな人類の希望とも呼べる者を殺してしまったら……おぉ、己こそが真の神の子と言えるのではないだろうか?
彼は意外なことに昔から敬虔な神の信徒である。何故なら、表向きの顔には神の信徒であることは非常に有用な隠れ蓑であったし、何よりも、自分を超える者は神しかいないと断じていたからである。
そんな彼が神の使徒である〝救世主〟に興味を持つことは必然であった。
そして、彼はその男の提案に乗った。無論、裏切れば死より辛い異形へと変える契約を条件に。
段取りはその男が整えた。〝救世主〟が可愛がっている弟子を連れてくると。それに危害を加えれば、〝救世主〟はたちまち飛んでくるだろう。こちらはただ、準備万端で待ち構えれば良い。彼も愚民どもの世話で退屈だった為、その準備は退屈さを忘れさせてくれるイベントとして楽しんでいた。
◆
その日が来た。男に連れられてきたのは、聡明そうな金髪の中性的な青年であった。名をクラピカという。見た目もその表情も彼好みの人物だ。しかし、彼はその外見に既視感を覚える。その感覚はなんだろうと考えながら当たり障り無い会話を交わすが、そこで判明したのがクラピカの知性であった。
2~3の会話の応酬でもう目の前の人物が敵であると警戒を強めたのである。何でも無い会話だったはずなのに。ますます彼の趣味に合う人物である。
そして彼は思い至る。表向きの謁見室ではなく、試しにコレクションの部屋に招待してみようと。敢えて側近や護衛は付けず、謁見室の奥へとクラピカを案内した。
〝ソレ〟を見た途端、クラピカのオーラが爆発的に増えた。振り返れば、冷静さを装ってはいるものの、内心激情に駆られている事は間違いない。オーラは瞬時に引っ込めたが、隠しようもないものだ。
彼は内心歓喜した。まだ生き残りがいたかと。あれからもう緋の眼は打ち止めであると思われていた。だが、ここに。極上の獲物が残っていたとは!
彼を連れてきた男を心の中で称賛しつつ、会話で煽る。どのようにこのコレクションを手に入れたか。どうやって彼らに緋の眼を発現させて殺したか。
それを語る間のクラピカの表情は極上だった。絶頂しそうな程に。だが、まだまだだ。
話がパイロの生首の部分に至り、クラピカの我慢の限界が訪れる。鎖を発現し、彼に襲いかかった。必ず殺すという憤怒の表情と共に。
しかし、彼はそれをアッサリと処理し、逆に彼を捕らえる。隠してはいたが、力の差は歴然なのだ。クラピカも一流というのにふさわしい念使いであったが、そんな次元の能力では無い。
彼は異空間を設置し、彼と共に一時的に現実世界から消えた。これからお楽しみタイムだ。部下に伝言を告げ、恙なく作戦は進行していると、例の男に伝えた。
◆
夢のような時間を終えて、彼は大満足のまま時空間の異なる部屋から出て来る。この部屋は外界と切り離され、時間の流れを自由自在に変えられる。0.01倍から100倍まで。元は彼の能力の一部であり、こんな風に切り離す事は出来なかった。そもそも彼の能力は、先の時間を10秒予知して、そこを遡りその10秒を追体験して結果を変えるというものだった。これだけでも恐ろしい能力だが、この能力の本質は、世界を分岐させる所にある。
彼が予知した先の未来を限定的に切り取り、その世界で起きる出来事を彼は映像として視る事ができる。予知で起きる世界を切り離し、自分軸の世界線を新たに創造し、予知で起きる未来を
名を【
使いこなすごとに彼の能力は進化し、今や予知段階で不可避の攻撃は修正出来るし、理想の結果を必ず導く事が出来るようになった。更に能力の副産物として自由自在に平行世界を行き来できるという、嬉しいオマケも付いてきた。
元の能力と併せて使用することで彼は無敵となる仕組みである。
そして、彼は後に合流した預言者の男と合流し、準備を整えて準備万端で迎え撃つ体制を整えた。可能であればここで始末できるようにと。クラピカについては殺さなかった。そこだけが不満だったが、万が一の事態に備えて人質として活用するように男に言われていたため、渋々従った。
あとは作戦通り行うのみである。〝救世主〟とはどの程度の者なのか。彼は実際楽しみにしていた。
◆
男はクラピカを元の世界に戻せば〝救世主〟はすぐに駆けつけるだろうと言っていた。そこで、クラピカは最後の準備段階で元の世界に戻した。
その直後、強大な気配が出現するのを感じた。
……速すぎる。
急ぎ玉座の裏に隠れたが、何もない空間から、莫大な圧を伴ってソイツは現れた。ソレをひと目見たときに感じた。
化け物だと。
継承戦を経て、他人を殺すことでレベルアップした自分に最早敵う者はいないと思っていた。それ程までに彼の力は強大だった。
しかし、そんな次元の話では無い。格が違う。瞬時に自分が敵う相手ではないと悟ってしまった。
その纏うオーラは、最早オーラとは言えず、神聖で不可侵な物に見えた。
彼は少し不安になった。これではまるで、聖書に登場する無慈悲な天使そのものではないか。天使は終末のラッパが吹き鳴らされたとき、人類を滅亡へと導く存在だ。そこに情は無い。
クラピカを殺さないで良かったとは思ったが、それを無視して自分を抹殺しに来たらどうしようもない。
彼の中で逃げるという選択肢が現実味を帯び始めた。だが、〝救世主〟は自分をアッサリと発見した。迷う暇など無い。選んだのは自分だ。やらねばならぬ。預言者の男が告げた〝救世主〟の弱点。
人間性にこだわる癖。現に、彼はクラピカを瞬時に元通りにしてしまった。念能力では無い。もはや〝奇跡〟である。だが、それこそがソイツの弱点でもあることに胸をなで下ろす。人質は有効だった。そこを徹底的に利用せねばならぬ。
クラピカを見た〝救世主〟の圧が強まり、息苦しささえ覚えていた彼は、ともかく挑発する言葉を述べ、立場上はこちらが優位である事を強調する。無論、能力の出し惜しみはしない。
予知した直後、最初に超巨大な念弾で粉々に砕け散る自分が視えた。どんなに防御しても関係ないとばかりにその念弾は自分を貫いた。修正。そして、次に凄まじい速さのパンチ。これも駄目だ。〝視て〟いなければどうあがいても即死のものだ。修正。そこを超えて、次の瞬間にはソイツが速さと言う概念を置き去りにしたかのような移動の仕方をして攻撃してきた。これも修正。
……無理だ。コイツを殺すなど不可能だ。
もうこの短時間で3回も死んだ。いや、死ぬはずだったが、辛うじて回避した。自分の能力によって。こちらの攻撃も、そのオーラによって通りそうにない。そして、切り替える。コイツを追放する様に動く、と。
冷や汗が全身に噴き出す。それを悟られないように慎重に事を運ぶ。これほどの緊張感は近年無かった。継承戦の時に長兄と相対したときもこれほどでは無かった。
だが、達成した。
100倍の時間が進む平行世界の部屋に扉を切り離して閉じ込めることができたのだ。いかに奴といえどこれを突破できるものではない。仮に万が一突破出来たとしても年単位で時間がかかるはずだ。殺すことは不可能だったが、ついに〝救世主〟を封印することができた。
ザマァみろ。もし出て来ても、オレは更に進化してやる。奴を殺せるレベルまで。何せ、糧となる生贄はたっぷりといるのだからな。
これで、名実共に自分が最強であり、神の代理人としての格はどちらが上かをハッキリする事ができた。もう、何も怖くない。
世界をこの手に掌握したら、悲願である暗黒大陸とやらに進出しても良い。駒など腐る程にいる。支配した属国を斥候として向かわせる事もできるだろう。
あぁ、神よ。感謝します。我にこれ程の試練を与え、無事に乗り越えられた事に。
さぁ、始めよう。カキン王国の、栄光に満ちた輝ける未来を。
【
Q つまり?
A キングクリムゾン+α
・特質系能力
内容は原作の意味不明な力を更に強化したもの。彼は平行世界を駆使して世界ごと改変できる。〝聖光気〟はあくまで自身に及ぶ呪いや能力を弾く為、世界ごと変えられる能力は通る。また、彼の能力はそれだけに留まらず、その能力の副産物として限定的に平行世界を創造し、それを元世界から切り離すことができる。ノヴの能力の様なものではあるが、更に時間設定までできる。つまり、擬似的なアイテムボックスに近い。どれだけ強力な能力かは言うまでも無い。クラピカに限らず、ほとんどの能力者は太刀打ちできないだろう。更に彼はモレナの能力を利用しており、その力は留まることを知らない。継承戦を経て彼は完璧な王となり、個人の力としても勝てる人間はほぼ存在しないという所まで上り詰めることができた。
今回はその能力を利用して、怪物的な存在である〝救世主〟を封じ込めることに成功した。