アンブレイカブルハンター【完結】   作:エアロダイナミクス

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131、集大成

 

 

 

 

 

 

 

 

 政務をこなし、日課である趣味の時間を終えたツェリードニヒだったが、その表情は優れなかった。何故なら、極上の快楽を知ってしまったからだ。クラピカを拷問しているとき、彼は興奮の絶頂にあった。最高級の知性と、決して折れない強い意志。たとえ彼が男であっても、ツェリードニヒにとってはまさに宝石のような人材であった。それを蹂躙し、破壊していくことのなんと甘美だったことか。美しいモノほど壊したくなる。その行為は彼にとって芸術であり、嘘偽り無い真実の物語でもあった。

 そして、仕方なかったとは言え、それが無くなってしまった今、彼は一種の虚無感に陥っていた。愚民どもにはいくら探してもそんな人材はいない。よしんばいたとしても、それは国家にとって使えるモノであり、やたらと消費するわけにはいかないモノだった。

 いかにツェリードニヒが狂っているとは言え、彼の中での優先度は国家>趣味であり、それは初代王から連綿と続く呪いのようなものである。よって、そこを覆すわけにはいかない。

 以上の事情から、自らの敵対者であるクラピカは彼にとって非常に貴重な獲物であり、奇跡の産物であった。今でも、彼が女であればどんなに良かったかと夢想する。今の様なバカみたいなオーラであれば可能であるかも知れない。そういう能力を作り出せば。だが、全てが遅かった。時空を操る彼も、過去を元に戻す事は出来ない。

 

 

 後悔先に立たずとはこの事だ。

 

 

 

「あ~ホントにつまんね。コレじゃブタを解体してるのと変わらんだろ。おい、もっとマシなのはいないのか? 流石にウチの議会の制度を知らねぇってどういうことよ? ヒトとしての最低ライン割ってる奴等ばっかじゃん。もう男でも良いからいないのか?」

 

 

 

 彼は側近にそう愚痴る。側近も困り顔で「これ以上はちょっと……」とお茶を濁すしかなかった。それもそうだ。基本的には若い女。しかも知性が高く、そして危機感のない、消えても誰も心配しないような女がそうそういるわけがない。そして、事が露呈したときのリスクもデカい。万が一露呈したとしても揉み消せるだろうが、流石に帝国社会主義を標榜しているカキンでも、これほどの暴挙がバレれば大事になりかねない。

 それは本人も理解している事ではあるし、理解しながら愚痴っているのだ。部下にとってはタチが悪い男である。

 

 

 仕方ない。そろそろ()()にも精を出すかと腰を上げた時、目の前の空間から突如、見覚えのある扉が出現した。

 

 

 

「バカな……なぜコレがここに?」

 

 

 

 嫌な予感がする。アレは自分の能力ではあるが、完全な独立空間だ。最早異世界と言ってもいい。扉が出現したという事は、まさか……まさか奴は自力で出口を探り当てたというのか? だが、扉が出現した意味は? まるで分からない。こんな事は初めてだ。

 

 

 あり得ない。

 

 

 〝救世主〟とはそんな理不尽な存在なのか?  歴史に存在する〝救世主〟は、人に殺されたり、追放されたりと破滅の道を必ず辿っている。多少の奇跡は記録されているが、それらは眉唾物であり、大体が念能力で片付けられるものだ。つまり、愚民と〝救世主〟との間にそれ程の力の差は存在しない。

 だからこそ、この目の前で起きている現象はおかしい。これ程の力を持つ自分の、謂わば究極とも言える能力をたかが1週間程度で攻略するなど……。しかも、あの空間は100倍の時間が流れている。つまり、奴は実質2時間以内にそれを為しているという事だ。

 確かに強さはとんでもなかった。だからこそ100にしたのだ。自分が比肩するぐらいに成長するまで! 出来れば1年、せめて半年は欲しかった。だが、その目論見は崩れ去った。その脅威を見誤った。

 

 

 ……だが、やらねばならぬ。やらねば、滅ぼされる!

 

 

 扉が徐々に開かれる。先ほどから警戒していた親衛隊である配下達が攻撃を仕掛けようとしている。……恐らく無駄だろう。

 完全に扉が開き、人影が見えた時、数えきれない程の念弾がその付近に集中する。配下達は腐っても自分の配下だ。それなりの力を与えている。通常であれば現代兵器のバズーカ砲の集中砲火を優に超える威力があるはずだ。一瞬で周囲が煙で覆われる。対象沈黙、と砲撃を隊長が止める。しかし、その対象はハナから沈黙している。辺りが見え辛い。余計な事をしやがって。アイツは粛正だな。だが、それは奴がやってくれるだろう。そして煙に紛れた今がチャンスだ。

 

 

 その隙に脱出を図る。

 

 

 即座に玉座の後ろにある隠し扉から脱出を図ろうと行動する。だが、()()()()()()! バ、バカな……これは…!!

 

 

 

「何処に行こうというのかな?」

 

 

 

 煙が晴れ、いつの間にか配下達は全員倒れている。死んではいないようだが、凄まじい苦悶の表情を浮かべて痙攣している。

 な、何をしたらそうなる? 奴等は仮にもオレの配下だ。生半な能力者ではない。それぞれが人類最強クラスだぞ!

 

 

「クソが…一体何をしやがった!」

 

「さてね……。お前が知る必要があるか? これから死ぬというのに」

 

「貴様……オレ様を閉じ込めやがったな! 今すぐここから解放しろ!!」

 

「それは出来ない相談だ。お前はやり過ぎた。よってこれからお前を滅ぼす」

 

「……ふーっ…。『滅ぼす』ときたか。〝救世主〟ともあろう者が随分と偏った見方をするものだ。オレは古代から連綿と続く由緒正しい王だぞ? それを害するなど、〝救世主〟のツラに泥を塗る行為ではないのか? オレが死ねばカキン帝国2億人が路頭に迷って地獄と化すぞ?」

 

「勘違いしてもらっては困る。私は別に〝救世主〟等と名乗った覚えは一度もない。ただ、お前が気に入らないし、私とクラピカに害を与えた人物だから始末する。それだけだ。第一、別に王がいようがいまいが国民は強かに生きるだろう。むしろ、お前がいなくなった方が彼らにとっていいんじゃないか?」

 

 

 奴の後ろからクラピカが顔を覗かせる。オレを射殺さんばかりの視線で睨みつけているという事は、精神まで回復してやがるな。チッ。コイツには不可能は無いのか? 不味いな。とりつくしまもない。下手な倫理観に訴えたり、情に訴えても同じだろう。

 オレにできる事と言えば、奴の隣にいるクラピカを何とか確保して逃げ切ることだけだ。奴の弱点である人間性、それに賭けるしかない。

 

 

 

 ズズズ……

 

 

 

 背後に自分の相棒である念獣が現れる。禍々しいデザインで古の堕天使を模した蠅の王の様なシルエットを持つコイツが【衆愚の王(ルシファー)】の正体。その名に恥じぬ、強烈な力を持つ。さぁ、始めよう。オレは決して〝救世主〟なぞには屈しない。オレこそが古代から続く王家の正当後継者。

 

 

 ツェリードニヒ=ホイコーロだ。

 

 

「クラピカ、気持ちは分かるが君は下がっていろ。アレはこの世界のヒトの手には負えん。……しかし、何というか、酷いデザインだな。念能力とはその人物の本質を露わにする。やはりお前は〝怪物〟だったか。ならば、私も本腰を入れよう。怪物の王よ、私は【壊れない男(アンブレイカブル)】、【怪物(モンスター)ハンター】、そしてお前を滅ぼす者だ。覚悟するがいい」

 

「笑わせる。お前はヒトではないかの様な言い草だな。ゴミの分際で。そもそも神の下では皆平等だ。唯一人、神に選ばれたオレだけが特別! その証拠に、見せてやろう。オレの能力は『世界』を支配する能力だとな」

 

 

 

 

 互いに舌戦を繰り広げながら、オレは奴の能力を整理していた。奴にあの白いオーラは今無い。脱出に使い切ったか、はたまたブラフか。いや、ブラフは無いな。やる意味がない。それでも莫大なオーラ量だが。このオレを閉じ込めるとは、どんな能力だ? あの感触は、考えたくも無いがオレが極小の並行世界を創造する時の効果に似ている。まさか奴も同じ事が出来るのか? だが、奴は以前オレに太刀打ち出来なかった。そこから考えるとまた別の能力だと考えるのが自然だ。だが、万が一がある。奴の能力が人の能力を吸収、または模倣できるものだとしたら? この闘いは厳しいものとなる。しかし、こればかりはやってみないと分からない。

 舌戦の後、準備をとっくに終えていたオレは能力を発動する。発動キーは目を閉じる。これだけだ。以前は《絶》状態でなければ無理だったが、〝力〟が増えた今、可能になったことだ。能力発動の意志を受け取った念獣の全身から黒いオーラが迸り、オレの周囲を覆う。これが、以前よりパワーアップした全力の能力行使だ。

 〝救世主〟は、ただこちらをその場でじっと見つめている。さて、どう出る? 

 

 ここから【刹那の10秒】が始まる……!

 

 

 

 直後、自分の頭が弾け飛ぶイメージ!

 

 

 なんだ!? いきなりコレか!! 何をされた!? とにかくその結果を見て回避する行動を取る行動に修正。修正中に奴は動けていない。よし! それならば方法はある!!

 

 

 コンマ一秒もしないうちに全身がバラバラにされる自分が視える。コレもその場を回避する行動に修正。

 

 

 すると、今度は直後に全身がグズグズに腐っていくビジョンが見えた。

 

 

 これは不味い。1秒もしないうちに3回も瀕死に至る攻撃を喰らう。しかも最後のは直接攻撃じゃない。何を喰らったかすら分からない。たまらず大幅な回避行動に修正する。オレの能力は()()()()()()()()()! 予知できた未来に対して、オレが世界ごと複製し、書き換えることでその結果は偽りと化す! より具体的に言えば、オレの能力は起こりうる結果の途中である過程を切り取る。そして、その過程はオレが平行世界へ()()()

 奴にとってみれば確実に殺ったはずの結果を、オレが世界の過程を修正し、そして偽りへと書き換えるのだ。だから奴はオレを認識できない。この能力に隙があるはずもない。

 

 

 眼を開ける。ここから追体験の10秒が始まる。

 

 

 ここまでは奴は何ともない。予知通りに動かずに念弾を飛ばしたり、訳の分からん攻撃を飛ばして来た。しかし、全てを回避する。杞憂だったか。ならば早く殺してやろう。

 

 動いていない奴の方に数多の即死攻撃を回避しながら行く。クラピカを確保するために。コイツがオレの生命線だ。会いたいとは思っていたが、こんなに早く、再び会えるとは思わなかった。こんなに嬉しくない再会は初めてだ。思考がズレそうになるところを封じ込め、クラピカを貰い受けようと近づいたその時

 

 

 

 

 

 

「やら、せると、思う、か?」

 

 

 

 

 

 

 バッ、とその場を飛び退く。バカな……!! 幻聴、か? 奴は動いていない。

 

 

 

 だが……奴は徐々に()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

「そんなバカな……!! 何故、何故貴様が認識できる!!!」

 

 

「さて、ね……。私に、不、可能は無い、からじゃ、ないか?」

 

 

「ふざけるなッ!!! クソゴミがッ!!!」

 

 

 

 思わずパンチをぶち込む。すると、拍子抜けしたかの様に奴の顔面に拳は吸い込まれていった。グチッという生々しい音をたてて奴は吹き飛ぶ。

 

 

 

「な……!?」

 

「くっ……。まだ、存分、に動けん、な……」

 

 やったオレの方が驚いた。何が……いや、奴がオレの攻撃を()()()()()()()()。コレまではそんな事ができるとは思えないほどの圧倒的なオーラだったが故に、まさか効くとは思わなかった。…だが、そうか!

 今の奴はこの瞬間、この時空間は認識はできていても、ここを自由自在に支配できているオレの方が上回っている! 奴は()()を認識できるほどの力量は持っていたが故に、あの空間からこちらへと繋がる道を発見できたのだ。流石〝救世主〟! だが、甘かったな。今この能力内では、このオレの方が上だ! そして、奴は例の気色の悪いオーラを出していない。大方脱出の時に使い果たしたのだろう。無理は無い。それがオレにとっての幸運を招いた。

 

 

 チャンスだ! 

 

 

 それからオレは、奴をひたすらに打ち据える。今見ると、オーラ量はオレが劣るものの、絶望的な程の差はない。よって、一方的に動けない奴は、こちらからの攻撃のどれもがクリーンヒットだ。レベルを上げておいて良かった。この10秒でケリをつける!!

 

 

 6

 

 

 5 

 

 

 クソッ!! しぶとい!!! まだ致命傷を与えられない!!! 早く死ね!!!

 

 

 4

 

 

 目玉を抉る! 奴の指や手足が千切れ飛ぶ! 早く、奴が徐々に動けるようになってきている!! 

 

 

 3

 

 

 2

 

 

 不味い。これだけやってもコイツが()()()()! どうなってやがる。仕方ない。クラピカを浚って反撃……いない!!?

 

 

「やらせは、せんと、言った、だろう……」

 

 

 クソッ! あんな所に……いつの間に!! 時間切れだ。とりあえず離れる!!!

 

 

 1

 

 

 

 0

 

 

 

「ゲハッ!!!」

 

「な、カームッ!!! 何が起きたッ!!!」

 

 

 

 クラピカが戸惑っている。奴からすれば、いきなり〝救世主〟がボロボロで自分が違うところにいたんだからな。だが、漸く奴の攻略の糸口が掴めた。間髪を入れずに再び発動する! 

 

 

 

 【刹那の10秒】!!

 

 

 

 この能力の良いところは連発できるところだ。そして、予知が始まってオレは少なくとも100回は死んだ。死んだビジョンが見えた。恐ろしい。あの状態でなんて奴だ。だが、結果を修正し、次の追体験の10秒で奴の元に辿り着き、攻撃を加えていく。奴はあの瞬時の時間にかなりの回復を済ませていた。というか、回復出来るのか。化け物め。だが、全回復までは出来ていない。

 ならば、コレを続けることで勝機が見えてきた。コイツを殺せば真にオレに敵う者はいなくなるだろう。

 

 

 

 

 死ね! 速やかに!! オレのために!!! オレの礎となれ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カーム……悪いが解説してくれないか? 一体何があって奴は()()なっている?」

 

 

 

 クラピカの指し示す方向を見れば、全身を緑色の奇妙な植物や気持ち悪い蟲複数に集られ、「なぜだ〜」「なぜ死なねェ〜」と独り言をブツブツと呟くツェリードニヒがいた。

 

 

 

「そうだな。君には詳しく教えるよ。アレは暗黒大陸で採取した寄生植物の一つだ。あの蟲とも共生関係にある。簡単に言うと、あの蟲が植物の種を埋め込み、体内で発芽する。植物は幻覚作用のあるガスを吸わせ、対象を夢の世界へと旅立たせる。その夢も平和な物ではなく、ひたすら闘い続ける夢だ。そして、その闘いで生まれる対象の夢エネルギーを吸う。貘という怪物に似てるな。そして、蟲はその植物から生まれる果実や樹液を採取する、とそういうわけだ」

 

「……なんとなく分かったが。そんな蟲や植物をここで出したらまずいんじゃ無いのか?」

 

「それも気にしなくていい。ここは限定的な『並行世界』だ。現実世界には影響はないよ」

 

「? どういうことだ?」

 

()()()()()()()()()()()。奴の能力を頂いたが故にできたことだけどね。実際恐ろしい能力だった。まさかこの人間世界で世界自体を書き換えるほどのパワーのある能力に出くわすとはね」

 

「……なるほど。奴は行動を予測している。そこまでは私も読めた。しかし、世界自体を書き換える、とは?」

 

「言葉の通りさ。奴は10秒程度の未来を予知する。ここまではいいな? で、問題は、それがただの未来予知では無いと言うことだ。未来はバタフライエフェクトの名の通り、行動を起こせば無数に分岐する。奴は、それを意図的に分岐させることができるんだ。予知の段階でな。そして、自分はその分岐した世界を行き来して、自由自在に結果を変えられる。最終的に、どうあがいても結果は奴の思い通りに収束する」

 

 

 クラピカの表情が驚愕に彩られる。だが、彼はその直後に納得した表情で頷いた。

 

 

「……勝てないはずだ。それに、奴は異常なほどのオーラを持っていた。それこそ会長やビスケも歯牙にもかけないほどの。あの凶悪なオーラに充てられて、私も心が折れかけた。いや、実際に折れたのだろうな。まだ思い出せないが」

 

「ゆっくりでいい。今すぐ思い出そうとしてもストッパーがかかるということは、今はその時ではないという事だから。あれはもはや怪物だ。〝聖光気〟無しの私にも迫る勢いだったからな。奴のオーラ量であれば、それ程の力を創ることができるという訳だ。能力の副産物として並行世界を切り離してプライベート用にしていたみたいだしな。普通は無理だ。私もやってみて思ったが、反則級の能力だ。そこから考えると念能力の素養も怪物級だな」

 

「私が直接奴に復讐を果たせなくて無念だったが、良かった。参考にどのような経緯を辿って奴がああなったか教えて欲しいんだが」

 

 

 

 

 クラピカが尋ねてきた。彼にとっては私が仇を奪ってしまった形だ。教えるのもやぶさかではない。しかし、少し複雑なんだよな。

 

 

「もちろんさ。ちょっとややこしいけど我慢して欲しい。まず、最初の邂逅の時。あの時点で、()()()()()()()()()()()()()。気付かれないようにね。だから、こっそり逃げようとしたアイツは逃げられなかった。当然だ。並行世界の範囲を狭く設定したからな。奴の能力の副産物で、時空を自由に設定できる並行世界だ。で、奴が自らの能力を発動させる。そこからはお互いの能力が干渉して、分岐の可能性の削り合いだ。奴は気付いていなかったが。私の攻撃のことごとくを潰して奴が避けるか攻撃を仕掛ける。奴はこの能力を使いこなしていたから一日の長があるし、私は当然劣勢になる。それで、奴が私の元に辿り着くも、奴にとって誤算だったのは、私は奴の能力を認識していたということだ。ただ、認識できただけで、行動自体は不能である事を看破した奴は、必死に能力内で攻撃を加えていった。だが、なかなか私は斃れなかった、というところ()()()

 

「だろう?」

 

「奴の視点からすればそうなる、ということだ。本当は()()()()()()()()()()()()。私が幻覚作用を全開にしたウィルスを浸透させて、奴の能力発動の直前にあの植物の種と蟲を埋め込んだからな」

 

 

 クラピカが呆れた様な表情を作る。

 

 

「……つくづくカームが味方で良かったと心から感じるな。そして奴は、幻想の刹那の時間を永遠に繰り返す、と」

 

「そういう事だ……。これで奴は死ぬまで自らの幻想と闘い続けて、誰もいない並行世界で朽ちて死ぬ。クラピカの仇を私が横取りしてしまった形になるが申し訳ない」

 

「いや、それはいい。大事なのは結果であり、奴にも相応しい罰が下った。仲間達の眼も回収できるし、何より私の親友が見つかったのは幸いだった」

 

「……そうか。すまないな。では、奴を置いてここから出るとしよう。速やかに回収してこの国から脱出を図らねば。恐らく結構な時間が経過しているだろうからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして彼らは元の基点世界に戻ってゆく。背後には呻きながら緑と一体化したツェリードニヒが残された。彼はカームの述べた通りに永遠に刹那を繰り返すだろう。本人も気づかぬまま。死ぬまで。そして、カーム達が完全に去った後、彼の前に黒いオーラが噴出する。黒いオーラはその形を徐々に変え、やがては人面の壺の形を形成する。本来はヒトであったソレは、悠久の時を経て元の姿を忘れてしまった。

 壺(?)は、こうなってしまった場合の契約をどうするか迷っていた。折角儀式が完了し、生贄も大量に得られた。しかし、このままでは王家は断絶だ。広範囲にいた彼の親戚筋は彼が粗方粛正してしまった。

 

 ならば、どうするか。

 

 ……彼を元に戻すしかない。本来ならば、対象者の願いを叶える事がこの壺の本質であった。しかし、悠久の時は、壺を怠惰に変えていた。何もせずとも存在を維持できる。それを覚えてしまえば、そこから抜け出すのは難しい。

 初代王からの願いでもあるという事を言い訳に、壺自身が契約の存続を願った。

 

 

 対価などは後々貰えばよい、と。

 

 

 

 この国には数えきれない程の生贄がいるのだから。気づいていなかったが、壺は自身のアイデンティティすら失い、ただひたすら王家の為のシステムと化していた。システムを維持する為なら、自身の存在すらも歪める程に。

 

 

 黒いオーラがツェリードニヒを覆う。彼ならあの〝救世主〟を回避して国家を形成する事が可能な筈だ。何故なら、彼こそが連綿と蠱毒を続けて勝ち残った集大成であるのだから。

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