王位継承戦を抱えるシステム。それは古の時代、初代国王から連綿と受け継がれてきたシステムである。そして、その正体は、暗黒大陸の厄災から生まれたものだ。
群雄割拠の時代、常に外敵に晒されてきたカキン王国だったが、ある時、側近が悪魔に取り憑かれたという人間を拾ってきた。興味本位で謁見した彼は、その力を見たがった。軽い気持ちで試してみたが、その力は暴走した。
命からがら助かった国王は、恐ろしい破壊力と規格外の力を目の当たりにして、その者に封印を施した。その者を害するなど、何が起こるか分からない行為をしようとすら思わなかった。敵国に放流する事も考えたが、そんな事をして自爆覚悟で巻き込まれたらたまった物じゃない。
そこから様々な文献を当たり、暗黒大陸の存在を知った彼は、その正体にも見当が付いた。そして、自身の判断が正しかった事を悟る。このまま、ソレを封印し続ける事が正解なのだと。
◆
月日が経ち、王も老境に差し掛かる頃。依然として外敵の脅威は消えず。然りとてどうする事も出来ない。
更に、増えすぎた自身の子達は、この状況を知ってか知らずか、王位を狙って牽制を繰り返す。果てには暗殺未遂騒ぎまで起こる始末である。
もし自分が死んだら確実に継承権争いが起きるだろう。そうなったら終わりだ。国として隙を見せた時点で周りの国は確実に動く。
弱った国など、周辺国からしたらただのご馳走に過ぎない。男は皆殺し、女は報酬、そして国王一族は族滅だろう。
老いを自覚した王は悩みに悩む。未だに気を抜けば挑発を繰り返され、度重なる遠征で国内統治も儘ならぬ。後継者の教育も同様に。それが今のどうにもならない現状を作り出してしまっている。
それでも、これまで耐え忍んできた。だが、一手間違えば即潰されるプレッシャーに、遂に王は追い詰められる。
王は考える。このジリ貧で滅びに向かう国を何とかする為にはどうしたら良いかと。
まずはスムーズな王権の移行が必須である。このままでは内戦必至だ。よって、これを何とかしなければならぬ。
国王に就いた者は強く在らねばならぬ。頼りない王であればたちどころに周辺国へと吸収されるだろう。個の強さではない。国王としての強さだ。
そして、遂に結論に至る。
子らを選別すれば良いのだ。強制的に。
さすれば、生き残った者は必然的に強い王となる。単純な保有武力ではなく、頭の出来や深謀遠慮が出来る者のみが生き残る。今のこの国にはそういう強い指導者が必要なのだ。
この思いつきを形にする為に、王は内容を練った。そして出来上がったその概要は以下の通り。
1、継承権のある14名の王子は王位継承戦を行う。
2、王子らは、それぞれ特殊な力を授けられる。
3、王子らは直接手を出すことは禁止。
4、王子1人につき、護衛は15名までつけられる。
5、継承戦は、王子が最後の1人になるまで終わらない。
方針は固まった。だが、まだ弱い。こういった常識外の方法を取る為には、確実な保証が必要だ。いざ選別してみて、共倒れして王族が全滅した、などは普通にあり得るし、それでは困るのだ。
ならばと、王は禁忌に手を出す。
以前封印した悪魔憑き。その超常の力を利用する事を。
それから、王は検証をした。何をしたらどれほどの被害が出るのか、などだ。
少なくない犠牲を出しつつ、その法則が見えてきた。ソレは、どんな願い事も叶えてくれる。その代わりに、別の人物に代償を要求される。そしてその要求は願いの大きさにも寄るが、大きい願いだと明らかに個人の生命を強いることとなる。例えば脳髄を要求される、などである。当然要求された人物は断るだろう。そして、支払いを請求された人物がその要求を4度応えきれなければ、その願いによっては悪魔でもそこまでやらないという程の桁違いの犠牲が発生する。ただ死ぬだけではない。少なくとも支払いに失敗した人物と、その者の最愛の人物が突如、死ぬ。そして願いの大きさによってその者と関係が深い者も巻き込まれる。つまり、犠牲者は加速度的に増える。その死に方も強烈だ。
突然人体が圧縮され、細く捻じられたように殺されるのだ。何の脈絡もなく。
だが、願いは確実に達成される。それは検証を経て間違いなく保証された。よって、王は踏み切る。この企みに悪魔憑きを利用する事を。
それ程までに王は追い詰められていた。犠牲が無くば国を救えない。それ程の覚悟とも言える。そして後は、この提案を悪魔が乗ってくれるかどうかだ。だが、彼には勝算があった。
悪魔は犠牲を強いる。正確には代償だ。願いが大きくなればなるほどその要求はハードルが上がる。
だが、逆に言えば代償の要求は個人で完結する。ならば、何も問題は無い。もはや王は自らの生命すらを犠牲にすることを厭わなかった。
悪魔憑きを呼び出し、王は質問する。
まずは、蟲毒システムを恒久的に王家に組み込むことが可能かどうか。そして、
悪魔は少し考え、条件を付けて是と答えた。
可能であるならば、と、更に条件の交渉に入る。問題の代償であるが、最初から王はすべて支払う気でいた。つまり、自らの生命を。そして、
そして、勝ち残った王子は、国家を繁栄させられる為の祝福を得る。
王は以上の質問と願いを王妃にやらせた。代償は願った人物とは別の人物が支払わなければならないからだ。
王は全てを了承し、合意へと至った。
早速悪魔憑きは代償を支払うための棺を創造した。負けた王子のための棺である。そして、自らは壺へと姿を転じた。
これが通称『悪魔の壺』である。参加者はこの壺に手を入れ、それぞれ独自の念獣を授かる。そして、その能力をもって謀殺しあう。負けた王子は次々と犠牲者の棺へと入れられ、代償に捧げられる。
王子達は集められ、以上の説明を受けて選別が始まった。
この国で初めての「壺中卵の儀」が発動した瞬間である。
熾烈な殺し合いが繰り広げられ、最後に生き残ったのは、知略、謀略、統率力が抜きんでて優秀だった第8王子である。まだ10代前半の彼は、虎視眈々と玉座を狙っていたが、兄妹全てを斃し、見事に勝利を勝ち取った。王はその王子の能力と、選別を終えて著しく成長した彼の姿に満足した。これでこの国は救われる、と。
最後に、王が棺の中央へと入り、犠牲になることで儀式は完了する。そうすると、王が事前に指定した生け贄は代償へと捧げられた。
この時、小国だったこともあり、犠牲者は五千人を割る程度だったと記録されている。切り取った地方の反抗的だった集落と、収監されていた犯罪者が突如捻り殺された。
これは、後に王家から天罰である、と発表された。
その後、強い王の下で団結した小国は、次々と周辺国家を飲み込んでいき、その一代で全ての近隣国を手中に収めることに成功した。覇権国家の誕生である。そして、王は皇帝を名乗り、代を重ねるごとにその勢力は強まり、広大な土地を持つアイジエン大陸を統一することができた。
以後、たびたび情勢が不安定になったり、国家の危機を迎えた場合に王がこの儀式を発動させるようになった。そのたびに生け贄の犠牲者が増えていったが、儀式が終われば国は更に発展していった。更に言えば、人民の犠牲者は不必要な人員の粛正という意味でも役に立っていた。そうして、国家としての新陳代謝を繰り返して強国たる国力を維持してきたのだ。
時代が進み、ホイコーロ王朝(王家の名前を冠する帝国時代)は連綿と続いていったが、産業革命や情報拡散の速度の革新的な向上に伴って、前時代的な国家経営では統率が難しくなってきた。
これを機に、当時の皇帝は、自ら歴史上最も静かな革命と言われた『真林館事件』を引き起こし、カキン帝国と名を変え、帝国社会主義から議会民主主義へとシフトしていった。
しかし、これは何のことは無い。『壺中卵の儀』を久しぶりに発動させただけのことである。
不完全な儀式ではあったが、少なくとも犠牲者は少数で済み、スムーズに政権は次代へと移行する。依然として王族の権勢は絶対的なものであった。
新しい次代の国家の王、それが、ナスビー=ホイコーロである。
彼は、カキン帝国を導く為の様々な道を模索した。新国家へとスタートしたカキン帝国は、他国との様々な密約を誤魔化し、協調路線を捨てて覇権国家への道を歩き出す。
カキン帝国は、国家としてそれ程の実力が付いていた。
密約の中には、暗黒大陸不可侵という項目もあった。しかし、仮に超広大と推測される暗黒大陸に上陸し、拠点を築く事が可能であれば、そこはカキン帝国の物である。国としてこれ程のフロンティアは無い。他国程人権感覚が浸透しておらず、倫理観というものに縛られないカキンは、他の国には出来ない程の人海戦術を取ることもできる。
また、リターンを確保する事ができれば、国家としてもより盤石なものとなる。
世界は、カキンに傅く。
それは、偏に国の為、国民の為である。
ナスビー=ホイコーロは、その為の段取りを組み立て、超巨大な探索船、B.W号の建設に着手した。そして、成果をより確実にする為に。
だが、最終段階に入る直前にその計画は頓挫した。
古来より、カキン帝国は〝救世主〟の存在を恐れた。王族がというよりは、そのシステムの根幹となった悪魔憑きがだ。
存在するだけで凄まじい被害を齎す悪魔憑きは、〝救世主〟にとっては滅ぼす以外の選択肢は無い。謂わば天敵とも言える。
悪魔憑きは逃げていたのだ。当代の〝救世主〟、つまり人と交わる〝聖光気〟の持ち主から。その性質故に。そして、流れ着いて悪魔憑きは国家と共依存の関係となった。
よって、統一を果たしたホイコーロ王朝は、密かに〝聖光気〟の持ち主を探し、そして排除しようと動いていた。長い歴史の中で暗躍し〝救世主〟を破滅に追い込んだ事も2度ほどある。目をつけられないように、刺激しないように。
そして、〝救世主〟を生み出す可能性が一番あるのは、アイジエン大陸に古来から住まう修行者、〝仙〟である。よって彼らはそれとなく迫害を続け、〝仙〟を国から追放する事に専念した。
その結果、〝仙〟は減少の一途を辿り、遂には伝承でしか存在しない空想上のものへと成り果てた。いるにはいるかもしれない。だが、決して人界には出て来なくなった。それで安心していたというのに。
当初の計画では、国民20万人を乗せた船で暗黒大陸の手前の島まで航行し、そこまでに王位継承戦を行うつもりだった。当然、一般の人員は全てが贄だ。だが、今回の〝救世主〟は許さないだろう。例の外部協力者からの情報によって、その全貌が明らかになる度にそれは確実とも言えるようになってしまった。
仕方なく計画の修正をする。継承戦は王宮で行い、次代へと繋ぐ。暗黒大陸への渡航は〝救世主〟を対処してからでよい。発生する生贄も、しばらく隠蔽しておけばそのうち厄災で有耶無耶になるだろう。後は、〝救世主〟だ。歴史上にあるように、様々な権謀術策を以て当たらねばならない。その為の下準備に取り掛かる。下準備を終えたら継承戦だ。なるべく後顧の憂いが無いようにしておかねば。
そして、次世代の王には忠告しておかねばならない。
〝救世主〟には細心の注意をもって対処せよ、と。
その成果如何によって、一族と帝国は永遠に栄える事ができるのだ、と。
◇
「…………」
「どうした?」
「……
「……! どういうことだ? 奴は完全に終わっていただろう!?」
「気配がする。いや……これは何だろう? 私自身にもよく分からないが……私の〝何か〟が訴えるんだ。ここで終わらせてはいけない、と」
「それは……」
「これは、恐らく〝救世主〟としての感覚、なのだろうな」
「……あれ以上に何があると言うんだ?」
「分からん。だが、確実に
「……分かった。だが、急いでくれ。ここは敵地だ。奴は腐ってもここの国王だ。すぐにでも衛兵などがなだれ込んでくるだろう」
「うむ。まぁ、今現在でも私の力でかなり押しとどめているけどね。ちょっと集中するから、見張っててくれ」
カームはそれから目を閉じて集中し始めた。確かに、ここで取り逃したらマズい。奴の能力的にも、存在的にも。
「やはりいない。どこに行った?」
カームが珍しく焦っている。いや、初めてかもしれないな。割と長い時間一緒に過ごしたが、そんな姿は見たことが無い。結局、私は彼の事はあまりよく分かっていない。マフィアのボスの係累であり、人知を超える力を持つ者であり、巷では〝救世主〟と呼ばれる彼の事が。
こうしてみると、彼もまた人間なのだなと、とりとめも無いことが頭に浮かぶ。本来はそんな事を考えている場合ではないのだが、私では悔しいことにもう何もすることがない。仇を力不足故に自らの手で討てなくて、しかもその敵に嬲られるという失態を犯してしまった自分には、想像も付かない領分なのだ。
あまりにも巨大な力と力のぶつかり合い。それはこの世界では禁忌のものなのだろう。
だが、それが許容できないという狭量なことは言いたくない。蹂躙されてしまうのが嫌ならば、より強い力を身につければよいのだ。この目の前の男は実際にそうした。元はただの人間だったにもかかわらずだ。ヒトの可能性とは無限だ。そう期待させてくれる。それは、この男が憧れる程に強く、そしてどこまでも人間だからなのだろう。
この闘いはカームの勝利で幕を閉じる。しかし、ソレをしてしまえば、彼は恐らく人間社会から排斥されるだろう。そのあまりにも強すぎる力によって。そういう予感がするのだ。いや、もうそれは私の中では確実に起こりうる事だ。カキンは大国だ。その王に手を掛けたのならば、それは国家を敵に回す行為だからだ。そして、カームがいかに隠蔽しようが、遅かれ早かれこのことは露呈する。敵がカキンだけじゃない事は、今の世界情勢を見れば確定しているし、何よりアンダーソンにすら裏切り者がいる始末だからだ。敵はこうなることも想定しているはずだ。そもそも、これがカームに対して行われた罠である可能性が高い。私が敵サイドで、この男を相手にするとしたならば、必ずそうする。つまり、単純な力量で勝てない相手に対して、社会的に追い詰める方策をとるということをだ。
……私は責任を取らなければならない。彼をそのように追い込んでしまったのは私の責任でもあるのだから。私はこのところ考えていた。私の生きる目標が達成された時に、どうするかを。そうなったら私は何のために生きようか。仲間を弔い、静かに生きるか? それとも、新しい何かを見付けるか? その時は答えが出なかった。しかし、その答えが出るまでは、社会的に追い詰められる彼のフォローぐらいはできるだろう。私は生命を救われた。そして、私の悲願も叶えてくれるこの男に対して、何もしないほど腐っているつもりはない。もしそんな事をしたらパイロにも怒られてしまうだろう。だから、私はついていく。この男に、どこまでも。
◇
「見つけた。では、クラピカ。すぐに終わらせる。少し席を外す」
物凄く見つかりにくいところに息を潜めていやがった。その強大すぎるオーラを消してまで。しかし残念だったな。念の為に植物と共に私のオーラも奴の身体に刺しておいたことが幸いした。早くしないと気付かれる。急ぐか。これはまた平行世界か? 少し曖昧でよく分からない。しかし、今度こそ確実に滅ぼしてやる。そう思い、飛ぼうとした時にクラピカが待ったを掛けた。
「待て。微力ではあるが私も行きたい。奴の最期を確実にこの目で見たいんだ。我が儘かも知れないが、頼む」
そうか。それもそうだ。彼にそう言わせてしまった私も大概だった。彼に取ってはこれは悲願なのだ。配慮に欠けていたな。
「……そうだな。私が悪かった。では、一緒に行こう。決着を付けに」
彼の手を取り、私は奴の潜む平行世界へと飛び出した。
◆
飛んでみると、そこは平行世界とは思えないような異空間だった。まず、平行世界とは以前いた世界とはなんら遜色が無いはずだ。しかし、ここは明らかにおかしい。全体的に暗く、そして廃墟のような様相を呈している。なんなんだここは。しかし、いたな。以前邂逅したときと同じように、玉座の影に隠れていた。
……なんだこれは?
「ヒューッ。ヒューッ……。グ、グゾが……もうビヅゲやがっだガ……」
あの植物と半ば融合したかのような状態で、奴はいた。おかしい。あの幻覚は初期の頃とは言え、私でも克服するのに1週間以上掛かったやつだ。しかも私の力で強化されている。その系統の能力がない者には脱出不可能な程に強力なのは間違いないはず……。
「何故正気を取り戻している。お前の能力か?」
「イうワゲねーだロうが……バガが」
「カーム。君の能力は強力だ。奴自身が地力で解除したとは考えにくい。だとすれば、強力な能力者が解除したか、もしくは何らかの
「システム?」
「ここに来る前にカキンについて調べた。王族は王位継承権を巡って争う。簡単に言えば殺し合いで王を決める。そんなシステムを採用しながら族滅しないなどは普通有り得ない。強力な念能力でのシステムが働いている可能性が高い」
「……だとすれば……」
「ああ。
「…………チッ。ヤはりゴロジどぐベキだっだガ。まぁいい。いでヨ」
奴の目の前に漆黒のオーラが立ち上り、形を為す。それは人面の壺であった。そしてその壺が目を開いてこちらを見ている。
「でメェのデバンだ…『壺中卵』よ、オレにぢガラをよごゼ!」
奴はそう言いながら壺の中に手を入れた。その瞬間、壺から大量の怨念に近い力の塊が溢れ出す!
ザザザザザザ……
蟲の大群を思わせる音を発して奴の身体に力が纏わりつく。ただでさえ大きかった奴の力は、最早想像を絶するレベルまで到達していた。黒い霧は奴の身体に浸透し、やがて全てが吸収される。現れたのは……。
「……ふぅ。よぉ、クソったれのゴミ共。殺してやるぞ」
私の影響が完全に消されている。完全な形で奴が復活を遂げていた。それだけではない。そのオーラも私に迫る。強烈すぎるオーラはクラピカにとっては毒にしかならない。クラピカには聖光気でガードを張る。
恐らく奴は願ったのだろう。私を倒せるレベルまで強くなるように。
だが、
◇
なんだコレは。人智を超えるレベルではあったが、ここまで酷いと最早笑えてくる。こんな……こんなオーラは直視しただけで危ない。古の神々は、目にしただけで発狂したり、塩の柱になったりという伝承があるが、その理由が心から理解できた。大きすぎる力はちっぽけな人間にとって毒にしかならないのだ。私が無事なのはカームが私に防御壁を張ってくれるおかげだからだ。何か力になれるかと思ったが、大間違いだった。
恐らく、カキンの王家の秘密はあの壺なのだ。ソレは古の時代から王家を支えてきたものだ。そして、力を永い年月を重ねて積み重ねてきた。その集大成があの男! そして、緊急事態に陥ってなりふり構わずにその力を全て費やしている。それは、ヒトの力を超越し、神に至る。
だが、カームもまた怪物。これまで彼の真の意味での全力は見てこなかった。いや、彼が見せなかった。我々に配慮して。〝聖光気〟ですら、その力を極力抑えたものだった。会長と闘っていたときでさえ。旅団と闘ったときでさえ。
その、神に等しいほどの巨大な力の塊は、やがて凝縮して眩く発光する衣服と化した。それは、〝救世主〟が身につけると言われる【気鋼闘衣】だ。もう、常識的な念戦闘ではない。これから始まるのは神話の闘い。
私は見届けるしか方法がないのだ。
…………両者動かない。何故だ?
「カーム……何故動かない?」
「いや、
「は?」
チェリードニヒの方を見ると、脂汗を流して表情を歪めている。いったい何が起きている?
「奴も私も特殊な能力を発動させては打ち消しているところだ。まぁ、私は自動で打ち消されるけどね。…やはり生半可な能力では無理か。ならば、これだな」
まったく理解できないが、彼らは既に攻防を行っていたらしい。おそらく私には理解すらできないのだろう。カームが決めると宣言したのち、右手をかざすと、そこには光り輝く火が生まれた。それはただの火ではない。始まりの火とはこのようなものなのだろうと思わせるような火だった。
「お前は、
次の瞬間には、奴がその火で全身を焼かれていた。絶叫しながら燃やされるがままとなっている。そして、カームはただそれをじっと見ていた。それは普段の表情ではなく、どこか機械的で冷たいものだった。
しばらく燃えていた奴は、完全に燃え尽き、黒い炭の塊と化す。あっという間だった。しかし、カームの表情は険しい。よく見ると、その炭の塊は微かに蠢いていた。さらによく見ると、オーラもまだまだ健在だ。まだ息があるというのか!? あのような状態になってまで!
「お……おおお…………」
「これでもまだ、死なないとはな……。だが、流石に堪えたようだ。引導を渡そう」
今度はカームから白い雷が迸る。そして、その塊にぶつかったかと思うと、綺麗にその場から消滅した。その黒いオーラもろとも。また別の世界に消えただけじゃないのか?
「安心していい。奴は完全に消滅した」
その言葉にほっとする。しかし、次の言葉でその気持ちが引き締まる。
「だが、まだだ」
奴が消滅したはずの場所からひび割れた人面壺が出現した。それはもう見るからにボロボロで、今にも壊れそうだ。
「これは……」
「そう。これが諸悪の根源。この王族を支えてきた悪魔。その正体はおそらく暗黒大陸の厄災だろう」
「!!」
「欲望の共依存……言い得て妙だな。こいつは国家と共依存を永い年月行ってきたのだろう。それももう終わりだ」
再びカームがその壺に雷をぶつけると、壺は苦悶の呻き声を挙げながら消えていった。その姿を人型に変えながら。
「終わった……か」
「あぁ。さて、帰ろう」
カームが〝聖光気〟を弱めながら呟くと、廃墟と思わしき場所から元の部屋に戻ってきた。しかし、周囲一帯に警戒音が鳴っている。
「さて、我々も随分長居してしまった。そろそろいこうか。気になる反応があちこちで出ている」
彼はそう言うと、私の手を取った。これからその気になる場所へと向かうのだろう。だが、飛ぶ直前、私は彼が呟いた一言が気になった。
「五大厄災アイ……こいつは別個体。ならば封じられた奴も存在する……か。厄介だな」
色々と魅力的な人物が原作では沢山いましたが、全カット!
…書いていると本当に沼になっちゃってヤバかったです…。長期休載やむなしの意味が心から理解できました。
【速報】壺氏、アイだった。