もうすぐで、オレの夢は叶う。それが、幸福へと繋がる。そう。
そう思っていた。そう、思っていたんだ。
彼ら、いや、
オレもその一人だった。まんまと怪電波に引き寄せられ、その挙句、奴等の本拠地まで来ちまった。奴等はその電波を流すための電気を必要とするのだろう。そして、できるだけ多くの人々に電波をまき散らすために、この電波塔を本拠地に選んでいたんだ。基本的には一人一匹。だが、奴らはネズミ算式に増える。いや、ネズミどころじゃないぐらいに増える。街一つ分の人口以上ぐらいは余裕で存在するだろう。それで繁殖する。無限ループだ。情けないことに、オレもその電波にやられた一人だ。言い訳するなら、よっぽどの精神力の強さがなければ抗うことなどできないんだ。アレにはそれほどの魅力がある。生命を引き換えにしてもいいってほどの。これは念能力者とかカンケーねェ。誰しもがやられるほどの強さだ。恐ろしい事に。
では、なぜオレがこんなに冷静に解説しているかって?
オレもさっきは実際にやられる直前だったよ。あと少しで脳に電極をぶっ刺されて、チューチューエネルギーを吸われる寸前だった。オレなんかは特に美味だっただろう。一般人よりオーラ強いしな。で、そんなオレを待っていたのは一際大きい個体だ。群れの中でも強いやつかな。多分。
で、まんまと人生捧げるつもりで来たオレを、待ち構えていた奴は尻尾の電極を構える。オレは先ほども言ったが相当な間抜けヅラをしていたんだろう。そのまま行けば、普通にぶっ刺さってゲームオーバーだ。だが、結果が違った。その電極が振り下ろされ、オレの頭に刺さる直前、オレは何をしたと思う?
オーラを瞬時に頭に《凝》で集め、メスでそれを切り払った。奴はどうやら動揺しているような様子だったが、やってるオレ自身もびっくりした。なぜだ、とな。
そして、その直後、瞬時に悟った。嵌められた、と。
オーラを頭に集めることで、ピンク色に染まった頭が徐々にクリアになる。
すべては幻想。すべては妄想。まやかしだったんだ。
オレだけが残されたのは、運良く勉強するためにオーラで頭をガードしていたからだったんだ。無意識に奴等の怪電波を弾いてた。普通はそんなことしないから、どう足掻いてもアウトなわけだ。実際に普通に戻した瞬間からオレは囚われちまった。
そして、あの決定的な瞬間に無意識のうちにガードしたのは、オレが恐ろしく過酷な戦闘経験を積み重ねていたからに他ならない。どんな攻撃にも、無意識でも《凝》してガードする癖が染みついちまったからだ。こればかりは癪だがディアナに感謝しなきゃなんねーな。
そして今、奴等の巣の中心地にいた俺は、四方八方から電極で狙われる羽目になった。まだまだ混乱した頭であの攻撃をかわし続けられたのは奇跡というほかない。今は、電波塔の上へ上へと逃げている。だが、先ほど言った通り、恐ろしい数の奴等が存在している。この電波塔を埋め尽くし、地上にあふれるほどだ。もと来た道は完全に塞がれてた。
オレには分かる。あの電極が刺さった瞬間アウトだということが。奴らは排気口や排水溝、エアダクト、果ては便所の中にまで潜んでやがる。そして、徐々に徐々にオレを追い詰めている。なんて狡猾な野郎だ。単なるネズミの姿しやがって。そして、ガードしてるとはいえ、例の甘い幻想は常にオレを苛む。
もう、自分の足に何べんメスを刺したか分からねぇ。気を抜くと持ってかれる。流石敵の本拠地だぜ。とにかく逃げなきゃ話にならねぇのに、オレは逃げ場をどんどん失っていく。
そんなオレのモチベーションは、ただ、至る所に埋め尽くされたミイラどもの仲間入りをしたくねぇ。それだけだ。
夢に逃げるのは結構だ。夢の世界は楽しくて最高なんだろうな。しかし、オレはこんな理不尽な世界で頑張りたいんだ。この世界は理不尽で、理不尽極まりない世界だからこそ美しい。
夢に逃げるってことは、ズリセンこいてんのと何が違うってんだ! オレの夢は
……だからと言って、この状況を改善する兆しもねぇ。ようやく辿り着いた、奴らのいない塔のテッペン近くにある管理者詰め所のトコにバリケード張ってこもってるが、明らかに奴等にここに誘導されたな。奴らが扉の外側に大量に詰め掛けてるのなんて、《円》を使わなくても分かる。じきにここへ殺到するだろう。参った。詰みだ。
さて……このメスにも随分世話になった。奴等の攻撃を切り払ったしな。オレはあんな糞ネズミの栄養になりながらミイラになるのはごめんだ。そうなったら潔くくたばった方がいい。これをくれたカームには悪いがな……。ん? カーム……? なんかオレ、大事なことを忘れてるような……。
っ!! 不味い。奴等が入ってくる! バリケードも壊れる寸前だ。クソッ。何か手が思いついたような気がするが時間がねぇ。奴等もここで決める気だろう。多少は躱せても、四方八方から襲い掛かられたら無理だ。ゲームオーバーが近い。
思い出せ! 何が!! どんな手段がある!?
さっきはこのメスを見て何か浮かんだんだ。このメスは銀製の、カーム特製の武器で、G・Iで特別に犬のウ〇コから作ってくれたやつだ。元がウン〇なのは衛生的にいただけねぇが、切れ味、耐久性ともに抜群で重宝している。さっきの攻防も、これがあったからこそ切り抜けられたぐらいだ。アイツは何でもできる。今頃この世界規模のテロに対処してるんだろう。アイツならなんとかできるはずだ。
今ここは大規模生物災害の真っ最中だ。アイツが動かないなんてありえねぇ。ならば来るはずだ。もし何らかの要因で気づいてない場合でも、気づくきっかけさえあれば……
……思い出した! カームだ!! うまくいけばアイツをここに呼べるはずだ!
いいか、糞ネズミ共! オレは絶対にあきらめねぇからな!!
◇
その瞬間、メキメキと音を立てていた扉がついに破られた。大量の黒い塊が侵入してくる。それぞれが一様に赤い眼をレオリオに向け、その尻尾を向けている。彼らが見たものは、一本のメスを両手で目の前に持ち、必死に祈りをささげている一人の人間の姿だった。そして、その人間は、メスを下げながら戦闘態勢になった。それは幸福を受け入れる顔でも、絶望に染まった顔でもなかった。
「へっ! 絶体絶命だなぁ! アイツも流石にすぐには来れないか!! だが、せっかく希望が見えたんだ。とことんやってやろうじゃねェか!! オレがくたばるのが先か、アイツが来るのが先か、試してみようぜ!! 付き合ってくれや、糞ネズミ!!!」
◆
必死に耐えていた。快楽に負けそうになる自分に。だが、もう保たない。数の暴力にはやはり勝てなかった。だが、ささやかながらも抵抗はした。その結果がこれだ。今、体中を電極で刺され、快楽を脳に向かって流し込まれている。頭は死守したし、しているが、もうこれ以上は無理だ。あまりの強烈さに身体は飛び跳ね、下半身からは際限なく液体を巻き散らす。
……死ぬ。
もう、いっそ身を任せてしまったらどれほど楽だろうか。だが、それはできねぇ。
その時、オレはオレの中で何かがカチリと嵌るような、そんな感覚を味わった。それは、自分自身の究極の欲望に抵抗している自分へのご褒美にも思えた。この極限状態ですら、オレは成長している。その事実にかすんだ頭の中で嬉しくなる。
「おら……! 来い、よ……糞ネズミ…まだ、まだオレは…元気だ、ぜ……」
………
……
…
ある瞬間、ネズミどもがピタッとその動きを止めた。それは俺にも感じていた。そして、同時に〝何か〟が来たことを。
……やはり、来てくれたか。オレは賭けに勝ったようだ。ギャンブルには疎いが、こういう賭けは昔から強いんだ、オレは。もう、目も見えない。だが、感じる。カームと…クラピカか? なぜここに?
まぁ、いい。来てくれたんだ。オレはそれで報われる オレの身体から電極が抜ける感触がした。意外と深く撃ち込まれていやがった。くそっ、あと、少しだってのに…意識が…もう、保てない………。
◆
「……うっ……」
まばゆい光が瞼を閉じていたはずの虹彩に刺さる。それにより、オレは目を覚ます。……なんだ、この感情は。爽快感と…喪失感? まるで大事なものを落としてしまったかのような……それでいてすがすがしい気分のような……。
そして、気づく。オレを二人の人間がのぞき込んでいたことに。
「カーム……と、クラピカか」
「目が覚めたな。気分はどうだ?」
そう宣うのは、カーム=アンダーソン、オレの師匠兼〝救世主〟というトンデモ人物。よかったぜ。コイツが来てくれたんならもう安心だ。中々来てくれねぇから、またオレへの試練かと思っちまった。許せ。
「危なかったようだな。しかし、お前はこの状況下で最後まで抵抗していたのか……」
クラピカが割り込む。なんでおめーがそこにいるんだよ。眼探しは終わったのか?
「すさまじい奮闘ぶりだったようだな。周囲一帯の人々はすべて全滅だ。にもかかわらず君は生き残っていた。誇っていい。アレは少なくとも厄災には変わりないのだから。間に合って本当に良かった」
カームがそう告げる。当たり前だぜ。オレは、レオリオ=パラディナイト。医者として理不尽な世の中を変えてやるんだからな。言葉を発するのもおっくうだ。だが、勝ち残ったぞ。
ただ、今回ばかりは死ぬほどきつかった。いや、死ぬよりきつかったかもしれねぇ。まだ身体が動かねぇ。だが、だからこそ、こいつらには悪いが、一言言わせてもらう。渾身の恨みつらみを込めて。
「おせーんだよ! 来るのが!」
次回、パプさん完全解説編!
お楽しみに!