戦闘力という点のみに絞れば念能力者には敵わない。一般人よりやや強い、といった所だろう。
だが、この生物が危険生物を超えて厄災と呼ばれるのにはそれなりの理由がある。それは、その生物的な特性にあった。
まず、彼らは集団で生息している。
そして、ある条件が揃えば彼らは爆発的に繁殖する。その繁殖力はキメラアントの比ではない程と言えば、どれぐらいか想像がつくだろうか。
危険生物評価リストで言えば、文句なしのA(活動が始まると凄まじい早さで爆発的に繁殖する)である。
そして、その活動が始まる条件というのが
①餌となる生命体を確保している。
②電気のある場所にいる。
この2つである。①は、生物としては当然だろう。しかし、②は、この生物の独特の生態によるものである。元は暗黒大陸の沿岸北東部に位置する山脈を根城として、数万単位で生息していたこの生物は、普段はひっそりと暮らしていた。何故そんな険しい場所なのかといえば、ここには水一滴で凄まじい電力を発する【無尽石】というお宝の鉱脈が存在するからである。
彼らは、ここでその電気の力を借りて狩りを行う。具体的には、その電力を使用して、他の生命体の本能に訴えかける欲望を刺激するような電波を山脈一帯に発する。そうして獲物をおびき寄せる事ができるのだ。この電波はかなり強力で、ある一定以上の水準の生物などは抗う事が難しい。また、例のゴキブリの様に種族単位の念能力となっている為、生物全体が強力な暗黒大陸でもそれなりに引っかかってしまう。
また、この生物は非常に
とはいえ、元の生息地は場所が場所であり、しかもその能力が効かない天敵等も存在する為、彼らは適度に間引きされており、その生態系は保たれていた。
彼らは、獲物を確保すると、その脳に尾の部分に該当する針を刺し、直接快楽を提供する。この時点で、掛かった獲物はもう逃れられない。そうなった時点で彼らと獲物は一方的な共生関係になるのだ。
獲物は哀れにも快楽を際限なく提供され、そこで発生する脳内の電波や麻薬物質等を彼らは摂取する。足りない栄養は獲物がギリギリ死なない程度に提供する。本当にギリギリな為、獲物の生物的な機能はほぼ停止する。要は、脳が健康ならば良いのだ。その為、獲物は身体が縮み、ミイラのごとき姿へと変貌してしまう。獲物にとってみれば、ただひたすら快楽を享受している為、気にならないのかもしれないが。そうして、獲物の寿命分、彼らは栄養を吸い取る事ができる。当然、獲物にとってはそれは生物としての終焉を意味する。
獲物を確保した個体は、他の個体との繁殖を精力的に繰り返し、爆発的に繁殖する事ができる。だが滅多に獲物は来ず、天敵も多いこの場所ではそれぐらいしないと絶滅してしまう。それは彼らにとっては生存の為の必然であり、ただ純粋な生殖活動なのだ。
厄災としては珍しく人間的な悪意の無い生命体とも言えるだろう。
だが、彼らが『人飼い』と呼ばれ、厄災に数えられる理由はまた別にある。まず、彼らにとって、〝ヒト〟とは極上の獲物である。寿命が長く、脳が大きいために欲望も広く、深い。
何よりも、ヒトは彼らの誘惑に簡単に引っかかってしまう程弱い。よっぽどの強個体で無ければ、彼らの電波には抗えない。そして、それは人類の1%にも満たない。
つまり、ヒトは、彼らには勝てないのだ。その欲望の深さと弱さ故に。
近年、無尽石を確保する為に暗黒大量に来た調査隊も、その99.9%が彼らの餌食となった事からそれが窺えるであろう。
この脅威を回避する方法は、単純だが脳に届く電波をシャットアウトすること。しかし、頭部だけでなく全身を隈なく覆わねば意味が無い。電波は身体を通しても届くからだ。
その点、念能力者はまだ少しは抵抗できる。しかし、電波自体が強すぎる為、結局は同じである。レオリオの場合、本人が気付いていた様に勉強の為に頭部に集中して《凝》を行っていたからこそ、影響をシャットアウト出来ていた。それこそが、この恐ろしい罠を回避する唯一の術である。
又は、欲望を克服する事が出来る精神力を持つ事も、回避する条件ではある。しかし、それが出来るヒトがどれだけいるというのか。故に、この生物を確保する事は非常に危険極まりない。少しでも条件が揃ってその電波が漏れてしまえば、彼らは如何様にもヒトを操る事が可能だからである。
彼らが門番によってこの世界に齎された時、人類は多大な犠牲を払いながら、番を別棟に隔離した上で冷凍睡眠保存する事で漸く封印していた。彼らはヒトにとっては正しく天敵足り得るのである。
仮に。万が一この生物が人間社会に出現してしまった場合どうなるか。これまで彼らの被害に遭った者の亡骸が見つかった例が幾つかある。しかし、それは全て単体の仕業である。それが繁殖できる条件を満たして居なかった事が幸いした。
だが、ひとたび番がそのまま人間社会に放出されるとなると話は変わってくる。現代は電気が至る場所に溢れている。そして、都市部には獲物に溢れている。
彼らは、早速都市部の電力が集まる所に潜み、電波を垂れ流す。獲物は入れ食い状態だ。下手すれば秒で捕まる。これに対処しようとするならば、初動でどちらかを始末するしかなかった。だが、彼らに近づくだけで大抵の人は抵抗できない為、それすら難しい。
そして条件が整い、活動を開始した彼らは爆発的に繁殖する。文字通りネズミ算式に。いや、それ以上の早さで。
何故なら、彼らの犠牲者は1匹につき1人。群れの中で1匹でも獲物を捕まえた個体がいたら繁殖スピードが上がる彼らだが、都市部は入れ食い状態であり全ての個体が人を捕まえる事ができ、更に余りすらある。よって彼らは天文学的に増殖する。1週間で都市人口すら超え、国家の人口に届く程に。こうなってしまえば人類に対抗手段は無きに等しい。例え核兵器でその一帯を攻撃出来たとしても、何匹かは取り逃がすだろう。一時確かに活動は弱まるが、再び繁殖を再開してしまい元の木阿弥だ。
つまり正しく人類滅亡の引き金となる生物災害であり、人類はその殆どが彼らに飼われる事になるだろう。
彼らは〝生命と快楽の等価交換〟、その名を【人飼いの獣パプ】という。
◇
「あ”~ほんとに死ぬかと思ったぜ」
殺風景で締め切られた部屋の一室。ここは先ほどまでいた部屋である。その中でいそいそと着替えつつレオリオがぼやく。事実瀕死の状態だったから無理もない。ついさっきまで容姿はシワシワの老人のような姿になり、その短髪と髭も真っ白に成り果てていた。奴等を排除したのち慌てて治療を施し、〝奇跡〟も施して漸く元に戻った。これは被害者達の治療に苦労しそうだ。
「しかし、関係あるかないかわからんが、レオリオ。以前と比べてオーラが…何というか、薄くなっていないか?」
「お? ……そーいえばそうだな。フツーに出してるはずなんだけどよ。なんでだ?」
「……自分ですら気づかなかったのか?」
そう。そうなのだ。レオリオはクラピカが指摘した通り、オーラが薄く
「薄くなっているんじゃない。
「見えなくなってる? どういうことだ」
「恐らくだが、レオリオはこの厄災との攻防の中で、生命を賭けた濃厚な闘いを行った。ここまではいいが、それは戦闘とはかけ離れたもの、いわば、自分との闘いでもあった。強烈な欲望や快楽に自らの理性で抗う。常人なら到底無理なことを、レオリオは死の直前まで行っていた。それは、一種の修行に似る」
「……!? まて、カーム。それはまさか!」
「そう。〝解脱〟の第一歩。
「な……! オレはそんな大層なことはしてないぞ……?」
「結果的にそうなった、ということだ。それほどに強烈な誘惑だったのだろうが、自らの力で乗り切ると決めた夢を芯に据え、すさまじい精神力と克己心で乗り切ったからな。もうレオリオは一段階上の領域に足を踏み入れたかもしれん。恐らく〝浸透勁〟も以前とは比べ物にならないほど使えるようになっているはずだし、そもそもの医療の能力も格段に向上しているだろう。……もともと〝浸透勁〟に一番素養があったのはレオリオだ。こうなる可能性としては充分あり得る」
「……こんな煩悩にまみれたような男が」
「ショック受けてんじゃねーよ! 別にいいだろが!! ……だが、オレはそんな人間じゃねぇってのも分からなくはねーけどな」
「卑下することはない。それこそが人間だからな。そもそも悟りを開く者とは人一倍煩悩にまみれているものだそうだ。師匠の受け売りだけどね。だからこそ、そこからの解脱を願う。長い年月をかけて、様々な欲望、誘惑を振り切ってな。だが、今回はそれを濃縮したような体験を強制的に受けてしまった。通常の修行では絶対に体験できない、生命を賭けた拷問に等しいほどの。常人ならば耐えきれんほどのな。だが、レオリオはそれを乗り切ったことで一段階ステージが上がったということだ」
私の解説を聞きながら、レオリオは自分のオーラを確認している。ある程度動かしてみて納得いったようだ。
「……ん。結構いい感じだな! よく分かんねぇけど、これでより正確な治療が出来そうだぜ。……ところで、厄災はどうなったんだ? この部屋近辺にはいないみたいだが」
レオリオが至極当然な質問をしてくる。むしろもっと早く聞かれると思ったんだがな。そこで、私はこれまでの経緯を彼に説明した──
◆
「おいっ! カーム!! コイツらは!?」
必死に確保したレオリオを介抱しながらクラピカが叫ぶ。彼は即座の頭への《凝》を言わなくても行っていた。本当に優秀な弟子だ。私と言えば、四方八方から襲ってくるネズミを消し飛ばしながら答える。
「恐らく、だが、コイツが第3のテロ。つまり厄災だ」
「このネズミの大群がか!?」
「言うまでもないが、《凝》は切らさないようにな。あっという間に取り込まれるぞ……と。コイツらも馬鹿じゃないようだ。敵わないと見て撤退を始めた。……よし、〝聖光気〟で結界を張った。もう安心していいぞ」
「……ふーっ。次から次へと厄介だな……ん? カーム! レオリオがマズい!! 何とか出来るか!?」
「分かってる。早急に対処しよう。……しかし、レオリオも良くここまで耐え切ったものだ。普通は無理だぞ」
…………
レオリオの容態がひと段落したのを見計らって漸く安心したのか、クラピカが尋ねてくる。
「……カーム。何回も質問を済まないが、結局どういう状況なんだ?」
確かにクラピカには説明していなかったな。今世界規模で起きている事を。その始まりから掻い摘んで彼に説明した。
「……そして、さっきのが世界中にばら撒かれた厄災の一つ。特徴から考えると、恐らくパプだろう」
「何というか……とんでもない事になっていたんだな……。私がやられている間に。で、コレはどんな厄災なんだ?」
「そうだな。コイツの異名は〝命と快楽の等価交換〟〝人飼いの獣〟だ。先程の攻撃で気づいたと思うが、コイツらは人間を電波を発して誘惑し、脳からエネルギーを頂く事で繁殖する、といった所だろう」
「……それぐらいなら正直厄災、という程は無いと思うが…」
「考えても見ろ。クラピカは咄嗟に違和感を覚えて〝凝〟で防いだが、そんな事を出来る者がどれだけいる?」
「……!」
「しかも、だ。結界の外には数えきれない程の奴等で埋め尽くされてる。恐らくこの街全体がそうだろう。厄災発生からそんなに日数が経ってないのにこれだ。ネズミ算式というのが可愛いぐらいの繁殖力! このペースなら1ヶ月で国レベル。半年を待たずに全世界へと拡散するだろうな。しかも正体は子供サイズのネズミ。どこにでも潜り込めるだろうから根絶は困難を極めるだろう」
「……恐ろしいな。正しく世界の危機というわけか」
「そして、一度誘惑されてしまえば振り切るのも困難だ。今のレオリオの様に抵抗できる人間はほぼいまい。というか、抵抗出来たのは奇跡だ。捕まれば最後。ミイラの様になり、切り離せたとしても社会復帰は絶望的。仮に身体が元に戻ったとしても、一度知った快楽からは抜け出せない。自殺者が多発するだろうな」
「聞けば聞く程絶望的だな……どうするんだ?」
「それなんだが……ん? もうすぐレオリオが目覚めるな。話はその後でしよう」
◆
「──というわけさ。で、これから私はこの脅威に対処しようと思う」
説明を終えた時、レオリオは神妙な顔をして考えこんでいた。そして顔を上げた。
「なぁ。そういえば、国やハンター協会は何故動いていないんだ? オレが知ってる限り、5日前ぐらいから何にも動きが無かったように見えたぞ?」
……そう言えばそうだ。何故だ? これだけの大災害ならば動かない方がおかしい。というか、この状況ならブリオンの時の様にとっくに大量破壊兵器が使用されてもおかしくない。情報統制されてる? いや、このネットワーク時代に有り得ないだろう。電波を支配されてるからか? それにしてもハンター協会が動いていないのが気に掛かる。
早速会長やジン達に電話するも繋がらない。チッ。やはりこの一帯の電波は制圧されてる、か。
最悪の想像が頭をよぎる。
「カーム……恐らく敵は我々に対処させる事で時間稼ぎをしていると思われる。急がねば状況はどんどん悪化していくだろう」
クラピカも同じ結論に至ったか。そうだろうな。だが、これで敵の目的が明確になった。
正確には、私をどうにか排除する為に動いている、という所か。だが、癪ではあるがこの現状を放置もできない。私に出来る事は、出来るだけ速やかに、この厄災を滅ぼす事だ。
「それが分かった上で敵の思惑に乗るしかないところが非常に厄介だ。いわば、全人類を人質に取られているような状況だからな。だが、やるしかない」
「方法は?」
「この厄災の最大の特徴は、防ぎ難い巨大な電波を発するところだ。種族全体でな。一族が増えれば増えるほどにその電波は強力になる。普通は手遅れだな」
「駄目じゃねーか!」
「最後まで聞け。奴らが電波ネットワークを使用して獲物を確保するというのなら、奴ら自身もこのネットワークを使っている可能性が高い。というか、絶対使っているだろう。そこを利用する」
「と、言うと?」
「私が偽の電波をできる限り広範囲で流す。こいつらに届くようにな。早速始める」
暗黒大陸で鍛えられた私にとって、この程度ならば可能だ。〝聖光気〟をフルパワーで使用する事で可能になる。……前から思ったが、明確に人々を救うというシチュエーションのときに、この〝聖光気〟はより強力になる。不可能はないほどの奇跡を起こせるのもそのためだ。これも〝救世主〟としての力、ということなのだろう。
……準備が整った。では、行くぞ!
◇
ソレは、街一つを完全に支配し、そしてかつてないほどに繁殖していた。もはや街には動くものはおらず、無人の家屋には至る所に彼らの姿があった。そして、ソレにつながれた犠牲者も。ソレは刻一刻と繁殖を繰り返し、やがては新しい住処へと足を運ぶ。ここは天国だ。天敵もいない。電力も豊富で、遮るものは何もない。微かに飛び交う電波などは超強力な電波によって打ち消され、人類のネットワークはズタズタであり、人々は抵抗もできず捕まってゆく。もはや、ソレが地上に溢れてしまうことは火を見るより明らかとなった。
何体かは獲物を捕り逃したが、それは誤差である。矮小な生命体の特殊個体がいかに足掻こうが、所詮数の暴力には勝てないのだ。全世界を埋め尽くし、産んで増やして地に満ちる。それが生命体としての義務であり、どの生物にも共通する存在理由なのだ。つまり生存競争だ。負けたものは駆逐される。いや、この生物にとっては負けたものは等しく餌だ。自分たちが地に満ちる為に、人を家畜のように飼いならす。
それは皮肉にも人間が家畜を飼うのと理由は似る。人間は、自分たちがやっている事と同じようにソレに飼われ、生命を利用される。むしろ、快楽を与えている時点で人間よりも優しいと言えるかもしれない。
彼らは人間のように情緒が豊かではない。だが、そんなものは必要ない。それは、多様性を排除して種族特性を重視した彼らの戦略である。その成果が、もうすぐ成就する。人類との生存競争に勝利するという形で。今は街一つ分でしかないが、じきに大陸全体を支配するだろう。
そして、全てが終われば、彼らは自ら間引きを行う。レミングスのように。そして、この恐ろしいネズミに支配された世界へと変貌するのだ。
だが、ソレは分かっていなかった。多様性を排除するということは、突発的な事態への対応能力に欠けてしまうということに。ソレの種族特性として、環境適応能力が非常に高く、生物としては高いレベルで完成している為、分かっていなかった。人間の中に、バグのように天敵に等しい能力を持つものが存在することを。
〝仲間〟からの電波が流れる。獲物を確保した個体、まだ確保していない個体、いずれの個体もある場所へと集まるように、と。それは種族全体を通して発せられた物であり、彼らは抗う事が出来ない。それが流れるという事は種族が飽和状態になり、存続の危機に陥ったという事だからだ。
彼らは疑問を覚える。まだ充分に地に満ちていないというのに何故だと。しかし、彼らは獣故に抵抗したり深く考える事が出来ない。何体かは反抗したが、抗えない程強力な電波の指令である為に結局は従う他なかった。
そして、始まりの電波塔まで集められる。これから彼らに待っているのは〝間引き〟だ。疑問も覚えず、抵抗もせずにただ黙々と集結する。その数は億を軽く超える。
そして彼らはその赤い目で見た。眩い光を。これから行われるのは種族の繁栄の為の儀式だ。彼らに表情があるならば、きっと満面の笑みを浮かべていただろう。
そう。全ては、種族の繁栄の為に──
◇
凄まじい速さで膨大な数のネズミが集まってくる。街はネズミで埋め尽くされ、さながら黒い絨毯の様だ。カームはその中心にいる。
そして、その中心からネズミ共は
カームはそれらを〝聖光気〟で保護しながらネズミだけを消していった。だが数が数だ。ネズミも被害者も莫大な数である。
流石のカームも苦労している様に見えた。
かなりの時間が経って、あれだけいたネズミは完全に姿を消した。カームはそれでも油断せずに電波を広範囲に飛ばしていたようだ。そして追加でちょこちょこと現れる何匹かのハグレを集めて消した所で漸く安心したらしい。
次のフェーズに移り始める。即ち、人々の救済だ。彼らはこの状態でも生きている。だが快楽の供給が絶たれた今、彼らに猶予はない。
何万人ではきかない恐ろしい数の犠牲者。彼らはどう見ても再起不能だ。どんな医療を行ったとしても。最早死んでいるに等しい。いや、死なせてあげた方がまだましな方だろう。だがそれは
カームは彼らに〝聖光気〟を覆い、奇跡を与えた。次第に身体が元に戻り始める人々。だがその表情を見る限り、まだ足りない。彼らはすさまじい快楽を知ってしまった。麻薬よりもはるかに質の悪い、命すら惜しくないほどの快楽を。彼らはもう戻れないだろう。待っているのは絶望からの死だ。
そこでカームは
その様子を遠くから2人は見ていた。何とも言えない表情で、ただ、見ていた。
「……なぁ、クラピカ」
「言うな。言いたいことは分かっている」
「……だが、」
「お前の思っている通りだ。だから言葉にするな」
「……いや、それでも言わせてもらうぜ。あの〝力〟は異常だ。あんな……あんな〝力〟はこの世界に存在しちゃいけねぇ。本人も、この世界にとっても。それに、あれほどの奇跡をノーリスクでやってるってことはどこかに歪みが生まれてるはずだ。それこそが今回の騒動の原因じゃねぇか……ってオレは思う」
「……そうだとしたら、お前はどうするんだ?」
「……アイツは暗黒大陸から命からがら逃げ帰ってきた。ずっと帰りたかったのに帰れず、それでも必死で足掻いて足掻いて漸く帰ってきたんだ。だが、その原動力となった家族には会えず、時代も200年以上経っていた……。本当はそんなアイツに、オレが今思っていることを言いたくはない。言いたくはないが……だが、それでも言わなきゃならねぇ。事が全て終わってオレが生き延びてたらな」
「私は行くぞ」
「!?」
「お前がカームに何を言うか当ててやろうか? 『
「……」
「私は彼に生命を助けられた。そして、仲間の全ての仇を討つことができた。もう私には
「そうか……覚悟はできてるんだな?」
「そうだ。で、お前は嫌われ役になる、と?」
「あぁ。そしてオレは残る。都合が良いかもしれねぇがこの世界を立て直さなきゃならねぇし、今回の被害は甚大だろうからな。微力ながらも少しでも人々を救ってやる。それがオレの使命だと思ってる」
「お前の意志は理解した。だがそれも全てが終わってからだ。それまでは絶対に口にするな」
「分かってるって。それぐらいな。冗談抜きで世界の危機だ。救えるのはアイツしかいねぇ。そんなアイツを少しでも揺らさないようにオレたちは微力ながらにもサポートに徹することが、今出来ることだ」
フッと笑いながらクラピカが言葉を返す。
「だから言っただろう。言葉にするな、とな。さて、もう終わりそうだ。迎えに行こう。われらが〝救世主〟を」
彼らは〝奇跡〟が行われている中、それぞれの意志を固めていた。〝救世主〟の通る道。衆生を救う装置の結末。その悲劇をできるだけ軽減できるように、その決意を胸に秘めながら。
人飼いの獣パプ
・五大厄災の一つ。ただのネズミに見た目は近いが、その生態がヤバすぎる為厄災に数えられる。その脅威は本文にある通りだが、真のヤバさは活性状態にこそある。彼らが発する電波は一般人(念能力者の大部分も)には防ぎようもない為、仮に閉じ込めておくなら、眠らせて起こさず冷凍保存一択である。それでも死なないパプの生命力も脅威度を高めている。ちょくちょく保管場所から脱走してしまっているが、辛うじて番が逃れなかった為に厄災発生までには至らなかった。今回は彼らにとって大量繁殖の条件が整ってしまい大災害へとあいなった。
だが、彼らは獲物を生かしておく習性があるため、〝救世主〟の超パワーによってある意味1番被害がなく解決に至った。まさか彼らも自らの天敵みたいなモノが楽園に存在するとは思わなかったに違いない。