アンブレイカブルハンター【完結】   作:エアロダイナミクス

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遂に蟻編!


135、蟻の王

 

 

 

 

 

 

「これで、大規模な電波障害も解消されたな。早速電話してみるか」

 

「なぁ、〝彼ら〟はいいのか?」

 

「私は恩を売るつもりはないし、むしろ知られたくない。それに、今の現状だと関わっている時間ももったいない。障害が取り除かれればそれでいいだろう……む、不在、か」

 

「会長か? 他のメンバーはどうだ?」

 

「今かけている……っと、駄目か。いよいよ本部の方も怪しくなってきたな……」

 

「最悪敵の手に落ちたか、または戦闘中ということも考えられる。カームの着信を取らないなど、それぐらいの事態が発生していると捉えてもいいだろうな」

 

 

 

 まぁ、そうなるだろうな。ハンター協会にも襲撃があったとみていいだろう。私がアイジエン大陸に出かけ、時間を食っている間に電撃的に、だ。恐らく各国の首脳の方も襲撃があったかもしれない。それがこの対応なしの現状につながっている可能性がある。まぁカキンについては私のせいだが。

 さて、どうしたものか……ん? 折り返し!?

 

 

 

《もしもし? ジンさん!?》

 

《はぁ、はぁ…ようやく繋がったか! よく聞け! 時間がねぇ!! とりあえずこっちの心配はすんな! まだ大丈夫だ! お前はまずキメラアントを何とかしろ!! 必ずだ! 先に()()()()を救え!!! わかったか!!》

 

《ちょ、ちょっと! どういうことです!? みなさん無事ですか!?》

 

《わりーが説明してる時間がねぇんだ! いいか!? すぐ行け! 絶対に()()()()()()よ?》

 

《……分かりました。ではそうしましょう。あなたなら心配ないでしょうが、ご武運を。対処を終えたらすぐにそちらに向かいます》

 

《あぁ、待ってるぜ…! おい、ジジイ!! 早くしろ! もたねぇぞ!!》

 

《分かっとるわい!! カーム! 心配すんじゃねぇ。ワシらも後1週間はくたばらねぇからな! それまでにケリつけてさっさとここに来い!!》

 

 

 遠くから聞こえる破壊音。激しい戦闘音が響き渡る。1週間は盛りすぎだろジジイ! という声を最後に爆発音がして通話が切れた。どう考えても修羅場のようだ。クソッ! 今すぐにでも行きたいが、直通のアイテムを渡していない。一番の近道は、NGLにいるはずのビスケたちのところに飛んで、そこから急行する事か。

 思った以上に余裕がなかった。だが、何とかするしかない。もう私は取りこぼしはごめんだ。

 

 

「聞いていたと思うが、猶予が殆ど無さそうだ。私はこれからNGLに飛ぶ。行けるか?」

 

 

 

 2人はほぼ同時に頷く。少しでも戦力がいた方がいいし、私のそばにいてもらった方が助かる。早速2人と手をつなぎ、ビスケに渡した特注の指輪を探る……あった。これだ。

 

 

 

 蟲ども。今の私は余裕がない。だから貴様らは文字通り最速で潰れてもらうぞ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ブウンッ…

 

 

 

 

 

「!! な、これは!?」

 

 

 

 転移した直後に違和感が生じる。ここは異空間。だが、その内部はかなりボロボロだ。誰かの念能力だろうが、普通はこうはならない。術者によっぽどの精神的な圧がかかっているとみていい。

 そして、そこにはボロボロではあるが、()()()()()討伐隊の面々が揃っていた。

 

 

 皆が皆、一様に沈痛な表情を浮かべている。

 

 

 

 

 

 

「ビスケ……ゴンは…ゴンはどうした……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──少し時は遡る──

 

 

 

 

 

 

「ハアッ…ハアッ……! くっ……強い……!」

 

 

 【四次元マンション(ハイドアンドシーク)】の一番広い部屋に彼らはいた。討伐隊の面々と、そして王直属護衛軍の1人、ネフェルピトーが。

 彼らはそれぞれがそれぞれに驚愕していた。討伐隊は敵のあまりの強さと進化の速さに。ネフェルピトーは、この人間たちの強さに。

 

 

 

「だけど……やれる! 勝てない相手じゃない!!」

 

 

 黒髪の少年、ゴンが吼える。オーラがまた増大した。そして彼が吼えることで落ち込みかけていた士気が盛り返す。この少年はこの集団で3番目に強い。パワーは下手すればこのメンバー最強の可能性がある。それほどの筋密度である。その一撃は、まともに食らえばネフェルピトーでも多少のダメージを受けるほどに。

 

 

「あぁ……ディアナに比べたら……屁でもねーぜ!!」

 

 

 金髪の少年、キルアも呼応する。彼は速い! 【黒子無想(テレプシコーラ)】を使用した自分に比肩するほどに!

 

 

「かっかっか!! おめーらも漸く理解したか! それでこそ、念使いってもんよ!」

 

 

 パイプを持った大柄のコイツは、実力としてはほかの面々より一段と劣る。だが、厄介さはこの中でも1~2位を争う大柄な人間。このオーラから作られる煙はいかようにも変化し、まとわりついたり囲まれたりする。厄介極まりない。コイツのせいで実力的にははるかに劣る面々に決定打を与えられず、苦戦させられている。念とは、これほどまでに奥が深いものかと感心させられる。

 

 

「……私は以前言ったことを撤回したいですね。これはちょっと想像以上です。ですが、ここまで来たら何とかするしかないでしょう」

 

 

 この眼鏡もパイプのデカブツと同じ程度の実力派だ。特にボクを閉じ込めたこの異空間! 一気に孤立無援の状態にさせられた。恐らく兵隊蟻も同様の手口で始末されていたんだろう。どうやったらこんな能力が人間から生まれるのか。それに、あの両手から生み出される異空間への扉、あれは不味い。如何なる防御も通用しないほどの危険さがある。恐らくボクもまともに食らえばヤバイ。それほどだ。食らわないけど。

 

 

「……強い。でも、何とかなりそう……!」

 

 

 この小さいメスは、オーラと何かよくわからないものをたくさん集めて鎧にしている。そのため動きに制限がかかっているけど、防御力という点では非常に高い。人間のくせにボクら(キメラアント)並みの硬さを誇る。そもそもこいつがこの中でナンバー2だ。訳が分からない。チビ人間のくせに。あの紙(?)が厄介極まりないし、いちいち対処に気を遣う。

 

 

「これほどとはな……ジンさん、恨むぜ…!」

 

 

 この長髪も結構な使い手。単体だったら楽しく戦えるんだろうと思わずにはいられない。多彩な武器を順番に使うから相手にするのは楽しい。でも、今の状態だとすごくうっとおしい。

 

 

「さぁ! 油断するんじゃないわさ!! 削って削って削りまくる!!! 耐久レースの始まりよ!」

 

 

 コイツが人間共のリーダー。最早人間か? ってほどの強さ。てか、ボクらに迫るオーラ量ってヤバくない? さすがに強さはまだボクが上だ。でも、それをカバーする力量が半端ない。さっきもコイツにいいの貰っちゃった。ボクもお返ししたけど。そう、本当に、単純に強い。

 

 

 

 

 マズい……ほんの軽い気持ちで遊ぶつもりだったのに、まんまと敵の罠に嵌っちゃった。それでも食い破る自信があったんだけどな。こんなトップクラスの人間が集まってるとは思わなかった。

 さっきから割とガチで闘ってるのに、突破口が見えない。そろそろ本気中の本気でやらなきゃ、本当に削られる!

 

 

 

 【黒子無想(テレプシコーラ)】! 限界を超えて舞え!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「最、初は、グー!!」

 

 

 

 キイイイィン……

 

 

 

「ジャン、ケン、グー!!!!」

 

 

 

「ガハッ!! 糞、糞、離せェエエエエエエ!!!」

 

 

 ドゴオッ!!! 

 

 

「グボァ!」

 

「そっち行った!!」

 

「よっしゃ!! 行くわよ」

 

 

 

 パシッ! ドゴオッ!!!

 

 

 

「ガアァッ!!」

 

 

「今だっ! やれぇッ!!!」

 

 

 

「「「「おおおおおッ!!!」」」」

 

 

 

 

 

 …………

 

 

 ………

 

 

 ……

 

 

 

 

 

「ヒューッ、ヒューッ……」

 

 

 

 激闘の末、マンションの広い部屋の中央にボロボロで瀕死のキメラアントが一体いた。それはもう死に掛けていた。

 だが、怪物を相手にした彼らもまた満身創痍だった。むしろ、死者がいないことこそが奇跡とも言えた。

 

 

「後少し、漸くここまできたわよ…トドメを」

 

 

 そう言うビスケもボロボロだった。他の面々も似たようなものだ。オーラはほぼ枯渇し、身体中に大小の傷がある。カイトなどは左腕を千切られている。

 一時はネフェルピトーの執念の反撃でパーティー全滅の危機に陥ったが、弟子たちがカームから貰ったリンゴを食べ、回復&戦闘力を更に向上させるという裏技を使って立て直した。

 

 

 そして今、戦闘は佳境に入る。残るはトドメをさす事。

 

 

 ノヴが両手を合わせ、外の空間への扉を開く。【窓を開く者(スクリーム)】だ。当てるのは難しいが、この技を喰らえば如何に固いキメラアントだろうが問答無用で喰らった箇所を切り離せる。

 そして、今なら当てられる。

 

 

「フォローを」

 

「任せろ」

 

 

 

 モラウの【監獄ロック(スモーキージュエル)】がネフェルピトーを覆う。なすがままに拘束されるネフェルピトー。先程までは捕まえる事が出来なかった。だが弱った今、それが可能となった。

 

 

 ノヴが煙で完全に覆われて見えなくなった上から【窓を開く者(スクリーム)】を頭部と思わしき部位に重ねる。

 

 

「閉じろ!」

 

 

 

 

 

「……やったか!?」

 

「待て。煙をどかすぞ」

 

 

 モラウの煙が晴れてゆく。メンバーは勝利を確信していた。だが、油断するような彼らではない。そんな人物は真っ先に殺されていただろう。

 

 

 徐々に顕になるその姿は、頭部が切断されている姿…のはずだった。

 

 

 

 

 そこには、()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「「「「!!?」」」」

 

 

 

 ぐったりしているネフェルピトーを脇に抱え、悠然と部屋の中央に立つ人影。それは

 

 

 

 

「ヒソカ!!」

 

 

 

「やぁ❤︎ 久しぶり♣︎」

 

「バカな…! 貴様、()()()()()()()()()!!」

 

 

 ノヴが混乱している。当然だ。本来ならばノヴが許可しなければここには入る事が出来ないからだ。

 ノヴだけではない。他のメンバーも混乱の極みだった。何故、今。何故ここに。

 

 

「ヒソカ! ソイツを渡せ!!」

 

 

 いち早くゴンがヒソカに啖呵をきる。

 

 

「ん〜♦︎ それは出来ない相談だなぁ♠︎ ま、()()()()()ボクの気分的に♣︎」

 

「……貴方もこのテロの一員って事かしら?」

 

「それはヒ•ミ•ツ❤︎」

 

 

 いつもの小馬鹿にするような、それでいて不気味な調子で彼は告げる。それは何故か有無を言わせぬ絶対という圧を持った言霊として彼らに響く。

 

 

 

「…ッふざけるな!! ならば無理矢理にでも渡してもらう!」

 

「! ゴン! 止めなさいッ!!」

 

 

 ビスケがヒソカに凶兆を感じ取り、ゴンを制止するも、ゴンは筋肉を収縮させてヒソカへ特攻する。

 だが、その勢いが不自然に弱まっていく。ゴンも気づいて焦りながらも、その姿勢が何故か崩せない。自分だけ動きがスローになってしまっている。

 

 

 

「う〜ん…合格! 昔のボクだったら喜んで相手にしてたなぁ❤︎ でも、ダメ♠︎」

 

 ヒソカが空いている手を向ける。すると、ゴンはそのまま空中で停止してしまった。

 

 

 

「経験も積んだ♦︎ 心技体も完成しつつある♣︎ 何より将来性もある♠︎ でもね、まだまだ修羅場が足りないなぁ❤︎」

 

 

 ゆっくり歩きながらゴンに近づくヒソカ。周りの者は彼の発する不吉を煮詰めた様なオーラから、迂闊に手を出せずにいた。

 

 

「くっ…離せ…!」

 

「こういう時に無策で突っ込んじゃダメだよ❤︎ 勉強になったね♠︎ じゃ、お休み♣︎」

 

 

 そこで、彼はその本性を解放した。今闘ったキメラアントなど歯牙にも掛けぬ程の莫大なオーラ。しかも、様々な怨念の如き黒いオーラである為に、その圧は能力者でも死にかねない。そのオーラはどんな人間にも似ず、例えるならドギツイ原色をぐちゃぐちゃに混ぜて、所々にキツい色が覗く黒という感じだ。

 

 至近距離で受けようものなら死ぬか廃人確定になるほどの強烈な波動がゴンを襲い、それに触れた周囲の者は凄まじい恐怖を覚える。カームを知っているビスケはかろうじて立っていられる程度。ディアナを知っているキルアとカルトでさえ恐怖に支配されてその場からの離脱を行うことすらできなかった。他の討伐隊は、そのあまりの強烈さにその場で嘔吐をし、倒れ伏して震えることしかできなかった。

 

 

 

 

 だが、ゴンは違った。

 

 

 

 

「これ…ぐらい…! いいから…ソイツを…渡せ…!」

 

「!! キミ、何で無事なの? どういうことかな? ……ふんふん、キミは……なるほど、これはビックリ♠︎ じゃあ、キミに決めようかな♣︎ あの娘たちは()()()()()強いからバレちゃうし♣︎ キミはボクも好みだからね❤︎ どれ、その武器貸してごらん?」

 

「な、何を……!」

 

 

 

 

 ヒソカは、何か納得した様子でゴンのガントレットを抜き取ると、その場に放り投げる。そして、何をしたかは分からないが、ゴンはその場で瞬時に眠りについた。それを小脇に抱えると

 

 

 

「さて、お邪魔したね♠︎ バイバイ♦︎ あ、そうそう♠︎ 〝彼〟に伝えといてよ、【王】はとっくに産まれたよってさ❤︎ ボクに会いたかったら、アレを倒しておいでってね❤︎ じゃあ今度こそバイバイ♣︎」

 

 

 

 

 そう告げて、ヒソカは、どこから取り出したかわからないような大き目の布で自分を覆い、その布が落ちた時には忽然と姿を消していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒソカめ…! それで、ゴンはそのまま連れ去られたと」

 

「えぇ。面目ない……」

 

「いや、仕方ない。奴はこの事態に深く関わっている事がこれではっきりした。しかし、ゴンを連れ去るとはな……一体何を考えているんだ」

 

「ゴン……」

 

 

 

 キルアが落ち込んでる。無理もない。だが、ビスケやカルトじゃなくてホッとしている自分に嫌気がさす。しかし、今の彼らが手も足も出ないとは、一体どういう事だろう。最初会った時でさえ人類最強クラスの強さではあった。だが、もうそんなレベルではない。奴ならばほんのちょっとの気まぐれで全員始末する事も可能だった筈だ。だが、それをしなかった事には何か意味がある。レオリオと私で傷の回復をしつつ考える。彼らの精神的なダメージは大きい。ノヴさんなどは黒髪が白く変化している。これほどの力を一体どうやって身につけたのか。

 

 

 一刻も早く奴を見つけなければ。だが、手掛かりが無い。

 

 

 

 

「……奴の思惑が読みづらい。ゴンを殺さずに連れて行った事も不可解だ。カームを狙っている事は確かだが。それで、どうする?」

 

 

 

 クラピカが尋ねる。

 

 

 

「……癪だが、思惑に乗るしかない。奴の言った通りにキメラアントの王が産まれて仕舞えばこれも甚大な被害が発生する。食い止めなければならない。キルア、ゴンは必ず救う。それまでこらえてくれ」

 

「…………」

 

「兄さん……」

 

 

 

 そうなれば、急ぐしかないな。速やかに蟲を潰し、ヒソカを捜索する。それが今出来る事ならば、早くやらねば。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アレ? ここは……ボクって…何してたっけ?」

 

「ネフェルピトー殿、ようやくお戻りでしたか! …如何なされました?」

 

「あぁ…うん。あのさ、ボクってどっかに行くって言ってた?」

 

「さて……? 何か『確かめてくる』とおっしゃられてから外には出られましたが…。いえ、そんなことより、お急ぎくだされ! 王が、王がお産まれになりました!!」

 

「な…! すぐ行く!!」

 

 

 

 

 なんて事だ! 大失態だ。霞がかった頭を振り払いながら後悔の念に包まれる。これ程の巨大な圧力、紛れもなく我等が待ち望んでいた王の誕生だ。何故気付かなかった。

 

 

 

 

 その広間に王は居た。2人の護衛軍は頭を下げている。王に詰問されていたようで、身体のあちこちに傷をこさえていた。そんな2人に申し訳なさを覚えながらも、離れた場所に跪く。

 

 

「遅いぞ、ピトー!!」

 

「早く王の御前へ…!」

 

 

 2人からの怒りを感じ取る。だが、辛うじて弁明の場は与えてくれるようだ。

 

 

「ほう……貴様が護衛軍の最後の1人か。近う寄れ」

 

「はっ!!!」

 

 

 内心盛大に冷や汗を流しながら王の前で跪き、首を垂れる。自分でも良く分からないままにネフェルピトーは言われるがままに従う。

 どう考えても自分が悪い。最早殺されても仕方ないと覚悟しながら。その頃になって漸く記憶が戻り出した。そうだ! 自分は闘っていた。最初は腕試しのつもりだったが思った以上に敵が手強く、決死の覚悟で()退()()()のだ。

 

 

「さて…貴様の言い分を聞こうか。答えるがよい」

 

 

 凄まじいプレッシャーを放ちながら王が告げる。それはピトーをもってさえも物理的な圧力で動けなくなる程の。少しでも気に入らなければ自分は即処分されるだろう。

 

 

 だがここにきて、ピトーはそれでもいいと思っていた。

 

 

 

 自分の様な役立たずは、この先王の障害となり得る。だから、ありのままを伝えると心に決めた。例え処断されようとも。

 

 

「どうした? 早く言え」

 

 

 王のプレッシャーが更に増す。これ以上沈黙を続ければ死は確実だろう。死ぬ事は良い。だがこれだけは伝えなければならない。

 

「王よ、申し訳ありません。私の名はネフェルピトー。直属護衛軍が1人。私は敵と闘っておりました」

 

「「!!?」」

 

「……」

 

 

 王のオーラが変化する。興味を持ったようだ。他2人は驚いている。それも当然だろう。何も告げずに出てしまったから。

 

 王が続きを促している。

 

 

「敵は我等の餌である人間、その精鋭です。初めは余裕で撃退出来るはずでしたが、思った以上に敵が強く、かろうじて撃退という結果に終わりました」

 

「な……!」

 

「ほう? 人間とはあの餌の事か?」

 

「仰る通りです。そして私は戦闘の余波から一時的に記憶すら曖昧になっていました。もしかしたら私の記憶をいじられている可能性すらあります」

 

「ふむ…? 貴様はその辺の凡百には見えぬが。どれ、確かめてみよう」

 

 

 

 ズギャッ!!!

 

 

 

 言うが否や、王の尾が全力をもってピトーの顔面を殴りつける。ピトーは3メートル程後方に吹っ飛ばされた。だが、その顔は血を流しているが健在だった。

 

 

 

「……殺す気で殴ったのだがな。やはりそこそこは強いか。プフ」

 

「はっ!」

 

「貴様は此奴を調べろ。敵とやらに何かされていないかな。ユピー」

 

「はっ!」

 

「此奴の言う事が正しければ敵は中々の者らしい。腹が減っては戦も出来ぬ。余は取り調べの後、()()()()()。準備せよ」

 

「仰せのままに…」

 

 

 蝶の羽が生えた異形であるシャウアプフが力なくうなだれたネフェルピトーを拘束する。ピトーは抵抗するそぶりすら見せない。当然だ。王の命令は絶対であるがゆえに。

 むしろピトーの表情は晴れやかだった。こんな役立たずの自分ですら王の役に立てると。一目見て分かった。この王は世界を支配するに足る王だ。その一助になれるのであればこれほど喜ばしいことはない。そして、ただ処刑されるならともかく、これから王の一部となれるのだ。

 ピトーは王の寛大な処分に感激していた。その目からは涙すら流れていた。それはこれ以上役に立てない悲しさでもあり、それ以上に王の糧となれることへの感謝の涙であった。

 

 別室へ連れていくシャウアプフも、この役立たずについて恨みつらみはあるが、それ以上にこの同僚を羨ましいと感じていた。だからこそ、徹底的に取り調べなければならない。王が口にするものに僅かでも瑕疵があってはならぬ。

 

 

 シャウアプフは、自分の能力を徹底的にこの()同僚に使用する事にためらいはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「くくく……余の覇道を世に示すにはちょうど良い。人間の精鋭とやら。貴様らを喰らい尽くして我が糧にする栄誉を与えてやろう」

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