アンブレイカブルハンター【完結】   作:エアロダイナミクス

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136、人間の力

 

 

 

 

 

 

 

 

 王が産まれると、基本的には一般の蟻は機能を失う。彼らの存在意義は女王から王が産まれるまでの警護、及び餌の調達である。そしてキメラアントが次代に移る時、彼らは解放される。それぞれがそれぞれを生き、繁殖することを許されるのだ。

 それは、生物としての多様性を重視した結果であり、万が一王が身罷ってもキメラアントという種族が絶滅しない為の措置である。

 そのため、普通であれば解放される筈であったが、それは特別な場合を除く。

 

 

 外敵の脅威である。

 

 

 強烈な外敵が存在する場合、キメラアントは団結する。王の意思決定を受けた護衛軍から防備の強化を言い渡され、蟻たちは有無を言わさず防衛体制に入った。例えどんな敵が来ようとも、文字通り蟻の入る隙間すら無いように。

 時折り、()()()()()()()蟻がいて、王が住まう広間に呼び出され、2度と帰ってこない事があったが、誰も逆らおうという者は居なかった。

 

 王とはそれ程の存在感を発しており、絶対に敵う相手では無いと骨身に沁みて理解していたからだ。

 彼らがいかに人間の要素を多く取り入れていたとしても、反逆を考える事すら出来ない。蟲の王にはそれ程の支配力があった。

 

 

 力こそは絶対なのだ。

 

 

 最強故に王。シンプルにして絶対の生物の法則である。それが、種族特性としてより強固に補強されている。故に、強い。彼らが集団で進撃を開始した場合、小国などは軽く落ちるだろう。そもそもの肉体の性能が人間とは段違いに強く。更に人間の狡猾さ、獰猛さも持つ彼らは、最早地上の最大脅威となり得る。仮に撃退出来たとしても多大な犠牲者が出る事は間違いない。

 

 

 彼ら蟲にとっては、人間などただのエサに過ぎないのだから。

 

 

 

 

 

「なぁ、本当にいるのか?」

 

「分からんな。だが、ピトー殿は王に喰われた所を見るとありえない話ではない」

 

 

 蟻塚の中層付近にいるライオン型と鳥型のキメラアントが、防備をチェックしながら話し合っている。ライオン型のキメラアント、ハギャは敵についてはその存在を認知してはいた。部下がこれまで軒並みにやられていたからだ。

 だが、あのネフェルピトーを撃退するほどに強力な人間が居るというのがどうしても懐疑的であった。

 

 

「そんなヤバい敵ならとっくに攻めて来てんじゃねェのか? オレにはどうも胡散臭いとしか思えんぞ」

 

「……何か事情があるか、それともカウンターに特化したタイプか。いずれにせよ、防備を固める事は間違いではあるまい。それに、我々には王がいる」

 

「あぁ……アレに地上で勝てる奴がいるのかってぐらいヤバいよな。ピトー殿を喰ってからよりヤバくなってるからな」

 

「口を慎め。あの方こそが正統な我々の王だ。確かに我々とは次元が違う恐ろしさかもしれんが、並び立つ者がいないからこそそうなるのは当然の事だろう」

 

「フン。とっとと〝敵〟を撃退して巣分けしてもらいたいモンだな。ストレス半端ねェぜ。お前んトコも何匹か喰われただろ?」

 

「師団長級を喰わないだけまだ理性的だろう。それに、我々もそろそろ動くだろうしな」

 

「ふ〜ん。なぜ分かる?」

 

「ピトー殿を撃退出来る戦力が恐らく最高戦力だ。王もあの気性ならただ待つなどしないだろう。防備を固めたら打って出る可能性が高い。そこに敵は仕掛けて来るはずだ」

 

「なるほど。お前も結構考えてんだな〜」

 

「お前が考え無しなだけだ。あんまり適当にやってると〝喰われる〟ぞ」

 

「そりゃ怖えェ。さ、見回りの続きすっか〜」

 

「オレも空から見回る。ではまたな」

 

 

 

 2匹はそこで離れる。コルトは巣の周りを見回り、ハギャは中を見回って下級兵の監督だ。

 

 

 

 

 

 

 それが、2匹の生死を分けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カッ!!

 

 

 

 

 

 

 凄まじいオーラが展開された。恐るべき規模で。そのあまりの巨大さに、蟻達は動く事を許されなかった。

 

 

 

「な……!!」

 

「そ、そんな……!? そんな馬鹿な……!!!」

 

 

 兵士蟻はそれだけで恐慌状態に陥る。

 

 

「王よ!! これは…!」

 

「何という……これほどの〝力〟が存在するのか…」

 

 

 上位の3匹も似たようなものだった。まさか、これ程の戦力だったとは、と。

 

 

 展開されたオーラに害は無い。むしろ非常にクリアなオーラであった。敵意も何も無い。ただ観察するかのようなイメージ。それは《円》。ただし、規模の桁が違った。最大の《円》を展開できたピトーですら2キロ四方が限界だった。王、メルエムすらその1.5倍〜2倍ぐらいだ。しかし、これは優にその10倍は大きい。

 

 

 

 そのオーラはすぐに引っ込む。だが、先程の《円》が衝撃的すぎて、まともに思考が働かない。

 

 

 コルトは見た。その引っ込んだ《円》の方向から莫大なエネルギーが収束している事を。コルトは震えていた。今までは王こそが地上最強だと思っていた。産みの母の扱いや自分含む仲間達への扱いなど不満な点もあるが、それでもその〝力〟は認めざるを得ない。

 

 

 だが、これは……これは何だ?

 

 

 神とやらが存在するならば、正にこれだろう。それ程の圧倒的な〝力〟!!

 初めから勝てる筈が無かったのだ。我々には。

 そのエネルギーはドンドン凝縮してゆく。それが意味する事は、誰の目から見ても明らかだった。

 漸くコルトの頭に「全滅」というワードが浮かぶ。マズい。

 

 

 

 

 「全員、逃げろーーー!!!」

 

 

 

 

 コルトはその前世も含む生涯で出した事もないような、在らん限りの大声で叫ぶ。だが、全ては()()()()

 

 

 

 直後に、巣の面積全てを覆うほどの超特大のオーラの奔流が超速で飛んで来た。コルトは必死に回避に専念したが、翼の一部と右脚を持っていかれた。

 僅かに触れただけでこれだ。見回りで一緒に飛んでいた部下達は悲鳴をあげるヒマもなく飲み込まれ、消滅した。

 後方を気にかける余裕すらない。

 

 フラフラと片方の翼で何とかバランスをとり、地面に衝突して死亡する事は避けられたが、ダメージは甚大だ。

 だが、その時になって漸く巣の方を見ることが出来た。

 

 

 女王……そして王は…

 

 

 

 NGLの荒野が広がる。だが、あるべき物が無い。そこには、自然以外の()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その《円》を感じた時、シャウアプフは絶望した。あまりにもレベルが違いすぎる。王が成長したらもしかするとこの領域まで届くかもしれない。

 

 

 だが、今は無理だ。

 

 

 同僚のモントゥトゥユピーと顔を合わせる。その顔は焦燥に満ちていた。最善は何か。刹那の判断を下す。我々が盾になり、何とか王を逃す! 奇しくも同じ結論に至ったらしい。

 瞬時の了解にて、ユピーは巣の一部を全力で破壊する。奇跡的に現在地が天井に近い事が幸いした。上空に青空が見える。

 

 

「王よ。失礼します!」

 

 

 プフが王の手を取り、一気に屋上まで飛び上がる。王はなすがまま沈黙し、されるがままになっていた。ユピーも続けて屋上まで駆け上がる。

 その時、3匹は見た。遥か彼方から恐ろしい勢いで飛んでくるオーラの奔流を。それは、巣全体を覆って余りある巨大な破壊の奔流。それが直撃するとどうなるかは火を見るより明らかだった。

 

 

 瞬時にプフは飛び上がる。その範囲外まで。しかし、ユピーはまだ飛べない。

 

 

「ユピー!! 掴まれ!!!」

 

 

 

 王が叫び、その声に反応してユピーもジャンプする。王の伸ばした尾に辛うじて捕まる事が出来た。しかし、()()()()()()()()()

 

 

 ジュッ!

 

 

 

 

 ユピーの下半身が巻き込まれて消し飛ぶ。彼は自分の有様を呆然と見ている事しか出来なかった。

 

 

 

 

 奔流は僅か2秒程しか続かなかった。だが、その2秒で充分だった。巣のあった場所は跡形すらなく消し飛び、その衝撃によって遥か地平線まで抉られていた。

 シャウアプフが続けて飛ぶ気配を見せた。それは圧倒的な危機感によるものだ。少しでもこの敵から離れなければならない。我らが王をお守りする為に!

 

 

 だが、それを止めた者がいた。それは他ならぬ王自身だった。

 

 

 

「……もうよい」

 

 

 

 その言葉を聞いてシャウアプフは耳を疑った。王は何を言っているのかと。

 

 

「! 何を仰るのです! 今はここから少しでも離れなければ!!」

 

「無駄だ」

 

「ダメです!! もう時間が無い! 次がいつ来るか分かりませぬ!!」

 

「無駄だと言っている! 2度言わすな!!」

 

 

 王が怒気を発する。これ以上は捕まえた手を振り解きかねない。仕方なく動きを止める。

 

 

「王よ……何故です…」

 

「我々は奴に既に捕捉されている。恐らく、これが『人間の王』だろう。余は王として、逃げながら殺されるなど耐えられぬ」

 

「王……」

 

「それと、これからは余の事は王ではなく、メルエムと呼べ。それが母から賜りし我が名である」

 

「おぉ…! ではメルエム様、このまま逃げましょう」

 

「ならん。敵に背を向けるなど余には許容できぬ。これは命令だ」

 

「…………」

 

「余を降ろせ。人間の王を待つ。奴も王なれば、こうする事で必ず姿を見せるだろう」

 

 

 

 王は半ば諦めている。王はその矜持を守らざるを得ない。何故なら王は種の全てを託された生まれながらの王者だからだ。ここで背を向けるなどはその矜持が絶対に許さないだろう。いかに敵が強大であろうとも。シャウアプフはそう感じていた。だが、この場で逆らった所で状況は好転しない。彼も予感はしていた。そのまま逃げた所で確実に殺されるだろうという予感が。唯一の生き残りの道は、その敵との交渉のみ。彼が導き出した答えは奇しくも王と同じであった。その理由は全くの逆方向であったが。

 

 

 

「……畏まりました……メルエム様」

 

 

 

 何とかそこで生き残るための交渉をせねばならない。例え自分達が不興を買って死のうとも。プフもユピーも同じ覚悟を密かに固めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれから逃れたか。まぁ殆どの蟻は潰した。後は王だ。先に行ってくる。済まないが、2、3匹討ち漏らしがいる。そいつらを駆除してくれ。拡散しないうちに」

 

「「「「…………」」」」

 

「言いたい事は分かるが、後でだ。よろしく頼む。……キルア」

 

「……何?」

 

「一匹速い奴がいる。チーター型のキメラアントだ。今必死に9時の方向に逃げている。私が行ってもいいが、王を優先したい。アレを()()()始末出来るのはお前だけだ。頼まれてくれるか?」

 

「………」

 

 

 キルアはのそりと起き上がると同時にアーマーを展開する。その表情は昏く、暗殺者に相応しいものだった。

 

 

「後から迎えに行く」

 

 

 

 去り際に伝える声を聞いたか聞いていないか。彼は瞬時に消え去り、ソレが逃げたと思わしき方向へと向かった。

 

 

 

「……大丈夫かしら?」

 

「彼にも()()()()を打ち込んである。それが敵へと導くだろうし、私も捕捉できる。問題ない」

 

「そう……」

 

「では、また後程」

 

 

 

 カームから脚の筋肉を引き絞る音がする。それは例えるならダイヤモンドを更に圧縮するようなものであり、見てる側からも想像もつかない様な暴力的な威力を予感させるものであった。

 

 

ドウッ!

 

 

 周囲の地面がまるでクレーターの様に凹み、彼の姿は消え去った。後に残された面々、ビスケ、カルト、レオリオ、クラピカに加えて、ノヴ、モラウ、カイトはしばらく沈黙する事しか出来なかった。それが解除されてまともな思考が帰ってきた頃、1人が呟く。

 

 

 

「……なんなんだアレは。あのヒソカとかいう奴もそうだが…人間……なのか?」

 

「そうよ。カイトだっけ? ()()()()紛れもなく人間よ」

 

「ここまで圧倒的だと笑いが込み上げてくるぜ。オレらは正しく彼が来るまでの足止めだった…ってコトか」

 

「……()()()()()()()()

 

「「「は?」」」

 

「ば…馬鹿な……お嬢ちゃん、更にその先があるってのか!?」

 

「カルトの言った通りだ。まだまだ彼はあんなものじゃない」

 

「そうだな。本気の本気になればあの規模じゃ済まないだろうな」

 

「そんな……そんな力は最早……」

 

「ヒソカもそうだけど、今、この世界で起きているテロ、それは彼を追い詰める為の物よ。恐らくね。だって彼に勝てる者は最早存在しないもの。〝あの〟ヒソカですら……。仮に彼がその気になれば世界は容易く滅びるでしょうね」

 

「何故そんな人物が今まで隠れていたんだ……」

 

「彼もまた人間だ。人間である以上、繋がりを欲する。だからこそ彼は全力で自重していたんだろう。ひとたびこの力が漏れたなら、もうこの世界で穏当には生きていけないからな」

 

「「「…………」」」

 

「だからこそ、今回のテロは痛い。全てが終わった後、彼の居場所はますます少なくなるでしょうね。それが敵の狙いでしょうけど。私は少なくとも彼の味方でありたいわ」

 

「僕もね」

 

「オレ達だってそうさ。なぁクラピカ」

 

「あぁ。彼はどこまでいっても善良な人間だからな。そんな人物が排斥されるなど、あってはならない事だ」

 

「……しかし、そうはいかない。そうでしょう?」

 

「ノヴと同じ意見だ。そうはいかねェだろうな。それを考えると今から頭が痛ェぜ」

 

「恐らく世界中が大混乱に陥る。そして、彼の獲得権争奪戦の始まりだ。又は積極的な暗殺狙いが続くな。彼を確保して戦力に出来れば、世界を支配するのと同義だからな」

 

「……全くその通り。でも、今は考えても仕方ない。私もカルトもその可能性は理解しているからこそ、そうなった場合の覚悟は決めてるの。だから、今は目の前に集中ね」

 

「そうだな。私もレオリオも覚悟は出来ている。だから安心してほしい。我々ももう行こう。結末を見届けに」

 

 

 

 そして漸く彼らは走り出す。結末の決まった闘いを見届けに。

 カイトは何気なくふと空を見上げた。

 

 

 空はこれから起きる事を暗示するかのような、不吉を孕んだ曇り空だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キルアは凄まじいスピードで駆けていた。それは、今まで出だしたことの無い最高速のスピードであり、自身に渦巻くどうしようも無い怒りがそうさせていた。恐怖は克服したはずだった。兄の呪いとも言える針を抜いて、念能力者としての実力も高め、怯懦による見極めの早さも克服した。

 しかし、あのていたらくは何だ。親友の危機の際に恐怖に怯え、何もできなかったではないか。なにが親友だ。結局自分が可愛いだけじゃないか。

 自分が自分を許せない。結局ゴンを見殺しにしてしまった。理性では絶対に敵わないと理解はしていた。だが、そういう問題では無いのだ。それをしてしまったら、オレはゴンの親友を名乗る資格が無い。そう自分を責め続けるキルアは、ある決意を固めていた。

 

 

 

 結果がどうあれ、ゴンから離れよう。自分はゴンの友として相応しくない、と。

 

 

 

 

 そうでなければ自分が許せない。イルミから言われた事がリフレインする。自分は所詮カームの庇護の元で友達ごっこをしていただけだった。それが証明されてしまった。今だって、カームがいつの間にか自分のオーラに混ぜ込ませていたオーラが導いている。確実に、敵の元へ。

 いかにそれが規格外な事なのかは充分すぎるぐらい分かっている。いや、恐らくは自分に頼まずとも彼なら遠隔で始末出来たのだ。王に対処しながらでも。彼は今の自分の感情を読み取り、少しでもガス抜きをさせる為にこの「依頼」をしてきたという事が理解出来てしまった。それが堪らなく悔しい。彼がいるからこそこれまで無事に過ごせてきたのだ。少し離れただけでこのザマならば、もう駄目だろう。

 

 その苛つきが彼を駆り立てる。カームが指定した敵は確かに速い。恐らくスピードならば自分と同等ぐらいに。このままでは追いつかない。だが、それで諦めるならば最早自分に価値は無い。念とは想いの力でもある。必ず始末するという彼の決意に呼応して、彼の肉体とオーラは雷の力を最大限以上に発揮しつつあり、雷速と変わらないほどのスピードが出せるようになっていった。それに伴い、敵との距離が縮まる。少なくとも、この「依頼」ぐらいは完了しなければならない。少なくとも、それだけは。

 彼らと別れた後の事を考える。しかし、上手く考えがまとまらない。こういう時はやるべき事に集中するべきだ。少なくとも、ゴンを救うまでは。

 

 

 

 

 もうすぐ接敵する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何なんだ!! 一体何なんだアレは!!! 運良く外でサボっていて本当に良かった。そうでなければ他の奴等と一緒に消滅するところだった……!! ラッキーだった。ラッキーだった。

 チーター型のキメラアント、ヂートゥは自らの幸運を噛みしめながら森を疾走(はし)る。あの様子なら王すらただでは済まないだろう。あんな餌に過ぎなかった人間が、あれほどの力を持っているなど誰が想定できようか。最近では肉団子としてしか認識していなかった人間が。

 自分一匹ぐらいは見逃して欲しい。そのために少しでも目立たないようにオーラを抑えながら疾走る。最初はあの敵が迫ってくれば、命乞いをしてでも生き延びるつもりだった。だが、後から考えるとそれは恐らく叶わぬだろうということが分かった。他ならぬ自分たちは、人間の命乞いなど一顧だにしなかったからだ。ならば命乞いはバッドエンド直行だ。取るべき手段は二つ。徹底的に逃げ切るか、徹底的に抗戦するか。抗戦は最後の手段だ。どう考えても死亡フラグだ。ならば、逃げ切る。スピードには自信があるから。

 

 

 オレはスピードキングだ!! 誰もオレを止められない!!! このまま逃げ切ってやる!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは行き止まりだぜ」

 

 

 

 

 急停止を強要される。

 

 

 

 あろう事か()()()()()人間が現れて進路を塞ぐ。その事実にヂートゥは驚愕する。

 何故……何故追いつかれた!? スピードには自信があったのに…そんな人間がいるのか!?

 頼みにしていたスピード。少なくともそれだけは負ける筈が無かったのに! コイツは「あの」攻撃とは別個体。それはそのオーラで分かる。アレならばまだ納得は出来た。だが、自分達と変わらぬ程のオーラの人間が、人間如きが……!

 

 

「な……納得いかねェ!! なんでお前がオレの前にいる!!? 人間の分際で!!!」

 

 

 

 ヂートゥは吠える。彼のプライドは既に粉々になりつつあった。こんな人間の少年にしか見えない奴に、スピードを上回られるなどは悪夢としか言いようがない。その言葉に、やはり人間の少年の声で答えが来る。

 

 

「さぁな。知ったこっちゃねー。強いて言うならオレ、今機嫌悪いんだよね。だからじゃない?」

 

「はぁ!? あっ! 分かったぞ! お前、念能力かなんかでワープして待ち伏せしただろ!! キタねー奴!!」

 

「うるせーなぁ……試してみりゃいーじゃん」

 

 

 いかにもダルそうに、不機嫌そうに吐き捨てられる。その挑発にいとも簡単に乗ってしまうヂートゥ。

 

 

「あ”あ”っ!? 舐めやがって……お前、死んだぞ」

 

 

 怒りに任せてオーラを展開する。念の技術的には未熟だが、その生物としてのポテンシャルによって熟練と変わらぬ程の滑らかさ。恐らくは戦闘に於いてもそうだろう。だが、目の前の敵は一切動じている様子は無い。

 

 

「じゃ、早いとこ終わらせようか。雑魚に時間とってる暇ねーし」

 

 

 その余りにもこちらを見下した発言に、ヂートゥはブチッと言う音を自分の中で聞いた。

 

 

「死ねェッ!」

 

 

 

 殺った! 爪を顔面に突き立てる、その0コンマ3秒まで相手は動いていない。やはり単純な瞬発力やスピードならばこんな奴に負けるはずがない、さっきも変なワープとかで追いついただけだ。このまま反応する間もなく殺してやる。だが確実に当たると確信した直前、不意に視界が揺れ、景色が歪む。

 

 な、何だ?

 

 何が起こった!? 無理矢理相手を見据える。まだ健在だ。クソが、よく分からないけどもう一度!

 

 

 バチッ

 

 

「【疾風迅雷】」

 

 

 今度は腹部にダメージ! 何だ? 一体オレは何を喰らってる!? 再び反撃をしようとピクリと動いた瞬間にまた衝撃が走る。

 ()()()()()だ。コイツからカウンターを貰ってる。その速度が速すぎる。見ると、奴の身体から電気が迸っている。間違いない、先程の謎の衝撃はこれだ!

 だが、気づいたとてどうしようもない。短時間で数十発のカウンターを貰いまくり、あっという間にヂートゥはボロボロになってしまった。

 凄まじい速さのカウンターだけに、そのダメージは軽く当てられたものでも半端ない威力と化している。

 

 

「な、何なんだよお前はッ!!」

 

「やっぱり堅いな。蟲だけに。もう少し強めにやるか」

 

 

 キルアのオーラと電圧が上がる。

 この瞬間、ヂートゥは完全に抗戦する意欲を失ってしまった。

 ──このオレが完全に反応負けしてる! 不味い、決めに来る! だ、ダメだ……勝てない……逃げなきゃ! 逃げなきゃ殺される! と。

 元から逃げ切る事が目標だった。元から逃げ切れればよいのだ。例え、今勝てなくても、生命を賭してでも逃げ切れば勝ちだ!──

 

 

 その思いが、彼に逃走を選択させた。

 

 

「う、うわあああぁぁ!!」

 

 

 全力で別方向へと走り出す。今度こそ、追いつかれない程に速く! すぐ後ろに奴が来ている気がする。ダメだ、もっとだ! もっと速く、より速く!! 限界を超えたスピードで!!!

 その想いが反映されて、更なるスピードが出始める。その速度はもう新幹線を超えて、ヂートゥにも未知の領域へと突入する。

 だが、彼はこれまで鍛えた事がない。元からその素養は既に人間と比べると隔絶しており、鍛える必要がなかったからだ。そんな彼が急に限界以上の出力を出そうとすればどうなるか。

 ピシピシ、と外骨格のキチン質がそのスピードに耐えられずにひび割れ始める。

 

 

 だが、止まる事など出来ない。何故なら、背後から感じるからだ。バチバチという音と共に、奴が、あの悪魔が付いてくる気配が。

 それと同時にスピードを更に上げる。もう身体中にヒビが入り、ポロポロと外骨格が剥がれてゆくが、一向に距離が離れないどころか縮まっていく。

 

 

 思わず叫ぶ。

 

 

「なんでだよ!! なんでオレがスピードで負けるんだ〜ッ!!!」

 

 

 遂にキルアが隣に並ぶ。

 

 

 

 

「わかんねーかなぁ…」

 

 

 

 

「お前が()()()だからさ」

 

 

 

「く、クソッタレーー!!!」

 

 

 キルアがオーラを込めた手刀を一閃すると、ヂートゥの頭は身体から離れ、やがて身体は木々に激突して粉々になった。キルアは徐々にスピードを落としてその頭を抱えたまま停止する。

 

 

「? ?」

 

 

 視点の移動が激しく、何が起きたか分かってないヂートゥ。だが、ようやく自分が頭だけになってしまった事を理解した。

 

 

「や、やめ」

 

 

 バチュッ!

 

 

 

 凄まじい握力で砕かれた頭。結局彼は逃げ切る事すら出来なかった。彼とキルアの明暗を分けたのは、弛まぬ努力。どんな人間よりも才能と素養に勝り、それに胡座を掻いていたヂートゥは、地獄の様な研鑽を積み重ねてきたキルアには勝てなかった。力量も、スピードすらも。

 

 

 

 

「あ〜腹立つ。でもまぁちょっとはスッキリしたかな。あっちはそろそろ終わるだろうし、戻るか」

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