アンブレイカブルハンター【完結】   作:エアロダイナミクス

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蟻編完結!


137、人と蟻

 

 

 

 

 

 

 

「メルエム様……」

 

「案ずるな。奴は必ず来る」

 

 

 

 メルエムには確信があるようだった。その根拠は、自分ならそうするという不確実なものであったが、それでもほぼ間違いないと言い切っていた。

 護衛軍の2匹は冷や冷やしながら待つ。また例の攻撃が来たら、今度は追尾するタイプだったら……即座に動ける様に準備だけはしておこうと。その時──

 

 

 

 

 

 

 

 ヒュオッ

 

 

 

 

 風切音と共に腕が舞う。

 

 

 

 

 刹那の出来事であった。視認も出来ぬ程の遠方から瞬時に物体が飛行してきて、それと共にシャウアプフの右腕が切断された。

 

 

 

「な……!」

 

 

 

 反応すら出来なかった! 自分達の背後にそれを成した者がいつの間にか立っていた。全身を黒い服のような鎧で覆い、悠然と後ろ向きで。

 コンマ1秒、全員がフリーズする。しかし、自分達の間合いの中に居るこの敵をこのまま放置は出来ない。瞬時に切り替え、プフは残った左腕で、ユピーは下半身をボコボコと再生させて反撃に移る。

 コンマ2秒。黒い鎧が白い鎧に瞬間切り替わる。敵は後ろを向いたままだ。そのまま攻撃を当てる直前に2匹の腕が全て切り取られ、宙を舞う。そのまま地面にダイブする2匹。敵が振り向く。刹那の時間の筈なのに、何故かゆっくり見える。完全に振り向いた敵は、両手を上げてパンッと柏手を打つ。すると、起き上がって反撃しようとした2匹はゴキゴキという嫌な音をたてて、見えない力で押し潰された。

 

 ここまでがコンマ3秒の出来事である。

 

 

 

 

 

 シャウアプフとモントゥトゥユピーは絶望していた。交渉などと考えたのはまるで甘かった! 近距離で敵の強さに実際に触れて分かった。この強さは我々とは隔絶している。しすぎている。

 これほどの力の差であれば、最早敵にとって自分達は虫けらに等しい。チョロチョロと飛び回る極小のハエが鬱陶しいから潰しに来た。敵にとってはそれぐらいの感覚だろう。ならば交渉などは不可能だ。

 身体が押し潰されていく音を聞きながら、彼らは万感の思いを込めて声を上げる。

 

 

「「王……!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 分かってはいた。力の差がある事は。しかし、ここまで差があるとは……。護衛軍とて弱くはない。いや、むしろこの世で最強の部類に入るだろう。自分の知る限りでは、だが。彼らはその強さとして自分とそこまで変わるものではない。だが、それをまるで赤子の手を捻るように、いや、まるで、虫けらを潰すかのようにいとも容易く無力化してしまった。

 

 

 間違いない。これが「人間の王」!

 

 

 仮に人間の有象無象が大量に攻めて来たとしても、厄介だが対処は出来ただろう。しかし、だからこそこいつが来たのだ。圧倒的な力を持つ「個」が。自ら!

 

 

「プフ、ユピー!!」

 

 

 声を掛けるも、喋る事すら厳しそうな様子だ。一体何の能力なのか。いとも容易くこのような強力な能力を行使するとは一体どんなカラクリか。様々な疑念がわき起こり、僅かにメルエムが逡巡した、その瞬間。

 

 

 

 敵は悠然と歩み、自らの死線を越えて真横を通り過ぎていった。その事実に雷を打たれたような衝撃を受ける。

 すれ違う際に敵はいくらでも自分を殺せた筈だ。その実力であれば。しかし、なぜかそのまま通り過ぎて、その後はこちらを観察している。

 

 

 

 ──敵は、遥かに怪物

 

 

 

 産まれてこのかた価値観を激変させてしまう事が相次いだ。それも、この短時間で。何故見逃されたか分からない。だが、今は……

 

 

「無事か?」

 

 

 敵は沈黙している。その隙に後方の部下へと寄る。死の直前まで追い詰められていた彼らだったが、辛うじてその生命力で生きていた。だが、それでもダメージは甚大だ。到底立ち上がれそうにない。

 

「カハッ! ハァッ、ハアッ…!」

 

「な、何とか……奴は恐らく重力を操ると想定されます……!」

 

「そうか……其方らは今しばし耐えろ」

 

「……いけません!! 王よ!!! やはりダメです! ここはお逃げください!! 我らが生命を賭して食い止めます故!」

 

 

 苦しみながらもシャウアプフが絶叫する。そして、2匹共に体組織を崩壊させながら立ちあがろうとしている。だがそれに対し、メルエムは諭すように告げる。

 

「駄目だ。先程も言ったであろう。ここで背を向けるなど、死より屈辱だと。余は抗う。最期まで……済まぬが付き合ってくれ」

 

 

 護衛軍へと語るその口調は、穏やかで優しさに満ちていた。

 

 

「王……ッ!!」

 

「2度言わすな。我が名はメルエム。世界を統べる王なり」

 

 

 その言葉に2匹は再び崩れ落ちる。もう限界に近いからだ。メルエムは怒っていた。激怒ではない。だが、静かな怒りを湛えて敵へと振り返る。世界を統べる為に産まれてきた。だが、漸く誕生出来たかと思えば、いきなり種の滅びの事態へと叩き込まれた。第一自分こそは蟻の王として生を受け、生命の頂点に立つ事を許されたはずだった。我こそは種全体の惜しみない奉仕の(たまもの)である。長い進化の歴史の突端が全て自分に集約されるよう機能したキメラアントの生態に、どう見ても多様な個の有り様を許した人間にしか見えない者が遥かに上回る力を持つなど、あってはならない。

 理不尽、そう、理不尽である。いくらこの世が力こそ全てであろうとも、そんな理不尽を許す訳にはいかない。そんな理不尽に背を向けるなど到底出来ない。なれば、最後まで抗う。例えその行き着く先が自らの死であったとしても。それが王として産まれた自らの矜持ゆえに。

 

 

 

「貴様……名は?」

 

「…………」

 

「答えぬか。木石でもあるまい、人間の王よ」

 

「……名を知りたくば、先ずは自分から名乗るがいい。さもなくば貴様らはただの虫けらに過ぎん」

 

 

 敵が何かに反応した。何に反応したかは分からない。だが、言葉は通じた。

 

 

「なるほど。確かに礼は失していたな。我が名はメルエム。全てを照らす光。そして、世界を統べる王なり」

 

「……名を貰ったか。私はカーム=アンダーソン。【壊れない男(アンブレイカブル)】にして、【怪物ハンター】。そして、お前を滅ぼす者だ」

 

「……? 貴様は人間の王ではないのか?」

 

「然り。お前が思っている以上に人間とは複雑な社会を持つのだ。蟲には理解できんかもしれんがな」

 

 

 

 その言葉を聞いて突如、メルエムは全てが馬鹿馬鹿しく思えてきた。なんだ? これほどの力を持つ者が王ではない? 生物としてこれほどの滑稽さがあろうか。自分たちはキメラアントの特性として様々な生物の特徴を取り入れている。そして、どの生物にも共通して強き者こそが絶対者であるという法則は変わらない。

 一番取り入れている人間だけは違うのか? ならばどんな基準で王を選出しているのだ? いや、そもそも王などいないのか?

 目の前の敵、カームはその気になれば世界を支配できるだろう。それこそ、全ての生物の頂点に立つ者として。この者に勝てる生物など存在するまい。いわば絶対者だ。だからこそそれを成していないこの男が不思議でならなかった。そこに笑いがこみ上げる。なんと滑稽な。なんと奇妙な。この世界は。

 

 

 

「クックックッ……ハーハッハッハッハ!!」

 

「何がおかしい?」

 

 

 

 思わず笑いが漏れる。若干苛ついている口調で目の前の絶対者は反応する。凄まじい威圧をもって。だが止まらない。

 

 

 

「これが笑わずにいられるか! 余は産まれながらの王だ。だが、この世界には王は存在しないらしい! ならば、余は何のために産まれてきた!!」

 

「…………」

 

「貴様もだ! 王として同胞を救うため、または仇を討ちに来たならまだ理解できる。だが王で無いのならば、貴様は何故ここへ来た!!」

 

 

 笑いは怒気へと変化する。その理不尽に対して。知らず知らずのうちにそのオーラは強烈に発散されており、それは最早一匹の個体としては破格の力を宿していた。だが、対する相手もまた規格外。

 

 

「決まってるだろう。()()()()()()()()だ」

 

「ほう? 貴様ほどの力の持ち主が有象無象を気にするか」

 

「元から私は蟲が大嫌いだ。そして、そんな蟲どもに人々が好き勝手に蹂躙されるような光景は見たくないからな」

 

「ふむ……傲慢だな。結局その根本は余と同じか。だが、明確に余と違う点があるとすれば、貴様は逃げたのだ。王になるという責務からな」

 

「王になるということが全てではない。少なくとも人間の世ではな」

 

「力には責任が伴うはずだ。違うか? 少なくとも余はそうだ。それは遍く生物の根本だろう。人間とはそれほど歪んだ生物なのか? いや、そう変わるものでもあるまい。それは人間を大量に喰って産まれた部下どもからも分かる。生物の根本は同じなのだ。それを貴様は怠った。第一、その力を同胞の為に役立てておれば、余も産まれなかったであろうな。それを貴様が怠ったからこそ、こうして余が存在しているのだ」

 

「…………」

 

「ハハハハハ! 滑稽極まりない!! 所詮貴様は余と同じ。そして生物としては余よりも明確に下だ。その意志のありようがな!」

 

「蟲が……調子に乗るなよ」

 

 

 

 絶対者からの威圧が更に強まる。最早災害級のオーラだ。恐らく殺そうと思えば一瞬だろう。だが、この絶対者は戸惑っている? 何か分からないが、即座に潰そうとしないあたりにそれが伺える。メルエムは全身に冷や汗が出そうになる程の威圧を受けながらも、それでも屈しないと自らを奮い立たせる。

 

 

 ──例え蹂躙されようとも、自分は王を貫く。最期の瞬間まで。

 

 

「怒るか! 人間よ。哀れな人間よ。王になる事を放棄した無責任な人間よ!」

 

「……そこまで言うのであれば、お前が王になった時のビジョンは考えているのだろうな?」

 

「無論だ。力による統制。そこに力なき権力が弱者を蹂躙するなどという理不尽は介在させない」

 

「笑止。貴様の部下は遊びで弱者を殺しまくっていたぞ」

 

「だから滅びた」

 

「私が滅ぼしたのだ。それこそ大嫌いな所業だからな。それにお前のビジョンには具体性が無い。お前等にとって人間とは食料だ。結局は人間がお前等に蹂躙され、家畜のように飼われて食料にされるという前提だろう?」

 

「そこは否定せん。だが人間の中にも貴様のような存在が多数存在することが分かった。ならば悪いようにはせん。特区を作り、そこで不自由なく暮らせるように配慮しよう」

 

「そこが我々人間とは噛み合わん箇所だということだ。だれが食料の家畜扱いを受け入れると思っている」

 

「ならば貴様が王になって否定して見せろ。余は部下から聞いたぞ。人間のことも。人間も同じだ。食料扱いされていないだけで家畜のように飼われ、蹂躙される弱者がいるはずだ。我等と何が違うというのだ。やっていることは同じだろう。そこを是正できぬ貴様には余の事を否定する資格は無い!」

 

「資格ときたか……ならばお前の言うとおり、力で否定してみよう。蟻の王。それがお前の望む事なのだろう?」

 

「是非も無し。……王として産まれていきなり自らが挑戦者とは血が沸くな。だが余は曲げぬ。屈せぬ。いくぞ、人間!」

 

 

 

 ドウッ!

 

 

 

 鋭く重い踏み込みによって刹那の瞬間に接近し、パンチを打ちこむ。メルエムのパンチはそれこそ現代兵器の重火器に匹敵する。いや、それ以上だ。だが、敵はその目にもとまらぬスピードと重さを兼ね備えた一撃を容易く絡め取り、その勢いのまま地面に叩きつけられる。落下点にクレーターが出来る程の衝撃。

 

 

「ガッ……! まだまだ!!」

 

 

 即座に立ち上がり、2撃目、3撃目を脚と尾で同時に放つ。しかしあっさりと先程の様に対処された。原理は分かる。だが、それをこのスピードでやるか! だが人間に出来て自分に出来ぬ事は無い。見極めよう。この絶対者が()()()()()うちに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 痛い所を突かれた。今こうして相手を嬲る形になっているのは私の迷いの表れだ。自分でもよく分からない。

 何故即座に消し飛ばさなかったのか。何故こうして言葉を交わし、あまつさえ敵に塩を送りまくっているのかを。

 その思考形態が人間と似ているからか? いや、違う。言葉を交わして感じたのはやはり、蟲と人とは相容れないという事実のみ。では、何故。

 

 そうこうしている間にも、メルエムは自分の技を吸い込み、恐ろしい速さで習得しつつある。やはり危険。やはり生かしてはおけない。まだこの程度では相手にもならない。自分の引き出しは無限に近い。特殊な能力も一切使っていない。

 それでも、この力はこの世界では危険に過ぎる。まだまだこいつは産まれたてだ。あの暗黒大陸の奴よりも未熟。だが、すぐにあの領域まで迫るだろう。

 

 

 だからこそ、ここですぐに消滅させれば良いのに、全くその気が乗らない。

 

 

 自分が分からない。ヘルペルも、ブリオンも、パプも、果てはカキンの人間の王さえも躊躇なく消してきたのに。

 

 ()()()()()()のだ。

 

 その原因を探る。何度目かの衝突を経て、メルエムが初めて自分に触れる。触れただけだ。すぐに投げ飛ばす。だが、復帰も早くなっている。ダメージは蓄積している筈なのに。メルエムは笑っている。純粋にこの戦闘を楽しんでいる。負けると分かりきったこの戦闘を。

 前闘った王もそうだった。自らの誇りに殉じ、一切屈する事が無かった。だからこそやりづらかった。メルエムも、王たる誇りをもって私に挑んでいる。その高潔さ、潔さを嫌いにはなれない。そもそもが、メルエム自体も本来なら悲劇によって幕を閉じた……そうか! それだ!!

 私がこの王を嫌いになれない理由、それは前世の記憶にあったのだ。確かに会長と死闘を繰り広げ、圧倒的な力によって追い詰め、会長はそこで死んだ。しかし会長は初めから相打ちを狙い、そしてメルエムは人間の悪意の産物によって滅びた。

 それまでの過程で、彼は自分の名も知らぬまま人間の娘と軍儀で高め合い、人間と蟻との間で葛藤していた。そして彼はその娘との最期を選んだ……。

 

 

 私は無意識に、勝手に共感していたのだ。

 

 

 この産まれたての王の、本来あったはずの運命に。だからこそ、嫌いになれなかった。

 だから、言葉を交わした。そして、言葉を交わせばもう殺せなくなってしまった。

 〝救世主〟の私は殺せと主張する。だが、私自身は否と拒む。

 

 

 メルエムは笑っている。それほど楽しいか。今そんなメルエムの相手をしている私には確固たる芯が無い。無いままに、ただ適当にあしらっているだけだ。全霊を以って諦めずに挑んで来る王に対して、不誠実にも程がある。明らかにダサい。こんな舐めたマネをされたなら自分なら激怒するだろう。だがメルエムは私に立ち向かう。絶対に勝てないと分かっているにも関わらず。

 

 

 決めなければ。私がどうすべきか。

 

 

 

 

「なぁ、メルエム」

 

「何だ、カーム=アンダーソン」

 

「すまなかったな」

 

「……ふん、漸くその気になったか。早く見せてみよ」

 

「あぁ。行くぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目の前の絶対者の雰囲気が変わる。それに伴いオーラも変化する。クリアなオーラではあるが、より鋭く、重いオーラに。凄まじく研磨されているのが理解できるオーラでもある。どれほどの修練と修羅場を潜ればこうなるのか分からない。どれほどの苦痛と激戦を経てこうなったのか分からない。それほどの洗練された(わざ)とオーラである。メルエムは、闘いの中でそれを鮮明に理解した。だからこそ、この敵を憎めない。多様性を許した人間の個でありながら、究極を超えた力を手にした者。そこに敬意を表する価値があるからこそ。だからもっと堪能したかった。

 

 いよいよ、か。楽しい所だったのだが。

 

 こんなに遊んでもらった事は無かった。何故ならば自分は絶対者の筈だったからだ。自分が全力を出す時は蹂躙する時のみの筈だった。だが今、全力をもって掛かってもまるで通じない事に、不思議な安心感を覚える。それは、自分が人間の因子を多く持つからだろうか。自分達の種族には有り得ない、父という存在に遊んで貰ったような…そんな安心感だ。だから笑ってしまった。普通なら舐めるなと激怒すべき筈なのに。もっと続けたいと思ってしまった。逆に言えばそれ程の差があるという事なのに。

 

 

 だがそんな時間も長くは続かない。

 

 

 絶対者は何らかの決心をしたらしい。それは当然自分の処遇についてだろう。何を戸惑っていたのか分からない。だが奴は決めたのだ。漸く。

 恐ろしい程のオーラ量! 改めて、やはり大人と子供以上の差を感じてしまう。

 

 

 それこそ、蟻と人か。

 

 

 

 奴が歩んで近づいてくる。初めての行為だ。そう、奴は動いてはいなかった。自分と話したその場から。

 

 構える。どんな攻撃が来るのか、まるで分からない。全身にこれまでのダメージの重みを今更感じるが、不思議にも穏やかな気分だ。この人間との闘いによって、自分は変わってしまった。悪意や敵意、負の感情のない純粋な闘争を経験したからだろうか。

 

 

 後3メートル、2メートル、1メートル…近すぎる! もう間合いなどとっくに入っている。反射的に最短で突きを放つ。これは奴の型を模倣したもの。合理的で威力も高く、何より速い。通じぬだろうが、せめて距離を──

 

 

 幻の様に奴の姿はブレ、代わりに奴の掌が胸にそっと添えられる。嫌な予感がする。物凄く嫌な予感が──

 

 

 

 〝浸透勁〟

 

 

 

「ゲハァッ!!」

 

 

 衝撃が()()()()跳ね回る! な、何を貰った!? 身体が内側から崩壊する程の衝撃! こ、これはオーラが跳ね回っている! 奴のオーラが自らのオーラに同調され、それによってオーラの調和が乱され、球のように暴れ回っている!! しかし、それが分かれば対処も出来る! 自らのオーラを何とか操作して抑え込む。漸く緩やかになってきた。だが被害は甚大だ。何なのだ、この技は!!

 

 

「もうこの技の骨子を掴んだか。流石だ。そして、これが私からの最後の攻撃だ」

 

 

 

 気付けば、奴は右手に莫大なオーラを集中させていた。何だコレは。山一つ消し飛びそうな程の威力を感じさせている! おのれ、絶対者め。奴は最後と言った。ならばこれは余の試練。

 

 

 耐え切ってみせよう。

 

 

 

 絶対に!

 

 

 

 

 ドウッ!

 

 

 

 凄まじいエネルギーの奔流!! 最早対個人に使う技ではあるまい。腕を前面に重ねて防御態勢をとる。オーラをガードに全て回す。壁だとすぐに破壊されて飲み込まれる。前方を流線型に、少しでも受け流す! だがあまりにも強大なエネルギーは、大河の流れをイメージさせる。押し流されたら負けだ。必死に耐える。だが、ジリジリと削られ、押されてゆく。越えねばならぬ。この理不尽を。

 

 

 

「おおおおぉぉぉ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 必死に抗う王を、見ている事しかできない不甲斐なさに血の涙を流す。ギリギリと食いしばり過ぎて、口の中で傷つけた血が、内臓の損傷の血と混じり口の中から溢れ出す。

 この重力攻撃に漸く耐えられる様になってきたが、未だに立ち上がる事すら出来ない。

 恐ろしい力だ。見た瞬間世界を統べると確信した王ですら赤子扱いだ。

 幸いだった事が一つあるとすれば、奴が王を瞬殺しなかった事だ。何の奇跡かは分からないが、奴は逡巡している。王も知ってか知らずか的確にそこを突き、煽っていた。もしかすると、出来るかもしれない。無限に存在する内の一つの針の穴に糸を通す様なか細い可能性、生き残りの道が。

 

 

 だが、そんな想いも虚しく、奴は決めに掛かる。謎の攻撃によって王が苦しんでいる。その直後、奴から超莫大なオーラが収束し、発射される。あんななものを受けたら王は……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 不意に身体が軽くなった事に気付く。重力から解放されたらしい。ユピーとプフは顔を見合わせ、即座に王の影の元に向かう。奔流は通り過ぎて奥の山を削り取っていた。影はぐらりとその場に崩れる。

 

 

「「王!!」」

 

 

 絶望的な気分になり、涙を流しながらも崩壊寸前の身体をおして急いで駆け寄り、崩れ落ちる身体を支える。

 王の身体は、腕が無く、全身が炭化してプスプスと焦げ付いた匂いを発していた。どう見ても死体に近く、その容体は絶望的だった。

 

 

 

「「王ッ!!!」」

 

 

 

 絶叫する2匹。これはもう……

 

 

「! 辛うじて息がある!! だが、コレじゃもうもたねぇよ!! ピトーの能力は王自身がお持ちだ! このままじゃ……!!」

 

「………ッ!!」

 

「どうする!! コレじゃもうすぐ王が……!!!」

 

「私が……私が救う!」

 

「……どうやって!?」

 

「私を召し上がっていただく。それだけの事…!!」

 

 

 

 シャウアプフは細胞を分裂させ、王に吸い込ませる。

 

 

「おおおおおお」

 

 

 メルエムが反応を示す。そして身体が回復しているのが見て取れた。

 

 

 

「おお! メルエム様、私ももう長くはありませぬ。この生命、全てをお使いください!!」

 

「わ、私も御賞味ください!」

 

 

 

 

 シュオオオオ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 王が目覚める。護衛軍(やつら)はやはり自らを喰わせる事にした様だ。王はそれに感想を述べ、もっとと要求する。護衛軍2匹は至上の喜びに包まれながら自らを捧げてゆく……其の生命尽きるまで。

 その為に奴等を瀕死まで削った。こうするだろうとの予感があったから。やはり私は無意識のうちに決めていたのだ。こうなる事を。それは私のエゴだ。それを私が望み、その通りに動かせた。

 

 

 

「…………プフ、ユピー」

 

 

 

 煙が晴れ、五体満足な王が姿を現す。明らかに力が大幅に増している。最早個人では勝てる人間は居ないだろう。私を除いて。

 いや、あのカキンの王は出来るか。もうこの世にはいないが。

 

 

「余は……喰ったのだな。あの2人を」

 

「その通りだ。メルエム」

 

「貴様は何故見ていた? こうなる前に殺せただろう」

 

「さて…お前には私が約束を破る愚か者に映るか?」

 

「そうではない。余には貴様が何を考えているのかが理解出来ぬ。貴様の行動は矛盾だらけだ。殺すと決めたのではなかったのか? 殺すなら最後まで殺せばよい」

 

「私はお前を殺したくなくなった。先程の攻撃はケジメだ。大量の人々を犠牲にした事へのな。だが、これからは違う。()()()()()()()

 

「!? …どういう事だ?」

 

「私はお前を殺したくなくなった。理由は聞くな。だが、お前をそのまま放置もしたくない。ならば私がお前を管理する」

 

「貴様……!」

 

「そう憤るな。暴力こそは全て、なのだろう? ならば敗者は従え」

 

「余に貴様の下に付けと申すかッ!!」

 

「違うな。折衷案だ。ここは私の気に入っている世界だ。ここでお前の勢力を伸ばす事は罷りならんし、私が許さん。だが、世界とは()()()()()()()()

 

「何…?」

 

「ここは人間の楽園。だが、その世界の外にちっぽけな人間が存在すら許されない世界がある。私はお前をそこに連れて行ってやろう。お前はそこで存分に王を目指すがよい」

 

「なんと……なるほど。確かに余にとっては善いのかもしれんな…余は蛙だったと言うわけだ」

 

「お前の場合、一度行ったらここには戻れん。それに、そこならお前が何をしようが私は文句は言わない。ただし」

 

「何だ?」

 

「まず、広い。広大すぎて全土を把握するなど不可能に近い。それに、私を遙かに超える怪物や恐ろしい生命体、巨大で強大な敵が山のように存在する地獄でもある」

 

「……敗れた余にとっては()()()()は許容しよう。むしろ好都合だ。そやつ等を喰えば余はより強くなるからな。それに、世界を知らぬ余にとっては、それぐらいが丁度良い。貴様の提案に乗ってやろう」

 

「交渉成立、だな。では、お前はそれまではただのメルエムだ。そして、誓え。楽園では大人しくすると」

 

「よかろう。で? いつ行くのだ?」

 

「今、この楽園を狙った怪物どもが多数この世界を脅かしている。人類が滅びる程の危機がな。私はそれを全て滅ぼす。それが完了したら、だな」

 

「ほう。余のような存在がまだいると申すか」

 

「世界は広い。そして人間は弱い。個では無く群、または集団でも驚異的な強さをもつもの対しても人間は無力だ。それは他ならぬお前達が証明している。だから私は滅ぼさねばならん」

 

「……余は運が良かった、ということか。または脅威にもならんと判断されたか」

 

「脅威だ。間違いなく。だが、それを私の我が儘で押し通す。それぐらいは許されて良いだろう」

 

「……納得はいかんが受け入れよう。それで、余が生かされた理由については語らんのか?」

 

「先ほど言っただろう。秘密だ」

 

「いつか語れ。気になって仕方がない」

 

「……まぁ、いいだろう。お前を送り届けるときに、な」

 

 

 

 

 言えるわけが無い。蟻の王のくせに人間よりも人間臭く、種との葛藤に苦しみながらその矜持と愛に殉じた奴を気に入ってしまったなどと。このまま誤魔化せるなら誤魔化そう。そうこうしていると、鳥型のキメラアントを抱えた一行がこちらに向かって来るのが見えた。なる程。アレも助けるか。たしか彼も前世の記憶では生き残っていた。気に入られたのだろう。結局は気に入るか気に入らないかの違いなのかもしれないな。

 キルアもこちらに向かっている。どうやら上手く仕留めたようだ。私は人間のうちの一人だ。多様性を抱える人間の中に私のような者がいてもいいだろう。王を目指すなど、そんな面倒な事はしたくない。私は私。()()力が強いだけだ。それでいいじゃないか。皆、私とメルエムが揃って待っていることに驚いているようだ。言い訳を考えねばな。まぁ、ちょっとは我が儘を言うぐらいは良いだろう。誰にも迷惑はかけないし。

 

 

 

 それが、私にとってのキメラアントに対する終え方なのだから。






メルエムが仲間になった!(追放前提)
カームも暗黒大陸に追放ぐらいで許そう、ぐらいには王を殺せなかったし、気に入った模様。


そして…ストックが尽きました…。大変申し訳ないですが更新頻度が落ちます。ご容赦ください。
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