アンブレイカブルハンター【完結】   作:エアロダイナミクス

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139、挑発

 

 

 

 

 

『人類はこれまで進化を繰り返してきた。しかし、それは現状で頭打ちになっている。狭い土地で肌の色や信条が違うだけで争い、憎しみ合う。強き者が弱き者を虐げる。果ては大国同士で牽制し合い、時にはすり潰すまでやり合う。不毛だ。不毛でしかない。それは偏に()()()()()()()()()からだ』

 

 

 会見は続く。

 

 

『だが、真実の世界は広く、果てしない。我々が外洋と思っていた場所はただの湖だ。その果てには人類未踏の想像もつかないような広大で肥沃な土地が広がっているのだ! そしてそこには不老長寿の穀物や、未知の莫大なエネルギー源、万病の治療薬など──』

 

 

 ビヨンドの背後にフリップが用意され、暗黒大陸の広さを裏付ける資料が提示される。その発表に記者達のどよめきの声が聞こえる。

 

 

 

『これを知る者は国家の上層部のみだ。そして、その情報を差し止めていたのがハンター協会、もっと言えば前会長だ。何故これほどの情報が秘匿されていたか! ハンター協会のみならず、V5もソレを把握していた。にもかかわらず、秘匿されていた決定的な要因……即ちそれは、我々人類が()()()()()()だ! それを解決する為の糸口こそがハンター協会が隠していた【念能力】に他ならないッ!!』

 

 

 

 

 

「「「「…………」」」」

 

 

 ビルの屋上で協会の会見を見守る一同は、真剣な表情で巨大モニターを見つめる。この会見がどのような影響を世界中に与えるかを。そしてそれが何をもたらすかを考えながら。

 

 

「ふむ。なるほど。それが【暗黒大陸】か。面白そうな場所だ。それにしても人間のレアモノとやらは念能力者と呼称するか。そして貴様等一部の人間はそれを秘匿していた、と。相変わらず人間の考えることは理解に苦しむ」

 

 

「なあ、王サマよう。コイツが何を目指しているか分かるか?」

 

 

 

 メルエムのこぼす言葉を聞き、レオリオはメルエムに水を向ける。この蟲の王は価値観は違えど優秀な頭脳の持ち主だ。何かしらのヒントがあるかもしれないと考えて。

 

 

 

「? 貴様は分からんのか? ……いや、むしろ貴様達には分からんか」

 

 

 メルエムの近くでハテナマークを浮かべるレオリオを差し置いて、クラピカは思い出す。元はこの蟲が何だったかを。

 

 

「……なるほど。奴はこの世界の〝王〟を目指しているのか」

 

「ほう、理解できたか。此奴はこの世界の王たらんとしている。少数派である念能力者の集団を押さえて支配した。次はそれを広く公表してこの世界で(しもべ)どもを育成するつもりだろうな。余も同じ立場ならそうする。つまり〝兵隊作り〟だ。これはその布石だろう。ついでに言えば此奴も【暗黒大陸】を目指している。いや、因果が逆だな。【暗黒大陸】に行く為に〝王〟を目指している。その為の手足となる兵隊作りだ。中々基本に忠実ではないか」

 

「……」

 

「は? つまりコイツは全人類を相手に【暗黒大陸】に行かせるつもりって事か!?」

 

 

 レオリオが思わず突っ込むが、メルエムはスルーする。

 

「余からすればこれが正しき生物の姿だ。産まれ、増え、地に満ちる。地に満ちれば新しき地へと進出する。そのためにできることは徹底する。何もおかしな事はあるまい」

 

「…………だが」

 

「こんな回りくどい事をしているのは人間の奇妙な社会性への配慮。此奴は今の所上手いことやっているように見えるぞ? まあ()()()()()()()()()()()

 

「……何がだ?」

 

「最後まで聴こうではないか。余も此奴の話に興味が湧いた。この先何を言うかも大体予想が付いた。答え合わせといこう」

 

 

 それを最後に腕を組みモニターを注視し始めるメルエム。これ以上は話しかけても無視しそうだ。一同も合わせて続きを聴く。その衝撃的な発表を受けて動揺していた記者達も動き出す。

 

 

 

 

 

 

『す、すみません、お話の途中ですが、その…【念能力】とは…?』

 

 記者がたまらずといった風に質問する。

 

『そうだな……ちょっとお前のペットボトル貸せ』

 

 

 そう言って記者から飲み物を受け取り、蓋をあけて手をかざしながらビヨンドが《練》を行う。すると、飲み口から凄まじい勢いで中身が溢れ出した。

 

 

『こ…これは…!? しかし、これだけでは……』

 

『手品、と言いたいんだろ? んじゃ、ほれ』

 

『うわっ! とと…』

 

 

 ペットボトルをひっくり返し、記者に投げつける。

 

 

『調べてみな。ただのペットボトルだぜ。しかもお前が持っていた物だ』

 

『……いや、確かに何も仕掛けは見つかりませんが…』

 

『疑い深い奴だな。まぁいい。じゃあそれ、ちゃんと持っとけよ?』

 

『は? はぁ……』

 

 

 ビヨンドがオーラを伸ばし、オーラでペットボトルを包み込むと、一気にそれを握り潰す。

 

 カショッという音とともにあっけなく潰れて圧縮されるペットボトル。念能力者じゃない者からすれば、ペットボトルがいきなり潰れ、宙に浮いている風景に見えるだろう。ビヨンドは更に他の記者の飲み物も切ったり潰したりして破損させた。

 

 

『ま、これは子供だましだな。だがこの程度は訓練さえすれば()()()()()。この場にいる奴でも誰でもだ。そして【念能力】の可能性は無限だ。極論何でもできる。程度は資質にもよるがな。さて、質問は多々あろうが、後で詳しいことは受け付けるから先に結論から言うぞ? このような力を隠してきたハンター協会はこの世界で特別な地位を築き上げてきた。だから強かった。国際社会においても一定の発言権を得るほどにな……しかし、人間の欲望には限りが無い。もっと強く、もっと欲しい。そして〝外〟には【暗黒大陸】だ。協会は欲しがった。その祝福を独り占めしたかった。そこに決定的な転機が訪れた。【暗黒大陸】からの帰還者が現れたのだ。そして、【暗黒大陸】への切符が一気に現実になった。だからこそ奴は狂った。情報を秘匿し、徹底的に封鎖した。調査中だが、このテロは壮大なマッチポンプだ。厄災によって国際社会が弱ったところで自動的にテロに対応出来た協会は発言力が増す。そして、独占的な【暗黒大陸】への調査ができるというわけだ』

 

 

『あ、あの! 色々と聞きたいことが多すぎるのですが、まずその【暗黒大陸】からの帰還者とは?』

 

 

『そうだな。実はオレも昔【暗黒大陸】に極秘調査で渡航したことがある。結果は散々で辛うじて生きて帰ってきた程度だ。それは()()帰還者とは到底言えん。前会長もそうだ。いわゆる何の成果も得られませんでしたってやつさ。そして現在に渡り【暗黒大陸】の渡航は禁忌となった。その存在も含めてな。前会長が権力を使ってそうした。まぁ、凄まじいリスクに対してリターンが皆無なら国も協会もそうせざるをえん。当時としてはそれが当然の措置だと今なら納得もいく。しかし、それは覆った。昔々の200年以上前に【暗黒大陸】に渡航した奴がいたのだ。当然消息不明で奴の生存は絶望的だと思われていた。しかし、奴は生きて帰ってきた。多くの〝リターン〟を手にしてな。奴こそが〝真の帰還者〟だ』

 

『そ、そんな……!! 誰ですか!? その人物は!』

 

『それが〝重要参考人〟であるカーム=アンダーソンだ』

 

『バカな……そんな荒唐無稽な……』

 

『それがそうでもねェ。現在詳しく調査中だが、2年近く前にヨルビアン大陸上空に未確認飛行物体が現れた記事を覚えているか?』

 

『2年前? あぁ…ありましたね。三文記事のゴシップ扱いでしたけど…』

 

『それは協会がそうなるようにもみ消したからだ。実際それは【暗黒大陸】の帰還者だった。そして協会はその飛行物体を幸運にも帰還者だと特定し、接触した。それが約一年前。そこから帰還者と協会上層による談合が始まったとみている』

 

『はぁ……到底理解しかねる内容ですが…』

 

『だが事実だ』

 

『……それが本当なら世界がひっくり返りますよ』

 

『事実ひっくり返ったじゃねェか。これはそういうことだ。だが、残念なことにそれを前会長が独り占めしようと画策した。この事態はそうして引き起こされたのさ。食い止められたのは奇跡としかいいようがない』

 

『それは……そもそも、どうやって阻止できたのですか?』

 

『それが最初の話に繋がる。我々もご存じの通り【念能力者】だ。さっきも言ったがこのパリストン新会長と我々の連携が本当に上手く重なった。文字通り奇跡的にな。犠牲は多く払ってしまったが、おかげでここに堂々と立っていられる訳だ。今回の英雄は誰かと聞かれれば間違いなくパリストンと答えるだろう』

 

『ははっ! ビヨンドさん、大げさだなぁ』

 

『いやいや、真面目にそうだろ。記者共、お前等が生きてるのもコイツのおかげだからな。ちゃんと記事にしとけよ!』

 

 

 

 

 

 会場内から笑いが漏れ、和やかなムードになる。それを苦虫を噛み潰したような表情で見つめるカーム一行。いや、メルエムだけは愉快そうだ。その後、緩みかけた会見はビヨンドが厳しい表情を見せたことで引き締まる。

 

 

 

 

『だが、油断はならん。厳重に管理していた筈の厄災がこうも簡単に盗み出され、かつそれを一方的に下したと思われるカーム=アンダーソンは最早厄災以上の脅威だと言えよう。超特大のマッチポンプだな。そして恐らく昨日のV5首脳陣の暗殺は奴の仕業だ。確たる証拠はないが、厳重なセキュリティーを突破して首脳陣を暗殺できるなど普通は不可能だからだ。奴の狙いはズバリ、社会の混乱! そしてその混乱に乗じてハンター協会が世界を牛耳る算段だったわけだ。だが、ここにきて奴の思惑は潰えた。こうなった以上、超危険人物として奴の確保が望まれる』

 

『そうですね。ハンター協会としても先ほど彼をA級を飛び越えてS級賞金首として手配しました。一刻も早く彼の確保が望まれます』

 

『そうだ。だが、我々も手をこまねいているだけではない。確実に奴を仕留める為の体制を整えつつある。だから…そうだな』

 

 

 記者に向けた視線を外し、ビヨンドがカメラに正面に睨みを利かす。

 

 

『見ているだろう! カーム=アンダーソン!! 貴様の望みは叶わん。貴様は失意の上で我等からの裁きを受けるのだ! 貴様には何一つ残りはしない! 覆せるのならば覆してみろ。このオレと勝負といこうじゃないか。オレはいつでもいいぜ? 貴様の好きなタイミングでかかって来るがいい! オレからは以上だ』

 

 

 そう言って席から立ち上がり、会見場を後にする。記者達はあまりの急展開に慌てながらもビヨンドを呼び止めるが、一顧だにせずに去っていった。当然、同じ場所にいたパリストンにも質問がいくが、パリストンは質問を受け流しつつ、煙に巻いたような答えを次々と繰り出して記者達を抑えていく。やがて時間となる頃には記者団は完全にパリストンの話術に転がされ、会見は無事に終了した。ビルのモニターがCMに切り替わる。

 

 

 

 

 

 屋上にいたカーム一行は再び沈黙に包まれる。

 皆が考える事は当然、この茶番についてだ。ものの見事に状況は逆転した。全ての罪はネテロ会長(とついでにジン)へ。そして自分はお尋ね者へ。それだけではない。ここに来て、奴等は特大のカードを切ってきた。もう人類は後戻り出来ない。これはそんな爆弾だ。そんな中、クラピカとレオリオが口火を切る。

 

 

 

「……これはメッセージだな。記者会見という体の」

 

「野郎、タブー中のタブーに触れやがって……!」

 

 

 その発言を聞きながら、メルエムが楽しそうに言う。

 

 

「うむ。中々面白い出し物だったぞ。カームよ。貴様は王にはならぬと抜かしていたが、このままでは彼奴がその座に就きそうだな?」

 

 

 若干ニヤケながら告げてくるが、メルエムの中では私よりは奴の方が理解しやすいのかもしれない。

 

 

 

 薄々分かってはいた。

 

 

 

 

 もう私の居場所など、とっくになくなっていた事に。

 

 

 

 

 

 さて……行くも地獄、引くも地獄。無論、人類にとって。しかし行くしかあるまい。賽は振られたのだ。ならば私は少しでもマシな未来を掴み取る。

 奴等は私を滅ぼす気でいるのだろう。出ていけば、ありとあらゆる手段で私を封じに掛かるのが目に見えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──だが、舐めてもらっては困る。

 

 

 

 

 

 私はカーム=アンダーソン。〝救世主〟にして、〝神殺し〟。ありとあらゆる策略や謀略も全て打ち砕こう。私を滅ぼせるなら滅ぼしてみろ。

 私はしぶといぞ。何せ、あの暗黒大陸でも生き延びたのだからな。そんな地獄に人類を行かせてなるものか。そんなふざけた企みは全て破壊してやる。

 

 

 恐らくこれがここでの最後の闘いとなるだろう。

 

 

 〝救世主〟としても。

 

 

 カーム=アンダーソン個人としても。

 

 

 

 だから、なるべく軽い口調で皆に声を掛ける。まるで散歩にでも誘うかの様に。

 

 

 

 

「よし。じゃあ行こうか。全ての決着を付けに」

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