アンブレイカブルハンター   作:エアロダイナミクス

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 書き溜め?何それ美味しいの?前書きとか後書きとか忘れそうなので投稿。
 ここから怒涛のマイケル回。あまりに楽しすぎて、3話も書いてしまった…。しばしお付き合いください。


14、マイケルの決意

 

 

 

 兄さんの行動に疑問を持ったのは、5歳の頃だった。兄さんはいつも眠たそうな、冷めた様な顔をしてる癖に、やたら張り切ってバイトしたり、訓練したり、瞑想したりしてた。正直顔と行動が合ってない人だった。

 だからこそ興味が湧いた。我が家は特殊な家というのは薄々感じてたから、そのせいかなと思っていた。

 しかし、それにしてはちょっとおかしい。あんな訓練、必要かな?間近で見てれば分かる。どう見ても人体の限界以上の事をやってる。

 しかも、時々兄さんから謎の圧力を感じる事がある。

 おかしい。確かめなきゃって思ってた。しかし、いつも適当にあしらわれた。マジックと称して、紙で木片を切ったり、糸を指で伸ばして机に立てたりなどのビックリショーを見せてくれた時もあった。どうやってるのか分からないが、多分トリックとかは無いんだろうなと思った。

 

 6歳になり、兄さんの事も少しずつ分かってきた。その頃からパパの仕事もわかってきた。多分兄さんもそうだったんだろう。僕から見たら、兄さんは何か目的があって鍛えているのだと思った。そして、それは家のためじゃない。その内、家を出て行くんだろう。何となくそれだけは分かった。

 

 ジョセフさんにも昔から良くしてもらっていた。本当にジョセフさんは面倒見のいい人だ。僕みたいなチンチクリンにも平等に接してくれる。

 ただ、兄さんの事になるとちょっと狂信的になるのがタマにキズだ。年上なのに兄さんの事を「アニキ」って言うし。何でって聞いたら、尊敬する人は例え年下だろうがアニキなんだそうな。まぁ分からなくは無いか?ウチの従業員(穏当な表現)同士でも、血縁じゃないのにアニキって言われてる人達居るし(意味深)。

 僕の場合は、血縁だし、尊敬もしてるから「兄貴」って呼ぶ様になった。

 

 

 7歳になり、僕もスクールに入学した。そこで兄さんの話は嫌というほど聞いた。聞けば聞くほど冗談の様なエピソードばっかりだ。周りの人達はファミリーの将来は安泰だと思ってるんだろう。僕から見ても兄さん以上に似合う人は居ないだろう。

 だが、これまでずっと兄さんを見ていたから確信した。

 

 

 

 兄さんは、家を継ぐ気は無い。

 

 

 

 だから僕は決めた。僕が家を継ぐ、と。

 

 

 

 僕には、パパの様な器の大きさはない。兄さん程の強さやカリスマもない。だけど僕はパパの仕事を継ぎたいんだ。その為に、兄さんから強さの秘密を少しでも学ぼう。そう考えて、兄さんの後をしつこく付けていたら、うんざりした兄さんに理由を聞かれたので、チャンスと思って率直に思いを伝えた。

 

 僕が話した後、兄さんはしばらく呆気に取られ、その後何か考える様な表情になった後、僕にこう言った。

 

 

「…お前の言う通り確かににいちゃんは家を継ぐ気はない。でも、別に家族が嫌いってわけじゃないからね。そこは誤解しないでほしい。にいちゃんはどうしてもこの世界を見て回りたいんだ。その為に昔から準備してきた。うちの仕事はこんなやる気の無いやつがやってもダメだと思う。お前には悪いけどね」

 

 

 やっぱりか。答え合わせが出来た。僕はパパもママも、兄さんも大好きだ。だからこそ兄さんには自由に生きて欲しい。だからこそ、家の事は僕が継ぐ。でも僕は、まだまだ力不足だ。ならば、兄さんに鍛えて貰おう。

 

 

 そう思って、気持ちを伝えると、兄さんは条件を3つ提示した。

 

1つ、兄さんの指示は絶対。当然だな。

2つ、秘密を守る事。誰にも教えてはいけない。これも当然。

3つ、この力を人を虐げる事に使わない。当たり前だ。

 

 最後に、僕に覚悟を求めてきたので、僕はすぐに命を懸けた。こんな当たり前の事すら守れないようじゃ、人としてどうかと思う。

 その証に、うちのファミリーで行われる「血の掟」を実行した。本来なら針を使うところだが、無いので指を噛みちぎった。凄く痛かったが我慢した。僕にとっては覚悟を示すためだ。ここで日和る訳にはいかない。

 

 兄さんは驚いた顔をした後、真剣な顔で、同じ様に合わせてくれた。神聖な儀式が終わった後、兄さんはこう言った。

 

 

「これにて血の掟は成された!では、師匠として、まず最初の指示を伝える」

 

 

 兄さんの話し方が変わった。少しは認めてくれたかな?と、どうでもいい事を考えていたら、続けてこう言った。

 

 

「私の事は兄貴ではなく、お兄ちゃんまたは兄ちゃんと呼べ」

 

 

 この人はやっぱりちょっと頭がおかしいと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、しばらくしてジョセフさんに呼び出されて、例の件について聞かれた。凄い剣幕で詰め寄られたが、もう決めた事だ。

 ジョセフさんは頭も切れるし気が利くが、兄さんの事になると盲目になる傾向がある。

 多分兄さんの本心をまだ分かってないんじゃないかな。だから僕から聞いてみた。

 ジョセフさんは怪訝な顔をしていたが、思い当たる節はあった様だ。僕は続けて兄さんの考えを伝えた上で改めて宣言した。納得出来るようにこちらから条件も付けた。兄さんの訓練をやり遂げる事だ。

 内容を知っているジョセフさんは、思い出したのか顔を引き攣らせていた。ジョセフさんも3日でギブアップしてたからなぁ。だからこそ条件になる。

 それが出来るならば認めてやる。と納得してくれた。

 

 

 その夜、パパにもその事を話した。パパは

 

「お前は、それでいいのか?」

 

 と聞いてきたので、僕は力強く頷きながら、

 

「僕は兄さんもこの家族も大好きだ。だからこそ兄さんには夢を追ってほしいし、僕はこの家を守っていきたい。僕はパパみたいになりたい。だから、僕がそうしたいんだ。もちろん今のままじゃダメだから。兄さんに鍛えてもらうよ」

 

 

 しばらくの沈黙ののち、

 

 

「…いいだろう。カームへの義理で言ってるかと思ったが、違うようだ。お前の好きな様にするといい…。ただ、男が言い出した事だ。すぐに諦めたり、投げ出したりする事は許さん。それだけは覚えておけ」

 

 

「ありがとう父さん。僕が言い出した事だから絶対にやり遂げるよ」

 

 

 この時から、パパの呼び方を父さんへと変えた。僕なりのケジメだ。

 

 

 

 

 

 

 いよいよ訓練が始まった。例の不思議な力は『念』と言うらしい。これを習得するために強靭な肉体と精神力が必要との事で、いよいよ訓練に入る事になった。まずは早朝。まだ暗いしどちらかというと夜だ。2人して準備運動をし、家周辺を走る。ルートは事前に聞いたが、10キロらしい。朝のトレーニングにしてはハードだ。さて、気合を入れて頑張ろう。

 

 

 なんてスピードだ。全力疾走でも追いつかない。根性で食らいつく。ダメだ。2キロ地点で力尽きた。まだまだこれからなのに体力の無さが恨めしい。

 でも終わるまでは頑張るんだ。そう決めたんだから。しばらく息を整えて再び走り出す。その内兄さんが後ろから追いついてきた。…もう一周走ったの!?

とにかくまたついていく。同じ様についていく。力尽きる。走り出す。また後ろから追いつかれる。そんな馬鹿な!僕はようやくゴールが見えてきたところなのに…。息絶え絶えでゴールに辿り着く。だがまだ兄さんは走ってる。僕も走り出す………。

 

 

 結局、15キロで動けなくなり、兄さんに回収された。担がれながら「2時間で15キロか…まだまだこれからだな」とか言ってた。そういう兄さんは40キロ走ってケロッとしてた。その距離って昔の兵士が走って伝令した後、死んだ距離だよね…。

 

 バケモノめ。

 

 

 朝食も、まるで食欲が湧かないが無理矢理詰め込む。スクールに登校するが、身体中が辛い。うっかり授業中寝てしまう。これが下校後もあるかと絶望的な気分になるが、自分で決めた事を曲げたくない。兄さんからも1年は様子を見ると言われた。1年は耐えて見せる。

 

 

 スクールから下校したら早速筋トレ。兄さんは舎弟の世話と自分の修行があるため、自主トレを命じられる。1時間走り続けろ?まだ走るのか(絶望)

 

 兄さんが帰宅し、筋トレの時間。ひたすら腕立て、腹筋、背筋、スクワットを庭で並んで行うが、スピードが異常だ。もう100単位に突入した。僕も必死でやるが、頑張っても20が限界だ。兄が横目で見ながら「限界プラス1でやれ。1分休んだら次に行け」とアドバイスしてくる。鬼か。結局1時間エンドレスで続けた。もう筋肉が痙攣して1ミリも動けない。兄さんは笑顔で

 「マイケルは初日だし、やりすぎるのも良くないからここまでにしよう。流して1キロ走ったら終了な」

 と言ってきた。まだ走るのか(泣)だが、泣き言は言えない。ちなみにこの人はこの1時間ずっと筋トレやってて、各500回はやってた。

 バケモノめ。

 

 兄さんはそれから念修行に入る。僕は汗を流したらクタクタになって寝てしまったが、夕食の時間に兄さんに起こされて食事をとる。正直食欲はないが、兄さんは家族の団欒の時間は大切にしたいらしい。その点は僕も同意見だ。

 食後はスクールの課題を片付けて就寝の時間だ。身体はガタガタだ。泥の様に眠る。兄さんはまだ修行してる。やっぱり同じ人間かどうか疑わしい。

 

 

 さて、過酷な訓練も、続けていけば慣れるものである。始めの方は勉強も手につかず、成績も下がり気味になったが、ジョセフさんが、「頭の悪いボスなんて誰もついてかないぞ」と言ってきた。確かにその通りだ。それから僕は勉強にも力を尽くし、成績も保つようになった。あれはジョセフさんなりの激励なんだろう。本当に面倒見のいい人だ。また、人をしっかり見てる。僕もジョセフさんに見限られない様に頑張らなくちゃなぁ。

 

 1年が経った。僕も漸く兄さんの半分ぐらいはメニューをこなせるようになった。ジョセフさんも褒めてくれた。少しは認めてくれたかな。だとしたら嬉しいなぁ。

 兄さんからいよいよ『念』について学ぶ。まずは念の体験だそうだ。では、と前置きした兄さんから凄まじいプレッシャーが放たれた。い、息が出来ない…。直ぐに解除してくれたが、呼吸が荒い。凄まじい力だ。これなら有象無象だと何も出来ずに終わるだろう。

 兄さんは僕に向かって何故この力を欲するか考えるように言った。僕の答えは決まっている。その後その思いを言葉に出すように言われたので、はっきり口にした。「ファミリーを守るため」と。

 兄さん曰く、念とは思いの力でもあるので、この思いを見定め、口に出すことが重要らしい。ちなみに兄さんは「死なないための力を」らしい。昔は病弱でいつも死にかけていた兄さんらしい。確かにある期間から全く病気に罹らなくなってた。これも念か。やっぱり兄さんの言う様に門外不出にした方がいい技術だと、この時改めて思った。悪用されたらとんでもない被害が出るからね。

 




 マイケル君は天然で無茶苦茶やるカーム君に突っ込める貴重な人材。
 マイケル君のツッコミ体質ホント好き。

 しかし、カームさん…?どう考えても7歳児に課す訓練じゃないよね?空気にプロテイン含まれてるとはいえ、やり過ぎだよ…?

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