アンブレイカブルハンター【完結】   作:エアロダイナミクス

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140、意志をもつ病

 

 

 

 

 

 

 

「お、おい。待てよ、明らかに罠くせーだろ! ノコノコと出て行って大丈夫か!?」

 

「……レオリオの言う通りだ。流石に分が悪すぎないか?」

 

「いえ、カームの言う通りね。今しか無いわ」

 

 クラピカ、レオリオから心配の声があがるが、ビスケがそう断言する。

 

「その根拠は?」

 

「シンプルに時間の問題よ。時間を掛ければ掛けるほど不利になる。これは言うまでも無いわね。まだ社会は混乱している。会見を許したのは痛かったわ。でもこれ以上手を拱いていたら全世界が敵に回る。今でさえギリギリの状態だわね。だからこそ、今しか無いの。まだジジイとジンが生きてるならなおさら」

 

 ビスケが冷静に現状を伝えてくる。こういう時には本当に頼りになるな。まさにその通りだ。本当は協会が襲撃される前が一番良かったのだが、こうなった以上贅沢は言えない。

 残るはゾバエ、アイだ。()はどちらか。特性的にアイ…か? いずれにせよ両者共に放置できない。……後処理の事を考えると本気で頭が痛いが、その為にも会長は救わねば。

 

 

「ビスケの言う通りだな。猶予はあまり無い。今なら会長も救える……何故会長を()()()()()()()()()()()分からんが、死んで無いなら希望もあるだろう。すぐに出るためにもこれから打ち合わせを始めよう」

 

 

 

 懸念事項は沢山ある。()()()()()()()()()()()()()()()()。ゴンの行方は、ヒソカの動向は、敵の思惑は。だが、猶予は無い。だから最低限の決め事はしておく。()()()()()にどうするか。あまり考えたくも無いが、絶対に必要な事だ。あらゆる想定を短時間で重ねていく。

 

 

 

 

 ここで終わらせる為に。

 

 

 

 

 ──そんな中、キルアの瞳が暗く、昏く、そして静かに冷たく沈んでいくのを、横にいるカルトだけは気付いていた──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここは会長室。かのハンター達の最高峰、最高権威者の部屋である。その割には質実剛健であり、有り体に言えば質素な造りであるこの部屋の中央には、高価で広めのデスクとそこそこ豪華な椅子が据えられている。

 これまではその椅子にはネテロ会長が座っていた。しかし現在、そこにはネテロを若返らせた様な武将風の衣装を身に纏う男が、さも当然かの如く座っている。

 本来であれば有り得ない事だ。そこには百歩譲ってもパリストンが座るべきである。しかし、そんな理屈を言い出す者はもういない。いなくなってしまった。

 

 

「ボクはその椅子自体にはあまり興味が無いもので」

 

 

 唯一文句を言っても許される人物がこの有り様である。事実、彼らにとってはハンター協会会長の椅子などはそれ程執着するべきものでは無いのだ。その遠大な計画から比べれば。

 では、何故ここに護衛も付けずに踏ん反り返っているのかと言えば、()()()()に他ならない。もう、やる事など何一つ無いのだ。どう足掻こうが100%勝つ。無論、勝ち方にも色々あるが、勝つ事自体は確定している。後は、どれだけ自らの我を通した勝利になるか。200%の勝ちか、150%の勝ちか、はたまた()()()()()1()0()0()%()か。だからこその会見での挑発であり、現在の余裕である。

 

 

「ふふっ。勝負の8割は準備で決まる……その理屈で言えば最低基準は80%では?」

 

「バーカ。前提から間違ってるぜ。これは念戦闘じゃなくて戦略の話だ。従ってこちらの上限は100%じゃねェ。上限が100%しかねェと思い込んでる戦下手のアホ理論はオレには当てはまらねェよ」

 

「いやぁ、歴史上の偉人に聞かせてあげたいですねェ。どんな名将でも敗北は付き物ですよ?」

 

「だが、そいつらは肝心な時には負けねェ。否、負けねェから偉人なのさ。ま、オレはいつでも不敗だがな」

 

「そういう事にしておきましょう……ボクも特等席で見させてもらいますよ。さて、そろそろ釣れますかね?」

 

「あぁ。来たようだぜ? ご丁寧にお仲間も連れてな。奴等の面を拝むのが楽しみだ」

 

「ボクも楽しみですよ……彼らの絶望に歪む顔が、ね」

 

 

 そうして、【暇潰し】の相手は部屋を出て行った。これから彼の仕事が始まるようだ。その姿を見送った男はしかし、椅子から動きもせずに静かに目を閉じる。まるで何かを噛み締めるかの様な表情で。

 

 

 

 それは、一世一代の大勝負に期待しているのか。はたまた彼に僅かに残った感傷か──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、とりあえず初手で会長達を救出する」

 

 

 

 我々は協会ビルの前に立つ。人通りは全く無い。そしてビルも不思議な程に鎮まりかえっている。

 

 

 

「ビル突入か……まるであの時の再現だな」

 

「あぁ、旅団の時か。今度は逆の立場だが」

 

「弱気になったってしゃーないわさ。あらゆる罠を踏み倒す。そしてカームにはそれが出来る。アタシ達はカームが落とされない様に努力する。ただそれだけよ。()()()()()()()()()()()ね」

 

「時間が惜しい。行くぞ」

 

 

 

 ビル内に侵入する。やはり静かだ。まるで誰もいないかのように。いや、()()誰もいない。そして、気付いた。()()()()()()()、と。どうやら簡単にはいかせてくれないらしい。それもそうか。

 そのまま全員で地下へ向かう。スムーズに行くなら都合が良い。

 

 

 やがて、地下への長い階段を下り、()()()()の前まで辿り着いた。

 

「恐ろしい程順調だな。敵は何を狙ってる? 分断させようって感じも無かったしな。明らかにオレ達を捕捉してる筈なんだがな」

 

「間違いなく2人はここに居るんだな? カーム……カーム?」

 

「……あぁ、間違いない、な」

 

「どうした? 歯切れが悪いが」

 

「いや、生きてはいる。だが、少し刺激が強いかもしれん」

 

「おいおい、ビビらせんじゃねーよ! ここまで来たらどっちにしろ行くしかねーだろ」

 

「……そうだな。では入るぞ」

 

 

 

 

 扉を蹴破る。いかに強固な扉であろうとも今の自分には無意味である。扉を開けた先に彼らは居た。

 

 

 

「ジジイ! 助けに来たわ…よ…?」

 

 

 

 ボロボロの格好をしていた。それはまだ分かる。だが、その眼は虚ろで、限界まで見開き、尚且つ何も映していないかのようだ。低い唸り声をあげ、理性を失ったかの様な……極め付けは…ジュルジュルと自らの腕を齧り、出て来る体液を啜っている。最早、これではヒトでは無い。ゾンビか何かだ。《円》を飛ばした時から見えていたが、嫌なものだ。

 

 全員が全員フリーズしていた。だが、いち早く復帰したのはレオリオだった。

 

 

「……ハッ!? お、おい、みんな! ボーっとしてんじゃねェ!! この距離からでも分かる重篤な感染症だ!! これが厄災なら空気感染も有り得るんだぞ!? 低く見積もってもレベル4以上だ! すぐに息を止めてこの場から離れるんだ!!!」

 

 

 

 レオリオが我々を彼らから引き離そうとする。まぁ、間違っていない。普通ならここで二次感染だ。

 

 

 

「ゾバエ、だな」

 

 

「「「「!!?」」」」

 

 

「マ、マジか……こりゃヤベぇぞ! 俺等も感染してしまう!!」

 

「慌てるな。今のところ私が〝聖光気〟で皆を包んでいる。感染はさせない」

 

 

 その言葉で一同はホッとしたようだ。クラピカがおそるおそる聞いてきた。

 

 

「……で、どうなんだ? カーム。これを聞いていいかどうか分からんが…()()()()()?」

 

「ハッキリ言って医者の目から見たら絶望的に見えるぜ……オレの能力じゃ少なくとも無理だ」

 

 

 

 カームは無言のまま患者である2人の側まで寄る。2人はカームから離れようとするが、やがて金色のオーラに触れられてビクッと身体を震わせる。

 

 

 

 しばしの沈黙。

 

 

「……なるほど……なかなかしぶといな…」

 

 

 聖光気で〝奇跡〟を行う。どんな卑劣な罠であろうが全てをひっくり返す事が出来る、反則的な力だ。しかし、実際問題、奇跡の治療がパプよりも難しい。その原因は()()()()()()にあるのだろう。やはりただの感染症では無い。

 やがて、10分程時間を置いて漸く2人の目に光が戻り始める。成功だ。

 

 

「…………うあ。ぐっ……カーム……か」

 

「へっ……思ったより早かったな……」

 

 

 2人が正気に戻る。ただでさえボロボロになっていた上に内臓が徹底的に破壊されていた。そして恐らく未知の感染症。本来ならば助からない所だったが、それこそ奇跡である。

 

 

「ジジイ! ジンも2人揃ってこっ酷くやられたようね。で? 時間が無いから色々と聞かせてほしいんだけど」

 

「「…………」」

 

「おい! なんで無言なんだよ! ゴンは!? 手掛かりは無いのか!?」

 

 

 キルアが切羽詰まった様子で追及している。普段からスカしている彼から比べれば随分と余裕を無くしていて、危うさすら感じる。しかし、2人は躊躇った様に語らない。キルアがジンに掴み掛かり、揺らす。

 

 

「テメェの息子だろ!! 答えろよ!!!」

 

 

 ジンに掴みかかったキルアを引き剥がしながら再度訊ねる。もうキルアも危険な状態だ。早く解決しなければ。

 

「よせ、キルア! ……会長、ジンさん。答えてください。一体何があったのか」

 

 

 

 

「……詰みじゃ」

 

 

 

 

 その弱弱しい発言に全員が絶句する。全く会長()()()()()。操作系で操られているか疑う程に。あまりの覇気のなさのせいでコッソリと若返ったはずなのに、以前より歳をとったかのようにさえ見える。

 それはジンも同じだ。彼は苦々しい表情と雰囲気ではあるが。

 

「……どういう事ですか? 詰みとは?」

 

「……ジジイ、端的すぎるぜ。まぁ、それだけ敵が厄介だったんだよ。マジで今回は厳しかった。なんてったって()()()()()()()()()()んだからな」

 

「……まさか」

 

「そう。最初から話すぜ? このテロの首謀者はそこのジジイの息子であるビヨンドとパリストンだ。奴等は単純に強い。強いが、それだけなら大した事は無い。()()()()。だが奴等、厄災『ゾバエ』の力も完璧に制御してやがった。それがオレ達の誤算だった。そしてオレたち以外は……ほぼ全員死んだ。ここには一部を除いて奴等以外に生きてる者はいない」

 

 

 やはり、な。

 

 

 

「…………それで?」

 

「その厄災、ゾバエだが……オレの予想より遥かに悪質な奴でな。電撃的な奇襲も相まってなす術なくやられた」

 

「ちょっと待てよ! 奴等、この協会内でバイオテロカマしやがったのか!?」

 

()()()()ならばどれだけ良かったか……」

 

 

 ──なるほど。嫌な予感的中、か。あの建物の外の人々が外に出ていなかった理由は……。

 この2人がこうまで意気消沈している所を見れば、こちらの最悪の想定を更に斜め上に行ったらしい。

 しかし、これは参った。どうりで自信満々なわけだ。もし、この想像が当たっているならば、今までとは比にならない、人類史上最大の危機だな……。

 

 

 

 

 

 

「まず初めに言っておく。ゾバエとは……()()()()()()()()()だ」

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