アンブレイカブルハンター【完結】   作:エアロダイナミクス

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142、三賢猿

 

 

 

 

 

 

 全員に〝聖光気〟を付与する。私が集中している間に分断されて人質にされたら目も当てられない。だから少しだけ強めのオーラだ。……これでとりあえずは大丈夫。念のため、全員にマーカーを打ちこんである。何かあったら即座に中断して駆けつけられるように。

 更に、秘蔵のアイテムを全て放出する。少しでも足しになるように。まだ黄金リンゴを食べていない仲間にはリンゴを。会長には若返りの水を。もう秘匿がどうとか気にしなくていいから楽だ。これで少しでも勝率を上げられるならば惜しくはない。

 メルエムは……そうだな。

 

 

「メルエム」

 

「何だ?」

 

「君にはこれを」

 

 

 取り出したるは、暗黒大陸の魔獣(?)の死体。それを何体か。あんまり特殊能力とかは無いけど、やたら強かった奴を適当に見繕う。

 

 

 

「……これは?」

 

「君の食料だ。()()()で私が仕留めた。これから少し時間が掛かるからな。食事ぐらいは用意するさ」

 

「なるほど? ……で、その代わり余は人間を喰うな、と?」

 

 

 

 流石、話が早くて助かる。

 

 

 

「そうだな。私も流石に同族を目の前で喰われるのは勘弁だ。その代わりコイツ等なら問題ない」

 

「ふむ……まぁいいだろう。その辺の下手な奴より美味そうだからな」

 

 

 

 納得してくれて何より。これでメルエムの強化もできるならそれでよし。さて、準備はできた。最低限だが、仕方ない。

 

 

 

 ──始めるか。一世一代の大博打を。

 

 

 豪華なエントランスの中心に陣取り、座禅を組む。まさか自分が人類の命運を握るとは夢にも思わなかったな。しかし、実際にやってみるとプレッシャーが半端ない。救いなのは、異世界で似たような経験がある事だ。その感覚を信じてやるしかない。

 それにしても、原作ではこんなシナリオは無かった筈だ……多分。もう原作など記憶の彼方に微かに残る程度だ。だが、私が読んでない先でこんな理不尽な事があったら、どうあがいても詰むな……いや、それをやってしまうのが大先生だった。しかし、それでも今よりはマシだろう。原作ではキメラアント単体で出現し、ネテロ会長はそこで殉じた。こんな同時多発テロなど起きていなかったからな。

 

 

 だとすれば、やはり私のせいだろう。

 

 

 私が()()()()()()()()()()()、それが何かのトリガーになって大勢の無辜の民が犠牲になった。ヒソカもだ。私が軽はずみにちょっかいを掛けなければ……いや、やめよう。そうだとしても、そうであるならば尚更、私が始末をつけなければならない。

 

 

 精神を研ぎ澄ます。ここから先は前人未到の域。星の意思との綱引きが始まる。後半になるにつれそうなる。だからこそ、()()()()()()を強く持つ。貫き通すのだ。この世界は美しい。滅びてほしくないから

 集中する。地脈……星の一部にアクセスし、人類の所在を明らかにする。先ずは《円》の届く範囲から……そして治療&守護の付与。くっ…負担が、大きいな。コレを何十億か……保ってくれよ、〝聖光気〟!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カームから莫大な量の〝力〟が溢れ出す。そして、それは協会の広いエントランスを埋め尽くさんばかりに広がり、そして各地に散ってゆく。よく見れば、地下にもソレは広がっている。

 その光景は、側から見れば信じられない程の〝力〟の奔流であり、神の創世と言われても納得できるものであった。カームは文字通り、全ての力をもってこのミッションに挑んでいる。周りはただ、静かに見ているしか無かった。

 

 

 

 そんな中、ジンはキルアの側にいた。

 

「……始まったか。正直、半端ねぇな」

 

「…………」

 

「シケた面してんな。ゴンのダチ」

 

「……何?」

 

「いいか。落ち込んでるようだから言うが、よく聞け。ゴンは大丈夫だ」

 

 

 無反応に近い反応をしていたキルアが初めて顔を上げる。

 

 

「……根拠は?」

 

「アイツはちょっとやそっとでくたばる様な奴じゃない。これまでもそうだっただろ?」

 

「でも…ヒソカは……!」

 

「落ち着け。大丈夫だ。アイツはオレの子だからな」

 

 自信満々に言い放つジン。そのあまりの根拠ない言い切りにキルアは呆然とする。そんな中、ジンは畳み掛ける。

 

 

「アイツは()()なんだ。だからオレはアイツに試練を与えた。そんなアイツを信じてやってくれや。話は以上だ。お互い頑張ろうぜ」

 

 

 

 そう言ってジンはキルアの頭をクシャクシャと撫でて他のメンバーの元へと向かう。キルアはまだ呆然としていたが、ジンの離れぎわに何かを言い掛けた。

 だが、それは言葉にならずに彼はそれを飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!! 始まったぜ…! すげぇな…」

 

「これほどの規模になると、もはや人間の枠を超越してるわ。空想上にしか存在しない神…に近いわね。以前カームが言ってたけど、人類の危機になると星が力を貸してくれるらしいわよ」

 

 

 今現在、自分たちにできることは「待ち」だ。いずれ襲いかかってくるだろう敵に、誰も死なないまま迎え撃つ。ただそれだけだ。というか、絶対に()()()()()()()()()()()。それが勝利条件の一つである。カームを絶望に落としてしまえば、勝てるものも勝てなくなる。これはそう言う勝負。

 とはいえ、待つ時間はかなり長い。最低で3日という時間をカームは申告した。これでも全人類に行う事を考えれば破格のスピードだと思う。ともかく、最低でも3日。下手すれば一週間以上という長丁場だ。あまり緊張しすぎることは禁物だ。むしろ適度に身体を休め、敵の襲撃に即座に万全の状態で当たれることが望ましい。その点、ジンはその辺の判断が適確で、最速だ。彼はキルアと二言三言話してリンゴを食べるとすぐに離れた場所で寝転んで寝始めた。ハッキリ言ってやる気あんのかと言いたくなるような態度ではあるが、それが一番正解である。

 あ、クラピカとレオリオが絡みに行った。あんまりな態度に腹を立てたってトコかしら。アイツらもまだまだね。でも、ジンに短い言葉であしらわれて納得したみたい。ジンもそういうとこは流石よね。

 

 

 

 さて、じゃあ私は自分のできるコトしましょうか。

 

 

 

 

「あー。じゃ、私は食糧確保してくるわ。ジン、案内してくれない?」

 

「お、おい。ここから離れたらマズいんじゃねぇか?」

 

「大丈夫よ。奴等は()()()()()()()()()。だからむしろ手を出してくれた方がありがたいぐらいね。それに、実際食料確保は必須よ? カームも持ってなかったから頼まれてたしね。今しか出来ない事ではあるわ」

 

「む…まぁそりゃそうだがよ……」

 

「あのよ? オレは今身体を休めるっつー重要な仕事がだな──」

 

「あら、じゃあ他に誰がいるの?」

 

「ジジイがいるじゃねぇか」

 

 

 そうのたまうジンに、ある方向を指さす。そこにはメルエムと談義を行う元会長(やたら若々しい元ジジイ)の姿があった。哀れ、彼は捕まってしまったようだ。内容は聞こえないが、恐らく人類の在り方についての議論でもしているのだろう。あの元ジジイは無駄に長生きしてるから、その手練手管であの爆弾の相手をして貰った方がいい。それを見てなんとも言えない表情になったジン。ジジイが助けて欲しそうにこちらをチラチラと見てくるが、二人して目をそらす。

 

 

「じゃ、お願いね」

 

「……しゃーねぇ。行くか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 手早く食料備蓄庫に赴き、当座の食料を回収する。メルエムは…まぁとりあえず同じモノを食べて我慢しろと言おう。

 道中では、当然のように何も起きなかった。まぁ、予想していた通りね。さて、そろそろ話しかけてくるかしらね。

 

 

 

 

 

 

「さて、なんか話があったんじゃねぇの?」

 

「よく分かったわね。流石だわさ」

 

「アホか。あんなにあからさまだと気付くわ」

 

「ん~。じゃあ単刀直入に聞くけど。貴方、ゴンはどうするの?」

 

「……聞かれると思ったぜ。じゃあオレもシンプルに答えるか。()()()()()()

 

 

 予想外の答え。流石に怒りが湧いてくる。

 

 

「……あまり巫山戯たこと言ってるとぶん殴るわよ?」

 

「真面目に言ってる。その上での答えだ」

 

「どういうこと?」

 

「いいか? アイツはオレの息子だ。そんでもって、アイツは()()なんだ」

 

「……特別?」

 

「そうだ。アイツは数奇な運命を辿る、そうした星の下に産まれてきた。だからな、ちょっとやそっとじゃ死なねーんだよ。まぁ、オレもそうだが、アイツはよりその傾向が強い」

 

「フリークスの血…って事?」

 

「それプラス、()()()()()()()な。おっと、何かは聞くなよ」

 

「この期に及んでも言えないことかしら? それに、ヒソカはちょっとやそっとじゃないわよ?」

 

()()()()、だ。とある事情で明かせねぇ。特に今はな」

 

「ふ~ん……だからキルアにもあんな中途半端な慰めだったって訳ね。納得はできないけど理解はしたわ」

 

「そーいうこった。てか、聞いてたのか」

 

「そりゃね。今一番危ういのがあの子だからね……。で、もう一つなんだけど」

 

「まだあんのか。そろそろ戻らねェと不審がられるぜ?」

 

「まぁまぁ、あと一つよ。で、()()()()()()()()()?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そろそろ、一階のエントランスに向かおうというその時に、《円》で敵影を察知。う〜ん。雑魚10にリーダー1、か。今来るとは流石に思わなかったわ。大方嫌がらせって所かしらね。後は戦力分析かしら。万が一があっても即座にカームが来る。それを向こうも分かっているはずだからね。多分下でも同じ様に来てるかも。だったらご愁傷様としかいいようがない。アタシでも流石に今のネテロとメルエムは相手にしたくないからね。ヒソカクラスじゃないと無理だわね。じゃ、やるか。

 

 

 

「ちょっと悪いけどアタシ、お花摘みに行ってくるわ。ジン、アタシの分も持って行ってくれる?」

 

「……あのなぁ。ここは流れ的にオレだろ? 大体お前さんが仮になんかあったらその時点で終了だぜ? 分かってんのか?」

 

「あら、気遣ってくれるの。さすがゴンの親ね」

 

「茶化すな。真面目な話だぜ。で、オレも()()()はぶっ飛ばしたい所なんだが?」

 

「悪いけど、アタシもそれなり以上にムカついてるのよ。ま、アンタもそうかもしれないけど、ここはアタシに譲って♡」

 

「……はぁ~。わーったよ。()()はあるから大丈夫だろうが、無茶するんじゃねーぞ?」

 

「悪いわね。恩に着るわ」

 

「ま、借り一つな。オレも我慢してやるからよ、じゃあオレは雑魚のほうな」

 

「ありがと。じゃーね」

 

 

 

 

 そうして、ジンから離れる。そう、こんなチャンスは今しかないのだ。()()()()()できるチャンスは。アタシも何かしら役には立ちたいしね。さて、一人になるのを待ってたみたいね。ホント何しに来たのかしら。

 

 

 

 

「ようやくお出ましね。サルっぽい奴」

 

「おいおい……サルっぽいとはご挨拶だなお嬢さん。オレはサイユウっていう名がある。てか知ってんだろビスケット=クルーガー」

 

「あら、人類の裏切り者に名が必要かしら? おサルさん」

 

「ケッ。ほざけ。俺たちが〝王道〟なんだよ。しかし、仲間と離れるとはアホな奴だな。そんだけ自信があんのか? パリストンの奴、めんどくせー仕事を任せやがって」

 

 

 

 ズズ……

 

 

 

 戦闘態勢に移行するおサルさん。世界最高峰の十二支んの一人だけあって、そのオーラはなかなかのものね。でもそれだと勝てないわよ?

 

 

 

 キィン……

 

 

 

 張り詰めた弦のような音を発しながらオーラを展開する。リンゴ効果も相まって最近益々オーラが増えたわ。さぁ、始めましょうか。カームの集中を妨げさせることは許さない。何より、アタシ達を怒らせた罪は重いわよ。

 

 

「前言撤回。やべー仕事だったわ。ま、オレとタイマンで当たるという自信のほど、見せてもらおうか」

 

 

 冷や汗をかきながら言うサル。これを見ても引かないとはさすがね。こいつのミッションはどうせ探りと攪乱でしょ。敵地のど真ん中でそれをやる度胸は褒めてやるわ。じゃあ始めましょうか。

 

 

 グッと右足に力を入れ、踏み込む。床が砕けるほどの脚力をもって相手に迫る。10メートル以上あった距離があっという間に縮まる。そのまま顔面に向けてパンチを放りこもうとした、その時──

 

 

 視界の端に何かが形成されていて、その物体から顔面にパンチを食らう。

 

 

 

 ブツッ

 

 

 

 

 視界が闇に閉ざされた。続いて右わき腹、腹部に衝撃。耳も聞こえなくなった。でも構わない。このまま振り切る!

 

 

 

 ブオン!  チッ

 

 

 豪快な音を立ててパンチがスカされた。いや、少しかすった。だが、外れたようね……そしてこれが敵の能力! 発動条件は攻撃のヒット…かしらね。正確には《隠》で隠してたみたいだけど、念獣の攻撃、かしら。カウンターで攻撃を受けるとはアタシもまだまだね。今気づいたけど言葉も出ないわ。あらら。そうこうしているうちにオーラに感知アリ。ガード。チッ。見えない聞こえないはかなり厄介ね。瞬間的な対応がまだまだできてない。さすが戦闘担当ね。

 ……大体わかった。オーラからの攻撃を見るに、念獣は三匹! プラスおサルさんは武器持ってるわね。棒……かしら。それがわかりゃ何てことないわね。ただ、こちらから攻勢をかけるのはちょっと難しいかしら? 手当たり次第に行ってみる? ま、ちょっと様子見しましょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クソッ! なんだコイツ! 俺の必殺の【三賢猿(スリーワイズモンキー)】の攻撃を受けたはずなんだが、微塵もオーラが揺らいでねぇ…! さすがはネテロ元会長の元弟子ってところか。いきなりやべぇやつと当たっちまった。だがまぁ、会長とかあの蟲の王とかとやらされるよりはマシか……? チッ。あわよくばと思ったが、殺すなんて無理だな。一番のバケモノが動けねぇからワンチャンかと思ったが、ノーチャンスだわ。しゃーねぇ。バケモノの仲間も人類のトップ層ってコトか。 

 大体初手の攻撃、ありゃなんだ。人外の速度だろ。危うく食らうとこだったぜ。てか、さっき掠った攻撃がヤベェダメージだ。まともに貰えばやられるな……横からの【ミザル】のカウンターもものともしないで振りぬきやがって……。見た目はアレの癖にゴリラだな。強化系と見た。だが、強化系の癖に規格外過ぎる。アレ、普通の人間なら食らって昏倒するか、そうでなくてもパニくる奴だぞ? 

 まぁいい。敵は百戦錬磨。慎重に、丁寧に、フルボッコだ。

 

 

 

「行くぜ?」

 

 

 

 

 三匹を嗾ける。時間差でありとあらゆる部位を攻撃する……有効打もあるが、直前でガードするか躱しやがる……超至近距離で反応してんのか? 恐ろしい練度。超高速の《流》だ。本当に人間か? だが、オレの如意棒がそこに加わるぞ。これならどうだ……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 チッ。面倒ね。それに、棒の威力が思ったより高いわね。なんか伸び縮みしてるらしくて捕まえづらい。攻撃力も高い。ダメージが積み重なっていく。非常に厄介な能力。仕方ないわね。痛くてヤだけどアレ、やるしかないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……この女、恐ろしいほどの戦闘力だ。ふつうは何もできずにボコボコな筈だが、しっかり対処してやがる。慣れてきたのかカウンターまで狙ってきやがる。だが、細々としたダメージは積み重なってるぜ。まだまだオレのギアは上がる。何もできずにそのままサンドバックになってくれや。

 

 

 

 ほら、行け、キカザル、イワザルのダブル攻撃からのミザルとオレの時間差だ。このままなぶり殺しだ!

 

 

 ──な! 防御を解いた!! 何故!? 不味い、攻撃を中止し──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 攻撃を敢えて防御せずに受ける。当然ダメージは甚大だ。だが、それでもこの結果なら価値がある。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それができたからだ。ラッキーなことに2方向から来てくれたから2匹仕留められた。そのまま刃を振りぬくと、耳が聞こえるようになる。目がまだ見えないということは、言葉も喋れるということ。残念ながら本体ではなかったけど、本体なら躱しかねないから結果オーライ。これは以前、カームと会長の模擬戦で見せてもらったやつね。アタシは変化形だからマネしやすかったわ。

 

 

 

「あーあー。うん。言葉も出るわね。さて、よくも好き勝手やってくれたわね。覚悟はいいかしら?」

 

「チッ……バケモンめ」

 

「アンタ、アタシはまだ普通なほうだわよ? さぁ、借りを返すとするわね」

 

「……まだ目が見えてねーだろ。粋がんじゃねーよ」

 

「あら、まだ分かってないのかしら。耳が聞こえるだけで十分なのよ」

 

 

 

 キッ

 

 

 

 

「そこっ」

 

 

 

 

 ドンッ!

 

 

 

 

 圧倒的加速でミザルに迫り、拳で粉砕する。音は重要な情報だ。空気の流れ、息遣い、足音、すべてを伝えてくれる。そこにオーラが加われば見えてるのとあんまり変わらないわ。一気に視界が晴れる。さて、ここから楽しいフルボッコタイムね

 

 

「…………」

 

「念獣が砕け散ったわね。これは楽しみだわ。さぁ、覚悟しなさい」

 

「……クソが…! しゃあねぇ、ここまでだな」

 

「逃げる気? アタシが逃がすとでも? てか逃げるなら何しに来たのよ」

 

「ほざいてろ。お前らはどうせ終わりだ。精々あがいてみな」

 

 

 

 そう言うと、サイユウは後方の窓から瞬時に飛び下りて姿を消す。奴が飛び降りる瞬間を狙って拳を振り抜いたが、一歩届かなかった。チッ。腐っても最高峰ってことね。深追いはできないから仕方ない。

 まぁ、八つ当たりは気が済んだわ。ぶっ殺せなかったのはちょっと残念だけど、ジジイにはあんまり相手させたくないしね。とりあえず大人しく戻りましょうか。ジンも雑魚散らしは終わったらしいからね。そっちの方が良かったかしら。

 

 

 

 

 

 

 ──尚、この後、取り逃がしたことでジンに相当煽られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 帰ってみれば、そこかしこに戦闘の跡があった。やはり襲撃はあったか。重火器持ってきたみたいだけど、一般人に近い奴等をいくら送ろうが無駄ね。ネテロ(ジジイ)は憮然として座ってる。メルエムは……うん。()()()ね。人間じゃなくてあの謎魔獣喰ってるわ。意外と律儀よね、彼。

 弟子達もそこそこ活躍したみたい。聞いてみれば、襲ってきたのはどこぞの部隊とか。ここに入れるのは非感染者のみ。襲撃者は非感染者と言うことになる。

 ……まぁ、相手はいつでも感染者を増やせる奴等だから自由自在なんでしょうね。正しく捨て駒。哀れね。後で埋葬ぐらいはしてあげるわ。

 

 

 で、キルア。返り血でビショビショ。相当やらかしたみたい。暴走に近いんじゃないかしら。こりゃ調整が必要、と……しゃーない。アタシがやるか。

 

 

 

「全く……アンタはホントに振り切れる奴ね」

 

「…………」

 

「確かに戦闘力は上がってる。臆しもしない。だけど、危うい。それは自分でも分かっているわね?」

 

「……あぁ」

 

「ここからは最悪の展開すら容易にあり得る修羅場。もし()()なった場合、アンタは耐えられるの?」

 

「…………」

 

「我々の至上命題はカームを守りきり、人類を救う事。土壇場で使い物にならないどころか、敵に取り込まれる恐れがある奴を仲間に入れる事は出来ない」

 

 

 キルアの表情が変わる。ビスケの言葉に驚き……怒りを感じさせるものに。ビスケはそれを見て、心の中で溜め息をつく。

 

「何て顔してんのよ。アタシの言葉にそんな反応してる時点で語るに落ちてるわ。アタシは本当に今のアンタじゃやりかねないと思ってるからね」

 

「…ッ! オレは! 絶対にそんな事はしないッ!!」

 

 

 その言葉に、ビスケは表情を落とす。

 

「……ゴンが、()()()()()()()()()()()?」

 

「!!?」

 

 

 囁くようなその声は、確かにキルアの耳に届く。

 

 

 

「そんな事は…! そんな事があるもんか!! ゴンは必ず生きている!!!」

 

「今言ったのは可能性の話。必ずしもそうとは限らない。実際ジジイとジンは生きてたしね。でも──ないわけでもない。その時、貴方は戦えるの?」

 

「…………ッ」

 

 

 キルアの顔が苦痛に歪む。薄々は考えていた事だ。むしろ、そんな予想ばかりが頭をよぎってしまう。本当にそうなってしまったら、自分はどうしたらいいのか。

 

 

「アンタの気持ちもわからないではない。でも、予断は許されない。ありとあらゆる残酷な想定をしておきなさい。恐ろしい選択を迫られるかもしれない。アタシはアンタがどんな選択をするか分からないし、答えはきっと一つじゃない。でも、目的だけは絶対にブレちゃいけない。さぁ、答えて。アンタはこの戦い、何を目的とするの?」

 

 

 それはキルアにとっては厳しい問い掛け。何を目的とするかは当然ゴンの救出だ。だが、ゴンを攫ったヒソカの実力は隔絶していた。出来ればもう二度と会いたくないし…そんな事を考える自分を責めた。そして…ゴンが既に死んでしまっているとしたら……。

 

 

「オレ……は、ゴンを救う。必ず救う」

 

「……あまり言いたくないけどまた聞くわね。ゴンを……助けられなかったらどうする?」

 

 

 暫くキルアは顔を伏せ、沈黙した。見なくても分かる。苦悶に満ちた顔をしているのだろう。カルトはハラハラしながら事の推移を見守る。だが、ある瞬間をもってオーラが静まる。それは深海の様な暗いが、深いオーラ。

 

 

 

(……覚悟は定まったか)

 

 

 

 ビスケはほんの少しだけ安堵する。内容はともかく、安定はした。それは方向性としては好ましくはない。ないが、贅沢も言えない。キルアが顔を上げる。その表情は、感情を一切排除したかの様な。あまりにも人間的ではない、機械の様な顔。近くで見ていたカルトがそれを見て、暗殺者の顔であると断定した程に。

 

 

 

 

「その時は……それをした奴を必ず殺す。どんな手を使ってでも、必ず」

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