「ぐうっ……この!」
凄まじい威力の蹴りを当てられ、血反吐をまき散らしながら斜め上空に吹っ飛ぶ。しかし、イルミもただではやられない。空中で姿勢を戻し、自らの針を飛ばす。
「最、初は、グー」
飛んでくる針の雨。それら一つ一つに凝縮された念が込められている。しかし、それを平然と
「ジャン」
「ケン」
一歩一歩歩く毎に、その拳に暴虐的なまでのオーラが濃縮してゆく。不協和音を奏でるソレはどれほどの破壊を秘めているのか想像も付かない程に。
イルミはここに来て自分の失敗を悟る。そして分かってしまった。それが自分の〝死〟である事を。ならば。今、この状況で出来る事は──
ドゴォン!!!
凡そ人体が発していい音ではない。着弾に備えてガードしたが、それで防げる威力でもない。超強化された筈のイルミの肉体は、着弾点から四散する。
「wjfhzkwbxjwkqh@6tdsj……」
「……あい」
忽然と消えるイルミ。イルミだけではない。キルアも、カルトも消えていた。彼に付き従ったアイ達さえも。
しかし、ゴンは焦っていなかった。何故なら
──クラピカが、マズい。
どちらを選ぶべきか。彼の脳裏によぎるハンター試験の最初の試練。2択の問題。
だが、今は
◇
「──オレ達から逃げられると、本気で思っていたのか?」
クラピカは、必死で逃走を選択した。必ず死なない為に。しかし、ここは蜘蛛のホームグラウンド。いつまでも逃げられはしない。そしてここは異空間だ。いくらクラピカが最上の実力者であれど、それに匹敵する力の者が複数人。勝てるはずもなく、逃げる事すら不可能だ。
そして今。彼は電柱に念入りに括り付けられ、旅団に囲まれていた。能力も発動しないように両手首から先が斬り落とされている。
「手間かけやがったなぁ。こっからはフェイの出番だぜ。
そんな、絶望的な状況で
クラピカは笑っていた。
「──何がおかしい」
「いや。お前達も哀れだと思ってな。所詮は使い走り。カッコよく理由をつけてるが、結局はこうして小悪党の様なマネしかできない」
クラピカは笑う。それは旅団員の怒りを逆撫でする。今すぐに首を落とそうと構えるノブナガを転移させ、団長が答える。
「ふ…お前の言う通りだ。だが、オレ達は奴等とは
そこで言葉を切る。他の団員がその続きを引き継ぐ。
「「「「盗賊だ」」」」
「……なるほどな。では、お前達は今何を盗んでいる? 早速その高尚な理念から離れてるぞ」
「離れてはいないさ。フランクリン」
「あいよ」
フランクリンが抱えて持ってきたのは、クラピカと同様に柱に括り付けられたジョン=アンダーソンであった。
「!! ジョン!!」
「ついでにこれだ」
トサッ
それは、
「……き、貴様ら……!!」
「オレ達が盗むのは…お前達の〝希望〟」
「きちんと盗んでんだろ? これも盗賊の仕事だぜ?」
「絶望しやがったか!? 生きてるって思ってたか!? ハハハハハ!! きっちり殺してやったぜ!!! 全員で念入りにな! ガキの方もジジイの方も中々楽しめたぜ!!! どっちも最後まで弱音吐かなかったからよ!」
「…………」
うなだれるクラピカ。その表情は蜘蛛には見えない。
「お、遂に心折れたかな? 良い感じだね。このままキミも殺して〝救世主〟への復讐は完成っと」
「…………くくっ。あははははは!」
突如笑い出すクラピカ。その様子にさすがの蜘蛛も眉をひそめる。
「…ん~? ちょっと効き過ぎた?」
「おいおい…そんな軟弱じゃつまんねェだろ」
「はははは!! ……あ~可笑しい。お前等は、私達から〝希望〟を盗むんだろう? 早くやったらどうだ?」
「あ”?」
「少なくとも私は一ミリたりとも〝希望〟を失っていない。カームは勝つ。お前等は負ける。ただそれだけの話だ。どこに希望を失う理由がある? 例え私が死んでも、それは希望を失うことにはならん」
「テメェ…今の状況分かってんのか?」
「分かってるさ。この上なく。それでも言ってるんだ。お前等に待つのは、ただひたすら破滅のみ。カームは今じゃ
「もういいね。殺すよ」
「まて、フェイタン。コイツはできるだけ無惨に。〝救世主〟が絶望を覚えるようにな」
「了解」
今だに笑いやまないクラピカを黙らせるために、拷問役のフェイタンが迫る。最後の一撃は団長が行う予定だ。それまでの
「さ、覚悟し」
フェイタンの動きと台詞がそこで止まる。違和感を覚えた団員が声を掛ける。
「おい。フェイ、どうした?」
ドサッ。
フェイタンの身体は人形の糸が切れたように地面へと倒れる。よく見ればその首には赤い線が入ってた。その線は倒れて数秒後に首回りを一周すると、ゴロリと胴体から離れる。
「「「「!!!?」」」」
瞬間、散開する旅団員。直後、縛り付けていたマチの糸が切断され、ジョンとクラピカは地面に向かう。その2人を同時に抱きとめた人物がいた。
その人物は、旅団員が念入りに殺したはずの人物だった。
「ゴン…生きていたか」
「馬鹿な!! テメェは死んでただろ!?」
ウヴォーギンがビッグバンインパクトを、ノブナガが流星を、それぞれ彼に繰り出す。しかし、その2人の攻撃はあまりにもあっけなく
「ぐ、ぐぎぎぎ…は、離しやがれ!」
ウヴォーギンは拳を、ノブナガは刀をそれぞれ掴まれ、それが
「……」
ギリギリギリ
その凄まじい握力を更に込めたため、直接握られているウヴォーギンから苦悶の声が上がる。それに構わず、ゴンはそのまま腕を振りかぶって2人を投げ飛ばした。
そして、ゴンは彼らに告げる。
「幻影旅団。お前達も、許されない。お前達はオレが倒す……と言いたいところだけど」
「……だけど何だ? やっぱり敵いませんってか?」
「
「は? ソイツはオレ達から逃げ回ってボコられたんだぜ? 何ができるってんだ?」
ゴンは無視してクラピカに向き直り、囁く。
「クラピカ。今なら分かる。キミは
そう言うと、ゴンはクラピカの額と胸を軽く小突く。その指からゴンのオーラが浸透し、クラピカの脳に広がって、脳や身体の
「……これでもう大丈夫。クラピカ。オレはまだまだやらなくちゃいけない事がある。だから、できるね?」
一体何をされたのか。自らの身体全体が熱く、それでいて軽く、より強く変化していく感覚に驚きながらも、クラピカは答える。
「あぁ……ありがとう、ゴン。後は自分でやるよ」
「ん。じゃあ後で迎えに来るよ。待っててね」
そう言い残し、彼は薄くなり、そして完全に消えた。
「な、何なんだ…今のは……!」
「…! 嫌な予感がする!! アイツを早く殺さなきゃ!!!」
その掛け声に応じて、旅団員は高速でクラピカに接近した。しかし、その直前にどこからともなく現れた鎖が無数に現れて、彼を包み込む。途切れること無く現れる鎖は、彼を覆い尽くし、やがて球体へと変化した。
クロロは無言で【
「バカな…全て鎖だというのか?」
他のメンバーが直接攻撃したり、シズクの掃除機で吸ったりするも、何一つ通用しない。ただジャラジャラという鎖の音がするのみであった。
しばらくすると、鎖は地面から浮き始めた。同時に巻きついている鎖がそれぞれ複雑に回転を始め、やがて解け始める。
それが完全に解けた時、中から現れたのは──
先程までの姿とそこまで変わりはしない。しかし、決定的に異なっている。真紅よりも深い緋色の眼。アルビノの様に白い肌。そして、明らかに
「……お前は、女性だったのか?」
「私は
その声は先程と変わらず、中性的で、しかし蠱惑的だ。そして、会話中に徐々に溢れ出るオーラは、先程とは次元が異なる。静かで、深く、昏いオーラ。まるで深海の様な重みを持つソレは、明らかに人間という枠を超えていた。
「お前は…何者だ?」
「お前達に言う義理は無いな。──これから死にゆく者達よ」
彼がそれを言うや否や、旅団の周囲から鎖が大量に飛び出して団員を縛り付ける。彼らは逃げる隙も、暇も無かった。その鎖は増殖し、やがては幻影旅団をまとめて包み込む。
そして、それは、徐々に範囲を狭めてゆく。
中から何か聞こえる。だが、今のクラピカには聞く余地は無い。
「さらばだ。高尚な理念とやらに殉じるがいい」
【
グシャッ
…………
中にあったオーラの反応が全て、消えた。
「これで、私も思い残す事は何もない。だからカーム……勝ってくれ」
クルタ族
・緋の眼を持つクルタ族だが、彼らは実は古代人類によるデザインヒューマンである。大昔の暗黒大陸で、厄災にゴミの様にやられまくる人間を守る為に、当時の科学技術の粋を結集して作成された。コンセプトは、超越種と人間の混合。ある時、人間の勇者が冥界に降り、しかしそこから冥王を騙して生還した。その際、彼は冥王の体の一部を持ち帰ってきた。超越種の一部を得た人類は、その冥王の体の一部を用いて、様々な人体実験を行った。それはひとえに種の生存の為であったが、目的と手段が入れ替わる事などよくある事である。そして、幾万の失敗と多大なる犠牲を払いながら、人類は奇跡的に完全なる成功を成し遂げた。
彼らはその素体元の性質を引き継ぎ、美しい緋色の瞳を持つ。そして、その力は超越種ほどではないが、厄災を撃退出来る程にはあった。その為、人類に管理されながら正式に古代人類の守護者として活躍を始めた。彼らは増えやすい様にと半陰陽として設計され、計画的にその数を増やしていった。
彼らは古代では、ロットナンバーで呼ばれていたが、俗称として、冥王の名をもじってクルート族と呼ばれるようになり、それが定着する事となった。そして、新天地カナンへの脱出作戦の際に、重要な役割を果たしており、〝救世主〟の手助けをする事で数多の人類を脱出させることに成功した。
しかし、それ程人類に貢献したにも関わらず、メビウス湖内では、その強烈な力によって台頭される事を恐れた人類が、彼らに封印を施した。そして、一部の地域で定住するようにと命令した。人類に牙を向かない様に、と。強すぎる力は、平和なこの地では争いの元にしかならない。彼らもそこは分かっており、抵抗する事なく人類に従った。その代わり、過度な干渉はお互いに控える様に条約を交わした。時代が降り、種族の名すらも元の冥王の名の原型を留めぬほどになるまで、彼らは平穏に、ひっそりと暮らしていた──それが、クルタ族の始まりである。
元来彼らは枷がない状態では緋色の眼こそが当たり前であり、力の源であったが、それを封印の枷により無理矢理抑え込み、肉体も人間並に封じられた。それ故に、彼らが激情に駆られて緋の眼に変わると、肉体の方がその力に耐えきれず、結果寿命を縮めてしまうのだ。
クラピカは、そのクルタ族の中でも先祖返りに近く、中性的な見た目をしている。人間として極限まで鍛えた彼の肉体は、封印によりそれ以上には成長できなかった。しかし、それを発見した