アンブレイカブルハンター【完結】   作:エアロダイナミクス

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 最終決戦。ここまで長い長い道のりでした…。しかし、現代編に入ってから一番やりたかった箇所です。ぜひ、お楽しみください。


153、真夜中のサーカス

 

 

 

 

 

 

 

 

 満天の星空に眩く煌めく光。それはまるで恒星のごとく──

 

 

 

 それは、カームが自分の限界以上に星の力を借りた姿。白く煌めく気鋼闘衣は凄まじいまでの熱量を放ち、スーツに張り付いていただけの姿の上から更に羽衣のように彼を包む。その背中には、6対の翼を模した羽衣が流れる。それは、人間世界では正しく天使として描かれた姿であり、巨悪を必ず滅ぼすという決意を秘めた〝救世主〟の最終形態である。

 

 

 

「──美しい……♥」

 

 

 

 ヒソカは、彼のその覚悟をこそ愛した。もう戻って来られなくてもいい。そういう彼の決意が秘められたその姿は、自分を必ず滅ぼすという意志の表れ。つまり、今だけは、彼は自分だけを見ている。この世の全てを放りだして自分だけを。それが、ヒソカにとっては望外の喜びであった。

 

 

 ただ──唯一残念なのは、こうなってしまったら彼はもう()()()()()()()()()()()()()

 

 

 星の意志が彼を支配し、彼はただの神罰執行者と成り果てる。その存在を、魂を消費しながら。彼と最後まで闘いたかった。しかしそれは叶わぬ願い。でも、それこそがヒソカの罰なのだろう。人類の究極の裏切り者。その末路は悲劇でしか無い。でもそれでもいい。そうだからこそ、愉しいのだ。消化試合にするつもりは無い。次の相手は〝この星〟だ。これまで狩ってきた中でも最大最強。文句なしのビッグネーム。そんな相手をすらも蹂躙し、喰らう。最高だ。

 

 

 始めよう。〝救世主〟殺しを──

 

 

 

 

 

「私…ガ、キミを…失望させテしまう、と以前いっタな」

 

「!! カーム!!! キミ…まさか意識があるのかい!?」

 

 

「あタりまえダ…私を誰だと思っテいる? 私はカーム=アンダーソン…【壊れない男(アンブレイカブル)】…ダぞ?」

 

「あぁ…あぁ……キミはなんて素敵なんだ…♥ やっぱりキミがいい。キミしかいない♥」

 

「そうダろう…なにせ、私ハ()()()()からナ」

 

「そうだね……知ってた…よかったよ♣ キミがいてくれてボクは本当に幸せだった…♠ お礼にこれからボクの()()()()()を見せてあげるよ♥ ……受け止めてくれるかい?」

 

「勿、論サ…さぁ、見せてクレ…キミの全てヲ」

 

 

 

 

 ヒソカの身体が膨れあがり、ヒソカから禍々しい気配が産まれる。それも大量に。それは人の怨念、魂、死者の念。それらが混ざり合ったモノ。それぞれが楽器を用意し、気が狂いそうになるフルートの音色や奇妙な形の弦楽器をかき鳴らす。楽器を持たぬ異形は様々に形を変化させながら奇妙な踊りを踊る。それはまるで祭りの風景。いや、サーカスの前奏曲(プレリュード)。満天の星空の中、ヒソカを中心に異形の者達が奏でる歌と踊り。それは無限にも等しいほど広がり、周りを埋め尽くしてゆく。

 

 

「これが、キミに捧げる真夜中のサーカス(シルク・ド・ミニュイ)。一つ一つに素敵な想いが込められている♠ 是非楽しんでいって欲しい♥ これが、ボクの最後の演目だから♦」

 

 

 周りの異形はヒソカに変化し、カームに襲いかかる。全てが先ほどのヒソカと同等。しかし、カームも先ほどと同じでは無い。襲い来るヒソカを次々と消滅させてゆく。

 しかし、途切れることは無い。それ程の大量のヒソカが次々と産み出されてゆくのだから。そして、先ほどと同じように、倒せば倒すほど一人一人が強くなってゆく。そして、彼は〝力〟を使えば使うほど、その存在が希薄になってゆく。

 

 

 ──3割炎で消し飛ばした。あっけなく。

 

 ──5割雷で消滅させる。苦戦しながら。

 

 ──7割拳で打ち砕く。時間を掛けながら。

 

 ──9割。浸透勁で辛うじて潰してゆく。

 

 

 ──残り、2人。

 

 

 

 

 2人のうちの1人の口の中に手を突っ込み、そのまま振り回してもう1人を吹き飛ばす。同時に〝聖光気〟の〝外浸透勁〟を注ぎ込む。

 

 

 

 残った最後の1人。これが正真正銘、最後のヒソカ。カームの〝聖光気〟はその光をほぼ失い、それでも燦然と煌めく。まるで彼の魂の最後の光のように。

 

 

 

 

「さぁ、終幕(フィナーレ)だ♦ 最高のショーにしよう♥」

 

 

 

 

 

 激しい打撃音、絡み合う光と闇。その激突は大気を揺らし、空間に罅を入れ、大地を粉砕する。あまりにも激しいその戦闘は、最早神域の闘い。刹那の攻防を時間の概念を超えた速度で行う。それは物理法則をも超越し、時空を歪める。周囲の空間から虫や鳥、そして人間のようなモノが()()()、そして消えてゆく。2人のエネルギーの性質が混ざり合い、そのような現象が起こっていた。

 

 2人は、これまでの全てをぶつけ合う。訓練してきた技、たゆまぬ努力の結晶、膨大な戦闘経験から産み出される最適解。それはお互いのこれまでの道筋すらも明らかにしてゆく。そして、より相手を理解する。相手が抱いていた感情。愛情、恋慕、嫉妬、憎悪、欲望、恐怖、勇気、感謝、嫌悪、満足、不安、殺意、期待、それら以外の様々な浮かび上がる感情が、全て手に取るように理解できる。それは、これまで闘い抜いてきた2人にとっても初めての事だった。これほど相手の事を考え、これほど理解に努めたのは初めての事だ。2人は闘いを通してお互いを想い、理解する(分かり合う)。それは、他の何事にも変えられぬ。極上の体験。

 これまでの全ての修練や苦行はまさにこの時の為にあった。これまで生きてきた意味はここにあったとお互いが闘いを通して主張する。相手を倒すために、相手を理解する。それは矛盾しているようで、矛盾しない。それはある意味性交よりも濃厚で、強烈な接触。

 

 

「あぁ……あぁ…ボクは…キミに会えてよかった……♥」

 

「……私も…君の気持チが…少しだけ、分かっタよ」

 

 

 そして、2人の動きが次第に遅くなっていく。目に映らぬ程の、時間を置き去りにした速さから、雷速、音速、そして、人間の速度へ。最後は、流々舞へ。いつまでも続けたい。永遠に続けたいと思っても、何事にも終わりが来る。

 

 

 そして──

 

 

「ヒソカ……お前は、凄イ奴だ。すコシだけ、君が好キニなれソウだよ」

 

 

 カームが最後の力を振り絞り、ヒソカの()に潜り込む。

 

 

 

 〝浸透勁〟

 

 

 

 ヒソカから光が溢れ、ヒソカの身体が崩れ始める。ヒソカは不思議と満足していた。彼がそのような感情を抱くことなど初めてだ。それは、カームとの闘いによってもたらされた〝奇跡〟。技を、力を、全ての思いをぶつけ合い、わかり合えた(愛し合えた)。それこそが、ヒソカが()()()()()()()()()()だったから。ヒソカはこの結末に納得した。充分だと、そう思えた。それは、相手も同じだろうと言うことも彼は知っていたから。

 

 

 

 だから──

 

 

 

 

 

 

 もう──

 

 

 

 

 

 

 満足したよ──ありがとう♥

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 幕が、閉じる。それは、私という名の物語の幕。私は、この世界で確かに生きた。そして──閉じる。

 

 

 

 限界以上に借りた星の力は、私の魂を削りながら正しく行使された。私の最後を飾る敵は、それは強大だった。人間として、最強で最高の敵。

 彼は私以上に魂を削り、私に挑んだ。それが自身の破滅と知りながら。そして彼は、最後まで自分を失わなかった。

 人間の可能性。人間の証明。彼は私に教えてくれたのだ。どんなに苦しかろうと、必ずやり遂げるという意志こそが人間を人間たらしめるのだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──だからこそ、()()()()()()

 

 

 こんな、消滅寸前で、この世から消え去る半歩手前であっても、必ずや、仲間達の元へ。

 

 今の私には手段が無い。手段も、方法も、ここから逆転の手を放つ秘策も…何も無い。だけど、見苦しく抵抗する。あの時の様な絶望などもうしない。

 意識が薄れてゆく。私の存在が拡散してゆく。だから、私は願う。まだ終わらせない、と。

 

 

 グランドフィナーレは飾った。幕は閉じる。でもまだカーテンコールがある。

 

 

 例え、私の身と魂が殆ど『星の意志』になったとしても、必ず私は帰ってみせる。

 それが、〝彼ら〟と交わした約束なのだから。

 

 

 

 私は、ボロボロになった次元収納から、「()()()」を取り出す。これが、最後の希望。

 

 

 

 

 私が、この世で一番信頼する人物が託した、私の〝希望〟なのだから──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「兄さん、起きてよ」

 

 

 ──ハッ! な、何だ! 誰だ! ここは……

 

 

「珍しいね。寝過ごすなんて。朝のランニングサボるのなんて初めてじゃない?」

 

 

 なんだ、マイケル…か。私を起こしに来たか。来年ジュニアハイになるからか、ここ最近特にしっかりしてきたな。……だけど、何だろう。この胸から溢れる思いは。

 

 

「わぷっ! ど、どうしたのさ、兄さん!? な、何、泣いてる?」

 

 

 マイケルが困惑している。そりゃそうだ。私にだって分からない。でも、何故かこうしたかったんだ。()()()

 

 

「……なんか怖い夢でも見たのかな? 僕は見なかった事にするから、早めに降りて来てね。もう、朝食の時間だよ」

 

 

 そう言って私を優しく振り解き、マイケルは階下に降りた。下では、父さんも母さんもいるのだろう。待たせちゃ悪いな。行くか。でも…さっきの気持ちは、一体何だったんだろう?

 

 

 

 

「おはよう、カーム。ホラ、早く席に着きなさい」

 

「……珍しいな。お前が寝坊するとは」

 

 

 母さんが朝食を配膳しながら私に言う。シーザーサラダとベーコンエッグにたっぷりバターパン、コーンポタージュにミルクだ。今日は中々豪華だな。それに私の好物ばかりだ。よく分かってるな。いや、私の為だけじゃなくて全員の好みが一致してるからだが。流石母さん。

 私の父さんが新聞を読みながら私の事を確認している。父さんはいつもそうだ。家庭に関心が無いように見えて、実は誰よりも家族を見てる。ヴィトー=アンダーソン。ヨークシンマフィアのドン。

 

 

「あぁ。なんか変な夢見ちゃってね。すっかり寝過ごしたよ。ごめん」

 

 

 そう言って席に着く。マイケルがこちらを見てるが、気にしない。食前の祈りを全員で済ませ、朝食にありつく。やはり、家庭の味は最高だ。私はこの家がなんだかんだで一番落ち着く。モリモリと食べ、ハイスクールに出かける準備をする。

 そろそろ私も卒業、か。まぁ、来年はとりあえず父の()()に入って経営の勉強だな。しかしまぁ、あの病弱だった私がよくここまで来たもんだ。それだけでも奇跡だな。毎日のランニングが功を奏したか。今日はサボったけど。

 

 

 朝食を終え、私はハイスクールへと向かう。スクールには舎弟達が校門で待ち受ける。あのさぁ…毎回毎回ムサいのよ。男子校なのに群がらないでほしい。ちょっと前まではジョセフがカバン持ちするって待ち構えてたからな。アレよりはマシか。アイツ、マジで舎弟の妹のリンダちゃんと1人だけしれっと付き合いやがって。絶許。

 おっと、思考がそれた。とりあえず、舎弟達を引き連れて教室へ。コイツらの面倒を見るのも私の務め。そこに手を抜くつもりはない。無論、勉強もだが。

 

 放課後、私は舎弟とダベリながらトラブルがないか確認する。よし。今日は問題無しだな。帰ろ。

 

 

「兄さん、ちょっと教えてほしいんだけど」

 

 

 帰るや否や、マイケルに捕まる。お手伝いのマーサさんにコートを預けながら、早速マイケルの勉強に付き添う。マイケルは聡明だ。私なんかよりもマフィアの後継者が合ってると思うんだよなぁ。ストイックだし。私? 私はどっちかというとテキトーなんだよね。だから合わない気がするんだけど。ジョセフにそれ言ったらめっちゃ怒られたから渋々だけど目指す事にした。でも、奴が言うようなカリスマなんて私には無いから。元病弱ヒョロヒョロ君だよ? そんな事より、早く私に彼女的な人紹介して欲しい。アイツ、今度今度で中々紹介してくれないからな。いい加減にしないと私も熟女とかロリに走るぞ。いいのか?

 

 ──うん?

 

 なんかそれもいい気がしてきた。ちょっと考えとこう。

 

 

 マイケルの勉強を見終わり、自分の課題へ。この程度の問題なら楽勝で終わる。日々の積み重ね、大事。早く終わりすぎて先の先まで予習してるからなぁ。終わってから夕食までランニングする。癖になってるんだよね。鍛えるの。

 

 

 夕食の時間がやってきた。今日は私の好きなアンダーソンパスタ。最高だね。もうずっとこれでいいわ。モリモリ食べておかわりまでする。この年齢は腹が減るのよ。え? 何。なんか母さんがニヤニヤしてる。父さんはそっぽ向いてる。まさか、これ作ったの父さん!? それはビックリだわ。父さんはそっぽを向きながら、お前も作れる様になっとけ、と言う。それはいい考えだ。私も習ってみよう。マフィアたるもの、自分のメシぐらい作れなきゃならんのだ。ドンなら尚更ファミリーを食わせていかなきゃならないからね。

 

 

 全部食べて、片付けを手伝う。今はマイケルも手伝う。働かざる者食うべからずの精神。私もマイケルも理解してるから、しっかりやる。当たり前の事だからな。まったりしてると、父さんが唐突に家族に話を振ってきた。

 

 

「明日は休日だな。私も明日は何も予定がないから、偶にはサーカスでも見に行くか」

 

「まぁ! 珍しい。いいの? 貴方」

 

「部下にも偶には休めと言われてな。チケットまで貰ったからな」

 

「ホント!? やったー!!」

 

 

 マイケルが喜びを爆発させる。そういうトコはまだまだ子供なんだなぁと感じながらも、実は私も楽しみになっていた。サーカスなんて見た事ないし。詳細を聞いてみよう。

 

 

「どこの一座が来るの?」

 

「グラムガスランドから、モリトニオ一座、だと」

 

「すご! グラムガスランドで有名な一座じゃない!! 座長の空水泳がヤバいんだって!! それに最近入った新人も中々やるみたいだし」

 

「マイケル、お前詳しいなぁ。私は全然知らなかったよ。でも、そんなにすごいなら私も楽しみだ」

 

「決まりだな。明日はそれだ。朝から出かけるぞ」

 

「まぁ! じゃあ久しぶりにおめかししなきゃね!」

 

 

 

 母さんも張り切ってる。さて、楽しみが増えたな。明日は久しぶりの家族でお出かけだ。しっかりと目に焼き付けねば。

 

 

 

 

 当日朝、我々は全員バッチリおめかしして車に乗る。ウチはリッチだから乗合馬車じゃないのだ。豪華なテントに入り、開演を心待ちにする。

 

 

 ──始まった。

 

 

 いや、これは凄いな。人間技とは思えない。特に若い新人のピエロ。彼の技法はずば抜けてる。ジャグリングが並じゃない。私も演目が終わったらスタンディングオベーションをしていた。その時、その新人ピエロと目が合った。

 

 

「……❤︎」

 

 

 ウィンクしてくれた。割と嬉しい。その後の座長の空水泳も圧巻だった。アレ、どうやってんの…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 演目が終わり、カーテンコール。素晴らしい1日だった。家族と見る事が出来て本当に良かった。

 

 私も、()()()()()満たされた気がする。これからもずっとこのような日が続けばいい。本当に、そう、思えた。

 

 だからこそ感謝しなければ。隣の座席を見る。マイケルがまだキラキラした眼でステージを見ている。やっぱり可愛い奴だな、お前は。

 

 

 

「なぁ、マイケル」

 

「ん? なんだい? 兄さん」

 

「……ありがとう」

 

「え? 何さ、僕は何も……」

 

「久しぶりにさ、家族に、みんなに合わせてくれて、本当にありがとう」

 

「…………気付いてたんだね」

 

「ああ」

 

 

 

 辺りは、いつの間にか暗くなり、天井が抜けて夜空が輝く。私とマイケルはそこの座席に2人して腰掛けている。2人とも容姿はそのままだ。

 

 

 

「もうちょっと楽しんでいけばよかったんじゃない?」

 

「そうしたいのは山々なんだけどな。私は行かなきゃならない所があるんだ」

 

「そっか……分かったよ。やっぱり、兄さんは変わらないね」

 

「そうさ。私は私。アホな所も含めて変わりはしないのさ」

 

「見つけたんだね。大切なモノを」

 

「ああ、見つけた。私の、〝希望〟を」

 

「ふふ……良かったよ。本当に兄さんは世話が焼けるんだから」

 

「悪かったよ。本当にな」

 

「でもね、やっぱり兄さんは凄いよ。見てごらん?」

 

 

 そう言ってマイケルが空を指差す。満天の星空。そこに流れる、凄まじい量の流星群。

 

 

「それは、〝祈り〟。兄さんを求め、無事を祈る願い。それが世界中に溢れている」

 

 

 ──それは幻想的な光景だった。壮大な天空ショー。そのショーを2人きりで見る。なんて贅沢なんだろう。

 

 

 いつまでも見たいと思ったが、その流星達は()()()()()()()()()()()()()。そしてそれは、私に徐々に曖昧だった記憶と、念能力を取り戻させていく。それはいつまでも続き、やがて消えていく。しかし、目に見えないだけで確かにその祈りは届き続けている。

 

 

 

「──兄さんがやってきた事、成し遂げた事。それらが身を結び、こうして形になって現れたんだよ。誇っていい」

 

「私だけじゃないさ。お前を含む家族、そして、素晴らしい仲間達がいたからこそ、さ」

 

 

 私は18歳の姿から、いつもの容姿と服装に戻っていた。マイケルも、しわしわの老人へと姿を変えていた。

 

 

「そうだね…だからこそ、()()書いた事を守ってくれた」

 

「どんな状況になろうとも、〝希望〟を失うな、か。その通りだったよ、マイケル」

 

「ふふ……私の最後のお節介。気に入ってくれたようだね」

 

「ああ。ありがとうな。お節介とは全く思わんよ。お前があの手紙で願ってくれたんだろう? 私を()()()()()()()()()()()()()()()()、と。難しかったんじゃないか?」

 

「自分の能力の応用だからさほど難しく無かったさ。私もそんなに大した事はしてない。ほとんどは兄さんと、兄さんの仲間達の頑張りさ」

 

「それでも、さ。お前には結局助けられてばかりだった。なさけない兄でごめんな」

 

「いいさ。私がやりたかったんだ。だからこそ、兄さんとこうして会えて嬉しいよ」

 

「そうだな。私もだ」

 

 

 そうして、2人は無言で席に座ったままでいた。心地良い沈黙が流れる。心の内には、ただただ感謝があった。これまで出会えた全ての人々。家族、友人、舎弟、師匠、弟子、そして恋人。

 私は幸せ者だ。私が帰っても居場所なんてない。そう思っていたけれど、それは間違いだった。私は勝手に悲劇の主人公気取りをしていただけだった。今思えば恥ずかしい。でも、それは違った。何故なら、私は、私の居場所を自分で見つけたから。例えそれが暗黒大陸であっても、私は満足だ。

 

 ──行こう。私を待ってる人々がいる。だから行かなくちゃ。

 

 

「マイケル」

 

「ああ、踏ん切りがついたかい?」

 

「ありがとう。そして、()()()

 

 

 その言葉に、マイケルは苦笑いを浮かべる。

 

「あのね、兄さん。貴方は()()死なない人なんだよ? いくらまた暗黒大陸に渡るつもりでも、しばらくないんじゃないかなぁ」

 

「知らないな。私は教えたはずだぞ? こういう時に言うセリフを」

 

「……ああ…そうだったね。そうだったよ。分かった。じゃあ兄さん、()()()

 

 

 我々は固い握手を交わし、それから全身を抱擁する。しばらくそうすると、身体を離し、私はステージに降り立つ。

 

 

「兄さん、楽しかった。私以外にも何人か見送りに来てるから、挨拶していってね」

 

 

 マイケルはそう言うと、座席の後方へと立ち去って行った。ありがとう、マイケル。最後まで世話をかけたな。しばらくお別れだ。でも、こうして会えて本当に良かった。

 顔を前に向ける。皆の祈りが届き、私は完全に自分を取り戻した。欠けて無くなりかけていた魂も、それで埋まった。ならば、私は私の出来る事をやる。

 

 ステージから入り口に向かう。道は分かっている。後は行くだけだ。真夜中のサーカスの演目は全て終了した。夢のようなサーカスから、再び現実に戻らなければ。

 

 入り口へ向かう通路に、見覚えのある人物がいた。

 

 

「カームさん」

 

「……ジョン! …やはり、ここで会うって事は……」

 

「あぁ! 気にしないでほしい。私は私でこれまで人生を十分楽しみましたから。マフィアの最期には良くある事です。最後の最後まで大暴れできたから満足ですよ。それでもファミリーは安泰ですし、いい人生でした」

 

「……ッ! すまない…私のせいで」

 

「いや〜参ったな! ホントに気にしないでって言おうと思ったんですがね…じゃあこうしましょう。カームさん、そう思うなら、必ず勝ってください!」

 

「勿論だ。私は負けるつもりはない。初めから」

 

「ふふ……流石ですね。その、カリスマ、その覇気! 貴方が仮にアンダーソンを経営してたらどうなったでしょうねぇ。それはそれで見たかったんですが、まぁ貴方の人生だ。私も応援してますよ。さ、お行きなさい」

 

「ジョン……改めて、すまなかった。私は必ず勝つ! 見ていてくれ」

 

「分かりました。信じてますよ? じゃあ、私は2代目とその様子を観戦してますから。楽しみなんですよね! 伝説の2代目と会って観戦できるなんて最高ですな!」

 

「ジョンもやっぱりいい空気吸ってるな。ありがとう。君も是非楽しんでくれ…では、行ってくる」

 

「えぇ、いってらっしゃい。貴方の道に幸多からん事を」

 

 

 

 ジョンと握手をして、別れる。亡くした人々は多く、世界から悲しみが尽きる事はない。だが、私はそれでも最善の未来を掴み取る為に戦う。それが、生きる、という事なのだから。

 

 

 

「その通りじゃ、馬鹿弟子」

 

「師匠! 来てくれたんですね!!」

 

「言った筈じゃ。儂はあまねく世界へと偏在するとな。じゃから見ておったぞ……頑張ったな」

 

「師匠……ありがとうございました。貴方のおかげで今の私がいる」

 

「謙遜するでない。今のお主の事は、お主自身が掴み取ったものじゃ。お主はやり遂げた。そして、今も最善を尽くし、前へ進もうとしておる。それでよいのじゃ」

 

「まだ、私には残してきた者、救いを求める者達がいます。だから、これから向かいます。彼らを救いに。そして、私の未来を掴み取るために」

 

「ん。これで人の為だけに頑張るなどとほざきおったらお仕置きじゃったが…心配いらんようじゃな」

 

「怖! …でもまぁ安心してください。私は私、やりたい様にやりますから」

 

「それでええ。お主の人生じゃ。お主の好きにするが良かろう。それが前を向くという事じゃからな。さて、お主、気付いておるか?」

 

 

 ……? なんだろう、突然。

 

「お主の〝聖光気〟……()()()()()()()()

 

 !!!?

 

「ほ、本当だ! どうして!? いや、それはマズい」

 

「焦るでない。お主の弟子が()()()()。それでお主の負担を背負いはじめとる」

 

「な!? そんな馬鹿な!」

 

「な。儂も流石に驚いたぞ。仙の秘法なのにのぅ」

 

 

 マジでか…いや、確かにレオリオとかは一番近かったけど…私でさえ何年も何年もかかったのに、この短期間で、しかも土壇場でやってのけるか…凄い通り越して呆れるわ。

 

「で、流石に苦しんどるようじゃ。お主みたいな容量だけはバカ多い奴とは違うからな。急がんとのぅ」

 

「なんか一言多くないですか!? いや、そんな場合じゃないな。急ぎます。師匠」

 

「うむ。じゃあな、馬鹿弟子。お主の活躍、期待しとるぞ」

 

 

 師匠は、そのまま私の横を通り、後方に消えていく。最後に伝えなきゃ。

 

 

「師匠! 本当にありがとうございました!!」

 

「達者でな。儂はお主をいつでも見守ってるでな」

 

 

 後ろ向きで手を振りながら去っていく師匠。変わらないな。私の師匠は。私の生涯の師であり、私を導いてくれた人。そして、今でもこうして教えをくれる方。私の師匠はやっぱり偉大だ。さて、彼の言う事なら間違いなく時間がない。急がねば。

 

 

 さて、入り口まで来た。……扉が閉まってるな。仕方ない。無理矢理こじ開けて出るか──

 

 

 ギイオォン

 

 

 向こうから扉が開く。そして1人の人影が映る。逆光で顔が見えない。だが、私には分かった。

 

 

「まさか()()最後だとは思わなかったよ」

 

 

 

 それは、先程のジャグリングをしていた新人ピエロだった。金髪で、吊り目の生意気そうな少年。それは、()()()()()()だ。

 

 

 

「やぁ、さっきぶり♣︎」

 

「モリトニオ一座だったんだな。素晴らしかったよ」

 

「う~ん…♦ まぁ、そうだねぇ…♣」

 

「珍しく歯切れが悪いな。覚えてないとか言ってたけどきっちり覚えてたんじゃないのか? 随分と馴染んでたじゃないか」

 

「座長は殺人鬼だけどね♥ ボクに念を教えて、殺し合いした仲さ♦︎」

 

「Oh……なるほど。君の由来が何となく見えたよ。それで忘れるのは無理ないか?」

 

「ボクは過去を振り返らない主義なんだ♠ ただまぁ、キミに合わせてみただけ♥」

 

「そうか。そりゃ悪かったな。まぁ、分からなくもないが」

 

「ふふ……何もかもを君と分かり合っちゃったからねぇ♥ 素敵な体験だったなぁ♣」

 

「うん。まぁ…不本意ながらね。で、君は最後に何を伝えに来たんだ?」

 

「いや? ただ逢いに来ただけだよ?♥」

 

「……はぁ~…君はそう言う奴だった」

 

「あぁ、最後に聞いときたかったんだ♦」

 

「なんだい?」

 

「──どうだった? ボクの『真夜中のサーカス(シルク・ド・ミニュイ)』は♦︎」

 

「……あぁ。とても満足したよ。最高のショーだった……君は…いろんな意味で私の()()()()()()()()()()

 

「それだけ聞ければ満足だよ♠ もう、ボクのショーはこれでお死舞い♣ カーテンコールすらも終わりを迎える♦ ──これでサヨナラ、さ♥」

 

「……そうか。私は──」

 

「キミは行きなよ♣ ボクはもう十分満足した♠ 思い残す事がないぐらいにね♦ 恐らくボクの行き先は地獄だろうねェ……でもね、もしかしたらまた会えるかもよ?」

 

「そうだな……いや、もうしばらくはいいや。でも、まぁ、ほんの少しだけだけど、悪くはなかったぞ、ヒソカ」

 

「──♥ じゃ、()()()♥」

 

 

 いつの間にかいつものヒソカに戻っていた彼は、中に向かってカツカツとヒールの音を立てて歩き出す。最後までヒソカはヒソカだった。それが、私にはちょっと嬉しい。そして、少し寂しい。彼には様々な苦労をさせられた。色々な人々を彼のせいで失った。こんな不倶戴天の敵に思う感情じゃないかもしれない。でも、私は不思議とそう感じたのだ。

 

 

()()()……さらばだ、ヒソカ」

 

 

 サーカスのテントを出る。いつの間にか私はチケットを持っていた。『真夜中のサーカス(シルク・ド・ミニュイ)』のチケット。入場のスタンプが押してある。いろいろあったが、楽しいショーだった。私は生涯忘れないだろう。

 その紙の()()()()()()()()を剥がす。単純な仕掛け。でも中々見破れない。それは【薄っぺらな嘘(ドッキリテクスチャー)】。最後の最後まで(ヒソカ)らしい。彼はやはり天性のショーマンだ。

 本当の中身は「死者への往復葉書」。私が大事に持っていた、マイケルからの一枚。これのおかげで私はまた、救われた。私は本当に、幸せ者だ。

 

 

 

 最後にテントに向かって一礼する。これまでの全てに、感謝を込めて。そして、前を向く。

 

 

 

 ──さぁ、行こう。私の物語は、再びここから始まる。だから…待っていてくれ。

 

 

 

 

 

 

 私は、全ての決着をこれから付ける。

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