アンブレイカブルハンター【完結】   作:エアロダイナミクス

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154、終幕

 

 

 

 

 

 

 その闘いは、一方的だった。しかし、奇妙なことに、ゾバエは彼らに決定打を与えられないでいた。それは、いくつかの要因があるが、最大の要因はキルア……ではなく、ネテロであった。彼の【百式観音】、それは時間という概念を超越した打撃。打撃という弱点はあれど、その速度は他者の意識を上回る。かつて、〝救世主〟との模擬戦でも、恐ろしい程の実力差があるはずの〝救世主〟が、この打撃を完全に躱すことはできなかった。それこそ、時を止めない限り。つまり、単純な速度ではない、それらを超越した人間の極みの結晶ともいえるこの攻撃は、例え魔王といえどもダメージは受けないが無視することができない物である。先ほど不覚をとったのは、他者を庇うために、百式を自分から外してしまったこと。そして、複数相手という多勢に無勢。それは百式の弱点を悉く突いたものだったからだ。

 そして今。ゾバエが先ほどのように念獣の能力を出しても、キルアが即座に雷で消し飛ばしてしまう。だからこそ直接ゾバエ自身が攻撃を加えようとしても、その攻撃の直前にネテロが上回る速度でそれを妨害する。仕方なく霧化で流すと、そのほかのメンバーが攻撃を仕掛けてくる。ゾバエにとってはストレスのたまる闘いだ。

 また、次に苛つく要因はジンである。彼の攻撃は()()()受けてしまう。それは彼にとってたいしたことの無い、無視すべきものだが、苛つくものは苛つくのだ。例えば、自身のHPが100万を超えていて、そのダメージが1であろうとも。

 この2人は、人類という能力の枠を超え始めている。それは、概念。または権能と呼ばれる領域にまで達しようとしていた。

 だからといって無論、キルアを無視できるわけがない。彼はこのメンバーでは一番自分のオーラ量に近く、油断すれば割とダメージを受けてしまう。雷の速度というのも厄介だ。見切れないわけでは無いが、その暗殺術と相まって非常に避けにくい。だからこそ、それを警戒せざるを得ないのだ。

 同時に、カルト、メルエムも羽虫に近いが、厄介な羽虫である。それぞれ蛾の鱗粉のようにオーラや紙吹雪を展開し、隙あらば潜り込もうとする。特にカルトはキルアと同等に暗殺術の達人でもあり、その意を読みにくい。そして、割と大きな炎などの範囲攻撃もその防御で防いでしまう。彼女の誓約により、潜在オーラはメルエム程度だが、顕在オーラが激増しており、その威力はキルアに次ぐ。だからこそ、イライラが募る。ちょこまかとフォローに入る武の達人、ビスケも厄介だ。

 

 

 だが、それでも絶対的な力の差は変わらない。いくら何とか防いでも、撃退すら不可能な状況。辛うじて全滅を防げる。ただ、それだけだ。

 

 

 

「くっ……やっぱり、手も足も出ない、か」

 

「はぁ~。まいったな。アレだね、RPGでいうと、弱いけど素早さが高い奴のせいでダメージ与えられない感じ? 当たれば必殺だけど躱される的な。で、経験値とかないからマジで無駄。苦行でしかないよね」

 

「くそっ! ここまで…ここまで()()()()届かないの!?」

 

「貴様らのサル知恵でこのボクを出し抜ける訳ないだろ? てか、ソイツ目覚めたんだな。あんだけビビってた癖に」

 

「人間を舐めんじゃねぇって事だバーカ」

 

「ていうか、今更だけど君達死んでたよね? 魂はみっともなく残ってたけど、時間の問題だった筈なんだけどなぁ。やっぱり〝救世主〟は厄介だね。もういいや。チャチャっと殺そ」

 

「次こそはやらせんぞ。それに、ワシ等が死したとしても必ずやカームは来てくれるからな」

 

「もうほぼ死んでるって。むしろ消滅かな? あの光見たでしょ? 消えかけてんじゃん。アレ、星から力借りて魂削って、それでも足りなくて更に削ったって事なんだよね。でなきゃ、人類を守る光が消えるなんてあり得ないし。もう彼は完全に消滅寸前さ。見りゃ分かる」

 

「……それでも! カームならやってくれる!! だから──」

 

「ソイツが引き継ぐって? 無駄だよ。それに、ソイツも限界っぽいじゃん。大方無理矢理星から力借りてるんじゃない?」

 

 

 レオリオを見れば、確かに全身から血を吹き出し、身体はズタボロだ。一目で死に掛けだと分かる、壮絶な姿だ。しかも、彼は明らかに禁忌の方法を実行している。それは、彼の背後に生える金のオーラの翼が証明している。

 

 

「〜〜〜!! だけど!!!」

 

「ま、そういうこと。ボクが見た限りじゃ〝救世主〟は〝反救世主〟には()()()勝てない。ソイツが光を引き継いだ所で、殺してしまえば終わり。う〜ん、いい感じ。だけどね、いい加減鬱陶しいからそろそろ死のうか」

 

 

 ゾバエが右手を挙げる。

 

 

 キルアはその仕草を察知し、マズいと判断し、全員に警告しながら突撃する。しかし、躱される。そして、ソレが発動する。

 

 

 

生命の収穫(ハーヴェスト・オブ・ライフ)】!

 

 

 

 

 周囲全体を赤黒い霧が覆う。それは、絶望の技。超範囲、全体への回避不可な吸収能力。

 

 

「ぐっ! な、なんだコレは!」

 

「恐ろしい勢いでオーラが吸われてる!! 不味い! このままじゃ1分も保たない!!!」

 

 

 キルアの雷が、カルトの紙が、メルエムのオーラキャノンが、ネテロの百式が、ジンの念弾が、ビスケのオーラブレードがそれぞれゾバエを襲うも、当然のように防がれる。この一連の攻防でエントランスのほぼ大部分が崩壊した。ビルがまだ建っているのが奇跡的なぐらいである。ゾバエはジンが用意した配信映像を割と気に入っていて、なるべく壊さないように立ち回っていたのも影響しているが。

 

 

 そして、オーラの低い順から枯渇し始める。まずはビスケ。そして、ジン、ネテロと続く。

 

 

「さて、そろそろ終わりだね。さよなら」

 

 

 

 

 

 ゾバエが霧化し、枯渇したネテロの背後に立つ。同時に、血の剣を突き立てようとした、その時──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゾバエの右腕が消滅した。

 

 

 

 

 

 

「!!!?」

 

 

 

 瞬時に彼は身を引き、腕を復元する。今のは何なのか。何の攻撃で、何を喰らったのかを分析する。現在のメンバーに()()ができる者は存在しない。

 

 

 まさか……

 

 

 一番、あり得ない結論がよぎる。しかし、それはあり得ない。あり得ない…筈なのに……

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 直後、室内に巨大な光の柱が立つ。その光はありとあらゆる物を浄化するかのような神聖さに満ちていた。

 

 

 

「ば、馬鹿な!!? 貴様!! 何故貴様が()()()()()!!!」

 

 

 

 ゾバエが叫ぶ。しかし、彼の発動した【生命の収穫(ハーヴェスト・オブ・ライフ)】は、その光によって影も形もなく祓われた。闇を祓う光。それは、紛れもなく神聖な存在が降臨した証。

 

 

 それは、魔王と対峙するメンバーだけでなく、世界中のだれもが祈り、渇望し、待ち焦がれていた存在。そう──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〝救世主〟

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「「カーム!!!!!」」」」」」

 

 

「待たせたな、みんな。心配させて悪かったね」

 

 彼の現在の姿は、普段の抑えた白スーツではない。その上から羽衣を纏い、その背には白く輝く翼を模した6対の翼が顕現する。それは、例え念能力を習得していない者でも視認できるほどの強烈な光。その姿は、まさに天使と呼ばれるものであった。彼は、極限の闘いを経て、自らの器を広げた。それは、魂を削るほどの闘いで削れた魂が、世界中の人々の祈りによって補填されたため。真摯な祈りとは、そのオーラをごく少量ではあるがその対象に捧げる行為である。1人1人はたいしたことはない。しかし、それが何十、何百、何億になった時、そのオーラは極大なものとなる。

 

 

 

「貴様…ふざけるなよ…! ここまで来て…!!」

 

 

 ゾバエが怒り心頭で黒いオーラを噴出させる。推定顕在オーラ100万。つまり、潜在オーラは4000万を超えるだろう。自重をすることすら忘れた魔王の怒りの全力行使。それは画面越しにも伝わるほどの邪悪な圧力であり、直接受けたら念能力者でも死ぬほどのレベル。だが──

 

 

 

 カームの普段の状態の潜在オーラ量は約1500万。顕在オーラは50~70万前後。しかし、そこに〝聖光気〟の補正が入るとどうなるか。これまでの補正は、枯渇しかけていた為、2〜3倍が精々だった。しかし、〝聖光気〟が普通にあるなら最大で()()()

 そして、今。器が広がった状態でならば、その補正は()()()()近くまで跳ね上がっている。

 

 

 

 つまり──

 

 

 

 

 ゾバエが自ら突進する。それは今まで見せたことの無い程の恐ろしいスピード。そして彼は()()()()()()()()()()。すでに息絶え絶えの人間達を人質にすべく、神速で移動する。気付いたキルアとネテロが反応するも間に合わない。狙いは近くにいたカルト。捕まるかと思われた、その刹那

 

 

 

 ──時よ、止まれ──

 

 

 

 全ての時間と空間が静止する。いかなる速さを用いても、時間という概念自体を止められたらそれは無意味と化す。カームはゆったりと歩き、カルトの前に立ちふさがる。

 

 

 

 ──そして、時は動き出す──

 

 

 

「は? え?」

 

 

 そのまま腕を掴み上げられるゾバエ。慌てて霧化して逃げようとするも、カームの手から逃れられない。彼は手を掴みながらゾバエの能力を無効化していた。

 

 

「く、クソ!! 離s」

 

 

 

 ジュッ!!!

 

 

 カームの手から溢れ出す〝聖光気〟の圧。それを、浸透勁の要領で流し込む。それだけで、ここまで苦戦に苦戦を強いられた魔王の肉体があまりにもあっけなく消滅する。

 

 

 

「カーム……ありがとう。僕は…」

 

「カルト。君なんだね。本当によく頑張った。そして、素敵なレディになったね」

 

 

 カルトがたまらずカームに抱きつく。彼女は信じていた。しかし不安もあった。もう逢えないんじゃないか、と。自分のやってきた事が全て無駄だったんじゃないかと。それでも、彼は帰ってきてくれた。自分の元へ。

 それだけで自分が犠牲にしたモノが救われた気がした。それだけで、自分のやってきたことが報われた気がした。涙が溢れる。それは、悲しみではない、喜びの涙。

 

「カーム…僕はもう、絶対に離さない」

 

「ちょっと! 待ちなさいよ!! それアタシが先でしょ!! ……もう。しょうがないわねぇ」

 

 

 カルトの頭を撫でて労うカーム。ビスケもプリプリ怒ってはいるが、彼女は流石にカルトがこの戦いで支払った物がなんなのかを正確に理解していた。なので、()()()()譲る事にした。少しの時間、カームも彼女の頭を撫でて労うと、彼はレオリオに向き直る。

 

 

 

「レオリオ、ありがとう。君は本当に凄い男だ。私なんかよりもよっぽどね…まだゾバエはいるから、その負担を少しだけ引き受けるよ」

 

 

 彼は、最早反応すら返せなくなっていたレオリオに向かって〝聖光気〟を分け与える。彼の限界ラインである人類の8割。絞り尽くし、星に借りてまで支払っていた残りの2割。そこを再びカームが引き継いだ。

 同時にレオリオの身体の傷が完璧に修復され、彼の背にあった翼は消えた。星との意識の綱引きを行なっていたレオリオが目を覚ます。彼は果たして──

 

 

「…………ワレハ、ホシノイシ」

 

「アホか。ふざけてる場合じゃねぇだろ」

 

「全くだぜ。時と場所を考えろよな」

 

「ハイハイ分かった分かった」

 

「はよう話を進めたいんじゃが」

 

 

 即座に総ツッコミが入る。流石のカームも苦笑いを浮かべる。

 

 

 

「お、おい! オレはマジで頑張ったんだからな!! さすがにオレも傷つくぞ!」

 

 

 若干涙目になって抗議するレオリオ。そこに苦笑しながらカームがフォローを入れる。

 

 

「レオリオ、私は分かってるよ」

 

「おぉ! カーム! お前だけだぜ? このヤバさ分かってくれんのは!」

 

「あぁ。並の精神力じゃ不可能な事だ……よくやってくれた。ありがとう」

 

「へっ、ありがとよ。()()()()頑張った甲斐があったぜ。それにしても……マジで何とかなるとはな」

 

「あぁ。私もそう思ったよ。これは、ここにいる皆が起こした〝奇跡〟だ」

 

「そうだな。全員が死力を尽くした結果だな」

 

「あ! カーム!! 今は雑談してる場合じゃねーぞ! アイツがまだいるんだ! 今ゴンとクラピカが必死こいて抑えてるんだ!!」

 

 

 キルアが焦りながら伝えてきた情報により、再び緊張感が走る。しかし、カームは落ち着いていた。

 

 

「あぁ。()()()()。でも大丈夫。今から私が『駆除』してくる」

 

 

 

 そう言い残すと、カームはその場から掻き消える。巨大な気配が消えたことで、その場に静寂が広がる。まさに白昼夢を見ていたような感覚、しかし、それは現実だった。彼らは成し遂げた。じわじわと喜びがそれぞれの胸に広がる。あと少し。あと少しで、この騒動は終わりを迎える。その時を、世界中の皆が心待ちにしていた──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……? なんだ? 何故突然笑い出した?」

 

「何か企んでる…のか?」

 

 

 

 突然狂ったように笑い出すゾバエ。彼に取っては遊びながらの戦闘。しかし、その途中でいきなり攻撃を中断し、その場で爆笑した後、その顔つきが変わる。今までのヘラヘラした態度の表情から、怒りを隠さない凶相へ。

 

 

「……クソザルどもめが……!! このボクに対して…よくも…よくもやってくれたなッ!!!」

 

 

 大気が震えるほどの大喝とともに、ゾバエから暴虐的なオーラが溢れ出す。天地をも覆い尽くすほどの濃厚な瘴気。その顕現によって、大地が振動する。今まではその力の大部分を封じながら闘っていた。それが、彼の怒りによって開放される。姿形すらも人間の形態から更に変化し、禍々しい、各所に角を生やした巨大なガーゴイルに似た姿へと変わる。

 サイユウを素体にしたゾバエは、全く馴染まない下等生物の、しかも促成の個体であったためにその力のほとんどを開放できていなかった。しかし、このビヨンドのゾバエはそうではない。下等生物という()()はあっても、50年という永い年月をかけて馴染ませた個体である。現在、そのオーラは留まることを知らず、既に顕在オーラは500万を超えて、まだ上がる。潜在オーラは最早計測不能。それ程の極限の力が展開されていた。

 

 

 それは、正に魔王というに相応しい、究極の力。

 

 

 これほどの〝力〟を出してしまえば、確実に門番に見つかる。そして連れ戻される。それが分かっていたからこそ全力の戦闘を控えていたが、ゾバエは下等生物に自分の計画を最後の最後に覆されて、完全に冷静さを失っていた。

 

 

「う…あ……」

 

「ま、マズいな……これほどとは……」

 

 

 流石のゴン達も戦慄する。まだまだ彼らの力はゾバエには遠く、足下にも及ばない。それが分かってしまった。だからといって引くことはできない。しかも、今度のゾバエは遊ぶ気配が見えない。絶望的な気分に陥ってしまいそうになる気持ちを奮い立たせ、ゴンが叫ぶ。

 

 

「……それが、どうした!! 絶対にお前を本部には行かせないッ!!!」

 

「そうだな。いかに強大な相手だろうが、我々は引かん。最後まで抗ってみせる!」

 

 

 

 ゴンとクラピカが悲壮な決意を胸に秘めながら立ち向かおうとしたとき、別種の濃厚な気配がその場に広がる。

 

 

 

 ──それは、光。

 

 

 

 魔王の特大の気配に負けないどころか、それを軽く上回るほどの巨大で神聖な気配。その中心に、見覚えのある人物が現れた。

 

 

 

「「カーム!!!」」

 

 

「……来やがったな…〝救世主〟! どこまでもコケにしやがって…!」

 

「ゴン…とクラピカ? よくやった。君達のおかげで全てが間に合った」

 

「カーム…間に合ったんだね!」

 

「流石だ…信じていたぞ。貴方が勝つ、と」

 

「あぁ。任せてくれ。ここからは……『害虫駆除』だ」

 

 

 

 その台詞に、ただでさえ切れかけていた魔王の理性が完全にブチ切れる。

 

 

 

「ほざけ! 下等生物ーーー!!!!」

 

 

 

 その単純な、それでいて速すぎて不可避な血の剣による一撃は、正しくカームの心臓を貫く。

 

 

「もう人類などどうでもいい! だが、貴様は、貴様だけは殺してやる!!!」

 

 

 激しく吸血するゾバエ。生命のエネルギーを全力で吸い尽くし、殺害を目論む。その時、彼はいつもの癖でゾバエ因子を同時に埋め込んでいた。ゴンやクラピカには効果が無かった攻撃。当然〝救世主〟には効果がないだろうとダメもとでやっていた。それは完全に偶然の産物。無駄な攻撃。魔王であるゾバエは普段はこのような事はしない。しかし、彼の怒りがそれを()()()()()()()()。〝聖光気〟で防がれると知っていたにも関わらず。

 すると、意外にもソレが通った。ズンズンとウィルスは浸透し、〝救世主〟の身体を駆け巡る。彼の顔に血管が浮き出し、どんどん顔色が悪くなる。よく見れば〝聖光気〟も消えている。ゾバエはそこに一瞬希望を見た。結局は見掛け倒しで、コイツは滅びかかっている、だからこそ通じたのだ、と。そして、それならばこのまま完全に眷属にしてしまおう。これほどの眷属は滅多に手に入るものではない。それだけでも収穫だった、と。

 

 

 そこで、顔色の悪い〝救世主〟が、その顔を上げてゾバエを見る。その顔は、諦めた者の絶望の表情ではなく。

 

 

「ゾバエ…1つ、言っておこう。私はカーム=アンダーソン。【救世主】にして【壊れない男(アンブレイカブル)】…私が何故そう呼ばれるか…知ってるか?」

 

 

 無抵抗で侵食されながらも、冷静な口調でゾバエに語る〝救世主〟。その様子に激しく嫌な予感がゾバエを襲う。瞬時に彼は自らの失敗を悟った。しかし、気付いたときには既に()()()()

 

 

 

 

完全適合(パーフェクト・コンバート)

 

 

 

 

「き、貴様…まさか…!!」

 

 

 

 ぐんぐん顔色が元に戻る〝救世主〟。そう、彼は()()した。ゾバエウィルスに。これまでゾバエは慎重に彼を避けてきた。〝救世主〟に見つからないように。しかし、それは〝聖光気〟にゾバエウィルスの効果が無いためであり、悟らせないため。だから無駄な事をしない魔王は気付かなかったのだ。この相手が自らの天敵であることを。そして、()()()()()から、彼の情報がゾバエに一部伝わっていなかったこともゾバエにとっての不幸であった。

 

 

「ふぅ……魔王クラスのウィルスって中々キツいな。でも、()()()()()()()()。ありがとう」

 

「お、お前は…オマエはあぁああああ!!!!」

 

 

 〝浸透勁〟

 

 

「ぐぎゃああぁああぁぁああああ!!!」

 

 

「切り札は見せるな、見せるなら更に奥の手を持て。私のモットーでね」

 

「おのれ……おのれ…まだ…ボクには()()()()が…これで終わると思う……おい…何故拒否する…! 何故()()()()()…! サル如きが…! ふざけるな…!!」 

 

「不様だな。お前の敗因はただ一つ。人類を舐め過ぎた事だ。勉強になったな、暗黒大陸の魔王サマ」

 

 

 ゾバエは、まだ何かを試しているようだったが、やがて諦めたようだ。消滅しかかっていて、もうその顔面しか残っていない。最期に消えそうな声で〝救世主〟に向かって語りかける。

 

「…………今回は、ボクの負けだ。だが、〝救世主〟…貴様ももうここには残れまい。貴様は世界を救ったにも関わらず、この楽園から追放されるのだ……貴様が()()()に来ることを、楽しみに待っているぞ……」

 

 

 そう言って、ゾバエは完全に消滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お帰り! カーム!! 上手くいったみたいね!」

 

「あぁ。向こうのは無事『駆除』できたよ」

 

「じゃあさ、「ちょっと待て」 …ってなんだよジン」

 

 

 ゴンの事を差し置いて、ジンが会話に割り込む。

 

 

「カーム。オメーも気付いてるだろ? まだ終わっちゃいねぇって事を」

 

 

 本当にこの人の感覚と、論理的な思考力には驚愕する。恐らく彼は、誰にも教えて貰っていないにも関わらず、状況証拠だけでそれを導き出した。というか、恐らく彼はこの顛末までの絵を正確に描いていた。だからこその超一流ハンターなのだ。

 

 

「よく分かりましたね。その通りですよ。では、行きましょうか。最後の後始末に」

 

「?? 終わったんじゃねーの?」

 

「いや、終わってない。まだ()()()()残っている。それが、奴の言ってたストックだ」

 

「げ、アイツまだいんのかよ!! ホントゴキブリみてーな奴だな!!」

 

 

 キルアが難色を示す。それもそうだろう。私以外には苦戦必至の相手だからだ。だが

 

 

「恐らく、心配いらないよ。もうゾバエは()()()()()

 

「……は? どういうこと?」

 

「それをこれから確かめに行こう。ジンさん。場所は分かりますね?」

 

「あぁ。奴はこの上にいる。な? ジジイ」

 

「……そうじゃ、な」

 

 

 妙に歯切れの悪いネテロに怪訝な顔を向けるゴン達年少組。だが、大人達は理解した。最後に残ったのが誰で、そしてどこにいるのかを。

 

 

 

 全員で階段を上る。エレベーターなどとっくのとうに壊れている。だからこそ、一歩一歩昇るしかない。かなり上の方まで来たときに、大勢の人々の気配が現れる。

 

 

「お疲れさん! や~何とかなったな!!」

 

「さすがですね。僕はダメかと思いましたよ」

 

「本当に強くなったな、ゴン。そして、ジン。久しぶりだな」

 

「ねー! ホントマジで!! あんな奥地の魔王の近くで作業なんて生きた心地がしなかったわよ!!! ジン!! 報酬として1年間仕事免除ね!!」

 

 

「ドゥーン! リスト! レイザー! ディアナ!!」

 

 

 ゴンが驚きの声を上げる。そう、彼らはジンが呼び寄せた助っ人。戦闘には参加しなかったが、ある意味彼らも闘っていた。ここはサーバールーム。ハンター協会の秘蔵のサーバールームやこの建物の電気系統が物理的に破壊されないように、ジンはG・I組をこっそりとここに招集して配備していたのだ。彼らはその力を結集し、全力でここを守っていた。

 

 肝心の奥のメインサーバーにはエレナとイータもいる。彼女らは情報担当だ。今も2人して高速で何やら打ち込んでいる。彼女らはジンが立ち上げた動画サイトや情報掲示板の管理に精を出している。もう1人外部協力者がいるらしいが、彼は滅多に顔を出さないらしい。ここにはいない。ちなみにコレは階段の道中でジンがこっそり教えてくれた事である。この人は本当に敵に回すと恐ろしい人だ。まさか相手も、たった六日であの状況からここまで体制を整えられるとは思うまい。

 

 尚、ぎゃーぎゃー喚いていたディアナだったが、私の顔を見るなり大人しくなった。

 

「へ、へへ…〝救世主〟サン、お疲れです…肩でも揉みましょうか?」

 

「なんという三下ムーブ…流石に引くわ」

 

「うるさい! アタシは〝救世主〟もトラウマなの! てか、アレを簡単に倒せるってホントヤバいんだからね!!」

 

「百年の恋も冷めそうだな……」

 

 

 なんだかんだで久しぶりの再会に喜び、会話に花が咲く。しかし、まだ歓談するには早い。ほどほどで切り上げて、その場所へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、ここって……」

 

 皆がネテロを見る。ネテロの表情は苦々しい。それもそうだろう。何故ならここは会長室なのだから。

 

「じゃ、行くぞ」

 

 扉を開けてジンが躊躇なく中へ入る。それに我々も続く。中に居たのは──

 

「やあ…みな、さん……お疲れ様、です」

 

 ()()()()()()()()パリストンであった。会長の椅子に座り、苦しそうに息を吐きながら、しかし笑顔いっぱいに彼は我々を迎えた。

 

「パリストン、詰み(チェックメイト)だぜ」

 

「でしょう、ねぇ…」

 

 それは、ゾバエ病の症状。私も適合したから分かる。耐えがたい程の苦痛と渇きに苛まれているはずだ。というか、この状態で正気を保ち、まともに受け答え出来るのは本当に異常なのだ。何という精神力か。

 

 

「ゾバエをよく拒否出来たな」

 

「うふふ…ボク、は…()()()()()()…なんですよ。凄い、でしょ」

 

 

 どういう能力か詳細は分からないが、それだけではないだろうなと、何となく感じる。しかし、本当に異常な精神力だ。我々とは方向性がまるで違うが。

 

「お前…アレ相手にも遊んでたのか」

 

「そうですよ? いやぁ…愉しかった、ですねェ」

 

「呆れた奴だな。こうなると分かってただろ」

 

「ん〜…半々…って、所…ですね。綺麗に策が…全て決まれば…こちらの勝利…勝ってたら、ボクも…()()ならない自信は…ありました、よ」

 

「だが負けた。お前もオレ達を舐め過ぎたな」

 

「えぇ…本当に…あそこ、から、逆転…される、とは。流石ジンさん」

 

「フン。テメェの考えは大体分かるんだよ。だから全部潰してやったろ?」

 

「ボクが、戻った…時には…手遅れ、でした、からね。つくづく…貴方は嫌いな人間、だ」

 

「今だから言うがな。最初の襲撃……サイユウによるサーバールームの破壊工作。アレまではオレも気付いて無かった。アレのおかげでオレもここまでの絵が描けた。感謝するぜ」

 

「ふふ…微塵も、思って、ない癖に…完敗、ですよ。ジンさんだけじゃない…全ての、遊び相手に。…奇跡の連発、でしたからねェ」

 

「のぅ、パリストン。お主は結局何がしたかったんじゃ?」

 

「…………何もかも、全部無茶苦茶に、したかった…ただ、それだけ…ですよ?」

 

 ネテロ会長は、その言葉である程度納得したようだ。ジンさんも同じく。パリストンは結局、ただただ遊んでいたのだ。彼にとって勝敗など()()()()()()()()。世界が混乱し、そこで我々含む人類がもがき苦しむ様を特等席で見る。ただそれだけ。会長やジンさんを殺さなかったのは、それを自慢したかったから…そんなトコだろうか。

 いや、結局彼の思考なんて私には理解が出来ない。しかし、彼もその悪としてのプライドは譲らなかったようだ。例え相手が魔王だろうとも。

 

 

「そうか…カーム、頼む」

 

「えぇ。パリストン、私は〝救世主〟とか言われてるが、中身はごく普通の『人間』でな。悪いがお前を〝治療〟して救済しようとか慈悲を与えようなどとは全く思わん。覚悟はいいな」

 

「…〝救世主〟にそう、言ってもらえるのは…光栄、ですねェ…メンタルが弱い…そこに漬け込んだ…つもりだったんですが」

 

「そうだな。まんまとやられる所だったよ。でも、希望を捨てない人の絆が絶望を覆した…私はそう思っているよ」

 

 

 浄化の炎を手に灯す。〝聖光気〟と〝死〟の概念のミックス。塵も残さず、魂すらもこの世から消し去る為に。

 

 

「はは……まいったなァ。これじゃ…死者の念すら発動できなそうですね」

 

「二度と再びこの世に戻ってくるんじゃねーぞ。テメェはやり過ぎたからな」

 

「……最後に、予言しましょう。世界は…変わってしまった…だから…必ずや、ボクらや、ボクら以上の悪が現れる…その時、貴方達は、ここにはいない…ふふ…今度こそ無理かも…ですねェ」

 

「そうなったらそうなったで、いる人々が何とかするだろう。人類はわりとしぶといからな。では、さらばだ」

 

 

 パリストンに炎をぶつける。パリストンは何も抵抗せずにそれを受け入れた。その身だけでなく、魂すらも焼き尽くす炎に灼かれる痛みは壮絶なもののはずだ。しかし、彼は声一つ上げる事なく、その胡散臭い笑みを絶やす事なく、燃やされていった。

 

 

 

 数十秒後、彼の痕跡は完全にこの世から消滅した。

 

 

 

 最後まで悪を貫いた男がこの世から消滅した。なんとも言えない、そんな気分になる。しかし、私は彼を許すわけにはいかなかった。〝救世主〟的には間違いなんだろうな。だが、そんな事は知らない。私は私の思うままに、これからも動く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──これで、全てが終わった。私が帰ってきた事で引き起こされた騒動に一つの決着がついた。なくしたものはとても多い。しかし、得たものも確実にあった。だから今、こうして前向きな気持ちでいれる。私は、ようやく私の物語を始められる。

 

 

 幕が降りる。一つの舞台の幕が。そして、新しい舞台が幕を開ける。全てはここからだ。さぁ、前を向いて始めよう。

 

 

 私の物語を──







 全ての決着がつきました。いよいよ、次回で最終回です。ここまでお付き合いいただき本当にありがとうございました。最後までどうかよろしくお願いします。
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