連日投稿第二弾
闇の中、ヒールの音を高らかに響かせながら歩く。
これから向かうは地獄への旅路。想像を絶する様な苦行が待ち受けている事は想像に難くない。しかし、その状況に反して、彼の足取りは軽やかだ。今、彼の心は晴れ晴れとしていた。
彼の生きて来た中でも最高の、究極の快楽を得られたからだ。だから何一つ後悔は無い。願わくばもう一度と思わないでもないが、それは贅沢というもの。人間としての生を、この上なく堪能し、喰らい尽くし、そして終わりを迎える。
「ふふっ❤︎ 」
笑みが漏れる。魂が希薄になろうとも、僅かに残った魂がひび割れて凄まじい痛みを発しようとも、そんな事がどうでも良くなるくらいに彼は幸福だった。
やがて、薄暗い闇の道なき道が霧に覆われ始める。いよいよ終点かと少し残念に思いながらも、歩みを止めない。彼にとっては天国だろうが地獄だろうが同じ事なのだ。
だが、その彼の歩みがある地点で止まる。
「んー…一本道かと思ったら分かれ道か♠︎ どっちかなぁ♦︎」
目の前の十字路、つまり3本もの分かれ道に対して、彼はぼやく。しかし、逡巡は一瞬。懐からカードを取り出してシャッフルし始める。数字の出具合によってどの道を選ぶか決めようとしていた。彼にとってはどの道でも同じなのだ。ならば遊びで決めよう。イカサマなしの運試し。
「──おやおや♣︎ 最初が
再び出るJOKER。これには流石の彼も苦笑する。カードを裏返せば、
「タネも仕掛けもないはずなんだケドなぁ♦︎ そこのキミ、説明してくれるかい?」
すると、霧が集まり十字路の中心で人型を成す。現れたのは、松明を持ったパンクファッションのファンキーなしわくちゃの老婆だった。しかし彼は見た目で騙される程耄碌していない。目の前の人物の底知れぬ力を感じ取った彼は、歓喜に沸いて瞬時に戦闘モードに入る。まだお楽しみをさせてくれるのかと期待しながら。
「んんーこれまた変なのが出たねぇ♠︎ 悪魔はもうお腹いっぱいなんだけど♦︎」
「困るのぉ。
そう言うと、今度は妙齢の大人の女性へと変化する。
「いや、そういう問題じゃないんだけどなぁ…♣︎」
「あらあら、難しいヒトだこと。仕方ないわねぇ」
妙齢の大人の女性から少女へと変化する。先程も絶世の美女ではあったが、今度も絶世の美少女であった。
「これでどう? イケてるでしょ」
「……ま、それはどうでもいいんだけどさ。ボク相手にカードマジックとは中々やるじゃない❤︎」
「おっと、そっちが気になるタイプね。そりゃ失礼した。結論から言えば私がやったのよん。キミの能力を参考にね」
「どおりで♦︎ しかもボクに気付かれずに全てのカードにやるなんてね?」
「興味はもってくれたかな? でもそれは私もなんだよなぁ。だからさ、キミ、これから私と一緒に来ない?」
「魅力的なお誘いだけど、ボクはこれから行かなきゃならない所があるんだよねぇ…☠️」
「うふふ…それなんだけどさ、私は
「へぇ、それは凄い♣︎ …でも何でまた?」
「一言で言えば、気に入った。楽園の人間ごときにそこまでの魂を持つ奴が出るのは本当に珍しいのよ。所謂スカウトね。待遇だけど、丁重に扱う事を約束するわ。3食昼寝付き、自由に戦闘を楽しむ夢のような暮らしが待ってるわよ? 地獄の責苦とは文字通り天地の差ね」
「なるほど、とっても魅力的♦︎ でも残念❤︎ ボクは誰の下にも付かないって決めてるんだよね♠︎」
「ふふ…一筋縄じゃあいかないわね。面白い。じゃあ契約ってのはどう?」
「契約♣︎」
「そう、配下ではなく契約。私と一緒に楽しい楽しいゴミ退治ライフを送りましょ? 貴方の大好きな戦闘も事欠かないわよ? それに…私の管理してる所にいれば、貴方の想い人にも逢えるかもね?」
「……それ、いいね❤︎ キミとも闘れるって事かな?」
「勿論いいわよ? ただし私は超強いからね?」
「くっくっくっ……思わぬ所で楽しみが増えたよ♠︎ まだまだ遊べるなんてねぇ❤︎ じゃあこれからよろしく♦︎」
「よし、契約成立♪ じゃあ私の手を取って。あ、一応言っとくわ。貴方、魂崩壊しかかってるから復活後しばらくは魂含む全身が想像を絶する苦痛に苛まれるだろうけど」
「
「躊躇いもしないとは流石ね♪ というか、今現在でも苦痛が酷いはずなのにおくびにも出さない。そんな貴方だからこそ、選んだ価値がある……私を楽しませてね」
「ふふ…喜んで♦︎ 強い強い神様❤︎」
──そうして、1人の死者は暗い十字路で契約を交わした。冥界の神と大罪を犯した元死者。彼らの出会いは、新たなる神話の1ページを刻む事となった。
◇
「チッ…疼く闘いをしやがって」
怒りに燃えていたはずのイヴリスがそんな感想をこぼす。それは夜空に煌めく流星同士が衝突したかの如く。ただの超巨大な力同士のぶつかり合いではなく、緻密に計算され尽くした技の遣り取り。その様は、見る者にしても美しいという場違いな感想を抱かせるものであった。
「なるほどな。良い物を見ることが出来た。これを余のしばしの指針としよう」
「ウム。ワシもまだまだ修練が足りん。改善の余地が見つかる事は喜ばしい事じゃな」
イヴリスの張った結界内でメルエムもひとりごち、ネテロも賛同する。目にも殆ど見えず、時空間すら歪ませられる程の超高速の激突は、その実シンプルであった。
即ち、如何に相手を上回るかという意志。そしてそれを実現する技と体である。
「凄いね…僕とはケタ違いだ」
「そうだな。少なくともレベルが一桁違う。だからこその救世主というわけだ」
カルトとクラピカも感心しながら賛同する。
「まぁ、確かにスゲェな。スゲェが…アレがカームのいい所でもあり悪い所でもある」
「ん。ジンもそう思うのね」
「ああ。アイツはオレ達とは根本的にスタンスが違うからな」
ジンの発言にゴンが食いつく。
「えっ? ジン、ビスケ、どういう事!?」
「ん? 今言ったそのまんまだぜ。アイツのスタンスがオレ達とは違うって事よ」
「もっと言うと、カームは私達ハンターとは在り方がまるで違うのよ」
「そうか? そうは見えねーけど?」
「キルア、お前は勝てそうもねー奴と闘わざるを得ない時、どうする?」
「いや、何としても避けるだろ」
「それでもどうしてもってなったら?」
「……ありとあらゆる手段で回避するか、上手く交渉だな。んで弱点があればそこを付く。能力・人脈・環境も含めてフル活用するな」
「そう。それがハンターだ。下調べや地の利、発想の転換…ありとあらゆる可能性を取捨選択して万全にした上で獲物をゲットする。基本だな。だが、アイツは違う」
「ん〜そうかなぁ。割と考えているようだけど」
「戦闘に関しちゃな。オレ達が言ってるのはそれ以外の話だ。アイツはその能力故か、又は本人の嗜好か、かなり行き当たりばったりなトコあるだろ」
「ヘビの時もそうだけど、どうも脳筋思考っていうか頭が固いって感じよね…我々だったら普通に死ぬわよ」
「そこがアイツのいい所でもあり悪い所だ。良く生きてたもんだぜ。その分、戦闘技能に関しちゃ右に出る奴は中々いねぇがな。よく言や体験して覚えるタイプだ。それはそれで才能なんだろうがな。だからゴン、奴の戦闘技能を参考にするのはいいが、方法論はマネすんじゃねーぞ。死ぬからな。アイツが今相手にしてる奴、アレも
確かに現時点での総合的な力量はカームが上だろう。しかし、それを踏まえながらも、様々な体術や技術で翻弄している。そして、それを喰らいながらも対応してそこから上回り始めるカーム。それすらも罠として利用する敵。
「……何となく分かったよ。敵からすれば本当に厄介な相手だよね」
「それな。
「それで終わったら更にパワーアップしちゃうんだから、もうなんか手がつけられないよね…」
「そうだな……今更だけど、カームの相手、アレ完全にアレだよな?」
「うん。間違いないね」
キルアがゴンに確認するが、ゴンはその闘い方、オーラの質、雰囲気など、姿形はまるで変われども、カームの相手が誰なのかはバレバレだった。
「「何やってんの(だ)、ヒソカ」」
◇
戦闘が激しくなるにつれて、徐々に拘束具や包帯が剥がれてゆく。中から覗くのは土気色のカサカサな肌、瞳の無い眼窩、縫い付けられた口。一言で言えばミイラそのもの。だが、その戦闘スタイルは忘れもしない。自分の宿敵そのもの。その天性のセンスはいささかも曇らず、更に洗練されてきている。
それ故に、苦戦している。お互いがお互いを知り尽くしているからだ。彼は遊んでいる。それでも苦戦する。全くもって変わらない。相変わらずの変態だ。その目の無い窪みと口元で満面の笑顔を浮かべているのがありありと伝わる。それはオーラからも如実に伝わってくる。本当に度し難く、理解し辛い。
「──確かにまた、とは言った。だがいくらなんでも早すぎないか? なぁヒソカ」
「…………❤︎」
互いの全てをかけた死闘。その末に地獄送りにしたはずの宿敵。まさかこんな場所で再び対峙する事になろうとは流石の彼も思いもしなかった。
「……ふぅ。参ったよ…よーく分かった。このままでは埒があかない。だが、今度こそ君を確実に地獄に送り返す。それが私の責任だからな」
決意とともに宣言したカームを中心に〝力〟の凝縮が始まる。力の奔流は渦を巻いてカームに集結し、それはカームに纏わりつくと同時に羽衣と翼を顕現させる。
「なっ! バカ野郎! こんなトコでそんな大出力かますんじゃねー!!」
「こりゃあ…余波でも喰らうとマズいのぅ」
大慌てでジンとネテロが〝聖光気〟で追加の障壁を張る。他の面々もそれぞれで防御態勢を取り始めた。
一方で、敵はその様子を愛おしげに眺めると、懐からトランプカードの束を取り出して、念を込め、宙に浮かべた。それが見る間に巨大化し、カームの前に壁を作る。計54枚の防壁、それで正面から受け止める気だ。
カームはそれを見ながら尚、出力を上げ続け──
「──出力最大!! 喰らえ──」
「ちょっ、ちょっと! そこまで! 止めーー!!」
どこからか焦った様子のへカーティアの声が響くが、その声に構わず超巨大な力の奔流が解き放たれた。カームを中心に極太のレーザービームのようなオーラが放たれ、敵の巨大な壁に衝突する。インパクトの瞬間、凄まじい衝撃が波になって周囲を襲った。
カームの攻撃と敵の防御は一瞬拮抗した。しかし、次の瞬間には壁はガラスの様な音を立ててあっけなく次々と破れてゆく。カームのビームはその都度壁に止められながらも突き進んでゆく。
──残り30枚
──残り20枚
──残り10枚
──残り5枚
──残り3枚
──残り1枚
威力をいくばくか減衰させながらも尚超威力のソレは、敵のあらゆる防御を食い破りながら進む。最後の一枚。そのカードは道化師。それから感じるオーラは他とは一線を画していた。敵も並々ならぬ力を注いでいるようだ。
だが、それでも──
◆
冥界を大きく揺るがす爆発の後、煙が晴れると、広大だった空間は見事に瓦礫の山と化していた。カームはその瓦礫の上に浮かびながら苦い表情を浮かべている。
その証拠に──
「こらー! いくらなんでもそれは卑怯でしょー!?」
「…………☠️」
瓦礫の中から二人の人物が姿を現す。包帯と拘束具がほぼ取れて、ミイラ状態の先ほどまでの敵と、ボロボロになったへカーティアである。
「…………そちらこそ。横入りは卑怯では?」
「あのねぇ! 私はちゃんと止めって言ったでしょ!! ちゃんと聞いときなさいよ! 大体いくら星の英雄でも【原初の力】をそんなに借りちゃ卑怯だわ! 危うく苦労してスカウトしたこの子が消えちゃうトコだったじゃないのよ!!」
「真剣勝負と言ったのは君だが?」
「うっ…まぁ、そりゃそうだけどさぁ…!」
「へカーティア。勝負はついたな。約束は守れよ?」
イヴリスが青筋を立てながらへカーティアに迫る。返答次第では即攻撃に移る構えだ。他の面々も同じように戦闘態勢を整えている。
「……はぁ~…しょうがないわね……わかったわ。まぁ、ナナシの試運転が予想以上に出来がよかったからいいわ。これ以上ここで暴れてもらっても困るし、ここまでにしとく。しっかし、ここまで仕上がった英雄だとは思わなかったわ。神との混血でも無いのによくやるわ」
「で、どうする? 呪いを解除するのか解除しないのか、どっちだ」
「とりあえず地上に出てくれる? もう一人の私が上で待ってるから。そこでね。ご褒美に私も遊んであげるわ」
そう言い残し、彼らの姿が薄くなり、消えた。怒りに震えるイヴリスをなだめながら、一行は来た道を戻る。途中で冥王に挨拶し、帰る旨を伝えると、冥王は疲れた様子で溜め息をついていた。彼も彼で苦労しているようだ。あの空間を修復するのにかなり手間が掛かるとぼやいていたが、こちら側としても知ったこっちゃ無いので、皆曖昧に頷きながらその場を後にした。そして一行は、船に乗って川を渡り、長い自然の階段を上り、地上を目指す──
◆
「くぁ~~~! やっぱ娑婆はいいぜ!! もう二度と行かねぇ!」
「独特の雰囲気だったからな。私も多少は縁があるとは言え、居心地は良くなかったしな」
「当たり前だろ。本来は死人が行くところだ。居心地良かったら逆に困るぞっと……我が領域についたな。あのクソ女神、これで約束破ってたら今度こそマジで冥界を破壊しに戻ってやる」
物騒なことを言いながらイヴリスが居城の謁見の魔の扉を開けると──
「あっ、おかえり~。早かったね?」
そこには、豪華なソファに寝転んで本を読みながらジュースを飲んでくつろいでるへカーティアの姿があった。
「おいコラ。バイザク、これはどういうことだ?」
「お母様…助かった…! このクソ女神、早く何とかしてください!!」
涙目で訴えるバイザク。哀れにも一人で対応していたらしい。再びこめかみにビキビキと青筋を立てるイヴリス。
「一応聞いといてやるが…テメェ、約束守る気は…あるんだよな?」
「もちろんだよ~。私は薄汚い魔王どもと違って約束はしっかりと守る女だからね?」
「よし。死ね」
流石に我慢の限界を超えたイヴリスが超速度で殴りかかる。しかし、へカーティアはその拳を直前で受け止めた。その衝撃波で哀れにもバイザクは吹っ飛ばされた。
「やるって言ってんのにせっかちだな~。もー、ちょっとそのままね…ほいほいのほいっと」
ビキビキと音が立つくらいの物凄い力で拳を押し通そうとするイヴリスを、これまた物凄い力で握りながら会話するへカーティア。しかし、へカーティアの言葉が終わると同時にイヴリスの胸から無数のオーラの蛇が飛び出し、へカーティアに吸収される。その瞬間、イヴリスの力が桁違いに上昇し、止められていた拳を押し通してへカーティアの顔面をぶち抜いた。
本来なら魂ごと消滅する勢いのパンチを喰らっていながらも、へカーティアは2、3メートル吹っ飛んだだけで空中で体勢を立て直す。
「もーだから、せっかちだって。解除したでしょ? 殴られてやったのはサービスね。じゃ、相手してやるから掛かっておいで」
「上等だぜ……!! 地獄でオレ達に詫び続けろ! へカーティアァァァ!!!」
◆
結論から言えば──へカーティアは並大抵のレベルではなかった。イヴリスとて長年の呪いの影響で弱体化していたとはいえ、現時点でカームよりも強い。しかし、それに対して圧倒的に上回るへカーティアは、戦の神と言っても納得の強さであった。その闘いは三日三晩続き、イヴリスの万魔殿が半壊し、周辺地域が大幅に耕された。
初めはイヴリスも押されていたが、段々と調子を取り戻していったのか、互角に渡り合っていた。そして──
「だーー!! このクソ女!! いい加減くたばりやがれ!!!」
「やーだね〜! ……ていうか、いいかげんそろそろ飽きてきた。もうやめない?」
「………チッ……大体テメーはここでブチ殺しても意味がないしな。オレも飽きた。一旦やめるか」
「お? やっぱバレてた。まぁこんだけ闘ったらもういいでしょう。じゃあ今後について軽く決めときましょ」
激しい殺し合いをしていた2人だったが、あっさり矛を収めて半壊した万魔殿へと向かう。この辺の感覚が超越種という所なのだろう。
しばらく後、急造した円形のテーブルに全員が座る。
「とりあえず、私は前も言ったけど、もうあんた達をどうこうする気は無いわよん。目的は達成したしね」
「……フン。どうせ
「ご名答。貴方達は増え過ぎた。余りにも魔王が増えれば、星がバランスを崩す。そうなればどうなるか貴女も知ってるでしょ? ゾバエも鬱陶しいタイプの魔王だったし、丁度良かったのよ」
「抜け抜けと…! だが、まぁいい。まんまとやられたオレ達もアホだった。で? 何故オレを見逃した?」
「そりゃあ、最終的にゾバエ殺したし。それぐらいのご褒美はあってもいいよね」
あまりの上から目線に再びイヴリスがビキビキと青筋を立てる。しかし、当然のようにその雰囲気を崩さずへカーティアは続ける。
「ま、私としては滅ぼしても良かったんだけど〜。そうなるとちょーっと大変になりそうだったからね」
そう言いながら、彼女はこちらをチラチラと見る。
「へっ。楽園での暮らしも無駄じゃなかったって事か。ざまぁねぇなクソ女神」
「まぁね…最初は諸共滅ぼす気だったんだけどな〜…流石にこのレベルの英雄連れて来るのは予想外だって。ま、その分私も収穫はあったんだけどね」
「あぁ、あのミイラ野郎か。ありゃ何だ?」
「そこの星の英雄の敵対者だった人間ね。地獄行きの所をスカウトして契約したわ」
「契約?」
気になったのか、カームが思わず口をはさむ。
「そう。私と一緒に魔王をブチ殺して回ることを条件に地獄行きから解放してるの。ま、その代償として様々な機能が失われてるけどね。今の彼、五感及び、魂も中途半端だから絶え間ない苦痛に晒されてるわよ」
「な……なぜそこまでして」
「さぁねぇ。大方現世に愛しい人でも残してきたんじゃないの~? 私は助かるけどね?」
ニヤニヤしながらこちらを見てのたまう女神。だが、彼ならあり得るかとカームはうんざりした様子でうつむく。
「ま、ターゲットを倒すごとに徐々に機能が戻っていく。そういう契約だからね。いずれは完全な状態になるかもね。その前に再び死ぬかもしれないけど」
「なんつー理不尽な奴…これが神ってか」
「神に期待しすぎだ。大体の奴はこんなもんだぞ」
「ま、そういうわけで、優秀な仲間が増えた私は、これ以上あなたには手出しはしないわ。別の奴らと遊んどくから。
「そりゃありがたいこった。いずれ態勢整えたらこっちからブチ殺しにいくから首洗って待ってろや」
「ふふ、じゃあ精々油断しないことね……楽しかったわ。久しぶりに大暴れできたし」
「おう。次あった時は今度こそ仕留める時だからな。精々楽しんどけ」
イヴリスと軽口というには物騒な言葉を交わし、女神ヘカーティアは立ち上がる。そのまま立ち去るかと思われたが、振り返り、カームに言葉をかけた。
「あぁ、言い忘れてたけど、貴方が
「!? なぜそれを……」
「私は曲がりなりにも神よ。わからいでか。いずれ万全になった彼ともまた会えるといいわね。それじゃ」
そのまま顔に微笑みを湛えながら今度こそ女神は万魔殿を後にした。
◇
「……さっきのはどういうこと?」
カルトがカームを問い詰める。ビスケもクラピカも気にはなっているようだ。カームはどういおうかと迷っていると、イヴリスがあっさりと答えを告げる。
「あぁ、ゾバエに捕まって取り込まれてた奴がいただろ? あいつをこの〝救世主〟殿がゾバエごと吸収して、身体の中で復元してたんだ。そうだろ?」
「……は?? マジ!? 貴方、なんでそんな大事なこと言わないのよさ!!」
「い、いや、まぁそれを言われるとなんだけど、自分でもできるかどうかわからなかったし……」
「もう……心配かける前にきちんと説明して」
「そうだぞ。万が一があったらどうするつもりだったんだ?」
3名からの総突込みにタジタジになるカーム。残念でもなく当然である。
「あぁ、例のあの天使か。さすがにオレでもその発想は無かったな。お前、ゾバエと一緒にずっと取り込んでたのか。流石に呆れるわ」
「まぁ、ダメ元でしたけどね。どうやらうまくいきそうなんですよ。そろそろとりだせるかなーって」
「もう突っ込むのはやめにするべきかしらね……」
「すごいね! カーム!! 確かにかわいそうだったし! 助け出せそうなんだ?」
「あぁ、そろそろいいかもな。やってみる」
カームは皆から離れ、自分の身体の中心に貫手で体内深く差し込むと、メリメリ、と音を立てながら身体を観音開きにし始める。
「お、おい、グロいのはやめろよ!?」
キルアの突っ込みにも反応せず、そのまま体を自ら引き裂くのをやめない。しかし、不思議なことに出てくるのは臓物ではなく光だった。カームが身体を開くごとに周囲に光が満ち溢れ、やがて眩い光と共に一対の翼を持った女性が顕れた。
「……ふぅ。良かった。上手くいったな!」
「「「………」」」
満面の笑みでいい汗かいた的な雰囲気を醸し出すカームに対して、ジト目で両者を見つめる三人娘。一方の天使は、何が起きたか分からない様な表情で呆然としていた。全裸で。
思わず目を逸らすキルアと、すぐさま身体を隠す布をかけてあげるゴン。しかし、そのゴンに対して彼女はビクリと震え、カームにひしりと縋り付く。
「使徒様……」
その行動に女性陣からの圧が更に強まるが、カームはそっと彼女を離し、語りかける。
「無事に助け出せて良かったよ。辛かったね。キミはもう自由だ」
すると、そこまで呆然としていた彼女は突然頭を深々と下げだした。
「こ、この度は、お救いいただきありがとうございました…。私ももう、あのまま消滅するか、あの魔王と共に同胞を狩り続ける装置と化していた所です…。使徒様…本当に感謝いたします…!」
「あぁ…いや、私も出来るかどうか分からなかったからさ」
そこまでは良かった。しかし、その後に更に深々と頭を下げながら続く言葉で彼女は爆弾を落とす。
「そこで…大変厚かましいようですがお願いがあります。私を貴方の守護天使にしていただけないでしょうか?」
「「「!!?」」」
「……? それはどういう事かな?」
「カーム! 聞くんじゃないわさ! アンタ! 助けてもらっといて厚かましいにも程があるわよ!!」
「そうだよ! いきなり現れて何様なのさ!!」
「油断もスキもないな。わざわざカームに助けてもらったのだから、そのまま自分の国に帰ればいい」
3人は不穏な気配を察知し、あからさまに警戒する。しかし、カームはそれらを宥め、続きを促した。
「何故、と聞いていいか?」
「あ、ありがとうございます……私は、任務中におめおめと悪魔に捕まり、その際多数の同胞に手を掛けました…最早このまま帰っても針の筵どころか良くて堕天、悪ければ処刑もありえます。ただでさえ心配しているであろう
「…………」
「ですが! 貴方程の唯一神に近しい使徒様の守護天使になれば! 兄を悲しませないですみます! それに、冥界の神も言っていたように、私がそうなれば貴方のそのお力も大幅に引き出せます! だからどうか…どうかお願いいたします…」
「……カーム…あのさ」
「カルト、ごめん。少し私に話をさせてくれ」
カームが珍しくカルトの言いかけた事を遮り、天使に向き直る。
「まず……キミに聞きたい。先程の話、嘘偽りは無いか?」
「無論です! 我々にとっては虚飾は大いなる罪! それだけで堕天しかねません!!」
「分かった。では、答えて欲しい。キミにとって、一番大切なのは何だ?」
カームが真剣な顔で問い詰める。その表情は、誤魔化しは許さないと言った真剣なものだ。だが──
「兄です。幼い頃から私達は共に過ごしてきました。極論、私自身は堕天しようが封印されようが、処刑されようが、どうでも良いのです。ですが…! 兄だけは悲しませたくありません!!」
ノータイムで答える天使。そこには一点の曇りもない。それを確認し、カームは口を開く。
「分かった。受け入れよう」
「カーム!」
「ただし! 条件がある。まず、ここにいる彼らと私は大事な仲間だ。粗末に扱ったり、蔑ろにしたりする事は決して認めないし許さない。キミにとっては宿敵でもあろう魔王もいるが…守れるか?」
「うっ……でも、貴方がそう仰るのであれば、必ずそうします!」
「なるほど。決意は固いようだね。では、私からは文句はないよ」
そうして、カームは会話を打ち切った。その表情から、彼はもう既に完全に受け入れてしまった事を察したビスケ達は溜め息と共に諦めた。彼が如何に家族を大事にしたいかを知っていたからこそ。しかし、それはそれとして彼女に伝えなければならない事もある。
「……カームがそういうならば仕方ない。だが、我々からも条件をつけるね。カームは私達と
「そっ、それは……ッ! ど、努力します……」
「……はぁ〜。やっぱりこうなるか…そもそも彼の身体の中にいたんだろうし…羨ま、もとい、仕方ない。だけど、キミはまだまだ信用ならない。この後の行動で判断させてもらうからね。カームもいいね? 僕らがこのコを信用出来ないと判断すれば放逐で」
「あぁ。分かったよ」
この辺が落とし所なのだろう。それを察した天使もあからさまにホッとした様子であった。
「──では、これからよろしく頼むよ。私はカーム=アンダーソン。
「はい。こちらこそ、よろしくお願いいたします。私の名は───」
ヘカーティア
・\変T様!/
冥界の女神。とある世界線から出張なされた。ただ、この小説では原点のヘカテーと混じっているので、ちょっとオリジナルとのブレンド。
老婆、妙齢、少女の三つの身体と顔を持つ女神であり、夜の十字路に現れるという。三界の支配者であり、冥界の女神。冥界ではペルセポネの従者という立場ではあるが、その秘めたる力はどの神をも凌駕する程の強さで、巨人戦争時には、神では殺せない筈の巨人の長の1人を松明で撲殺するという意味の分からない逸話をもつ。つよい。
彼女は基本的には冥界にいるが、たまに地上に出て、魔王退治をしながら好きに過ごしている。最近お気に入りの魂を発見してスカウトしたため、テンションが上がっている。
その昔、ゾバエと一時的に手を組み、クーデターを起こさせて、当時強大だったシャイターン族を壊滅させた。当然、ゾバエも駆除対象ではあったが、見逃したイヴリスにやらせた方が面白そうと判断し、手を組んだフリをしながら放置した。相打ちか、ゾバエを弱体化させれば万々歳だと思っていたら、まさか、戻って来てしばらくしたら極まった人間の英雄とその仲間を連れて来るとは思わず、イヴリスが生き残るという予想外の結果となった。しかし、前述したスカウトの件でテンションが上がっており、まぁいいかの精神でイヴリスの呪いを解き、しばらくは退治しないでやるという気持ちになった。現在はナナシの調整と育成に夢中になっており、楽しいゴミ退治ライフを満喫しようと考えている。