アンブレイカブルハンター【完結】   作:エアロダイナミクス

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外伝12、守護者の切り札

 

 

 

 

 

 

 その攻撃を受けた瞬間、今まで何も通用しなかったペイモンの身体が凄まじい打撃音と共に吹き飛び、住宅街の方へと消えていった。同時に、今まで街を覆っていた霧が晴れ、温かな光が差し込む。

 

 

「アル坊、待たせたな…すまなかった」

 

「…………」

 

 

 アルカは反応を返せなかった。目の前で死んだ親しい人々、その衝撃はいかに暗殺者といえども簡単には制御できるものではない。

 

 

「あのクソ野郎……だが、ミルキはまだ大丈夫だ」

 

 

 レオリオが、その掌から極光を放ち、ミルキだったモノへと照射する。すると

 

 

 ゴキゴキゴキ…

 

 

 

 捻じられた身体が復元していき、数瞬後には完全に元通りとなった。

 

 

「………! お兄様!」

 

「うっ……ぐうっ…キツイな……死ぬってのがあんなにキツいとは……」

 

 

 

 すっかり元通りになったミルキにアルカが飛びつく。ミルキはキツそうな顔をしながらも、彼女を愛しそうに撫でる。

 

 

「……無事で良かった」

 

「お兄様……ごめんなさい」

 

「大丈夫だ。助かったからいい……すまないな」

 

「レオリオ……ありがとう」

 

 

 おずおずとレオリオに礼を言うアルカとミルキ。今までそんな事は無かったので、レオリオもあたふたとする。

 

 

「お、おぅ。待たせて悪かったぜ……他の面々は?」

 

 

 その言葉を聞いて再び顔が曇るアルカ。後方を指差し、頭を振った。それを見て、レオリオが察する。

 

 

「……クソっ。間に合うか…?」

 

 

 レオリオから凄まじい光が放たれ、周囲を照らし出す。そして見つけた。

 

 

「……ひでーことしやがる…よし。身体は元に戻した」

 

「生き返ったの!?」

 

「……身体は戻った。だが、魂が見つからねぇ」

 

「そんな!」

 

 

 そこに、カポカポと音を立てて悪魔が戻って来た。

 

 

「来たか、〝救世主〟。思った以上に早いな。もっと遊べると思ったのだが」

 

 

 凄まじい音量だったペイモンの声が、普通に戻っている。レオリオの〝聖光気〟が、闇を祓ったからだ。

 

 

「あいにくテメーみたいなのはお呼びじゃないんでな。あと、()()()()()()()()()、返してもらうぜ」

 

「ほう? 気づいたか。だが、お前にはやらん。我が眷属を呼び出す為の贄なのでな」

 

「んな事に使わせるわけねーだろクソ野郎。どうせテメーの身体の中だろ。切り開いて取り出してやんよ」

 

 

 レオリオが懐から純銀のメスを取り出した。彼が滅多に使わない得物。それは、彼が全力の戦闘を行うという決意の表れである。

 

 

「楽園の〝救世主〟如きが私に敵うとでも思ったか? ならばその思い上がり、正してやろう」

 

 

 ペイモンから莫大なオーラが放たれる。それを見て、レオリオは僅かに冷や汗をかいた。

 

 

「チッ……もっと鍛えときゃよかったぜ…だが、必ず返して貰うかんな! 2人とも、離れとけ! 後、アイツらの身体を回収しといてくれ!」

 

 

 2人は、レオリオに向かって頷き、その場を素早く離れた。近くにいたら巻き込まれる。これより起こるのは神話の闘い。

 アルカは、離れながらも彼の無事を祈る。彼こそが、この世界の〝救世主〟であり、〝人類の守護者〟なのだから。

 

 

「……どうか無事で……」

 

「おう。任せろ」

 

 

 つぶやくようなアルカの声に対し、そう力強く宣言した男の背中は広かった。彼なら何とかしてくれる。そういう安心感があった。この世界の実質的な王。しかし、その実態はぶっきらぼうで気のいい、不器用な男である事を、彼女は知っている。そんな彼が再び世界の命運を担う。

 

 

(敵わないな)

 

 

 離れながら彼女は想う。あんな、世界を破壊し尽くすような〝力〟を持つ存在に、その身一つで立ち向かう。人類全ての希望を背負って。その重圧は計り知れないはずだ。しかし、彼は普段の様子を崩さない。あまりにも格上過ぎて、分からない部分も多いが、恐らくはペイモンの方がレオリオよりも遥かに上だろう。それでも、臆したり、弱音を吐く事はなく、こちらの事を気遣う事すら出来る。

 

 その在り方こそが、自身には無い部分であり、それこそがレオリオの強さだろう。

 

 

(並び立ちたい)

 

 

 越えるとまでは言えない。でも、少なくとも共に闘えるぐらいには。だからこそ、祈る。彼の無事を。

 

「……終わったら、手合わせをお願いしよう」

 

「アルカ?」

 

「ううん、何でもない。お兄様、急ぎましょう」

 

「あぁ。分かってる──」

 

 

 

 

 その背後で、莫大な力の奔流が巻き起こり、周囲一帯が灰燼と化した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 激しい打撃音が響き渡る。その力は人間の出力ではあり得ないレベルの激突であり、その余波でもキロ単位の周囲での破壊が起きる。

 

「クックックッ……厄介、厄介ではあるな〝救世主〟。お前にはこちらの権能がほぼ通じん。実に厄介だ。しかし、無敵ではない。物理的に潰せばよいからな」

 

「…………」

 

「厄介と言えば、その回復能力もそうだな。元から癒やし手だったのだろう? だがそれもいつまでも続くものでもあるまい」

 

「……ご名答、カマホモ野郎。だがな、オレは負けねぇんだ」

 

「力の差を分からぬ貴様ではあるまい……あぁ、そうか、龍神が私を連れ戻すのを待っているのか? そうだとしたら残念ながら叶わない夢だ。ニンゲンが私を喚びだした時点で、奴との合意が済んだ扱いになるからな」

 

「……そうかい」

 

「当てが外れたか? 〝救世主〟よ。並び立つ者がいないが故の悲劇か、お前は我等に比べれば弱い。よって、この私に無様に蹂躙されるのだ」

 

 

 ペイモンの言った通り、状況はよくない。いや、かなり分が悪い。確かに権能は彼には通じない。だが、全ての攻撃を無効にできるわけでも無いのだ。レオリオも〝聖光気〟を習得してから、その力の使い方を修行してきた。しかし、彼には王としての立場もある。そして、一番の問題は、彼に並び立つ者がいないという事。

 前代のカームは、習得してからも、すぐさま極大の神との戦闘や、巨人、ドラゴンと、死ぬ気でやらなければ勝てない相手との連戦であった。だが、彼はそうではない。平和なメビウス湖。そこで彼に勝てる者はおらず、寄せ付けることすらなかった。そのツケが、彼に今降りかかっている。

 

 

 彼我の差は、低く見積もっても概算で5倍以上。それ程の差があれば、物理攻撃だけでも容易く蹂躙されてしまう。その上、いくら回復したところで、敵を倒せなければ意味が無いのだ。

 

 

「そのちんけな武器では、私を殺すどころか傷つけることすら叶わんぞ? それに、見てみろ。お前の守るべき民が、この戦闘で大勢死んだぞ」

 

「ケッ。そいつ等はテメーの信望者じゃねーか。この期に及んで逃げねー奴なんざオレが救う義理もねぇ」

 

「ククク……彼らの魂は喜んで私の糧になっているがな……だが、それでもお前の守るべき対象だろう? 大変だなぁ、〝救世主〟は……さて、そんなお前に一つ、絶望を見せてやろう」

 

 

 

 そういうと、ペイモンは片手を空に向ける。そこに莫大な量のオーラが纏わり付き、そして空に放たれる。すると、上空に巨大な暗黒の渦が巻き起こる。

 

 

「水と風と土の秘技。見せてやろう。お前には効果が薄いが、他の者はどうかな? お前が逃がしたあの女達、とかなぁ」

 

「!!! やめろッ!!! クソッ!!!」

 

 

 レオリオは急いでその渦に〝聖光気〟のオーラを放つ。しかし、あまりにも巨大な渦は消えること無く存在し続ける。

 

 

「【滅びの呼び声(ディザスターストリーム)】」

 

 

 その渦の中心から獣の顔を模した雲が生まれる。そして、その獣が高らかに咆吼すると、人ほどの雹と真空の刃が降り注ぎ始めた。

 

 

「くっ…テメェ!!」

 

 

 レオリオは急いで〝聖光気〟を周囲に張り巡らし、その雹と真空の刃を受け止める。しかし──

 

 

「いいのかな? それで」

 

「なん……ッ!!!」

 

 

 再び、渦の獣が咆吼すると、その口元から超巨大な隕石が生まれ、地表へと墜ちてきた。

 

 

「ふ、ふざけんな! この街の信者ごと全部殺す気か!!」

 

「構わんよ。何故ならば、彼ら自身がそう望んでいるんだからなぁ」

 

 

 ニヤニヤと嗤いながら、ペイモンが言う。その隕石が加速をはじめた。ソレが轟音をたて、凄まじい勢いで地表に激突する瞬間、レオリオは落下地点へ急行し、その身を挺してその隕石を受け止めた。だが、そのエネルギーは凄まじく、ほんの少し勢いが止まったが、やがてレオリオごと飲み込み、激突した。その衝撃は、先ほどまでの戦闘と比較にならず、周囲5㎞へと衝撃が伝わり、その数瞬後には、恐ろしい程の風圧の壁が周囲に広がり、建物含む全てを吹き飛ばした。それでも、その程度の被害に収まったのは、レオリオが身を挺して威力を減衰させたからだ。しかし、その代償は大きかった。

 

 

「……ククク……ハハハハハ!! 〝救世主〟よ。お前の弱点は、同胞を救わずにはいられない所だ! お前からすれば敵でも救わざるをえん……無様だなぁ、〝救世主〟!! ハハハハハ!」

 

 

 クレーターに向かってペイモンが嗤う。その中心には、自慢の白いスーツを模した気鋼闘気がボロボロで、今にも消えそうになっているレオリオがいた。

 

 

「……クソ…」

 

「どうした? 回復しないのか? それとも、枯渇しかけか? ククク、そんな様子じゃあもう奇跡は起こせないなぁ……。おっと、いいことを考えた。そんなお前に、もっと絶望を見せてやろう」

 

 

 そう言うと、ペイモンの周囲に霧が立ちこめる。そこにペイモンは右手を突っ込んだ。そして──

 

 

「! アルカ!!」

 

 

 ペイモンの右手には、ボロボロのアルカの首が握られていた。そして、その周囲には引き寄せられるようにソフィア、メリル、ズシ、そしてミルキの()()が浮かぶ。恐らくミルキは庇ったのだ、再び死ぬのも厭わず、アルカを。

 

 

「ほら、お前の守るべき最後のニンゲンだぞ? 救ってみたらどうだ?」

 

 

 グググ…と徐々にその右手の圧力が強まる。

 

 

「カ、カハッ……」

 

「て、テメェ!!!」

 

 

 ボロボロの身体にも関わらず、レオリオは最速でペイモンへと迫り、アルカを奪還しようとする。しかし、ペイモンはその身をひらりと躱し、より力を込める。

 

 

「ほらほらほら、もうすぐ千切れるぞ。魂はすぐに回収するから無駄だぞ。そして、その後コイツ等の身体も修復できないように粉々にしてやろう。お前の女の首が千切れ取れる様を楽しむがいい」

 

「レ…オリ…オ……」

 

「…………」

 

 

 その絶望的な状況を見て、急に黙り込んだレオリオ。その様子にペイモンはもう絶望したかとその意気をあげる。しかし──

 

 

「いいか、クソ野郎。オレは、()()()()()()()。やるならやってみろ。それがテメーの最期だ」

 

 

 その表情は怒りに燃えてはいたが、絶望はしていなかった。その様子にペイモンはイラッとした。だが、同時にこの状況で逆転の目があるのかと訝しむ。レオリオの力量は正確に把握できた。隠している力があるのかというと、そうでもなさそうだ。その時、レオリオが戦闘中にずっと持っていた銀のメスが光るのが見えた。そう言えば、奴は自分に通用しないにも関わらず、ずっとアレを持っていた。銀は古来から闇祓いの力がある。しかし、その効果は精神体ならともかく、受肉した魔王からすれば誤差に等しい。なぜ、それでも持ち続けたのか。なんなのだ、あの光は──

 

 一瞬でそこまで考えたペイモンだったが、その銀のメスに危機感を覚えた。アレには何かある、と。そのため、今右手に持っている女を潰してから、その瞬間に奴のメスを奪おうと力をこめようとした、その時──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バチッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気がつけば、ペイモンの腕が瞬時に消滅した。そして、アルカの身体がどこかへと消えている。慌てて探ると、彼女は遥か離れた場所で金髪の青年の腕に抱かれていた。

 

 

「!! 貴様! いつのまグペッ!!!」

 

 

 黒髪の青年がいつの間にか背後に立ち、その顔面を吹き飛ばした。慌てて復元するペイモンだったが、今度は四方八方から襲い来る、極大のオーラが込められた紙吹雪に細切れにされた。

 

 

「な、何だ!? 何がおきt」

 

 

 周囲に現れた複数の念人形に復元したての肉体が再び原形を留めぬほど破壊される。

 

 

「や、やめr はぐぉ!」

 

 

 目の前に現れた巨大な〝眼〟。その眼がどこまでも紅く、妖しく光る。その原初の王の系譜である瞳は、召喚されて弱体化している魔王にも通った。そして──

 

 

「取り出せたぞ。生け贄にするつもりだったからまだ喰っていなかったようだな。間に合ってよかった」

 

 

 目には見えない魂。それを4つほどその手に抱え、右横に現れた冥王の子孫は微笑む。その目線の先には、再会を果たした兄妹がいた。救われた少女は、これまで誰にも見せなかった涙を流しながら、金髪の青年の胸に顔を埋める。

 

 

 

「お兄ちゃん……逢いたかった…ずっと、ずっと……!」

 

「ごめんな? アルカ。でも、本当にがんばったな」

 

「うん…うん…私、がんばったよ…お兄ちゃんに逢いたくて…!」

 

「あぁ、分かってる。お前とミルキには負担を掛けちまった…積もる話もあるが、まずはお前をこんな目に遭わせたクソヤローをぶっ殺してくる」

 

「う”ん…ま”っでる”」

 

 

「お、お前等はなn」

 

 

 瞳の瞳力に漸く抵抗し、言葉がでるようになったペイモンに、凄まじいエネルギーの雷が降り注ぐ。

 

 

「ガガガガガガガガガガ!!!!」

 

 

 断続的に、執拗に、そして()()()()()()()()()()()()()で、降り注ぎ続ける雷。漸く停止した後には、黒焦げの物体が残されていた。

 

 

「キルア! 危ないよ!! もう少しで巻き添えだったよ!」

 

「兄さん、ちょっとこっちのことも考えてくれる?」

 

「あ、ダメだこれ、聞いてないな。珍しい」

 

 

「テメェ……アルカを虐めたな? こんなモンじゃ済ませねーから覚悟しろよ?」

 

 

 そこから、ペイモンが消滅する手前まで雷を連打して、消滅する手前で止め、復元し始めたらまた連打するという拷問が始まった。

 

 

 

「やぁ、久しぶりねぇ、レオリオ。とりま、〝奇跡〟で復活させなさいよ。魂があればできるでしょ?」

 

 

 8年前から姿の変わらない美魔女。実年齢◯◯歳。むしろ、あれから更にその美貌に磨きのかかった彼女が、変わらない口調でレオリオに告げる。その側にはいつの間にか運ばれた遺体が並んでいた。

 

 

「あぁ、助かった。流石にオレもダメかと思ったからな。早速やるぜ。オレもちょいキツいからな」

 

「アンタがサボってるからよ。言ったでしょ? 何時でも修行を忘れるなって」

 

「わーったから! じゃあ始めるぜ」

 

 

 そうして、早速〝奇跡〟に取り掛かる。しかし、彼の〝聖光気〟も枯渇して解除寸前となっていた。これでは〝奇跡〟が行えない。

 

 

「マズい…時間を掛けりゃ、ドンドン難しくなる…」

 

 

 思った以上に深刻な状況に頭を抱えたが、突然、彼の〝聖光気〟が以前以上の力を取りもどす。

 

 

「……! これは…!! そんな事もできるのか……何で〝アイツ〟、姿を現さないんだ?」

 

「あ”~~。それね……ちょっとまぁ、その~~」

 

「まぁいい、コレなら行けるぜ」

 

 

 そうして、レオリオから極大の聖なる光が4人に降り注ぐ。この秘技はレオリオしかできない。日々患者や怪我人を救ってきたレオリオならではの〝奇跡〟。死者の蘇生。魂と肉体さえ残っていれば、死から復活させることができる。

 

 

「ハッ!! ここは!? 私は死んだはずじゃ…レオリオさん!? と…誰?」

 

「お嬢様……! 生きて、生き返れてよかったぁ~~」

 

「……う…オレは死んだッスか……ハッ、あ、あの方は!!! やっぱりここは死後の世界!?」

 

「……二度も死んで生き返るとはな……もうこんなのはお腹いっぱいだ…」

 

 

 

 4人が再び復活する。死からの復活。その凄まじく貴重な体験を彼らは身をもって体験した。そして、それを成した人物が目の前にいて、更に、伝説の映像の中にいた人々までいて、彼らは混乱の極みに陥った。約1名、なんか絶頂しそうなほど興奮している奴もいたが。しかし、彼らは気付く。肝心な例のあの人がいない事に。

 

 

「……夢みたいね…まさか、本物に会えるなんて……」

 

「しかしお嬢様……それならば肝心の〝あの方〟だけが見当たりませんが……」

 

 

 その次の瞬間、彼らの頭上に神聖な特大の光が降り注ぐ。その光は、ソフィアを中心に広大な範囲で広がり、ペイモンが行った破壊を瞬く間に修復していく。

 

「──これは……」

 

 

 ミルキが呟くと同時に、彼の側に羽根がふわりと落ちる。見れば、輝かしい光の中心から、翼をもった美しい、それでいてどことなく扇情的な衣装を纏った天使が舞い降りてきた。その姿は美しくも戦いに適した姿であり、戦乙女といった風情だった。

 

 

「──人の子らよ。刮目せよ。使徒様の御降臨です」

 

 

 美しい声が響く。その声に合わせて、()が、上空から舞い降りた。

 

 

「──遅くなってすまない。さぁ、始めようか、魔王退治を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、そこに空気を読まずツッコむ人物が1人。

 

 

「……かっこつけて出てきてわりーけど、もうコイツ死に掛けだぜ?」

 

 

 彼の足元には、黒焦げでピクピクと蠢く物体がいた。逃げられないようにキルアに踏まれて押さえつけられている。

 

 

「………キルア、やり過ぎ。私もムカついたからとっといてって言ったじゃないか。まぁ、先に破壊を元に戻したから良いんだけどさ」

 

「あ〜わり。ちょい頭に血が上った。オレも大分落ち着いたからいいぜ」

 

「はぁ……まぁいいか。お前、よくも楽園に侵入して私の縁者を殺したな。それどころか楽園をメチャクチャにしようとしやがって…覚悟はいいな?」

 

 

 キルアから足をどかされたペイモンが、急いで身体を修復し、逃げようとする。しかし、光の壁に遮られ、絶望的な表情になる。

 

 

「──知らなかったのか? 私からは逃げられない」

 

「お前、それ言いたかっただけだろ」

 

 

 容赦無いキルアのツッコミをものともせずに、前代の〝救世主〟は続ける。

 

「昔会った、あのちっちゃくて可愛かったマイケルの子孫であるお嬢ちゃんに散々マウントとった挙句、無残に殺して、魂まで使い潰そうとしやがったお前はマジで絶対許さんからな」

 

「おーこっちもキレてるね。珍しい」

 

「まぁわからないでもないが」

 

 

 男装の麗人と黒髪の和服の女性が彼の様子にコメントを入れる。

 

 

「しゃーねーな。オレも気は済んだし、後は任せたぜ」

 

「早めに終わらせてね。オレもミトさんに会いたいし」

 

 

 金髪の青年と、黒髪の青年が続ける。そのコメントの直後、莫大な聖なる力の奔流が吹き荒れる。その力は、ペイモンの本体がある暗黒大陸でも中々見られない程の超ド級。ともすれば、彼が仕える堕天使達の長よりも──

 

 

「ばっ、バカな……! それ程の力がこの地に存在して良いはずが無いッ!! そんなの卑怯だろ!?」

 

「心配無用。ちゃあんと龍神とは〝オハナシ〟は済ませてるんでね。第一、お前が言うな」

 

「く……クソっ!! ふざけるなッ!! このペイモン! ただではやられはしないぞッ!!」

 

 

 ペイモンの姿が更に変形する。身体が10メートルを越すほど巨大化し、肌が硬質化する。顔が醜く歪んで角が生え、背中からはコウモリの様な羽が4対飛び出す。そして、そのオーラは先程よりも更に強まり、その巨体を浮かせる程の密度となった。しかし…()()()()であれば、彼の敵ではない。

 

 

 

 

 彼は、ベイモンの顔まで飛び上がり、「よっ」と、その顔を地面へと叩きつける。それだけで彼の変身は解かれた。

 続けて、彼の叩きつけた反対側の手に、聖なる炎を纏った、尋常ではない程のオーラが凝縮していた。逃げようとしても、万力の様な力に押さえつけられてびくともしない。

 

 

「ぐごご……ふ、ふざけるなッ!…こんな…こんな化け物どもが来るなんて聞いてないぞ…ッ!!!」

 

「ケッケッケッ。だから言ったじゃねーか。()()()()()()()()()ってよ! 持つべき物はやっぱり友だなぁ!」

 

「レオリオ…お前も変わらないなあ……」

 

「ケッ。綺麗事ばっかで世の中やってられっかっつーの! 勝ちゃいーんだよ、勝ちゃ」

 

 

 離れた場所で、レオリオが煽り、呆れた表情のクラピカと、昔と変わらないやりとりをする。一方、ペイモンはそれどころではない。どうにかして逃げ出せないかを必死で考える。だが、自分の本体に匹敵するか、もしくは上回る程の超越者が5柱も降臨している上に、極めつけに自分を押さえ付けるこの〝救世主〟はヤバい。ただの聖人とは比較にならない程戦闘力に特化している上に、守護天使までついている。本体で遭遇したとしても勝てるビジョンが見えない程に極まったコイツは、暗黒大陸で生存しているニンゲンに、偶に現れる〝英雄〟と呼ばれる種類の化け物だ。

 

 

 ──仕方ない。所詮は分体。本体が無事であればよい。

 

 

 

「──今、お前は分体だからって諦めたな?」

 

「!?」

 

「この炎は、【死】の概念。それを、これほど凝縮した攻撃を真正面から喰らった時に…果たして本体は大丈夫かな?」

 

「ま、まさか…待て! やめてくれ!!」

 

「ダメだね。お前もそういった懇願をされたときは断っただろう?」

 

 

 究極に近い力が、ペイモンに容赦なくぶち込まれた。断末魔の悲鳴を上げることすら無く、ペイモンは跡形も無く消滅した。周囲に大破壊が起きると思われたが、不思議とそうはならなかった。それは、概念攻撃故か、それとも〝救世主〟の力故か。

 そして、あれほど強大だった暗黒の気配がすべて消え失せ、周囲一帯が光に包まれる。

 

 

「終わったの……?」

 

 

 アルカの問いに、そばで見守っていた天使が答える。

 

 

「終わりました。あの様子なら本体も無事ではないでしょう。最低でも弱っているはず。私の兄あたりが喜んで滅ぼしに行くでしょうね」

 

 

 それに賛同するように、レオリオが呟く。

 

 

「……終わったな。ありがとよ」

 

 

 

 それは感謝の言葉だった。彼なりに、世界の危機を誰よりも案じ、そして闘ってきたから。

 

 

「構わないさ。私も流石にファミリーやレオリオの危機は見逃せないし」

 

「滅多な事じゃ呼ぶつもりは無かったんだがな…すまんかった」

 

「滅多な事だったからいいのよ。ありゃフツーに無理な類いだからね。それに、久しぶりにこっちにも来たし。ショッピングとか行きたいわ」

 

「待てや。今絶賛オレ等の世界は忙しーんだよ。世界同時多発テロ起こしたバカがまだ暴れ回ってんだからよ」

 

 

 暢気なことを言い出すビスケに、レオリオが苦言を呈する。滅多な事じゃ呼ばれないって事はそういうことなのだ。だが、ここにいるのは、滅多な事が起きたときに、それでも何とかできてしまう超越種の集まりである。

 

 

「そっか~。じゃあ早速そいつ等倒しに行こうか。ミトさんも安心できないだろうし」

 

「レオリオ、場所教えろよ。今すぐ行ってきてやっからよ」

 

「手分けしようか。とりあえず、最低でも敵の場所、種類、数、目的を分かる範囲で提示してくれ」

 

「……ホント頼りになるなぁ、お前らは。んじゃ悪いが手伝って貰うぜ。とりあえず、場所は──」

 

 

 

 そうして、最高機関による作戦会議がその場で開かれる。周囲の人々はあまりの事態にただ呆然としているしか無かった。

 尚、約一名はこれは夢であると断定し、思い人へとその思いを告げに行ったが、見事に玉砕した。そして彼は、案の状脳を焼かれることとなった。わかりきった結末だったが、むしろそのために頑張ってきたといっても過言ではないだろうからより救えない。もう彼はダメかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから、世界同時多発テロは僅か3日で収束を迎えた。世界は再び、ハンター協会と〝救世主〟の凄まじさに驚愕することとなった。首謀者のモレナ=プルードは、大規模なテロの真っ最中に、突如現れた雷にその全身を打たれ、完全に消滅した。それは、〝彼〟の見守る世界でそんなことを起こした神罰だという噂が駆け巡った。

 この事件はあまりにも大きく、そして各地で起こっており、世論にも様々な形で取り上げられたが、そのうちの一つに、ミシガン市の大量検挙もあった。なんでも街ぐるみでテロの準備をしていたようで、街の有力者は軒並み逮捕されたという顛末。しかも、彼らは一様に服毒自殺を図り、更に、ハンター協会からしばらく監視がつけられることとなった。そのことで世間の一部からは陰謀論が噴出したが、結局真相は闇へと葬られた。

 

 

 また、SNS上では、8年前の英雄の姿を目撃したという情報が、ぼやけた写真と共にネット上で錯綜したが、それはフェイクであるとハンター協会から正式に否定された。しかし、フェイクにしてはあまりにも情報が多く、ハンター協会が情報を秘匿しているのではないかと噂されたが、仮にこれが本物だとしたら、世界はますますハンター協会に頭が上がらなくなるため、ハンター協会以外が必死になって火消しをするという謎の現象がおきた。

 

 

 

 

 そして、世界はこれまで同様、平和への道を歩み続ける。〝平和の守護者〟レオリオ=パラディナイトが、この世界に存在する限り──









ペイモン
・暗黒大陸の西の奥地に存在する魔界を治める魔王の一柱。女顔をした男という容貌をもつ。つまりメスガキ男の娘という属性過多。その権能は、風と水と土の元素を操る。以前出たヴリトラ級以上の水、風、土属性の能力を3つ持っているといえば分かりやすいかも? しかも権能なので、生半可な能力では防ぐことすらできない。
 また、召喚された際にはものすごく大声で話し、その内容が理解できないほどであるため、信者は例のシンボルマークを持つことでようやく理解できるようになるという。配下にアバリムとラバルという悪魔がいる。
 彼は魔王の中では比較的穏健派で、人間は管理して飼育して有効に使おう派。そのため、人間が暗黒大陸にいたころは彼らを飼いならし、ある程度の知識も教えてやって繁殖を容認していた。もちろん悪魔基準でなので、人間にとっては地獄には変わりない。ある時、人間が英雄の導きでメビウス湖内に去ると知り、自らのごくわずかな遺伝子と、暗示をかけた人々をそこに潜り込ませることに成功した。いつか、メビウス湖内がフリーになったときにいち早く召喚され、先行スタートを切れるように。
 だが、後年信者の目を通して、どうやら別系統の魔王が降臨したことを知り、さらに〝救世主〟がいることで、メビウス湖通行パスがゆるゆるになったことを知り、人間に自らの召喚を急がせた。当然本体が召喚されるわけもなく、分体での召喚となる。それでも楽園の〝救世主〟ごときには負けるわけはないと高をくくっていたが、まさかの超越者軍団の召喚という反則手に敗れる。ついでに本体まで甚大なダメージを負い、弱っていることを察知した熾天使の一柱に滅ぼされる羽目になった。
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