アンブレイカブルハンター   作:エアロダイナミクス

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クロスオーバー(神話)


28、厄災のカケラ

 

 

 

 ちょっと恥をかいてしまったが、まだ試験まで1か月はある。2、3日観光してからチャンドラ港へ向かおう。

 大使館に赴き、いい名所を聞く。ここでは寺院巡りが良いらしい。初日はそうしよう。また、「神々の山」と呼ばれる場所があるという。少し首都から離れているが、一見の価値有りらしい。2日目はそうしようかな。では早速地図を買って出発だ!

 

 首都の各地にある寺院を巡る。歴史を感じるいい寺院だ。瞑想が捗るな!僧侶にお願いし、一緒にやらせて貰った。現地の僧侶に出来を褒められた。何でも「無」の境地に至り、「空」の入り口まで到達しているらしい。前世から続けてきた瞑想がいい感じに成果が出ているようだ。ちなみに「空」とは何かを教えて貰ったが、何やら複雑な概念らしく、あまり理解出来なかった。しかし、コツを教えてもらい、実践してみる事で何となくオーラの流れがスムーズになった気がした。また、オーラの質もより澄み渡ったように思う。

 オーラの意が完全に消える事で《隠》が出来るが、これを戦闘中に全て完全に出来たらかなり強いと思う。より生存の道がひらけるだろう。ただ、どうしても感情は揺れるものだ。特に戦闘中なら尚更だ。これも地道な訓練が必要だ。

 などと、様々な事を考えていたら5時間も経ってしまった。場所を提供してくれ、更にコツまで教えてくれた僧侶に丁寧に感謝の意を述べると、

 

「貴方はもしかしたら悟りをひらけるかも知れませんね。これからも精進してください」

 

 と、言われた。だが、こんな生き汚い欲に塗れた人間では無理だろう。興味はあるが。悟りをひらいた場合、世界と合一し、生命体として一段上の存在になるらしい。いわば神になれるそうだが、私は私だ。この世界を健康に生きる。ただそれだけでいい。

 瞑想は続けよう。悟りをひらけなくても、これは私のライフワークだ。

 

 他の寺院を廻ることは出来なかったが、実に有意義な時間だった。明日は「神々の山」か。楽しみだ。宿に帰ったら引き続き瞑想しよう。

 

 

 

 さて、2日目は首都から約40キロ離れた場所にある。走ってすぐだな。朝食を摂ったら出発しよう。

 

 直ぐに到着した。もはや自分も人間辞めてきてる気がする。フルマラソンの距離なんだけどね…。目の前には大きな山が有る。これが「神々の山」か…。うーん…普通の禿山にしか見えない。何か目印か遺跡があるのかな?現地の人に聞いてみよう。

 

 

 

 入り口の人に聞いてみた所、ここはかつて、凶悪な神を封じた場所らしい。名を「ヴリトラ」と言う。何でも「天地を覆い隠すもの」というらしい。伝説では雨雲を奪い、干魃を引き起こしていたが、当時の神によって封印されたとの事。これまた何とも言えないが、神話あるあるだね。干魃のような自然災害に対して、悪神の名を当てる事はよくある事だ。で、この山のどこを見たら良いんだろう。何か遺跡でもあるのかな?

 と思っていたら、入り口の人に今日は訳あって入れないと言われた。がーんだな。まぁ入れないならしょうが無い。どうりで観光客の姿がなかった訳だ。

 

 仕方ない。帰ろうと思っていたら、なにやら入り口の職員のもとに、他の職員が耳打ちして、その後特別にいいですよ、という言葉をいただいた。いや、嬉しいけど大丈夫なの?と聞いたら、まぁ1人ぐらいなら大丈夫とのこと。本当に良いのかなぁ。まぁ、大丈夫なら観光するか。折角来たし。1人で見ることができるからのんびり観光できるね!

 

 

 

 

 

 

~ミンボ共和国 ハンター協会支部事務所~

 

「馬鹿な!なぜあの場所に誘導した!」

 

「私が来たときは既に指示が通っていたみたいですね…。非常にまずいです」

 

「まずいどころではないぞ!すぐに彼を止めろ!」

 

「…遅かったようです。彼は既に宿泊先を出てます。あのスピードなら1時間とかからないでしょう」

 

「くそっ!!あの距離を1時間で行くような人材をみすみす死地に追いやってしまうとは…!」

 

 

「…討伐達成難易度A、『ヴリトラ』…。本当にまずいことに今日が3年に1度の復活の日です。まだ他の日ならよかったのに…」

 

「こちらの伝達ミス…か。彼にどう詫びたらいいのか分からん…仕方あるまい。すぐに現地の星持ちに向かわせろ」

 

「既に手配しています…しかし、時間的に間に合うかどうか」

 

「後は、彼がなんとかしてくれることを祈るしかない…か」

 

「『ヴリトラ』はあの山から出ることは出来ません。しかし、あの山では驚異的な力を発揮します。星持ちすら危ないでしょう。もし、生存確認できないようだったら引き返せと伝えてあります」

 

「出来れば遭遇してすぐに逃げてくれれば良いが…」

 

「…祈るしかありませんね…。願わくば、生きて出てこられることを」

 

「……死ぬなよ…カーム=アンダーソン!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 はぇ~。大きい遺跡があったもんだ。遠目から見えなかったけど、土に埋まってるタイプだからなぁ。地下墳墓みたいなものか。カタコンベだな。悪神被害者の方々かな?

 何々…パンフレットにある神話によると、「ヴリトラ」は雲の牛を盗んで…雲の牛?積乱雲の事か?まぁいい。地域に干ばつを引き起こし、人々を虐げた。人々を哀れんだ複数の神々が、協力して「ヴリトラ」に致命傷を与え、力を封じた上、この山に封印したらしい。その力によって「ヴリトラ」は封印されているが、3年に一度だけ復活する日があるという。

 それが今日か。

 ヴリトラは力を失ってはいるが、まだまだその力は驚異で人々はその日だけは山へ入ることを禁じられる………駄目じゃん!何が大丈夫だよ!先に言えよ!!マジでいたらどうすんだよ!!!

 

 

 

 いや、いないよね。冷静に考えてそんな奴がいたらのんきに観光地にしてないもん。禁足地どころの騒ぎじゃないからね。まぁ大丈夫だと思うけど、確認してみるか。あくまで確認ね!

 

 

 

 

《円》!

 

 

 

 

 ………ミツケタ

 

 

 

 

 今、何か頭の中で声がしたような…!嘘だろ…!聞き間違いだと

 

 

 

 ………ヨウヤクミツケタゾ……モウノガサヌ………ソコダナ?……スグニイク

 

 

 

 くそっ!!マジか!?マジでいたのか!?どこだ?どこにいる?…いた、《円》に入ってきた!

 

 

 

 

 

 

 いやいやいやいや、何だこのオーラは!!!若干私より多いぞ!!しかも速いッ!!!もう接触する!!

 

 

 

 ドゴォッ!!!!!!

 

 

 

 地下墳墓の壁をぶち壊し、やつは現れた。巨大な蛇だ。30メートルぐらいある…!頭部の横には、エリマキトカゲのような、翼のようなものを生やしている。駄目だ。《絶》をする余裕もなかった。

 こいつ、神話では致命傷じゃなかったか?力も封印されていたんじゃ?何だよこのオーラ量!ふざけてんの!?

 

 

 

 

 ……ヨクモワレヲフウインシタナ……ゼッタイニユルサヌ…

 

 

 

 …恐らく頭に直接話しかけられている。そんなこともできるのか。駄目だ。こいつに勝てるヴィジョンが全く浮かばない。逃げるか…!

 

 

 ……ノガストオモウカ?……キサマハココデシヌガヨイ!

 

 

 !

 

 

 突如、周囲の環境がより乾燥していく…!同時に私の身体からドンドン水分が抜けていく!!!こ、これは、奴の念能力か!!!まずい、かなり範囲が広い!!そしてなんて凶悪な能力だ!!!恐らく対象の水分を奪う能力!そして対象は恐らく奴の視野全般!!このままだとすぐに活動できなくなる!!!【自己貪食(オートファジー)】発動!水分を補填!

 しかしこのままじゃじり貧だ。奴もこの能力でオーラを消費してるが、こちらがへばる方が速い。急いで能力を解除させるしかない。あの速さを見るに離脱も無理だ。くそっ。こんな所で死んでたまるか!

 《凝》で足に力を入れ、力を込めて奴の元へ飛び込む。そして…オーラブレード!…ッ避けられた!!

 

 

 ……ホウ、ワレノチカラニタエルカ…ナラバコレナラドウダ?

 

 

 そう言って奴は奪ったはずの水分を奴の前方に集め、レーザー状にして4本発射してきた。速いっ!避ける間もなく、2本は躱したが他の2本は足と胴体に被弾し、貫通した。くそっ…【日々是健康(ヘルシーマン)】!!駄目だ、本当にじり貧だ。この能力をなんとかしないと勝ち目はない…そうだ!【完全適合(パーフェクト・コンバート)】!その中の水中適応!その一部再現!これで水分を生み出す!…よし!できた!!消費はゼロではないが【自己貪食(オートファジー)】よりは断然少ない!細胞が全力で水分を生み出してる間に決着を付ける!

 

 

 キサマ…シブトイゾ…!

 

 

 水レーザーが来るか!?あれもなんとかしないと…まずい、水が集まりだした。今度は10本か…!操作…無理か!恐らく奴が操作してるからだ。仕方ない、ぶっつけだがあれをやるしかない。

 …来た!こちらも前方へ進みながら急所を守り、オーラを柔らかくする!僅かにそれればそれでよし!ぐっ!!4本それたが6本は被弾!うち4本はかすり傷!胴体2カ所に喰らう…ここだけ【日々是健康(ヘルシーマン)】!動ける範囲でいい!奴に接近し、念弾を飛ばす。当然の様に避けられるが、本命はそっちじゃ無い!伸ばしたブレード2刀流で更に避けさせ、本命の《隠》で隠したオーラの針を足に作り、レイピアのように伸ばす!奴が避けたと思っていた所にオーラのレイピアが奴の目に刺さる!やった!どうせ胴体に刺してもはじかれるだろうから見えてる急所にしてみたが、無事刺さったようだ!

 そいつは今まで私が経験してきた毒のスペシャルブレンド全部混ぜだ!ついでに病気も全てプレゼントしといた!念でも相当強化したぞ!

 

 しかし、奴は直後に大きな口で噛みついてきた。そんな馬鹿な!一瞬でも止まらないのか!?だが、少し動きが鈍いぞ!これなら何とかなるか!

 

 

 

 コレハ……キサマ………ナニヲシタ!!!

 

 

 

 自身の状態に戸惑っているらしい。噛みつきを避け、潰した眼の死角に周り、攻撃を仕掛ける。眼の周辺の肉がボコボコと泡立ち、非常にグロい事になっているが、もしかして抵抗しているのだろうか?不味いな。これが最後のチャンスかもしれない。奴も近接だと蛇的な動きの攻撃と例の水レーザーだが、水レーザーは自身に当たるため滅多に撃てない。

 

 よって、このまま近接で決める!特殊能力は脅威だが、近接はそうでもない。それにやつは《隠》には対応してない!これでなんとかする!

 

 先程とは違い、私の攻撃も当たる様になった。当たるだけだが。ブレードは文字通り鱗で弾かれる上に、そもそものオーラ量で通じない。ただ、若干《流》も行い、こちらの攻撃に対応している事から、全く効かない訳では無いはずだ。だからこそ、この戦法が通じる!

 

 行くぞ!《硬》!

 

 

 流石に《硬》は厳しそうで、奴も身体をくねらせ避けようとするが、こちらは見せ札だ!原作のウヴォーギンも使っていたが、地面を砕き、瓦礫を奴に向かって四散させる!

 

 瞬間、《絶》を行い、右手に《硬》、そして《隠》!どうせピット器官で熱感知してるだろうから、より水分を表皮に生み出し、体温を下げる!気休めだろうが、ここまで来れば関係ない!

 そこで、水レーザーを胴体に3本喰らうが、頭と手足は避ける!

 

 

 

 くたばれ!!

 

 

 

 

 ドゴン!!!!

 

 

 

 《隠》によってこちらの動きが読めなかったのか、奴の胴体のオーラの薄い所を目掛け、拳をぶち込む!!

 

 

 

 ……ガバァッ!!!!

 

 

 

 よし!効いた!動きが完全に止まった!!

 

 

 今だ!!イメージは貫通するレーザー!太さは拳ぐらい!奴のオーラと肉体を貫き、脳を破壊する!奴の水レーザー以上の威力で…発射!!!

 

 

 ビッ!!!

 

 

 見事に貫通!しかしまだ動いている。しぶとい奴だ!仕方あるまい。こちらも復元!そして奴の頭を粉々になるまで砕く!

 

 飛んでくる尻尾を躱し、《硬》のオーラブレード!流石に頭を貫かれては避けられまい。

 

 

 スパン!

 

 

 見事に首と頭が切り離されるが、同時に最後の力なのか全方位から水レーザーが飛んでくる。駄目だ、避けられない!だが頭だけでも避ける!手、足、胴体、そして…首に喰らう。合計約20発…!見事にほぼ急所だ…!喰らった瞬間、【日々是健康(ヘルシーマン)】を発動するも、意識が急速に失われていく…

 

 

 

 …オノレ……フウインサエナケレバ!……ニンゲンメ……ダガ、キサマモミチヅレダ……!

 

 

 クソっ、不味い…首が千切れかけてる…間に合うか…!?残り少ないが全オーラを使って全力で【日々是健康(ヘルシーマン)】をサポートする!奴も死に掛けで徐々に能力が弱くなっているが、意地でも解除しないらしい。こうなったらこちらも意地でも負けない…!意地の勝負だ…!!

 

 

 段々奴の能力が弱くなる…これなら助かる!…今、重要器官と負傷の半分近く復元完了した。だが…血が流れ過ぎた。集めるオーラも無い…だが、負けない。絶対に生き残る……!

 

 

その時

 

「いたぞ!ここだ!」

 

「なんだこの惨状は…!アレが『ヴリトラ』か!!聞いた通りだ。気をつけろ、死にかけでも脅威だぞ!」

 

「おい!アイツじゃないのか?まだ生きてるぞ!」

 

「早く回収しろ、あれじゃもうすぐ死ぬぞ!」

 

 

 という声が聞こえた。…助けが来てくれたか…。もう目も霞む…だが助かった…!

 

 

 

 

 そして、私は安心して意識を手放した。




厄災:ヴリトラ
・暗黒大陸の環境破壊・災害型の厄災の一体。周囲から水分を奪い取り、自由自在に操るという恐ろしい権能を持つ。干物にした生物を美味しく頂くという生態。人類からすれば正に邪神とも言える。能力はコイツに認識されるだけでアウトであり、対処法は金属で全身を覆うぐらいしかない。が、それは不可能なので、結局無い。使われる前に何とか殺しきるぐらいである。暗黒大陸で虐めて遊んでいた&食料な脆弱な種族が中央大陸に逃げ出したため、興味本位で追いかけた。水を操る権能なので余裕で海を渡って来た。そして、現在のパドキアを経てミンボ辺りに辿り着く。そこで暴虐の限りを尽くすが、当代の最高峰の念使い達が結集し、決死の覚悟で、相互協力の念と制約と誓約をてんこ盛りにし、死んでも死者の念を駆使しながら何とか封印に成功する。出来なければコイツだけのせいで大陸中の生物が死に絶える所だった。普段は土の中で意識すら封じられているが、3年に一度だけ復活する。しかし、封印のせいで力は5分の1程度になり、更に封じられた山から出られない上に、能力も山でしか効果が無いため、ストレスが溜まっている。その日に生物が入り込むと嬉々として殺しに行くため、その日だけは絶対に人々は山に立ち入らない。たまに罪人を放り込むぐらい。

全盛期のヴリトラ伝説
・積乱雲すら消し去り、大干魃の原因となる。
・ミンボの乾燥した気候は大体コイツのせい。
・川の水を抜く。
・湖も抜く。
・再び湧いても抜く。
・当時だと瞬時に生物なら干物に出来た。
・水を操るバリエーションが豊富。というかより脅威的。
・心までは読めないが、念話が出来る程の知性。
・脅威の200万オーラ!

などなど…

 ……こんなのマジで勝てるの?というふざけたスペックを持つ。弱体化しててもその力は脅威で、普通のハンターではまず勝てない。近づく前に殺されるため、達成難易度がAとなる。
今回は主人公が環境適応型であるという事と、水中適応していたため、辛うじて何とかなった。

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