アンブレイカブルハンター   作:エアロダイナミクス

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さて、夏休みブーストはいつまで持つのか!
先の事は考えない!行ける時に行きます!!


33、修行の日々、そして運命の選択

 

 

 

 

 それから私とリー老師の生活が始まった。結局リー老師は私の稽古を付けてくれるらしい。とりあえずこれから師匠と呼ぶことにする。基本的に師匠が私のトレーニングの指示をし、私が生活の世話をすると行った所だ。師匠の言うことは絶対なので、トレーニングとして一般から見れば理不尽なものでも、文句1つ言わずに行う。むしろなぜこのトレーニングが必要かを考えながら行うことで効率化を図ろうと思う。

 ただ、先に師匠に伝えておかなければならないことがある。私は1年に一度は帰らなければならないことだ。これは血の掟だ。誰よりも、何よりも優先される。師匠の言うことは絶対とは言え、これは破れないので、断られたら弟子を辞めるつもりで伝えた。

 

「……なるほどのぅ。血の約束か。向こうにも似たようなもんがあるんじゃのぅ。ならばよいじゃろう。ただし、港までは1日以内に行くこと。そして、道中では欠かさず儂の教えを守ること、そして、3ヶ月以内に戻ること。これが条件じゃ。よいか?」

 

「願ってもないことです。無理を言って申し訳ありません。ありがとうございます」

 

 

 …通るとは思わなかったが、ありがたかった。条件も妥当なものだ。これで憂いが消えた。修行を全力で頑張るとしよう。ちなみに師匠はかなりの長寿で、100歳から先は覚えていないらしい。強力な念使いにはよくあることだが、非常に長寿になるという。ネテロ会長もそうだったしね。ここまで来ると〝仙人〟とカキンでは呼ばれる。普段は晴耕雨読の生活をしており、自然と合一し、そこから本当に神への昇格を果たすための修行を行うらしい。〝仙人〟の務めの1つとして、資質のある弟子を取って育てるというものがある。育成しながら自らも力を伸ばすのだ。だがうちの師匠はそれが面倒臭かったらしく、それもあってこんな辺鄙な所に引きこもっていたという。資質をもってたどり着いた者には教えざるを得ないので、しょうがないから教えてやる。と言われた。…まぁ教えてくれるなら理由はどうあれありがたいんだけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 師匠はまず、私に対して身体の使い方を教えてくれた。技に行く前にそちらを先に仕上げるとの事。何分、私は身体の性能はいいものの使い方がまるでなってないらしい。中腰で両手を前に出し、手や頭に水の入った器を乗っけて静止する訓練をひたすら長時間行った。器の水を被るとアウトだ。肉体的には問題無いが、この動かないという所に苦戦した。何でも身体に重心を定め、地面に対して根を張るようにする事で、身体の安定性が増すらしい。

 最終的には山の下にある激流の中でも同じ様に出来るというのが目標らしい。まだまだ時間はかかりそうだ。小鳥が止まる程に出来ればクリアとの事。

 

 また、水の上に竹を浮かべてそれに乗る訓練。ランダムに並べられた、3〜6メートルの杭の上を一つの足、又は手のみで渡る訓練も行った。これはバランスだ。自身のバランスを保ち、どんな状態でも強い攻撃が出来る様にという事だろう。常に自分の軸をぶらさない為のものだ。私はこれがからっきしダメだった。すぐにバランスを崩して落ちてしまう。また、逆立ちを維持する訓練もあった。これも徐々に難易度を上げ、最終的に指一本で長時間出来る様に、との事だった。課題はやはりバランスだ。師匠は「継続あるのみ」と言っていた。全くその通りだな。

 ちなみに師匠は飛んできた椅子や机の角に片足で飛び乗り、静止する事が出来る。…なんてバランス感覚だ。

 

 次に念修行。こちらでは〝気〟と言うらしい。師匠は私の特異性に気づいていたらしく、質と量については何も問題無いと言われたが、やはり課題はオーラ操作だという事だった。何でも、移動が分かりやすく、次の攻撃が見切りやすいらしい。…全くその通りなので頷くしかない。坐禅をくみ、オーラの流れを整える。そして、そのまま外界とそのオーラを同調させるとの事。難しい。特に自分の周りと同調するというところが果てしなく難しい。だが、これがいわば奥義らしいので、頑張るしかない。これがある程度掴めると、自然な動きとオーラになるらしい。今のところ全く掴める気がしないが、師匠には褒められた。スジがいいとの事。…何分瞑想のキャリアだけは長いからなぁ。

 

 1年もすると、まるで出来なかった事もある程度は出来る様になる。期日が来て、家に戻るギリギリまで修行を続け、その後の船旅でオーラ操作や船室で出来る修行を行う。いっときも無駄には出来ないからな。ちなみに1500キロを1日走破は割とすんなり出来た。例の馬鹿オーラダッシュだ。…最近私の人間離れが著しい気がするが、考えない事にした。我が家は相変わらずで、近況を報告し合った後、1週間程滞在した。マイケルの鍛錬も順調の様だ。しかし、私の闘いや修行内容を聞いてドン引きしていた。君は私の話を聞く度にドン引きしてない?ファミリーも順風満帆でドンドン勢力を伸ばしているらしい。いい事だが、襲撃には気をつけてね?マイケルいるから大丈夫だろうけど。

 

 

 それから更に1年程修行を続けたら、漸くバランス感覚が整ったらしい。師匠と「流々舞」を行う。但し、木の杭の上や水に浮いた竹の上で。難易度上がりすぎじゃない?まだ尽く水や土に突き落とされる。頑張って続けるしかないか。

 更に念修行も、何となくより自然な攻防力移動が可能になった。継続は力だ。オーラも何となく自然と溶け込み、より違和感が消えてきた。だが、まだまだらしい。まぁ完全に出来る様になるまでに何十年単位が必要なので仕方がない。引き続き続けて行こう。

 

 

 

 

 

 

 

 修行を始めて5年も経つ頃には、一端の動きが出来る様になった。その頃には型も教えて貰い、より効率的な力の伝え方も出来る様になった。まだまだ師匠の足元にも及ばないが。何でも、極意の一つが自然との融和で、自然の力を自らのものとするらしい。出来る様になれば、羽の様に軽く、山の様に重いという事が可能になる。いわゆる軽気功と硬気功だ。また、岩のように硬くなり、水のように流れ、枝のように受けるということもできるという。要するに力の使い方だ。そして自然の法則に逆らわない動き。そこにオーラも含まれる。私の攻撃を受け流したのも、その応用だ。「力の流れ」というものを理解する必要がある。これを完全に体得すると、オーラはほとんど使わず攻撃を受け流せるらしいし、緩やかな動きでも驚異的な破壊力を実現出来るらしい。まだまだ山頂は遠いが、私も向上していく技術が楽しく、喜んでのめり込んでいった。

 

 ちなみに、初めの時に私に放ったのは〝発勁〟というらしく、その中の〝内浸透勁〟という奴らしい。能力ではなく、オーラ技術の1つだそうだが、なんでも相手のオーラに同調して、ほんの少しそのオーラの流れを押してやるそうな。相手のオーラは乱れに乱れ、自滅するとのこと。……なんて恐ろしい技だ。要するにオーラが勝手に身体の中でピンボールするようなものだ。ちなみに〝外浸透勁〟というのもあるらしく、こちらは同調した自分のオーラを注入して体内で乱反射させるとのこと。それなんて瞬獄殺?ちなみにこれらはあまりにも危険すぎて対人では練習出来ないらしい。まさに一撃必殺だ。いずれも相手によって使い分ける。念能力者には〝内浸透勁〟。念能力を持たない相手には〝外浸透勁〟だそうだ。オーラの多寡と同調のしやすさによって変えるらしい。どちらにせよ危険なことに変わりは無い。そんな技を初対面で使わないで欲しかったが、師匠は笑って「そうでもせんと千日手になるじゃろう」との事。うん。まぁそうだね…。私は【日々是健康(ヘルシーマン)】あるし…。

 

 とにもかくにも「オーラを同調させる」と言う技術が不可欠なため、私にはまだまだ難しい。その辺の木を相手に練習しているが、なかなかつかめない。これもまだ修行が必要かな。

 そうそう、この頃になるとマイケルも卒業して、無事に若頭として父さんのサポートを始めていた。最近はなかなか修行が出来ず、ストレスがたまっているとのことなので、帰宅したときに沢山組手をした。マイケルは近隣では無敵に近くなっているため、私も念入りにボコボコにした。世の中にはヤバい奴が沢山いると言うことを知ったから、せめて慢心しないで過ごすようにして欲しい。ウチのファミリーの仕事柄、ヤバい奴に狙われる危険性は結構あるからなぁ…。帰るたびに私の修行法を伝えて取り入れていたので、多分大丈夫だとは思うが。おかげでマイケルもあのとき見たネーブルさんぐらいにはなりつつあると思う。私の唯一の弟子となるだろうが、成長してくれて嬉しいものだ。

 ハンターの務めは忘れずに続けている。帰郷時だけだが。最近は私の闘いぶりも伝わったらしく、「壊れない男(アンブレイカブル)」と広く呼ばれているようだ。どんな毒を持つ相手や厄介な能力を持つ相手にも無傷で生還するかららしい。いや、普通にダメージは受けてるけど復元してるだけなんだ…。二つ名持ちみたいな感じになっているが、実際呼ばれると恥ずかしいのでやめてほしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 修行開始から9年が経った。この頃になると、私のオーラも自然との同調がなんとなく出来るようになった。また、身体の使い方も覚え、自然体で《堅》が出来るようになった。破壊力もわざわざ《硬》をせずとも凄まじい破壊力を出せるようになった。最適な力で、最適なタイミングで行うことが大事だ。身体は流体のように柔らかく、物理的な攻撃もかなり流せるようになったし、その脱力した状態から発せられるスピードや破壊力は特筆すべきものがある。師匠は、これが気体レベルまでなると自然との融和が完成するとのこと。まだまだだな。

 例の必殺の〝発勁〟だが、これも溜めが必要だが可能になった。これを瞬時にどの部位からでも出来る師匠はやはり仙人と呼ぶにふさわしい。とりあえず何回も喰らって文字通り身体に覚え込ませることで漸く可能になったが、普通はこんなスピードで習得はしないらしい。いわゆる私にだけしか出来ない修行法だな。普通はこんなの2、3回喰らっただけで重大な損傷につながるからね。師匠も「早いがそろそろ卒業かの」と言ってくれた。私もそろそろ29歳だ。脇目も振らず、ただ生き残るためにずいぶん熱心にやってきた。

 

 

 

 

 …たしかにそろそろ良いだろう。

 

 

 

 9年目の帰郷の時にハンター協会から手紙が届いていた。なんでもネーブルさんから重大任務のお知らせらしい。どうやら例のプロジェクトの目処がついたようだ。内容を聞きに一旦スワルダニシティの本部へと向かおう。もし長期のプロジェクトなら師匠にも一言言わなければならないしなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

「久しぶりですね。『壊れない男(アンブレイカブル)』」

 

「その呼び名は恥ずかしいのでやめてくださいよ」

 

 久しぶりに会ったネーブルさんはだいぶ貫禄が出てきてるように見えた。いわゆるナイスミドルだ。私が来たことで幾分ホッとしているようだった。私もハンターとしてのつとめは帰郷のたびにちょくちょくこなしてはいたんだが…。まぁあまり捕まらない人間であるのは間違いないため、そこは申し訳なく思う。

 ネーブルさん曰く、今回のミッションは全ハンターにこれから通達されるものらしい。そこから希望をとって、参加するものはV5加盟国の各国に選別されて取り組むという。……全国家規模か。なにやらすごそうだ。

 しかし、ネーブルさんも、10年近く前の事を覚えていて律儀に守ってくれたらしい。すなわち、他のハンターより早く教えてくれた。

 

 

 

 

 内容は、「新大陸調査」である。

 

 

 

 

 …ん?新大陸?この世界にまだ発見されてないところが……

 

 

 

 

 …………!?

 

 

 

 

 

 思い出した!暗黒大陸か!!

 

 

 

 

 何でも、50年前に刊行された「新大陸紀行」という本があるらしい。当時は空想小説と思われていて、本屋でも空想小説の欄に置かれていたそうな。また、非常に希少本で、持つ者は非常に少ないらしいが、それが近年本当の事だという裏付けがとれたらしい。著者はドン=フリークス。

 ……フリークス?230年後の主人公の祖先か何か?

 ともかく、それが本当だとすると、非常に危険であると同時に、人類にとっては大きな福音をもたらす可能性があるとのこと。聞くと、万病に効く香草だの、究極の長寿食だの、眉唾な物ばかりだ。しかし、ともかく、近年になって古代の遺跡発掘も進み、そこから新大陸の情報と思わしき証拠がいくつも見つかったらしい。

 そして近年の調査で少なくともそれが「ある」ということだけは判明した。

 実際に、この世界は船で世界の外から一周しようとしてもたどり着かない。無限の海が広がるだけだ。そしてある一定の水域からは進めないという。しかし遂に、前回の調査で、この水域を突破する方法が見つかったらしい。そして、実際に新大陸までたどり着いた。

 前回は不測の事態が起き、失敗に終わったらしいが、そこで、各国は時間をかけて本格的に調査に乗り出すことにしたとのこと。

 

 

 そして今回、ルート選定などの準備が整ったというわけだ。

 

 

 …まぁ、あるというのは知ってた。ジンがゴンに言ってたし。あのときはわくわくしたものだが、私もその後あっけなく死んでしまったからなぁ。ただ、さすがに一筋縄ではいかないだろう。「新世界紀行」にも有ったらしいが、冗談のような福音に対して、それに匹敵する程の厄災もセットで有るとの事。それに多分だが、えげつない罠とかありそうなんだよなぁ。あの漫画でもかなりえげつないシーン多かったし。何より今まで私が闘ってきた怪物も、どことなく暗黒大陸がらみな気がしてならない。…「ヴリトラ」みたいな奴がいたらヤバいな…。

 マンティコアの遺跡を見ても、やたら禍々しい怪物しか描かれてなかったからなぁ。嫌だなぁ。私としてはあんまり参加したくないのだが、ハンター試験の時のマティーニさんとの約束もある。

 ネーブルさんも改めて、是非参加して欲しいと言ってきた。

 

 

 …仕方ない。

 

 

 参加するか。

 

 

 私が参加の意を告げたとき、漸く肩の荷が下りたような表情をしたネーブルさんが印象的だった。まぁ私も自分の発言を翻すような約束を守れない男にはなりたくないから、しょうが無いけどね…。また、怪物退治かな…。

 

 とりあえず、私はサヘルタ合衆国の船に乗るらしい。これからハンターへの通達や、諸々の準備のが完了してから1年後に出港との事なので、挨拶を済ませてから乗ることにしよう。師匠にも伝えないとなぁ。

 

 

 これまた長期間の出張になりそうだ。

 

 

 家族にも知らせなくちゃ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………私はこの時の選択を、その後の生涯で後悔し続ける事となる。




以前も書きましたが、私、こういう修行風景が大好きです。


そして、いよいよですね…

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