アンブレイカブルハンター   作:エアロダイナミクス

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カキン編、これにて完結!早い!
そしてこれが彼の最後の安息です。


34、師匠の餞別、そして別れ

 

 

 私は、あの後、一度師匠の元にとんぼ返りをした。師匠に伝えるためだ。師匠に今回長期ミッションが入ったこと、そして新大陸の調査だと言うことを伝えると、師匠はなにやら考え込んで、家の書庫に引っ込んでいった。何だろう?

 しばらくすると、師匠は古い書物を手に持ってきた。…古語の難しい漢字ばかりで読めない。師匠が言うには、これはいわゆる禁書と言われるものらしい。カキン成立前に書かれた物らしく、人が昔どのような形で伝わったかを示す物だそうな。師匠が下界にいた時代までは残っていたが、当時の皇帝にあらかた焚書されたらしい。しかし、師匠は大事に隠してとっておいたらしい。曰く、いにしえの昔、人は暗黒の広がる大陸で酷く虐げられていたらしい。あまりのひどさに絶滅の憂き目に遭っていたが、なんとか生き残っていたそうだ。そして、決死の覚悟で脱出し、この楽園とも言える大陸に漸くたどり着いたとのことだった。…そりゃ焚書にもなるな。

 師匠は続けた。…人が勢力を盛り返して、この大陸に満ちたとしても、けして暗黒の大陸に行くべからず。必ずや災いが降りかかるであろう…と。

 うん。私も本当に行きたくないのだ。この話を聞いて余計に行きたくなくなった。

 師匠はまじめな顔でこう伝えた。

 

「本来ならば行かぬに越した事は無い。しかしお主も様々なしがらみがあろう。じゃが、もし、万が一、どうしようもない絶望的な状況に陥ったら、お主もなぜそれほどの力を付けるに至ったかを思い出すが良い。きっと助けになるであろう。また、ゆめゆめ儂の教えも忘れるな。自然と合一することで道が開けることもあろう」

 

「…わかりました。肝に銘じます」

 

「うむ。期待しておる。…最後に儂から餞別をくれてやろう」

 

 ついてこいと言われ、共に裏庭の修練場にたどり着いた。

 

 

「…本来ならば、これを下界の者に見せるのは儂等仙人の中では禁忌じゃ…。しかし、お主があの大陸に赴くというのであれば、これは見せねばなるまい」

 

「…どんなものか分かりませんが、良いのですか?」

 

「構わん。お主が行く所は生半可な場所ではない。そもそも体得出来るとは思っとらんが、少しでも助けになるじゃろう…。よいか。始めるからしっかり見とけ」

 

「……分かりました。ありがとうございます。お願いします」

 

 そう言うと、師匠は座り込み、《練》を始めた。…相変わらず、凄まじく研磨されている。また、非常に澄み切ったオーラだ……しかし、これが見せたかったのか?

 と、思っていたら、どんどんそのオーラが大気に広がり始めた。…これは…《円》か?…いや、違う。世界に溶け込んでいるように見える…。

 そうすると、そのオーラは更に変化し始める。どんどんと世界に溶け込み、師匠の身体からオーラが消えた…ように見えた。《凝》でも見えない。しかし、オーラ自体はそこにある…。な、何だ、これは?何が起こっている?

 そう戸惑っていると、更にその見えないオーラが圧縮しだした!もはや気配というのもおこがましいほどの自然の圧倒的な存在感がそこにあった。そして…

 ()()()()()()()()。そこには、圧倒的な力があった。これは、この気配は私どころの騒ぎじゃない!桁が違う!

 まさに圧倒的な力だ。ついには師匠のオーラ?は光り始める。もはや暴力的なほどの()()()がそこにあった。

 すると、ふっと師匠はその状態をとりやめ、元に戻った。

 

「儂もここまでしか出来ん…。まだまだ未熟じゃな」

 

「す、すごいですよ師匠!何ですか今のは」

 

「これは、世界と同一になり、人が神へと至る道筋じゃ。仙になった者は皆ここを目指し、厳しい修行を自らに課す。いわば、人の軛を捨て、悟りを開くと言う状態じゃな。今のはまだまだ未完成じゃがな…ここまで至れば、いかな呪いも災いも効かぬようになる。人の〝気〟を世界とつなげ、自らの物にするという事じゃ」

 

「こ、こんな力があるなんて、今まで知りませんでした!」

 

「言ったじゃろう。これは禁忌じゃ。只人には出来まいが、知られてもあまり良いことではない。何より、出来る人間はあまりにも少ない…限られた者のみじゃ」

 

「その限られた者って…どういう事ですか?」

 

「その者の性質による…と言われておる。仙はだいたいその資質を持っておるからそこを目指すんじゃがな…。これを見せたのは、万が一でもお主がここに至ることが出来れば、あるいはその大陸でもなんとかなるじゃろうと思うたからじゃ」

 

「そんな力が無いと生きていけない場所なんですかね…その新大陸は」

 

「儂の考えすぎであればよいがの。どうも悪い予感がしてならん。まぁ違ったら不良仙人の戯言と思うて聞き流せば良い」

 

「……分かりました。私に出来ますかね?」

 

「出来そうにない者には見せん。じゃが、お主は神仙を目指しとるわけでもないから見せなかったんじゃ。…これは儂の餞別じゃ。免許皆伝の証と捉えよ。人は、ここまで出来るとな…。その新大陸とやらでは気を付けい。わしも弟子の無事を祈っておる」

 

「ありがとうございます。必ず生きて帰ってくるようにします」

 

「そうせい。また、帰ってきたら顔を出すんじゃぞ」

 

「はい…最後に、その、技?気?の名前は何というのですか?」

 

 師匠は、少しためらってからこう答えた。

 

 

 

 

 

 

「これは、〝神気〟……或いは聖なる力を持つ〝気〟であることから、〝聖光気〟と呼ぶ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、最後は家だな。また1ヶ月かかって家に戻る。しかし、この移動もなんとかならないだろうか。HUNTER×HUNTER原作では飛行船が開発されていて、わりかし早めに移動をしていた気がするが…。原作の過去に生まれると、こういう所が不便ではあるな。

 仕方なしに瞑想をしながら師匠の見せてくれた〝聖光気〟について考える。…ミンボの僧侶も言っていたが、悟りを開くと言うことは、世界と合一する。世界とつながる、と言うことが重要のようだ。オーラを世界と同調させるということだな。…スケールが大きすぎて何がなにやら全く分からない。私もだいぶこのオーラが世界になじんでは来たように思うが、あそこまで完全に同調するとは全く信じられない。しかし、実際に自分の見た物を否定も出来ない…か。道理で師匠は例の〝発勁〟が得意なわけだ。あんなに出来るんなら瞬時に相手に同調するのはたやすいだろう。何せ同調するスケールが違うんだからな…。とにかく、すぐにどうこうできるような物でもない。もし機会があればじっくり取り組んでみよう。

 問題は暗黒大陸だ。師匠があれほど警戒するからには、やっぱり恐ろしい何かが待ち構えているんだろう。私は無事に帰れるだろうか…?私の能力は生存に特化している。だからこそ、何が起きても生き延びることができる。生き延びることさえ出来れば、なんとかなると信じて臨むしかないか…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 我が家に帰ると、いつものように家族が出迎えてくれた。やはりこの家は心地が良い。父さんも、母さんも、マイケルもみんな暖かい。私もこのプロジェクトが終わったら、この家を拠点に生活するとしよう。さて、まだ期間は8ヶ月以上ある…。今回はもう旅には出ずに、のんびりとすごそう。準備は1ヶ月前から始めて十分だろう。年単位はないだろうが、月単位で拘束されるならここいらでのんびり過ごしても罰は当たるまい。私も十分力を付けた。修行も少し制限して、家族との団欒を楽しもう…。

 

 それから、私は家族とファミリーとでのんびりと時を過ごした。時には父さんの仕事の手伝いで、護衛に付いたりもした。父さんはシングルハンターの「壊れない男(アンブレイカブル)」から護衛を受けるとは光栄だと言ってくれたが、その呼び名は恥ずかしいのでやめて欲しい。勿論依頼はロハだ。父さんは払いたがったが、家族の護衛はむしろ私がやりたいことだ。また、金に困っているなどと言うこともない。既に私は報奨金関係で億万長者だ。はっきり言って既に七代まで遊べるぐらい稼いでいる。故に必要ないと言ったら納得してくれた。ちなみに一件だけ、名をあげたい他のファミリーのチンピラが私が護衛に付いてるのを狙ってわざと襲撃を仕掛けてきた。成功すれば本当に名が上がっただろう。シングルハンターを出し抜いてファミリーのボスを暗殺出来れば。しかし私もそんなに甘くない。私の《円》から隠れるのは一般人には無理だ。襲撃前から把握し、襲撃の瞬間に全員同時に取り押さえた。…むしろ私がいたことで襲撃があってしまったことを父さんに詫びたが、父さんは笑って、むしろ今来てくれてよかった。これできっちりと向こうに話が付けられる。と喜んでいた。多分マイケルでも同じ事が出来るので、私がいないときはマイケルに頑張って貰いたい。

 母さんからも、家で料理を習い、家事を手伝うなどしながら沢山話をした。母さんには私のプレゼントとして、行きたがっていたクカンユへ海外旅行を企画した。当然家族全員でだ。うちのファミリーも護衛として付いてきたがったが、家族水入らずで過ごしたかったので断った。何しろマイケルと私を突破して襲撃を掛けてくるような命知らずはさすがにいないだろうからね。それでも警戒は怠らなかったが、特に何もなく平和に楽しく旅行が出来た。母さんも長年の夢が叶ったと言って喜んでいた。

 マイケルだが、彼はこの10年で非常に伸びた。もともと強化系なので、単純な攻撃力は強力だが、最近は更に私の拳法も取り入れて、手が付けられなくなっている。はっきり言って、本当にハンター協会でも勝てる人物は少ないんじゃないだろうか。まだまだ私が上だが、将来的にはネテロ会長ぐらい強くなりそうだ。そんな彼に、将来的にマフィアのボスになる前に、色々便利だからハンターライセンスを取っといたらどうだと言ったが、遠慮しとくと言われた。…まぁマイケルにはあんまり合わないかな。それに彼も最近忙しいようだ。父さんから悪巧みの方法を一生懸命学んでいる最中だ。習うのが悪巧みなのはどうなんだと思わないでもないが、まぁマフィアなのでしょうが無い。そのかわりファミリーは大事にしろよ。

 ファミリーの皆さんともちょくちょく例のレストランでどんちゃん騒ぎをした。いい年こいてどうなんだとは思うが、私はこの雰囲気が好きなのだからしょうが無い。こんなに騒げるのもしばらく無かったし、前世では考えられなかったからね。お店の人にはかなり割り増しで支払いをしてお詫びをしておいた。

 なんだかんだ言って、人生で一番楽しかった時期だったと思う。

 

 

 

 

 そして、いよいよその時が来た。

 

 

 

 

 プロジェクトに参加する者はとりあえず協会本部に集合し、その後、それぞれの港に赴き、それぞれのルートで出発する。私も準備として、何かあったときは私の口座の金額は家族が好きに出来るように手配しておいた。まぁ、私は生きて帰るつもりだが、念のためだ。うちにはジョセフという弁護士もいるから手続きが楽に済んだ。行く前にジョセフには「カームさん、無事に帰ってきてくださいよ」と言われたが勿論そのつもりだ。死ぬには良い日など死ぬまで無いのだ。

 マイケルも再び【祝福をあなたに(アンダーソン・ファミリア)】を掛け直してくれた。そろそろ5年は持つようになったらしい。異常な成長率だな。彼からは「無事に帰ってきてね」とのことだったが、帰ったらまたあのドン引きした顔を楽しみにしておこう。いつものようにお守りとして持って行くか。

 さて、出発の時間だ。暗黒大陸には一体何が待っているだろうか。私も怖さ半分、ワクワク半分だ。折角行くなら楽しみにしておいた方が良いだろう。

 

 

 

 

 

 では、父さん、母さん、マイケル、そしてファミリーのみんな。

 

 

 

 

 

 行ってきます

 

 

 

 

 

 

 そして

 

 

 

 

 

 

 また会おう




これがやりたかったシリーズその1。
念にも進化の先があるはず…ではその先とは?
厄災の様な出鱈目に近い呪いがあるのであれば、その反対もあるのでは。そして、仙水さんのアレは…。という妄想。

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