アンブレイカブルハンター   作:エアロダイナミクス

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37、迷宮都市への行軍

 

 

 

 

 ベースキャンプを設置した次の日からいよいよ調査開始だ。と言っても、まずはこの近辺の安全確保だが。今回は軍とハンター協会の共同作戦なので、我々はそれぞれ手分けして近辺の警戒をする。私も以前はこのようなときに《円》を使っていたが、このような場所ではやめておくべきだろう。《円》はこちらが状況を把握するのには非常に便利だが、同時に敵にもこちらの存在がバレてしまう。目立つ行為は控えるべきだ。もちろんこのことは他のハンターにも共有している。

 

 一日掛けて近辺の調査が終了した。この周囲500メートル圏内には警戒すべき敵はいないらしい。人魚達もある程度敵性生物のいないところに導いてくれたらしい。少しほっとした。軍の中でも植物や微生物などを専門にしている者もいて、新大陸の植生を調査していた。安全が確認されたらここに移住する計画も考えているらしい。私はやめといた方が良いと思うけどね。

 

 さて、いよいよ遠征だ。目指すは「古代の迷宮都市」!目標は万病に効く香草!例の文献しか資料がないので、ルートを探りながら手探りで向かう。資料によると、ここからおおよそ北へ大体400キロの地点にあるらしい。様々な人員を抱えての出発だ。軍側のリーダーは大佐であるショーンさんだ。いかにもな軍人さんだが、やはり優秀な人だ。指示が明確で迷いがない。大佐にもなる人は伊達じゃないな。統率力には期待が出来そうだ。

 200名程はベースキャンプで待機して不測の事態に備えつつ、現地の調査を行う。ハンター側は、チャーリーさんが残るそうな。護衛兼、生態調査だな。私もそっちが良かったがお断りされた。まぁ仕方ない。チャーリーさんの能力は軍と相性が良さそうだしね…。

 

 残り800名程で縦2列になって進む。私とネーブルさんは先頭。露払い兼敵の撹乱だな。アンソニーさんとマットさんは中ほど。医療と護衛。ブラッドさんは後方。これまた護衛と敵性生物の足止めだな。まぁ納得の配置だ。唯一私が先頭なのは納得いかないが。最早お化け屋敷に入る気分だ。行った事ないけど。

 

 砂浜地帯を抜けたら後は樹海だ。樹海か…。この様な大人数の部隊で樹海か…。見通しも悪いし、指示が通りにくい。ハッキリ言って最悪の環境だ。前世でも見た映画にもよくある奴だ。少しずつ削られて、全滅する…。駄目だ。思考がネガティブだ。いざという時は私も自重しないでなるべくみんなを守ろう。私は怪物ハンターだからな。

 

 

 

 そこから20キロまでは特に襲撃も無く、順調に進んだ。時折、小型の恐竜みたいなのが複数で出て来たが、部隊全体に縦長に《円》をしていた私が感知。文字通り飛んでいってぶん殴って倒した。先程、《円》は使わないと決めていたが、ネーブルさんと大佐の要請で使っている。もしもの時に人員を減らしたくないそうだ。来たら来たで、迎え打つとの事。寧ろ何も分からないまま先手を取られるよりもよいそうな。仕方ないので、工夫して使う。《円》は敵から感知されそうになる諸刃の剣だが、縦長にして薄く張っていたので大丈夫と信じるしかない。とりあえず部隊全体の5メートル周辺を覆った。私以外のハンターは厳しい。というかこれは私にしか出来ないので、私がやるしかない。他のハンターは驚いていたが、心強いと喜んでいた。馬鹿オーラがあるので消費もさほど気にならない。これで、先頭にいながらも人員を守る事ができる。出来れば何も無いと良いが。

 

 1日目終了。本日は60キロ程進む。小休止を入れながらとは言え、この大部隊でこれ程進む事が出来るとは、やはりかなり鍛えられた精鋭だな。また、かなり強行軍にも見えるが、大分余裕を持ってるように見える。野営を行うが、これまた《円》で警戒する。あまり長時間せずに、一瞬部隊周りまで行ってから消す。我々ハンターも休憩を交代でしつつ、休みを取る。まぁ私は最近2時間も有れば全回復出来るので、部隊の警戒を中心に行う。

 

 2日目。この日も朝から行軍。ただ、何人か人員が見当たらないらしい。野営から離れて戻って来ないとの事。大佐は救出部隊を出すかどうか悩んでいたが、ミイラ取りがミイラになっては敵わないので、数人だけ野営地に残り、捜査を任せたのち、出発した。…私の《円》もちょくちょくやっていたが、敵の影や怪しい動きなど見当たらなかったんだが…。気にはなるがしょうがない。進もう。

 しかし、この樹海は相当にデカい。距離的な意味もそうだが、主に植物などの大きさ的な意味でだ。奥に行けば行くほど巨大になっていく。もはや以前のミテネ連邦のジャングルの5〜10倍にまでデカくなっている。我々は虫とかになった気分だ。一つ一つの木が屋久杉レベルってどういう事?

 草も巨大で、先頭にいる私やネーブルさんがオーラブレードでスパスパ切りながら進む。偶に巨大な蟲を見かける様になった。人間サイズだ。…見かけたらすぐに輪切りにした。あんなのに襲われたら普通の人間ではひとたまりもない。やはりここは移住するには向かないと思う。

 

 3日目。約200キロは行軍している。予定通り順調だ。しかし、道中にここまで逆に何も無いとかえって不安が募る。まるで様子見をされている様な…。いや、何も無かった訳ではないな。夜にまた数人が消えた。これは我々の隙を突いた襲撃な気がする。…だとしたら狡賢い相手だ。仕方ない。《円》を持続するしかない。しんどいが、これも部隊を守るためだ。私の休む時だけ、ネーブルさんとアンソニーさんに代わって貰って、厳戒態勢を取るようにした。流石に私も一日中《円》は神経を削る。ちなみに野営地にはそれぞれ無線の中継機器を設置してる。これで本部司令官との連絡も可能だ。この時代では最新機器だろう。司令からの判断は続行との事。まぁそうだろうな。消えた人員には申し訳ない事をした。恐らく状況は絶望的だろう。司令も大佐も苦渋の決断のようだったが、この作戦に参加している兵士達は、事前にかなりの同意書を書いていて、死亡又はMIA(作戦行動中行方不明)になった場合も遺族などにかなりの給付金が支払われるらしい。だからと言う訳ではないが、我々には無事を祈るしかない。

 

 4日目。この日はかなり先に進んだ。およそ70キロだ。例の文献によると、400キロ程先にあるそうなので、後130キロだ。急げば後2日で到着するだろう。最近は夜の襲撃もあからさまになって来た。巨大な蟲や例の小型の恐竜が中心だ。我々もハンター中心に撃退する。

 兵士も対抗してるが案の定、銃は効果が薄い。しかし、まだ複数で対処できるレベルのようだ。私も発見したら触らずに念弾やブレードで対処してる。他のハンター達も上手くやっているようだ。そろそろ遠慮がなくなって来たな。到着まで保つだろうか。この時に複数人の怪我人が出たが、アンソニーさんと医療班の治療で問題無くなった。流石だな。本日は死亡者、行方不明者0ですんだ。

 

 5日目。昨日と同じ様に進む。夜も同様だ。寧ろより襲撃が激しくなっている。これは…我々を休ませないつもりか…?確かに全体的に疲労は溜まって来ている。しかし、後50キロ程だ。何とか樹海を抜けてたどりつかねば…。

 

 6日目。予定では行軍最終日だ。行きがこれだと帰りも思いやられる。しかし、とにかく目の前の事を何とかするべきだ。最近は地震が頻繁に起こる。……生物の振動じゃない事を祈ろう。

 

 

 しかし、ついにここで緊急事態が起こる。後方で巨大な生物の反応が複数あったのだ。急いで急行すると、見上げるばかりの象に似た生物が複数現れた。基本的には似ているが、サイズがおかしい。40メートル級の木々を凌駕する大きさだ!そして、長い鼻の脇に複数本の耳の様な、触手?の様な物が生えている。大体それが10匹前後いる!

 その一つに襲撃して来た恐竜を捕まえているところを見ると、あれはやはり触腕らしい…少なくとも肉食だ。しかもその恐竜が溶けてきているところを見ると、酸の様なもので溶かしているらしい。不味いな。既にこちらに目をつけられたらしい。仕方ない。相手するか。あのサイズなら銃はマメ鉄砲だ。他のハンター達も厳しいだろう。だから私がやる。

 一旦《円》を解き、《堅》にする!触腕?が兵士に向かって来たが、全てをオーラブレードで叩き斬る!

 すると、流石に怒ったのか、一斉にこちらを睨み付けて来る。

 

「今です!私がコイツらの相手をするので先に進んでください!!」

 

「だが…君が危ないんじゃないか!?」

 

「私なら心配ご無用!後で追いつきます!!引きつけてる間に行ってください!!」

 

「……分かった。健闘を祈る!」

 

 そうショーン大佐が言うと、部隊に急ぎ離脱する様に命令した。その間私は触腕斬りを続けていたが、しばらくして部隊が漸く離れた様だ。撒くのはネーブルさんでも出来るが、ネーブルさんはリーダーなのであっちに着いた方がいいだろう。

 …ただ、言ってて思ったけどこれって死亡フラグだよね。「プレデター」とかでも見たぞ。

 

 と、そんな事を考えている間にも例の触腕攻撃は続いている。もう粗方切ったと思うんだが…よく見たら触腕が恐ろしい速さで再生してる!これは埒があかない!

 しかし、急に一旦触腕攻撃が止み、大きな鼻をこちらに向けて来た。不味い!何か一斉に来る!

 次の瞬間、恐ろしい速さで複数の個体の鼻から液体が飛んできた! 慌てて飛び上がり回避する! しかし、それを待っていたのか、何体かが飛んでる私に向けて同じ液体を飛ばしてくる!

 くそっ、余計な事考えてたからだ!まだまだ未熟…!

 今はこれを回避しなければ…!オーラを硬くし、液体をカット!しかし、勢いが強く、いくらか浴びてしまう。すると、浴びた部分が煙をあげ、恐ろしい勢いで溶けてゆく!これは…酸か!【完全適合(パーフェクト・コンバート)】発動!酸に適応!

 奴らは容赦なく連続で浴びせてくる。有効打が見つかったからだ。しかしこちらも全力で適応!最近は猛毒でも30秒で適応出来る!舐めるなよ!

 しばらくその攻防が続き、完全に適合すると、奴等は困惑し出した。いくら浴びせても効かないからだ。装備は悲惨な事になったが、私は生きてるぞ!次はお前たちの番だ!

 この巨体に物理攻撃は手間がかかる。よって奥義で始末を付ける。瞬時に飛び上がり、奴等の一体に手を触れる。

 生命エネルギーを同調、からの…解放!〝外浸透勁〟!念能力を持たない相手にはこれだ!

 

 数秒もしない内に体液を撒き散らしながら一体が倒れ伏す!他の奴等はそれを見て不利を悟ったか逃げ出そうとするが、逃すか!ここで死ね!

 

 その後、ようやく全ての個体を全滅出来た。一息つく。結構オーラを使って疲労も少々あるが、まだまだ余裕がある。急いで部隊に追い付かなければ。

 《絶》をして、と。さて、追いかけよう。

 

 

 そう思った瞬間、背中から何らかの針が刺さる!しまった!!油断した!毒か!?そう思った時、全身に凄まじい衝撃が走り、私は意識を失った。




象に似た生物
33巻に出てきた、ちっちゃく見える象に似た奴からのイメージ。人間から見るとかなり巨大だが、あの絵を見ると彼等も被捕食者にしか見えない。強力な酸で獲物を溶かして捕食する。人間はオヤツの様なもの。


暗黒大陸の皆さん
「おい!活きのいい食料が大量に来たぞ!」
「これは…祭りか!?」
「うーん。でも1匹ヤベーのがいるから、ちょっと様子見しよう」
と言う感じ。

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