キチキチキチキチ……
不快な音と痛みによって目が覚める。気がついたら、私は洞窟の中にいた。暗い…。身体が動かない…。何故だ?それに至る所から不快感を覚える…。ぐっ…痛い…!地道に【
キチキチキチキチ…
な、何だこれは!?私の身体が巨大な醜い肉塊に変貌していた…!どういう事だ…!そして、私の身体を人の半分ぐらいの気持ち悪い蟲が齧っていた。これは…ゴキブリ…に似ているか?ただ、アレと違うのは強靭な顎と手…の様な触手が生えている所だ。気付けば、至る所に似た様な肉塊が転がっていて、そちらにも群がっている…!しかもそいつらも気持ち悪い呻き声をあげている…。
急ぎ、細胞操作を試みるが、どうやら細胞が暴走しているらしい。恐らく癌細胞化している…。恐ろしい蟲だ。生物に癌細胞を発生させて、その増殖した肉を貪り食べる生態!しかも獲物は長く食べられる様にわざと殺さない…!
これ程悪意に満ちた生態は初めてだ。しかし言ってる場合では無いな。オーラは…、まだ辛うじて出せる。重要器官の細胞がまだ無事だ!よし!【
仕方ない、徐々にやろう…。
延々と齧られ続ける苦痛を味わいながら、何とか徐々に身体が元の形に戻って行く…!それに気づいたゴキブリ(仮)共は、私が適応し始めたのを見て更に口から針を飛ばして来る。打たれた場所は再び癌細胞化するが、徐々に元に戻っていく。身体が元に戻ってくるにつれ、ゴキブリ(仮)共は危険を察知し始めたのか、私に一斉に群がり鋭い顎で齧り始めた。生かして齧る事をやめ、殺す事にしたらしい。齧られた場所は【
本当に嫌だが、齧られてる部分からオーラを同調させる。やってみて分かったが、コイツ等は薄いが念能力持ちだ!アレは念能力か!だからあんなに強烈なのか!
ということは〝内浸透勁〟だ。齧られた部分から同調させたオーラのみで解放!本当は手を使ったやり方しかやった事は無いが、しのごの言ってられるか!一匹が痙攣したのちぐったりして白色の液体を出しながら離れた。よし、威力は手より劣るが出来た。溜めに時間がかかるがしょうがない。ドンドンやっていく!
一匹ずつ始末しても次々と群がってくる!流石ゴキブリ(仮)だ。何匹いるんだ!?こちらも一匹ずつ始末するが、埒があかない。【
既に全身を齧られている。1匹ずつじゃ無理だ。複数で出来ないか…!まずは首に取り付いてる奴ら2匹から……出来た!少し効率が良くなって来た。やはり命懸けだと習得率が高い!無理だったら死ぬからな!
次第に2匹ずつが3匹ずつになり、4匹になり、5匹になる。身体中の何処からでも出来る様になった。溜め時間も少なくなり、1秒かかっていたのが瞬時に出来る様になった。しかしやってもやってもまだまだ来る…。くそっ! 何匹いやがる! もう50匹以上は殺してるのにまだ湧いてくる…! こちらも回転を上げる! 既に10匹以上同時にやっている…。不味い。まだか? オーラ量ももう心許ない。そう思い始めた頃、漸く【
そして右手が動き出すッ!更に効率アップだ!!その内左手も動き出し、頭部などの弱点を優先的に防御しながら出来る様になった。その頃には最終的に300匹以上は倒し、群がる山も徐々に減って来た。今は20匹以上同時に出来る…!身体が動き出してから、オーラでも出来る様になったからだ。そして…
漸く全滅させたようだ…。500匹ぐらいいたぞ…。それにしても、何とか間に合ったか…。久しぶりに死ぬかと思った。こんなにヤバい生物が大量にいるのか…。やっぱり移住は無理だな。ジュラシックパークより酷いぞ…。
とりあえず、ここはゴキブリ(仮)の死骸で山積みだ。気持ち悪い事この上ない。さっきは必死だったから気にならなかったが、落ち着いてみると生理的な嫌悪感が強い。早く脱出しよう。そうだ、哀れな犠牲者にトドメを刺してやるか…。そう考えて、他の肉塊に近づいた時
「………コロ……シテ……」
!!
人間か!?慌ててそちらに近づくと、肉塊の一つは確かに服の残骸が残っていた…この装備は、先に進んだ部隊か!だが…声も微かで震えている……それに…どう見ても手遅れだ…。
「大丈夫だ!奴等は全て倒した!今すぐアンソニーさんの元へ連れて行くからな!」
「ムダ……ダ……ブタイ…ハ…ゴホッ……ゼン…メツ…ダロウ…」
「!何が起きた!?」
「バケモノ……二…オソワ…レタ…ハヤ…ク、コロシテ…クレ…タエ…ガタ…イ…」
…自分もそうなっていたから分かる。確かに耐えがたいだろう。特に齧られてる時は痛覚もあった。地獄の様な拷問だった。一般人なら尚更キツいだろう。
「………貴方は、いいのですか?」
「アンタ…トハチガッテ…モウ…モドレナイ…ダロウ…ソレニ…クツウガ…ヒドイ…タノム…ハヤク…!」
「………分かりました…。介錯します…。…何か言い残す事は?」
「ジェシー…二…スマナイト…ツタエテクレ…」
「…必ず伝えます」
「アリガトウ……ヨウヤク…ラクニ…ナレル」
…私は彼に神経毒と麻薬を打ち込んだ。徐々に呼吸が浅くなり…安らかに息絶えた。苦痛が少なかったら良いのだが…。彼の近くに千切れたドッグタグが落ちていた。ラルフ=リース、23歳…。初めて人を殺した…か。だが、このまま生かして置いても苦痛が増すばかりだ。アンソニーさんでもこれは治せないだろう。私の【
仕方ない。仕方ないんだ。私は自分にそう言い聞かせながら彼とその荷物を運び、洞窟から脱出した。他の肉塊にも同じように毒を打ち込み、楽にさせた。
地表に出ると、簡単に彼を埋めた。そして近くの岩を砕き、ヘルメットを置いて墓標を建てる。
「1771年8月 ラルフ=リース、ここに眠る」
このドッグタグは私が必ず持って帰ろう。そしてジェシーさんにも伝えよう。それが生き残った者の義務だ。
◆
近くに川があったので、簡単に身体を洗い、ラルフさんの服を着る。ゴキブリは水場の近くに出るからな。あると思ったが本当にあって助かった。服はボロボロで破れているが、無いよりマシだろう。首にはハンターライセンスと彼のドッグタグを付けた。千切れず残っていて良かった。それにしてももう夕方過ぎ。あれから6時間以上経ったか。オーラもギリギリで心許ない。仕方ないので先程の洞窟の入り口で少し休憩する。夜に活動して、皆に追いつこう。バケモノに襲われたそうだが、心配だ。少しでも早く回復せねば…!
《絶》をし、警戒を怠らないようにしながら仮眠を取る。先程の適応からか、細胞がかなりパワーアップしたようだ。具体的に言えば、分裂、増殖する力が凄まじいスピードになった。恐らく、腕一本なら【
念の為、2時間休息し、出発する。オーラも全回復した。というか細胞がパワーアップした分、よりオーラが増えた。100万はいったか?ただ、オーラも量はかなり大事だが、質も大事だ。言わば制御力だ。そのオーラを完全に御せなければ簡単に負ける。師匠がいい例だ。今は修行は無理でもなるべく制御出来る様に心がけよう。
さて、そんな事よりも方向はどっちだ?奴らの生態から襲撃位置からそこまで離れて無いはずだ。慎重に進みながら匂いで辿るしかないか。ちなみに私の五感もかなり鋭い。嗅覚は犬に近いぐらいだ。ラルフさんの匂いの残滓を辿る事で合流できる筈だ。急ごう。
微かな匂いを頼りに進む。進むにつれ、部隊の人たちの匂いも混じり始める。よし!こっちの方向だ!その内足跡も発見した。これを辿る!
しかし、同時に血の匂いも混じり始める…。ラルフさんが言ってたな…。大規模な襲撃で犠牲者が出たか…。
しばらく足跡と匂いを辿って居ると、聞き覚えのある声がしてきた。
「おーい!カームさーん」
「こっちだ!早く来い!」
「急げ!」
「こっちっす!」
「早く来ないとディナーに遅れるぞ!」
!!
この声は!ハンターのみんなだ!無事だったのか!!
「私は無事でーす!今行きます!」
急いで駆け寄る。良かった。みんなのオーラだ!
みんないる…!
残り10メートルで止まる。先程から頭が痛い。
「どうしたんですか?早く行きますよ」
ネーブルさんが言う。
「そうだな。待ってたんだ」
「そうっすよ。早く行きましょう!」
アンソニーさんもマットさんも言う。
「どうしたんだよ。何か心配事でもあんのか?」
ブラッドさんも聞いてくる。
「なんでもいいけどよぉ、遅れちまうぜ?」
…………。
「ネーブルさん…部隊はどうなったんでしょう?」
「え?皆さん無事ですよ?」
そんな筈は無い。
「負傷者は出なかったんですか?」
「あぁ。皆ピンピンしとるよ」
馬鹿な。
「彼らの警備は?」
「心配いらない。必要ないだろう」
任務放棄だろう。
「そしてチャーリーさん…
「あぁ、緊急事態だからみんなを追っかけたんだよ…」
私ならともかく、単独で追跡する?この距離を?嘘を言うな。
「嘘じゃ無いぜ、かなり無茶したがな」
「…ならば聞きますが…何故あなた方は緊急事態にもかかわらず、
私は臨戦態勢に入りながら質問する。【
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…バレちゃったね」
「…惜しかったね」
「…詰めが甘いね」
「…誰のせいかね」
「…仕方ないね。…普通に食べよう」
ゴキゴキゴキ…
嫌な音を立てて彼らの身体が変化し始める。やはりな…魔獣か?…いや、これは……マンティコアか!
「こいつには我々の力が効かない」
「手強そうだ」
「気をつけろ。かなり強いぞ」
「連携しろ」
「合わせる」
正体を表した奴等のオーラは以前の5倍ぐらいある!奴等は私の周りを囲み、一斉に飛びかかって来た。速い!以前の奴とはやはり比べ物にならない!…だが、私は対応出来る!
四方八方から迫る爪や尻尾の攻撃を
噴!!!
先程ので、かなり精度が上がったぞ!強烈に効くはずだ!喰らった奴はよろけ、大量の血を吐いて倒れた。恐らく絶命しただろう。
「かなり強い」
「逃げる?」
「いや、まだだ」
「あれをやろう」
そう言うと、彼らは一旦離れて尻尾を翳す。
何だ?と思った瞬間、尻尾からオーラのレーザーが飛んでくる!コイツらここまで熟練か!しかし、それは効かない!丁寧にレーザーを横から軽く叩き、全部逸らす!
その瞬間、身体が反応した!あれに神経毒を混ぜるか!以前の奴よりかなり強い!だが、
「やったね」
「強かった」
「油断するな」
「確実に頭を潰す」
…慎重だな。前の奴とは大違いだ。近づきもせずに再び尻尾レーザーで頭を狙っている。…仕方ない、カウンターで行くか。
奴らがレーザーを放った瞬間、それを躱す!狙いが分かれば躱すのは容易い!同時に鋭く変化させたオーラ波を円状に放つ!
斬!!!!
見事に奴等は横一文字に真っ二つになった。DBの気円斬の応用だ。オーラブレードよりもこういう時に便利だ。さて、こちらも油断せず全ての頭を念弾で消滅させる。…終わった。これはあの頃に出会ってたら即死だな。今でよかった…。辺りを警戒しつつ、何も他にない事を確認する。
さぁ、とんだ道草をくってしまった。先を急ごう。
ゴキブリ(仮)
暗黒大陸にしては珍しく小さめの蟲。ただし、人間の半分サイズはある。普段は水場の近くの洞窟を塒にして獲物を狩って生活する。肉食。後は家のゴキブリと似たような生態をしている。
この蟲の最大のポイントは種族的な念能力を持ち、相互協力型の能力が使える点。口から針を飛ばし、強力な昏倒させる毒を注入すると同時に対象の生物の細胞を暴走させ、癌細胞化させる。そして、動かなくなった生物を巣に運び、肥大した肉を喰らう。これは、この大陸で何とか生存するために生まれた能力である。念能力の為、最早呪いに近い。出来る限り強敵から逃れる為に、一度確保した獲物は長く食料として保存できる様に、ワザと生存させたまま増殖する肉を提供させる。そのため、重要器官にはなるべく手をつけない。
やられた方からしてみればたまったもんじゃない恐ろしい蟲である。
マンティコア(真)
以前のものとはレベルがそれこそ違う。暗黒大陸を生き抜いた種族。以前の幻惑・思考誘導能力もパワーアップし、カームすら誘導されかけるレベルに加えて変身能力まで持つ。変身は同程度の大きさの生物なら自由自在。そしてオーラ技術も段違いに高い。その癖、知能が高いので力押しは極力せず、どんな相手にもコミュニティに侵入し、気付かれない様に掻っ攫っていく。数匹単位の群れで行動し、狡猾な狩りを行う。
厄災のとんでもレベルを考えると、こんなのも普通にいそうだから困る。流石ヒロイン!