急ぎ、皆のもとへ向かう。先程の闘いではかなり驚いたな。まさか再び奴が出て来るとは。能力もより強烈だった。以前に比べて知能がより高いし、変身するし、思考誘導?認識阻害?も悪辣だった。おかげ様で私も念話的な事が出来るかも知れない。あれは微小なオーラを飛ばして行っていた。正に〝念〟話だな。ネーブルさんからコッソリ貰ったのも併せてかなり有用スキルになりそうだが。しかし例によって私の体質と誓約によって幻惑系は出来ないが。まぁ幻惑が効かないというだけでも有効だろう。念話が出来るだけでも十分だ。
さて、いよいよ樹海の切れ目が見えてきた…!もうそろそろ昼過ぎになる。漸くこの森を抜けられる!部隊のみんなもこの先にいそうだ。…無事だろうか?とにかく行ってみよう!
森を抜けたら、そこはなだらかな丘で、雄大な草原が広がっていた。しかし、そんなことはどうでも良いぐらいに目の前の光景に目を奪われた。
草原の先に、凄まじい規模の都市が広がっていたのだ。石造りに見えるが、整然と並ぶビル街のようにも見える。そして、その中心には植物のうっすら生えてる地帯が広がり、更にその中心には天まで届くような高い塔が悠然と姿を現していた。
思わずその光景に目を奪われ、しばらく呆然と眺めていたが、その後、草原の一角に部隊のキャンプが設営されているのが見えた。
私は、思わずそこにダッシュして近づいたが、残り10メートルの所まで来たときに見張りをしていた兵士に強い口調で止められた上に、銃まで向けられた。
「止まれ!!!貴様、誰だ!?所属と階級、名前を言え!!!」
「待ってください!!私はハンター協会のシングルハンター、カーム=アンダーソンです!」
「いや、それだけでは駄目だ!そのままそこにいろ!一歩も動くなよ!動いたら敵対行動と見なし発砲する!!!」
「……わかりました。いつまでこうしていれば良いですか?」
「じきにハンター協会員が来る…それまで待て!」
仕方ない。とりあえず待つことにする。…恐らくマンティコアに襲われたな?だからこそこの警戒か…。そうこうしていると、ネーブルさんが歩いてくるのが見えた。…他のハンターも一緒だ。ずいぶんと警戒している。
「また会えるとは思いませんでしたよ…『
「分かりますよ。ネーブルさん。私も奴らに襲われました。ライオンのような魔獣…でしょう?」
「!なぜそれを…。やはり心を読むか…!」
「いやいや!待ってください!本当に私です!疑うなら色々質問してみてください!答えますから」
「そうですね…では、まず始めに貴方のこれまでの行動を聞かせてください」
そう言われたので、私は象型の生物との交戦から、その後不覚を取ってゴキブリ型の敵に襲われたこと。そして匂いを辿ってここまで追跡する途中にマンティコアと交戦したことを話した。また、ラルフさんのドッグタグを見せ、彼の遺言まで伝えた。
「なるほど。しかしそれだけでは信用に足りませんね。そのタグも死体から奪えば容易い」
「……では、貴方の知らないことを言えば信用しますか?」
「……内容次第ですね」
「まず、私のカキンでの師はリー老師。そして、私はそこで10年間学びました。奥義として〝発勁〟の中の〝浸透勁〟が使用できます。これで象を全てと奴らの一体を倒しました」
「…確かに私が知らない情報だ。しかしどう証明します?」
…疑い深いな。やはりかなり手ひどくやられたんだろう。
「実演すれば出来ますが…まぁやらせてくれるのは無理でしょうね。仕方ない。ではこれを見てください」
そう言って、私は手のひらを前に突き出した。《纏》の状態から指先にオーラを集め、移動する。字を書き、それを指先で移動させる。など、変化系の様々な応用技を披露した。最初からこれをやれば良かったな。
「奴らもオーラ操作はある程度熟練ですが、ここまではできんでしょう」
ネーブルさん達は驚いていたが
「……確かにそうですね。字も我々が使用しているものだ。わかりました。貴方を本物だと認めましょう」
「ありがとうございます」
「しかし、完全に信用できるまでは監視させてください。申し訳ないですがまだ疑いが完全に晴れないので」
「…分かりました。そうしてください」
とりあえずは納得してくれたようだ。これで納得してくれなかったらどうしようかと思っていた所だ。
しかし、私の背後からもう1人出てきた。
「いや~久しぶり!向こうで緊急事態が発生したからこっちに来たぜ!ちょっと入れてくれよ!」
「……ちょうど良い。先ほど伝えた技を見せましょう」
そう言うと、無造作に私はチャーリーさんに近づく。
「お、おい。どうした。俺だぞ?」
「生憎、もう私にはそれは
そう言うと、チャーリーさんの胸に手を当て、〝内浸透勁〟をぶち込んだ。
「ぐっぎゃああああっぁぁぁぁ!!!」
叫びながら
「私には闘った相手の正体を見破ることが出来ます。次に不審な者が来たらまず私に会わせてください」
そう言うと、ネーブルさんは呆然としていたが
「どうやら本物のようですね…。分かりました。認めましょう。どうぞ、中へ」
と招き入れてくれた。
やっとか…。おのれ、マンティコアめ。
◆
それから、予備の服に着替えさせて貰って、あの後どうなったかを詳しく聞いた。あれからやはり少しずつ人員が減っていったらしい。時間を追うごとにその減少する人数が増えはじめ、気付いたときには2、30人単位で減ってしまっていた。その後、なぜか減ってしまった人々が帰ってきた。そして、その後、またあからさまに人が減り始めた。しかし、不審な陰はなく原因が分からない。
そのうち、また例の象や蟲、恐竜どもが強襲を仕掛けてきて、これまた大量の兵士が文字通り
…大損害じゃないか。確か軍では30%が全滅の定義じゃなかったか?その辺にはあまり詳しくないが、その話が本当ならもう50%近く失われてるぞ!
「ネーブルさん。その話が本当なら、もう軍は軍事行動が不可能な状態ではありませんか?ここまでなってもまだミッションを遂行するのですか?」
「……軍には掛け合いましたが、任務は引き続き遂行するとのことです。我々ハンターもたとえ軍がなくともここまで来たら我々だけでも迷宮都市に侵入し、リターンを得ることはやります。つまりこのまま続行です」
「…あまり言いたくはありませんが、ここはまだ道中で、しかもここからが文献に書かれていた兵器が出てくるんですよ?よく考えなくても本来の意味で全滅しかねませんよ…?」
「ここまで来たら我々も引けないのです…。察してください」
「…それは我々の命を天秤にかけても…ですか?」
私とネーブルさんの間に緊張が高まる。次にどちらかが発言すれば手が出るほどに。そこへ会話に入ってきた人物がいた。
「それまでにしておけ。『
「!アンソニーさん!しかし!」
「よく考えろ。これは国とハンター協会が10年掛けて取り組んできたプロジェクトだ。それを何も出来ないまま、成果も何一つ無いまま帰るわけにはいかん。もしそうなってみろ。国家もハンター協会も面目は丸つぶれだ。他の国がうまくいった場合など目も当てられん。最悪V5同士での戦争の引き金にもなりかねんのだ」
「だけど!貴重な人員をもう400名近くも失ってるんですよ!!」
「
「……分かりましたよ。納得はいきませんが。しかし、本当に兵器によって全滅しそうになったらどうするんです?」
今まで黙っていたネーブルさんが口を挟む。
「その時はその時で、プランBが発動します。ご心配なく」
「私は何も聞いていませんが?」
「これは国家間での取り決めです。つまり極秘事項。ダブル以上にしか話せません」
「…本当に納得いきませんが仕方ありませんね…。分かりました。付き合います。私1人意地を張ってもしょうが無いですからね」
「…分かってくれたのなら幸いです。まだまだ貴方の力も必要だ。『
「仕方ない。全力で警戒に当たります。取り急ぎ、いまこのキャンプにいるかもしれない奴をあぶり出します」
私はキャンプ内を《円》で覆った。……やはり、いた。6名が入れ替わっているな。向こうは潜入した気になって私が気付いたことに気付いていない…。すぐさまそれぞれの場所に赴き、直接〝内浸透勁〟を打ち込んで倒した。驚くことに、ショーン大佐も入れ替わっていた。…本当に大惨事だな。
軍は一時的に混乱したが、ショーン大佐の後をダン中佐が引き継ぐことになった。
「やはり、貴方はかけがえの無い人員です。このミッションを成功させる鍵は貴方にある…本当に期待していますよ」
……ネーブルさんはそう言ってくれたが、私は何も返すことが出来なかった。本当にこれでいいのか。その疑問がぐるぐる回ってその晩は眠れず過ごすことになった。
プランB、これが言いたかっただけというわけじゃ無いですからね…?
部隊の皆さん、半分は生きてました!奇跡!
人数が多かったのと、幻惑が上手く機能した様ですね。
追記
ちょっと修正入れました!具体的には能力開示について。
流石にパーフェクトコンバートを開示しようと考えるのはアホすぎるので、その部分を変えています。