眠れぬ夜を過ごした。こういうときは瞑想で心を落ち着かせるのだが、どうもうまくいかなかった。私の〝勘〟と呼ぶべきものが全力で警告している。…ここから先に行くな、と。まだ引き返せるはずだ、と。
…そうかもしれない。本当はここで引き返すのが正解だろう。どう考えても全滅に近い被害が出るように思えてならない。が、これもまたしがらみというものだろう。行くしかあるまい。兎角人間社会は複雑で、度しがたい。私も社会に出ることに憧れてはいたが、こうなるとは厄介なものだ。本当にままならないな…。とにかく私は最初に決めたように「生き残ること」。これだけは胸に持っておこう。私は絶対に帰るのだ。
次の日の朝、私達はこの古代の迷宮都市攻略の最終打ち合わせを行う。中心は我々ハンターと現在の軍のトップであるダン中佐だ。今度はジャングルとは訳が違うため、慎重に議論を重ねる。事前の打ち合わせでは分隊に分かれて突入する予定だったが、そんな小規模ではなすすべなくやられてしまう恐れもあり、全体で行動する事になった。目立つが、不測の事態の時に対応しやすい。
ルート確保の為に斥候として分隊を少しずつ派遣して、安全が確認されたら進むというやり方だ。まぁ異論はない。もしもの時には隊を100人規模の中隊に分けてそれぞれのハンターがそこに付く。それぞれの隊の隊長には小型の無線機が渡されている。もしもの時はこれで連絡を取り合うのだ。
当然ながらネーブルさんはダン中佐の中隊だ。私はフィリップス大尉の隊に入る。アンソニーさんとマットさんは別の隊だ。何でもコンビだと凄まじい力を発揮出来るとの事。まぁ慣れてるやり方が1番いいな。後はブラッドさんか。
ブラッドさんはちょっと不安げだ。しかし私もそうだし、他の皆もそうだろう。出来れば、別れて行動なんて事態にならなければ良いが…。
それと、ネーブルさんから少し大きめのガラスケースを渡された。これにリターンを入れると言う事か。他にも用途があるそうだが、別途伝えるとの事。なるほど。プランBか。私の想像が正しければ大変嫌な予感はするが、それが発動しない事を祈ろう。
◆
いよいよ突入だ。都市近辺は妙に静かだ。今まで敵性生物の脅威に晒されて来たからか、強い違和感がある。考えられる事は、この都市が何らかの汚染をされているか、又はその兵器とやらが余程の脅威なのか、だ。
部隊員は流石に全員ガスマスクを装着した。我々ハンターもだ。私には必要無いかも知れないが、何があるか分からないので有り難く装着する。
前世で観た映画に、謎惑星の謎の遺跡にノーマスクで突入している場面があったが、とても正気の沙汰とは思えなかった。案の定、ヤバいのに取り憑かれたし。
ともかく、気休めだとしても無防備よりは余程いい。私も生き残るために最善を尽くすか。
最大限の警戒をしながら、分隊が突入する。古代都市という事だったが、外観はかなり近代的だ。しかし、壁のような物は見当たらない…。壁もないのに敵性生物の侵入を妨げてきたのか?とりあえず安全はクリアらしい。一番目立つ入り口は巨大な門だ。他の場所は入りやすいようで、建物のせいで入れない。ここから入るしかないか…。しかし、近代的なビルっぽい建物が見える割には、細かい部分でマヤ文明的な意匠も見て取れる。入り口に近づくと、石造りの門の横には精巧なレリーフがある。…右側には木を始めとする植物と…左側には人間だな。じっくり考察したい所だが、今はいち早く任務を遂行する事が先だ。しかし…こんな所で人間は本当に文明を築けたのだろうか?
どう考えても生存には適さない、こんな場所で…。それもこれから分かる…か。
門を潜れば、見渡す限りの石造の建物があった。道路も石造りだ。ただ、そのビル状の建物はかなり乱雑に立っていて真っ直ぐ進む道は少ない。かなり入り組んでいる様だ。…確かに迷宮だな。道を間違うと袋小路に入り込みそうだ。とりあえず周囲に敵はいないようなので、中心部の方向を目指して進む。
草原から見た感じだと、だいたいここから30キロぐらいだろう。かなり巨大な都市だ。…迷わず辿り着ければいいが。
しかし、この都市は全く植物が生えていない。草一本もだ。普通はこんな古い建物などは植物に侵食されるものだが。例の兵器と関係しているのか?
また、石造の建物だが、窓一個ない。ただ入口はそれぞれあって、中は生活空間の様なものが垣間見える。石造りのテーブルや椅子などだ。我々の知っている形とは少し違うが。ただ、石以外の調度品は全く無い。腐食したのかなんなのか分からないが、影も形も見当たらないのだ。凡そ2階から5階建てになっているが、全てそうだ。どれぐらいの時間が過ぎ去ったのだろうか。数千年ではきかない気がする。
さて、5キロぐらい進んだだろうか。特に何らかの事態が起きる事も無く、静かなものだ。…
そこからしばらく進むと、分かれ道に差し掛かる。どちらが正解なのか全く分からない。斥候の報告でも、どちらにも道が続いている様だ。仕方なく、我々は二手に別れる事になる。一方が行き止まりでももう一方が正解ならば良し。という事だ。幸い無線も通じるし、連絡を取り合えばいいだろう。
私とブラッドさんの隊、ネーブルさんとアンソニーさん、マットさんのグループに分かれた。さて、何も無いといいが…。
しばらく歩くとまた分岐があった。仕方なくブラッドさんとも別れる。無線で確認したところ、向こうも似た状況らしい。
…完全に分断されたな。仕方あるまい。何れかの部隊がリターンを発見すれば我々も即撤退出来るし、何より移動速度が段違いで上がるからな。警戒しつつ、皆の無事を祈ろう。フィリップス大尉は私に
「正直、『
と言っていたが、今回ばっかりは厳しいかもしれない。
「……私もたいして役に立たないかもしれません。正直に言えば私も不安ですが、全力は尽くします。兵器とやらに見つかる前に急ぎ、先を目指しましょう」
「ご謙遜を。しかし、そうですね。先を急ぎましょう」
◇
全く、とんでもない任務だ。俺もヤキが回ったな。俺はブラッド=ピース。シングルハンターだ。これでも結構名は通っている方だぜ?『
……俺はここで死ぬ。
まだ、あの『
今は確かに何も無い。だが感じるんだ。死の気配って奴を。
「隊長!!未確認の生命体が複数出現!囲まれてます!」
ほ〜ら、おいでなすった。まずは銃撃だな。お手並み拝見といこう。どうせ効きゃしねぇだろうけどよ。
…やっぱりな。撃たれた端から修復してやがる。それにしても、奇妙な奴等だ。人間型や動物型、魔獣型まで居る。これだけなら同じ奴等とは思えないだろうが、気持ち悪ぃ事に
「いいか!よく聞け!コイツには絶対に触れるな!銃撃で牽制しながら逃げるんだ!先遣隊は先に行ってルートを確保しろ!」
隊長を差し置いて命令したが構わねえだろう。皆も一も二もなく納得して従ったのがいい証拠だ。
だが遅かった。奴等も動き出した。緑色の頭が割れて触手みたいなのが何人かに刺さる。そいつらは痙攣した後身体中がボコボコ膨らみ始めた…あれはもう手遅れだな。頭以外も本体が凄いスピードで近づいてきて、胴体から口が開いて隊員が文字通り喰われたり、指の口?みたいなところから触手が伸びて刺さったりとやりたい放題だ。それ以外にも浮かんでる球体が凄まじいスピードで飛んできて隊員の身体に突撃し、肌が露出してる所から入って行った。そして身体の中を突き進んで頭部に向かってる!1、2秒足らずで頭が奴等と同じになった!…侵食が早すぎる!何つーバケモノだ!俺も冷静に実況してる様に思うかもしれんが、これでも必死に逃げてる。だが、一般兵はそうもいかねぇ。後ろからは「ぎゃあぁあーーっ!」とか「マ、ママーーッ!!」っていう悲鳴がひっきりなしに上がってくる。正直俺も悲鳴をあげてションベンチビりそうだが、こんな時にパニックになった奴から死ぬから我慢してるだけだ。実際それは後ろの悲鳴が証明してる。
しかし、そんな時よりによって最悪なお知らせが来た。
「こっちは行き止まりです!!」
……野郎、狙ってやがったな!クソっ!後ろから奴等は容赦なく迫って侵食して来る。行き止まりでも行くしかねぇ!
そして、遂に追い詰められた。俺達も残り30人ぐらいしか残ってねぇ………しゃあねぇか。ここまでだ。だが、最期まで足掻く!
【
近くの寄って来た奴に発動する!そして…!
【
俺にはアイツらには言ってない能力がある。まぁアイツらだって同じだろう。俺も奴等も模擬戦では手を抜いてたしな。俺のコレは複数の敵集団に対して
「コイツらは俺が足止めしといてやる!いつまで持つか分からん!!お前らは急いで戻って『
今にも死にそうな顔してた兵士共が、弾かれた様に動き出す。去り際に1人が
「すみません…!御武運を!!」
と言って去って行った。
さて…やるか。
ミーシャ、レイラ、すまねぇな。先に謝っとく。
だが、俺はこの能力を使って今まで生き延びて来た。
これからもそうさ。
【
・操作系能力
スラム生まれの彼が、家族を守る為、足止めをする為に生まれた能力。【
この能力が発動すると、【
〈制約〉
・【
・全ての敵を倒さなければ解除されない
〈誓約〉
・【
追記
後書きの能力説明を追記しました!