あれからしばらく《絶》をして、隠れながら進んだ。奴等からの接触は無い。やはり正解だったか。しかし、部隊との接触もこれまた無い。ここまで来ても接触出来ないとは…。まさか…!
いや、無事だと信じるしか無い。兎に角私も進む。やはり分岐が多く、私も迷ったが前世で聞き齧った左の法則を信じて右へ進む。こういうときには人間は左を選びやすいから、あえて右だそうな。確かクラピカも言ってた様な…。もうあれほど愛読した内容も薄れてきているな…。途中で地下への入り口も有ったが無視した。こんな時にこんな所で地下に行くなんて正気の沙汰じゃ無い。どう考えてもやられるフラグだろう。本当は飛び上がって方向を確認したいが、それも出来ない。奴等に見つかる。これまた信じるしか無い…か。
そうこうしているうちに10キロぐらいは進む。もうそろそろ着いてもいい頃だが、いっこうにその気配が見えない。完全に迷ったか…!だが、建物の意匠も少しずつ変わってきているように思う。何となくマヤ文明的な要素が増えてきた。それこそ古代の迷宮にふさわしい感じだ。多分中心部に近づいているんだろう。そうと信じて進むか…。
いよいよ建物もそれっぽくなり、今や完全に旧文明の遺跡然とした感じになってきた。入り口周りはやはり居住区か?そして、遂に建物の切れ目が見えてきた。やっと着くか…!これで希望が持てる!
すると、最後の建物の先に、雄大な森が広がっていた。
…そして、その陰に緑の球体が至る所に浮かんでいるのが見えた。
危なかった…!急いで抜けなくて良かった!
警戒して、こっそりのぞいただけで良かった!幸い奴等が動き出す様子はない。そーっと後ずさりし、100メートルぐらい後方の建物の中に入る。……あれは無理だ…。どう考えてもあれを無傷で突破するのは厳しい。ただでさえオーラが使いにくい状況なのに、かなりの数いたぞ…!絶対に戦闘するとそこかしこから飛んでくるやつだ…!少なくとも人間の部隊は一網打尽だろう。
さて、どうしようか…。ここまで来て無理だったとは厳しいな。何とかならないものか…。と考えていると
「やはり君も無事だったかね。『
「さすがは『
!!!
建物に入ってきて小声で話しかけてきた人物がいた。
「アンソニーさん!マットさん!無事だったんですね!?」
私も小声で返す。
「私もいますよ」
その後ろからネーブルさんの姿も見えた。
「ネーブルさん!よくぞご無事で」
「私の能力はこういうときに役立ちますからね…危うく侵食される所でしたが」
「全く、本当に死にかけたな。まさかあれほどとは思わなかった」
……よく見ると、アンソニーさんの
「それは…大丈夫なんですか?」
「…私もうかつだった。浸食中の患者に触れてしまってね…きちんとゴム製の手袋付きだったのだが、まさかオーラで感染するとは」
「…しかし、それでも無事で良かったですよ。皆さんはいつからここに?」
「かれこれ1時間以上前っす」
そういうマットさんもボロボロだ。例の能力を多用したのだろう。彼も
「部隊はものの見事に全滅したがね」
「我々のほうもです」
…やはりどちらも壊滅したか…。やはりあの生態は一般の人間には相当厳しい。フィリップスさんの部隊も…。
「我々の部隊も先に逃したのですが…。見つからなくて…ブラッドさんが命懸けで守った人達もいたんですが…」
「言いづらいですが、恐らく無事ではないでしょうね…。奴等はグループ単位で現れ、しかもそれが複数単位で存在してますから」
「奴等の性質で分かった事がある。奴等には目に相当する部分が無い。ではどうやって敵を感知しているか…。恐らくオーラ、つまりは生命エネルギーだろう。奴等は有機生命体に手当たり次第に襲ってくる。唯一、無機物には侵食しない」
アンソニーさんの言葉にはほぼ同意見だ。つけ加えて言えば、切り離したオーラ攻撃は有効なことぐらいか。
「しかし…この先はどうします?流石に気配を断って感知されないとしても、あの数だとバレる気がしますよ?」
「その通り…幾つか石を投げるなどして実験したが、奴等は音や動きにも敏感に反応する…我々もここから先に行けずに困っていた所だ」
「カームさん…貴方ならどうですか?」
「……正直に言わせて貰えば、無理ですね。あの森を無音で動かず進むなんて不可能に近い。少しでもミスれば奴等から総攻撃を受けるでしょう」
「そうですか……残念です…ここまで来たのですが……。仕方ありませんね。やはりここは
「……この状況からでも何とかなるプランがあるので?」
「えぇ。我々は先程、プランBについては
「…非常に嫌な予感がするのですが、聞かせてもらってもいいですか?」
すると、アンソニーさんが右手で懐からガラスケースを2つ取り出した。そこには…
「…!何を考えてるんですか!?」
「『兵器』ですよ、カームさん…。ハンター協会も、合衆国も、
「これだけの『力』を持つものはないぞ!強烈な抑止力になる…!侵食率、増殖率、大量破壊性…どこを取っても現在の全てのバイオ兵器を過去の物にする!さすが新大陸の『兵器』だ!!そう呼ばれるだけはあるな!」
アンソニーさんが興奮した様に捲し立てる。…馬鹿な!?何を考えてるんだ!!
「御自分が何を言ってるか分かってますか!?
「…正に君の言う通りだよ。『
「仮にそうなったとしても、その結果一体どれ程の死者が出ると思ってるんだ!?アンタが言ったんだろう!!忘れたのか!?」
「成果なしで殺し合うよりも人類の進化の可能性を秘めてる方が、結果としては有意義とは思わないかね?」
「…もういい!アンタじゃ話にならない!ネーブルさん!貴方もそう思ってるのですか!?」
「……私としては、アンソニーさんの意見に賛成です。何の成果も無いよりは余程いい」
「…マットさん!」
「…俺もこのままおめおめ逃げ帰るよりはいいって思うっすよ。じゃないと死んだ兵士達が浮かばれないっす」
……なんて事だ…。本当に馬鹿なんじゃないか?頭が狂ったとしか思えない…。強すぎる力の先は破滅が待ってるだろうに…。仕方ない。
「…そちらがその気なら私にも考えがある…。何故これ程の兵器を有していてこの文明が滅びたかよく考えるといい。少なくとも私は
「ならばどうする?君があの超危険地帯を突破して例の香草を取ってくるかね?…まぁ
「…何を言ってるのか分かりませんが、私は考えを変えるつもりはない…!」
「知っているんだよ…Mr.アンダーソン。君は我々に隠している能力が有る事を」
…ここにきて何を言い出すんだ?しかし、そこにネーブルさんも口を挟む。
「…ハンター協会でも話題にはなっていました。貴方はどんな相手からも、いえ、
「故に、我々は君の隠している能力は
…チッ。ほぼ正解だ。しかしだから何だというんだ。まさか私に何かしようってんじゃないだろうな。
「……だから何だと言うんです?」
「何、君のその強力な力なら彼らの力さえも適応出来るのではないか、と思っただけだよ。もしそうなら君は彼らの力を吸収出来る。我々もプランBではなく、例の香草もGET出来る。…まさしくWIN-WINの関係じゃあないか」
「……仮にそうだとしでも、そんなに便利なものにはならないでしょう…。第一、仮にそれが出来るとしたら私はどうなります?」
そこにネーブルさんも答える。
「もちろん、ハンター協会は貴方の身の安全を第一に保障しますよ。ある程度の自由も可能だ」
………。
「ネーブルさん…2つ程間違いがある。まず1つは、
「
「こちらも
「随分と我儘だねぇ。ではどうするね?まさか我々3人相手に立ち回るかね?」
「最悪そうすると言っています。あまり私を舐めないで頂きたい。この状態からでもあなた方を始末する事は可能だ。私だけ帰って『何もなかった』とでも報告しましょう」
「おぉ、怖い怖い。……だ、そうだが、ネーブル。どうする?」
……3人と私の間には一触即発の空気が漂う。私も覚悟を決める。もし相手が引かなかったら本当に彼らを始末して脱出する覚悟を。
長い沈黙の後、ネーブルさんが喋り出した。
「……いいでしょう。今回は我々も準備が足りなかった。そこは認めます。貴方の言う通りここは引きます。…いずれ後続が来て同じ事をするでしょうがね。我々も死にたくは無いので言う通りにしましょう」
「…よかった。ならば先程のガラスケースを私に寄越してください。あの森に返します」
「……わかった。リーダーの判断に従うとしよう……仕方あるまい」
アンソニーさんも渋々私に2つのガラスケースを手渡した
「これだ…。気をつけ給え。落として割ったら目も当てられん。……では、それを投棄する前にマット君の治療をして構わんかね?このままだと移動もままならんだろう」
「…いいでしょう。許可します。…変な動きをしたら容赦はしませんよ?」
「治療するだけだ…マット。動きに支障は無いかね?」
「特に問題は無いですが、少しダメージが有ります」
「…運動中枢に問題は?」
「…今のところ恐らくありません」
「そうか…。
…と言った瞬間、マットさんが崩れ落ちた!…何だ!?マットさんに何をした!?何故仲間内で仲間割れしてる? と思って彼に駆け寄り、
「【
というマットさんの声が聞こえ、
わかりやすいプランB解説
ア「エイリアンより数倍ヤバい奴の素を捕まえたよ!人類の進歩が捗るね!」
カ「いやいやいや、何考えてんの?馬鹿なの?死ぬの?」
追記:会話文を修正しました。
更に追記:マットさんの能力を若干修正しました。