………天使、という事は……
これは……
マイケルの【
マイケル……来てくれたか…!!
マイケルの天使が、私を
私は……一体何を
1%でも可能性がある限り、私は足掻かなければならなかったんじゃないか…!
そう誓ったじゃあないか……!!
今、私は何処に居る?私の身体は脳細胞も含めて、ほぼ全て侵食されたはず……
だとしたら、私は、今何処に…?何も見えない…聞こえない…感じられない…真の暗闇の中だ…。ただ、思考だけが出来る…。ここは、瞑想のイメージの世界に似ている…。広い、無限に広がる闇の中…。
近くには渦が在る…。見えなくても分かる。感じる。あれが恐らく魂の還る場所…。その付近を、私は天使と共に彷徨う。
天使が私をあそこに引き込まれない様に守ってくれている。不思議な事に、何も見えない筈なのに、私には私を導く天使が
早く出口を探さなければ…。
意志が重要なんだ。この場所から抜け出すには…強い意志が!
だからこそ、私は思い出さねばならない。もう一度、私の根源を成す渇望を…!
私は……私は…………「生きたい」!
どんな手を使ってでも!
もう二度と!!
理不尽な「死」に弄ばれはしない…!!!
それが「私」…かつて、下村悠二であり、そして「カーム=アンダーソン」だ!!
すると…闇の中に一条の光が差し込む。すぐさま
◆
しばらくして、私は宙に浮いている事に気付いた。…よかった…!戻って来れた…!
そして……
いた…!!
眼下に私の身体が見える。全身が痙攣してる…。頭部はとっくに奴等と同じになってしまっている……!
だが、
私の細胞がまだまだ抵抗している証拠だ!
私の身体は諦めていなかったのに、私本人が諦めようとしていたなんて…情け無い…。だが、ここからは別だ。私の身体を返して貰おう…!
ありがとう、マイケル。私は、兄さんは、最後まで闘う…!
これが、マイケルに貰ったラストチャンスだ…!
行くぞ!!
最終ラウンドだ!!!
◇
そんな「敵」は居なかった。ここまで来れば、最早〝我々〟だ。しかし、現実的にはまだ〝我々〟では無い。何故だ?
先程から掌握した筈の細胞さえも
残りの2%は脳細胞だ。僅かに残った前頭葉の一部が異常に抵抗し、侵食のスピードに対抗するかの様に
だからこそ、じっくりと浸食する。〝我々〟には使命があるのだから。
しかし、ある瞬間からその細胞を発端として再び力を盛り返した。これは…むしろ
しかし、それでも侵食が止まらない…。
いや…これは
これは
むしろ
今現在、26%は取り返された。次々と〝我々〟も飛び込むが、数の問題では無い…。これは…最早吸収だ。こんな事は今まで無かった。〝我々〟が〝我々〟の筈なのに〝我々〟で無くなってしまう…。この何とも言えぬ感覚は何だろう。
〝我々〟には「兵器」としての使命がある。それが全う出来なくなるという感覚は……急ぎ、主導権を取り返さなければ、取り返しのつかない事になる。
その様に予測出来た。
〝我々〟にはひたすら浸食し返すしか手が無い。だが、一度、取り返された細胞に再び侵食しようとしても
先程から〝我々〟を蝕むこの感覚は何だろう。それがより強くなってきた。
〝我々〟は……〝我々〟は………戸惑っている?
今の〝我々〟は……他の「敵」が見せて来た電気信号の乱れと同じ動きをしている…。原因はプログラムが乱れ、消えて、上書きされていく事だ。〝我々〟が消えてしまう。
これは…
この感覚の正体は……
◇
身体に入った瞬間、思考がバラバラになる様な感覚を覚えた。当然五感もへったくれもない。だが、
まずは今辛うじて生きている細胞から始めよう。…脳の一部だ。この様に微かにでも思考出来るのは、そのおかげだ。これもマイケルのおかげだろう。ありがたい…さぁ取り返すぞ!
私は脳周辺の細胞を奴がやった様に少しずつ、それこそ1個ずつ吸収し、適合していった。…正に亀の歩みだ。当然抵抗は激しい。絶対に適合させてなるものかという強い意志を感じる。やはり、よほど強いプログラム…!
だが、私も負けるわけにはいかない。究極的には、これは生存競争なのだ。負けた奴が死ぬ。兵器としての奴の「意志」、そして、何が何でも生存するという私の「意志」がぶつかり合う。これも闘争だ。私だけの闘いだ。
そして、私にはマイケルがついている…!
もうかなりのオーラを消費して薄くなってきてるが、天使は確かにそこにいて、見守っている。彼女が私に必要なオーラを提供してくれるからこそ、ここまで取り返せた。私は折れない。
どれぐらいの時間が経ったのだろう。約37兆ある細胞の約4割は取り返せた。そこまでうっすらとなりながらも見守ってくれた天使は徐々に姿を消していく…。彼女がこいつらに感染しなかったのは、
だからこそ助かった。
…全く、マイケルには頭が上がらないな。そして…ありがとう。後は自分で闘える。
消え去る最後に、彼女は「無事を祈ります」という様に口を開き、消えていった。…あれはマイケルのメッセージか。
分かった
私は生きるよ
◇
【時は少し遡る】
「漸く辿りつきますね」
「あぁ。この地獄の様な場所からおさらば出来るかと思うと、喜ばしい限りだ。…しかし、私が言うのも何だが、良かったのかね?」
「いえ…本当はもっと穏便に済むかと思っていましたが…残念ですね」
「仕方あるまい。奴は頑なだったからな。まだまだ青い。もう少し聞き分けていれば結果も変わったろうに」
「我々は結果が全てですよ…。それよりも貴方の方も良かったのですか?」
「マットか……奴にも可哀想な事をしたな。だが、あれでは助かるまい」
「…あんな植物がいるとは思いませんでしたからね…。無人都市を抜けても一瞬たりとも油断出来ない。まさしくここは地獄ですね」
「それを考えると我々2人は幸運だったな。任務もプランBだが達成。おまけもある」
「あぁ、カームさんの『手』ですね。何に使うんですか?」
「馬鹿を言ってはいけないよ!
「そんなだから『
「私にとっては褒め言葉だがね。医師兼研究者の本分さ…。さぁ、そろそろベースキャンプだ。油断するな」
「わかってますよ。待機組が無事だと良いのですが」
「しばらく通信出来なかったからな。後続を派遣する、なんて事になっていなければ良いが…」
「又は襲撃にあって壊滅、とかですかね。ここだと何が起こるかわからないですし」
「あぁ。気を引き締めていこう。帰るまでが任務だからな」
◆
「これは…」
「チッ……後者だったか…!」
砂浜に到着した2人を迎えたのは、無惨に破壊されたベースキャンプと、血に塗れた砂浜、そして
「…不味いな。これは。船が無事かも分からんぞ」
「……仕方ない。あの数名は何らかの攻撃を受けている様にしか見えないので、刺激しない様に無事な無線機を探しましょう」
「全く…なんて酷い所だ」
「愚痴を言っても始まりませんよ。手早く済ませましょう」
…………
「…ありました! 無線機は無事です……こちらネーブル、プランB達成。ただ今ベースキャンプに到達しました。生還者2名。応答願います」
『……ジジッ……よく…ジッ…った!現在ベースは…ジッ…ての通りジジッ…状況だ…ジジッ勢力の排除を…ジッ…願いしたい』
「ノイズが酷いですね…どうやらこれらを何とかしない限り迎えに来ないみたいですね…」
「仕方ない…か。やるしかあるまい。残業の時間だ」
「とりあえず、例の人々がどうなってるか確認ですね…」
「あまり気は進まんがね…」
2人が調べようと1人の兵士に近づいた瞬間、
そして、中から線状の巨大なミミズの様な物が大量に飛び出して来た。
「!!!…これは!」
「近づいたら駄目な奴だったか…! ネーブル、気をつけろ!こいつは寄生虫のようだ!」
「見れば分かりますよ!『兵器』の様に触ったら駄目だと厳しいですね…って何やってるんです!?」
「見れば分かるだろう。触らないも何も、触ってみんと始まらん…よし、とりあえずは大丈夫そうだ。アレ程のものでは無いな。動きも大した事は無い」
「全く無茶をする…!後一本しかないんですから大事にしてくださいね!」
◆
その後、時間をかけて寄生虫を排除した2人は、無線で連絡。無事に船に乗る事が出来た。
「…漸く一息つけますね」
「全くだ……人的被害について言えば大失敗もいい所だろう。未だに船が出せないのが良い証拠だ…。だが、我々は成し遂げたな」
「えぇ、これは今回の被害を補って余りありますよ」
「そうだな……とりあえず一息つこう…ネーブル、大変だったな」
「漸く帰れますからね…。アンソニーさんもご苦労様です」
「帰ったら早速奴の細胞の研究だな。『兵器』は国に持ってかれそうだが、こっちは渡さんぞ」
「ハイハイ、好きにしてくださいよ。誰も貴方の物は取りませんからね」
「…馬鹿にされてる気がするな。今回のネーブルの優柔不断ぶりも見事だったぞ」
「!…それは言いっこ無しでしょう! 人の上に立つのは慣れてないんです!」
「ハハハハハ! これでお互い様だ!」
「ほんとにもう…私はもう休みます!」
「おっと、怒ったか。まぁいい。私も休もう。流石に疲れたからな…」
……2人は気付かなかったが、カーム=アンダーソンの「手」のガラスケースにはまだ
そして…
パリン!
呆気なくガラスケースは割れた。カームの細胞と超兵器のハイブリッドである
「絶望に抗え」
このキャッチコピーは好きです。抗った結果も含めて。