あの後、未練がましく海を渡れないか検証してみた。もし出来るならそれで良し、だ。確かに海からは莫大なオーラをいくつも感じ、しかもそれを
静かに海に入り、これまた静かに進む。これが案外上手くいった。…沖合から2キロ地点まで来るまでは。もしかしたらこれで行けるかもしれない、と希望を持った瞬間
いきなり身体の半分が消失した。
何が!?と思う間も無く、次々と身体が物理的に削られていく…!
《凝》で目を凝らすと、限りなく海の色と同化した飛魚の群れが、凄まじいスピードで
と思っていたら、身体に銛の様な物が身体に打ち込まれ、視界が闇に閉ざされた。しかも凄まじい水圧付きだ。深い海に転送された…!
身体が潰される感覚と闘いながら急ぎ、適応しつつ復元し、周囲を《円》で探ると……いた!
これは…巨大なハリセンボン…か!針を飛ばしてどんどん奴の近くに転送される…!駄目だ、間に合わない…!喰われる!
と思った瞬間、更に巨大な鮫がハリセンボンを針ごと喰らった。獲物を狙う瞬間を更に狙っていたか!
幸い私には目もくれず、バリバリと咀嚼しながら去って行った。…アレで満足したらしい。助かった…!
急ぎ、そこから浮上したが、600メートル程深くまで沈んでいたらしい。
減圧で身体が破裂しそうになりながらも何とか適応して浮上した。その後も例の飛魚に削られながらも全身にブレンド毒を纏って回避し(それでもあまり効果が無かった)、オーラダッシュで岸へなりふり構わず向かった。下からバブルショックの様な物を撃ち込まれ、全身ほぼ全てが消失しかかったり、ゼラチンの様な物に閉じ込められかかったが、何とか復元しつつ破って脱出したりしながらも、漸く岸に戻ってきた頃には精神的に疲労困憊になった。
……2キロメートルでコレか…。戻ってこれたのは奇跡だな。私はまだまだここを侮っていたらしい。いくら何でもこれは駄目だ。転送された時に感じたのは、更にヤバいのが沢山いるということだ。オーラで分かる。アレは駄目だ。とても勝てない。
…やはり、海を渡るのは現実的では無かった。いくらこの体質でもあっと言う間に消滅してしまう…!
よく来る時こんな海を渡って来れたものだ。余程あの案内人は強い存在らしい。やはり「神」に近い存在なのだろう。いや、この海の事を考えると「神」そのものかもしれない…。来る時も、あの鈴の効果によって我々は守られていたわけだ。それが失われた為、一斉に攻撃を受け、船は大破したのだろう…。船を作って渡る案もこれで頓挫した。
岸に戻ってしばらく休んでから、まず始めに、私はこの砂浜近辺にいる敵対勢力を一掃することにした。…私の八つ当たりでもある。まだ
ここはもう、常識の通用する世界じゃない…!
それこそ、慎重に1匹1匹ずつ潰していった。あのゴキブリの様な能力を持つザザムシもいたが、吸収した。私に物理的な侵食はもうほとんど効かない。だが、油断はしない。あんな風には2度と喰らわない。何があるか分からないからだ。
やってみて分かったが、あの「兵器」の力はプログラムあってこそだった。それに、私には誓約がある。
つまり、
精々、奇妙な植物が出来上がるだけだ。緑色の頭部を持つ奇妙な植物が。これはこれで強いのではと思うかも知れないが、プログラムがないとその侵食率はガタ落ちする。人間界の致死性の病気と同じぐらいだ。
だが、直接の吸収なら辛うじて出来た。直接粒子を打ち込み、そこから自動で侵食させ、
そして…恐らく私にはもうほとんど食事は必要無くなった。吸収で賄えるし、太陽光で光合成が出来るからだ。だが、私は人であり続けたい。ここは兵士たちを喰った奴らだろうから嫌だが、なるべく狩った獲物は焼いてでも食べる事にしよう。余りにもワイルドすぎるが、何も食べないでいて平気な生物にはなりたく無かった。人間性を保つ事が、この先を生き延びる為には重要になるだろう。怪物にはなりたくない。私は
◆
一旦無人都市に戻る事にする。せめてドッグタグだけでも回収して埋葬してやろう。…伝言は伝えられそうにない。…暫くは。
無人都市に着いた。約400名か。しかし、これは生き残った者の義務だ。探し出して丁重に葬ろう。
広大な無人都市を虱潰しに調べ、漸く400人分が見つかった。…ブラッドさんもだ。
探してみて気付いたが、彼等は頭部を破壊すると一時的に行動不能となる。側に付いている球体が入り込む迄は、だが。恐らく頭部が司令塔になって操っているのだろう。私の細胞と合成した個体とはそこが違った。奴等は何処を潰しても復活してきたからだ。…私も同じだが。これなら後の世に人類が遭遇してもまだなんとかなるだろう。……原作の時代で何とかなるかは難しいかも知れないが。せめて、後の世の者に警告を残しておこう。都市の壁をくり抜き、文字を書く。この都市と「兵器」の詳細を残したものだ。
いずれ、ここに到達した時に少しでも役に立つ様に…。
全員分のドッグタグとハンターライセンス、そして装備を出口付近の草原に埋葬した。また、そこに石碑を置いた。例の警告文と共に全員分の名前を刻んでだ。
あの文献があるからには、後の世でここに来る事もあるだろう。その時に持って帰って貰おう。
肉体は申し訳ないが消し飛ばした。他の個体もそうだ。しかし、例の球体はどこからか無尽蔵に生産されているらしく、消しても消しても出てきた。…こればかりは仕方ない…か。
そうそう、例の香草だが、中心部に水場が有り、そこに生えていた。試しに食べてみたが、何のことはない。
つまり、香草がナノマシン化して病巣に潜り、侵食したり無害に作り替えたりして、元に戻す。
ただ、それだけの事だ。プログラムが違うだけだ。私には最早必要無いかと思ったが、思い直して出来るだけリュックに詰め込んだ。
何か使う時があるかも知れない。
中心の塔は、実は塔では無く、大きな木だった。恐らくここから「兵器」のプログラムなどが設定出来るのだろう。下手に弄って暴走などしたら目も当てられないので、そのままにしておいた。
これでもうここには用はないと思ったが、もう一つだけ見逃してる箇所があった。
私も何が有るか興味があり、入ろうとした瞬間、悪寒が走って飛び退いた。
先に《円》をしないで良かった…!
植物粒子の一部再現! そして…光子状に飛ばす! 原作でキメラアントの王がやっていた事の応用だ。それを地下に潜り込ませる……。
………。いる…。巨大なものが…。余りに巨大過ぎて全容を把握出来ない。余りに巨大で、しかも
こいつが、こいつこそが、
「兵器」も、「香草」も、ここから産み出された…!
今は眠っているらしい
だとしたら…今は私が触れるべきじゃ無い。そして、こんなものを起こしたら何も出来ずにすり潰されるだろう。それぐらい圧倒的な差を感じる。
それはごめんだ。
急ぎ、私はここを去らねばならない。ここには嫌な思い出が多すぎるし、怪物の上で呑気に過ごす事なんて出来ない。
何かに追われるかの様に私は都市を抜け出した。
◆
これからどうしようか。私に足りないものは「力」だ。出来るだけ人間性を失わずに力をつけなければならない。また、この地獄を探せば冗談の様なアイテムもあるかもしれない。
もちろん、冗談の様な敵も当然いるだろうが。
だとしたら、更に奥地へ向かおう。何があるかは分からない。当然のように地獄を見るだろう。今度は正真正銘1人だ。だが、私は行く。今度こそ諦めないために。今度こそ帰る為に。私の希望を叶える為に。
家族に会う為に
まずは、目標があった方がいいだろう。ならば、ここからでも見える、あの巨大な木を目指そう。天を突き、成層圏まで達している様に見えるあの木を
◆
そこからの旅はやはり想像を絶するものだった。
まず、先に進んでみて思ったのが、余りにも違いすぎるサイズだ。例の象の群れが前脚が6本ある恐竜?に見事に捕獲されて、喰われていた。更に何処から飛んできたか分からない超巨大サイズの蝉に似た蟲にも捕まっていた。あの象は被捕食者だったのか…。しかも、その恐竜でさえ更にデカイ怪獣に喰われていた。…遠近感がおかしくなりそうだ。いずれもゴジラサイズだ。蟲はモスラサイズか。ナウシカの世界だな。こんなのに人類は勝てるわけない。
1匹でも都市に出現したらそれこそ壊滅する。
ここは…
必ず帰るために。
何回か、例の恐竜と闘った。恐竜もサイズ違いに諦めるかと思ったが、どうやら私は美味しそうに見えるらしい。300メートルぐらいある奴が、だ。実際に闘ってみたが、サイズの違いとは力の違いだ。私も人間サイズだと破格の力が有ると思ってはいるが、これ程のサイズ違いだとそれが通じにくい。
かなりの破壊力を持ったパンチでも、強烈な毒でもちょっとしか有効打にならない。仕方ないのでコツコツと頭部に〝浸透勁〟をして倒した。倒した直後に一斉に小型の恐竜や象が群がって来て、更にでかい奴まで寄って来てたので、慌てて逃げた。その際、一部の肉を切り取って、後で焼いて食べたが中々の味だった。
思うに、巨大な奴はそれだけで強い。念能力も必要ない程に。だからこそ、これは〝武〟としての力だけじゃなく、純粋な〝暴力〟が試される。
よって、一通りのデカい奴を一度は倒した。基本は恐竜を倒した事の応用だ。たまに100メートル以上伸ばしたオーラブレードを差し込み、脳付近をグリグリしたり、《硬》で硬い皮や殻をぶち破って体内に侵入し、内部から破壊したりした。…これでは私が寄生虫だな。だが、巨大な敵の倒し方の基本は分かった。末端から攻め、急所を突く事だ。あくまで
…デカい奴も油断ならないが、小さい奴も油断ならない。以前のゴキブリがいい例だ。私も常時戦闘態勢が日常になった。でなければ漁夫の利をしてくる奴が多すぎる。時にはかなり遠くから寄生虫を目に転写してくる奴もいた。巨大なウデムシを気持ち悪くした様な奴だ。条件は
ここまで約3秒。出て来た奴は外側で急速に大きくなり、本体より
こんな奴は生かしてはおけないため付近の巣の様な所を徹底的に殲滅した。エイリアンみたいな奴だった。いや、あれより酷いな。だが、念での奇襲は何でもありだと学んだ。結論から言えば、
時にはいきなり頭が飛ばされた事もあった。すぐさまくっつけたが、敵の姿が見つからない。例の粒子探知を使っているのにだ。どこを探っても正体が見えない。何回か切り刻まれて悟った。
しばらくすると痙攣しながら姿を現したが、どうやら狐の様な姿をしていた。違う点は手足に鋭い鎌状の爪が付いていた。所謂カマイタチか…。こんなの、来た時点で出会ってたら何も出来なかったぞ…。おかげ様で攻撃の瞬間にカウンターする技術は格段に上がった。
◆
…私は何をしているんだろう。これでは、ただただ拷問を受けているだけだ。もう普通の人間なら何度死んだか分からない。
だが、あの海の事を考えると、こうでもしないと帰れないし、そうでもしないと発狂しそうだ。中途半端な希望が更に私を苦しめる。
地獄とはこの様な場所の事を言うのだろう。ここは何もかも狂ってる。致死性の罠は至る所に張り巡らされ、殺意しかない動植物、蟲、寄生虫の類は山の様に存在する。また凶悪に変化する気候。巨大過ぎる怪物達。極め付けはそのデザインだ。何をどうすればそうなるのかという極めて不快な姿形。普通の感覚から見れば不快感しか浮かばない。
私は罪を犯し、ひたすら様々な致死性の拷問を味わう。そして復活する。私は死ぬ事は
…しかし、闘いは苦痛に満ちているが、闘っている時は他に何も考えずに済む。闘いが終われば、後悔や寂寥の念がひたすら私を苛む。辛うじて私を繋ぎとめるのは、家族への思いと私の誓いだ。それだけが私を
私は…人として、再び帰るのだ。あの懐かしの我が家に。
だから…少しずつでも強くならなければ…強く…ただひたすら強く
私が私でいるために、ただ、ひたすら……
強く
「海」
・文字通りの大魔境。特に暗黒大陸側の近海は凄まじい生存競争が繰り広げられ、想像を超える様な能力バトルが日夜行われている。少し奥に行けばラヴィエンテを遥かに超える巨大な龍やクトゥルフみたいな奴が普通に存在し、超絶ビームを放ってきたり、超絶発狂呪いをかまして来たりする。更に海流も厳しく、激しい。やはり案内人無しでは人類は暗黒大陸に到達すら出来ない。32巻の絵からもヤバい雰囲気をビンビンに漂わす超ヤバい場所。これを超えるには…。
「案内人」
・そんな超絶魔境から人類を守護してるという事は、やはり「神」と言うべき存在である。彼?の許可なくは人類はメビウス湖を渡れないし、無礼な輩や愚かな人類にはお仕置き(厄災持ち込み)をする。
無人都市の「神」
・超古代に人類が創造した人造神。植物の遺伝子操作の果て、兵器からインフラ、医療など、様々な分野で古代人を守護してきた。ある意味マザーコンピュータ。都市は植物都市として繁栄を極めたが、その内お決まりの内ゲバや紛争、兵器を同族に向けて使用するなどの愚かさを存分に発揮し、遂にキレたマザーによって全員諸共に滅ぼされる。古代人の生活の全てを文字通り支えてきた為、彼等は至極簡単に滅亡した。その後は目的を失い、兵器に簡単なプログラムで都市を防衛させた後、長い眠りにつく。もし再び再起動することが有れば、想像を絶する事態が発生すること間違いないので、ただただ起きない事を祈るのみである。
やたらと長くなってしまいました…。