あれから私は必死で〝聖光気〟の習熟に励んだ。世界は
やはり莫大な力を持っている…。〝この力〟を持ってもどうなるか分からない程に。
〝聖光気〟は聖なる力だ。別の言い方をするとピュアな力とも言える。だからこそ、あの莫大な邪悪なオーラに対抗出来る唯一の力だ。…やはり私は間違ってなかった。だが、このままではジリ貧なのも事実。「奴」に勝てると確信できるギリギリまで習熟訓練を行おう。
◆
この力は、基本的にはオーラ操作と同じ要領で使える。なので、使い方にそこまで不自由はしない。暫く続けると、非常に硬質な物質に圧縮できる事を発見した。そのため、これを《堅》の要領で鎧として身に纏う様に出来た。因みに全身白金色のスーツに白金色のボルサリーノ帽子だ。…まるでマイ○ル=ジャクソンの様なファッションになってしまったが、これは私の父さんの記憶からサルベージされたものだろう。色はともかく。とにかく〝これ〟の防御力はピカイチだ。これに加えて、戦闘時の攻撃力も凄まじい。これならば何とか対抗出来るだろう。
また、この力は多少の物理法則ならば
ただ、あまり乱発すると世界のリソースを削る恐れがあるために使いすぎるのは控えておこう。
◆
さて、いよいよ「奴」の所へ向かおう。本当はもっと時間をかけて習熟したかったが、これ以上は厳しくなりそうだ。仕方ない。
この山とも長い付き合いだった。最後に感謝の礼をして、「神都」に向けて飛び立った。
◆
「神都」は実に荘厳な佇まいをしていた。だが、やはり人の気配は無い。「奴」はここの中心にいる。…この場所なのは多分理由がある。ここは所謂龍穴と呼ばれる、星のエネルギーが集約する場所だ。世界と合一してるから分かる。「奴」は、この場所で星のエネルギーをも貪っているのだろう…。
ますます気に食わない。最早寄生虫じゃないか。だが、もし倒せれば、この世界も復活する事が可能かもしれない。だから、何としても倒さなければ。
巨大で荘厳な神殿に着いた。それはまさに、世界の贅を尽くした様な建築物だ。その中心にいるのが邪悪な存在とは何とも皮肉なことだ。
…私はこの世界の住人では無いが、コイツだけは何としても滅ぼさねばならない。人間として。生きとし生ける者の代表として。
神殿の最上階のこれまた豪華な謁見の間の豪華な椅子に「奴」は後光を差しながら座って待っていた。ぱっと見ると、白髪と白髭を長く蓄え、ゆったりした衣装を着た、
────ようこそ。迷える人の子よ────
念話か。どうせ話が通じる癖に。趣味の悪い奴だ。
「私は、カーム=アンダーソン。異なる世界から来た〝人間〟だ。『悪魔』よ。私には擬態は通用しない。早く正体を表せ。不愉快だ」
「……正体を表せ、か。何の正体をだね?」
「喋れるじゃあないか。その気持ち悪い装いをやめろと言っている」
「我は『神』だ。人の子よ。不敬なるぞ」
「その人の子を滅ぼした奴は何処のどいつだ」
「人の子よ。我は迷える人々に〝祝福〟を与えただけだ…。今は我のもとで安らかにすごしておる。これは救いだ。世界の〝浄化〟だ」
「言いたい事はそれだけか…寄生虫。しかし私は人として、貴様だけは許せん。ここで滅びてもらおう」
「何と不敬な…人々は救いを求めていたのだ! 我はそれに手を貸したのみ」
「人々をいい様に弄んだ癖に良く言う。もう御託はいい。ここで滅びろ」
私は戦闘態勢を取った。奴は構えない。
「いいのか?」
「全く嘆かわしい…仕方ない。神罰を与えましょう」
では…
文字通り神速で近づき、全力で顔面をぶん殴って頭を消し飛ばした。
「…!!!」
すぐに奴は復元したが、油断してる内に
続けて〝聖光気〟の気弾で全身を消し飛ばした。
………。
「…見ているんだろう? 早く出てこい」
その直後、凄まじい
チッ…。これ程とは…。
━━━フハハハハ! コレは実に愉快だ!!━━━
そのオーラが集まり出し、
出てきたのは、正に異形としかいいようのないモノだ。山羊の頭に2本角、中央からもう1つ松明の様なモノが生えていてそこから炎を吹き出している。背中には黒い羽が生え、腰蓑を纏っている。
「久しぶりに顕現したな…。
「漸くそれらしい姿が出たな…! 『悪魔』め!」
「心外だな…。大体、力さえ有れば、『神』も『悪魔』も大して変わらないのだ。我も
「…その趣味の悪さは今まで見てきた中で1番だな…。人を何だと思ってる」
「もちろん! 我の〝餌〟だ。〝玩具〟と言ってもいい。これで満足かな? 〝救世主〟殿」
「…よーく分かった。やはり貴様は塵一つ残らず滅ぼす」
「本気でそう思っているなら実に滑稽だな! しかし、もうここは
「私は救世主ではない…。ただ貴様が本気で気に食わない〝人間〟の1人だ…。覚悟しろ」
「ハハッ! 面白い! そんな〝力〟を持つ人間がいるものか! だが、それだけの力を持つならば彼我の戦力差ぐらい分かるだろう。ならば期待しているよ。〝人間〟の底力とやらを我に見せてくれ」
「言われなくても…なッ!」
私は先程の様に直線上を突っ込み、〝聖光気〟を拳に集中させて腹部に打ち込んだ! その凄まじい衝撃で豪華な建物が半壊する…が、
「動きは多少はいいようだな。少し遊んでやろう」
それからは一方的な蹂躙が始まった。何しろオーラ量は戦闘に直結する。多少の肉体性能は優っても、その力が殆ど通用しない。逆に向こうの攻撃は面白い様に私にダメージを与える。周囲は既に見る影もない。
「さて、随分と楽しめた。どうだ? 絶望したか? …そろそろ終わりにしようか。世界最後の希望である筈の〝救世主〟すら通用しない! 実に残念だなぁ! 哀れな『神』よ! これは貴様が起こした悲劇だ!」
「……何を言っているか分からんが、私は絶対に諦めないぞ…!」
「おっと、失敬。ムカつく奴の事を思い出してね…。さて、最後だ。言い残す事は?」
「…くたばれ、クソ野郎」
「では、さよならだ」
そう言って、奴は座禅を組んで、浮いた状態から右手を斜め上に、左手を斜め下に移動させた。…本気の構えか。
「我の権能は『溶解』と『凝固』だ。つまり錬金術の基礎。
奴の右手に月を模した物が現れる。左手にはその影が現れた。…何をする気だ?
そう思ったら、そこから破壊的な光が満ちて私を襲った。
私という存在が溶け、再び別のナニカに変わってゆく…!
〝聖光気〟があってもこれか!! 確かに瞬時に変質はしないが、徐々に侵されてゆく…!
これが〝神の呪い〟…!
「フハハハハ!! どうだ? 〝救世主〟! 貴様ももっと早く来ていればこんな事にならなかったのになぁ? 実に…残念だ! これからは我が一部となり、忠実に働いて貰おう! あぁ…実に悲劇だ!」
奴は、勝ち誇った様に言う…。参った…。ここまで差があるとは思わなかった。〝聖光気〟はありとあらゆる〝呪い〟を弾くんじゃなかったか?
…いや、理由は分かってる。この〝聖光気〟は
……仕方ない。
【
◇
我は、「神」だ。いや、正確には「神」
そもそも、「神」とは信仰によって成立する。人の信仰とはそのオーラを捧げる行為だ。微々たる物だが、それでも大勢が祈れば形にはなる。いわば
我はその中の自然神として生まれた。本来、我々は物質界に影響はない。実体が無いからだ。精々が信徒に祝福を齎す程度だ。
だが、ある時から状況が変わった。人々の間で「唯一神」が信仰され始めたからだ。我々の様な小さな神々は駆逐され、あろう事か「悪魔」に置き換えられた。更にはその「神」の〝救世主〟が、強力にその後押しをした。
我はまだいい方だ。存在すら消滅した者も居たからだ。そして我は「バフォメット」となった。異教の神だ。様々な特性が付与されたが、権能としては「溶解」と「凝固」に落ち着いた。人間の知の在り方や世界の変革までもたらす錬金術の基礎を意味する。だが、所詮は悪魔崇拝のシンボルだ。信仰もたかが知れている。何より、「唯一神」の信徒共に積極的に狩られる始末だ。
このまま「悪魔」として存在し続けるかと思ってウンザリしていたが、ある時転機が訪れた。我を信仰する者達が、大規模な儀式を行ったのだ。生贄を大量に用意し、受肉用の素体を用意する本格的な物だ。中にはオーラ操作技術に長ける者も複数いて、遂に我をこの世界に呼び出した。
度重なる奇跡の末、我は
そこからは早かった。まず我は周囲の愚かな人間共を感謝を込めて蹂躙した。そうして貰いたい為に呼び出したのだろうから、奴等には〝祝福〟だろう。
その後、我は考えた。復讐したい。我を追いやった「唯一神」に…。
そして、どうしたら復讐出来るか考えた結果。
我は「奴」に成り代わる事にした。
様々な演出の果て、我は天から降臨したように見せた。人間共は我が見せる〝奇跡〟によって騒然とし…そして信じた。もっと苦労するかと思ったが、案外簡単だった。更に我の権能を活用し、人間共に様々な技術を提供した。
人間共は我を本格的に崇め、奉った。
我はどんどん〝力〟を手に入れていった。信仰は力だ。我は凄まじい力を得る事になった。何人か我の正体を見破り、滅ぼそうとして来たがもう遅い。そもそもたかが人間の能力者程度に我が負ける事は無い。悉く滅ぼしてやった。
後になって来ると、我が直接手を下さずとも人間が〝それ〟をやる様になった。〝救世主〟が来るかと思っていたが来なかった。
力を蓄えた後はいよいよ復讐だ。手始めに我はまず信徒共を我の眷属へと変質させ、〝穢れ〟が出たと発表した。その頃には世界中を掌握し、特に周囲の者は誰も彼もが我を疑う事は無かった。
眷属共は人間を襲い、この地を穢していった。そしてそれは更に我が力となった。あとは見てるだけでも面白い様に人間共は崩壊していった。
流石人間! 我をわざわざ呼び出しただけの事はある。ありとあらゆる悪徳が「神」の名の下に行われ、素敵な光景が世界中で広がっていった。我を「そういう風」に設定したのは人間だ。設定には従わないとな。
そして…現在、全ての人間をほぼほぼ滅し、動植物も死に絶えた。我は至高の「神」として至る事が出来た。ざまぁないな。「唯一神」よ。貴様のお陰で貴様の愛する人間は滅びたぞ!
後は、この星のエネルギーを吸い尽くして別の星へと向かうか、別の次元に旅立とうかと思っていたら妙な気配を感じる。
…これは…〝救世主〟か!
今更出て来たか! 実に滑稽だ。星が呼び出したか? だがもう遅い。何もかもが。この星もじきに滅びる。もっと早く来ていれば結果は変わっただろうに。これではただの道化だ。最後に最高の娯楽を提供してくれたものだ。「神」に感謝せねばな。おっと、「神」は今や我の事か。
さて、どの様に足掻くかお手並み拝見といこう…。
…流石は星の選んだ〝救世主〟だ。信じられない程の強さだ。〝救世主〟の中でも破格の強さだろう。この星の残り全てが味方している様だ。少し前だったらどうなったか分からんな。だが、それでも遅かった。
少し遊んでやったがもういいだろう。これを我が眷属としてやろう。どんな眷属になるか楽しみだ…。
奴の〝神気〟すら貫通し、我の権能は奴を変質させる。どんどん溶けて新しい存在に変質する…。やはり通じたか。普通は〝救世主〟にはあらゆる権能が通用しないが、星が弱っていたからな。通じなかったら面倒だった所だ。これで終わる。最高の形で。あぁ…実に喜劇だ! 良き演目だった。
…中々進まんな。星が邪魔しているか。もがけばもがくほど苦しむというのに。馬鹿な奴だ。星も哀れだな。実に悲劇だ…。
…何故変質が止まる? 奴には防げない筈だ…。どういう事だ…?
…!!
馬鹿な!? これは何だ!? 何が起こっている!?
何故我の権能が通じない?
〝神気〟のせいなら分かる…。だが、これは別物だ!!
バフォメット
・悪魔であり、異教の神。元々「神」とは、人々の信仰によって生み出される念能力の一つの形態である。オーラ生命体とも言える。しかし、誰が所有しているわけでも無い為、その存在は非常に希薄で、現世に影響を及ぼす事は無い。彼の場合はその中の「悪魔」信仰の一つ。
しかし、「この世界」ではある時、大規模な悪魔召喚の儀式により受肉。存在が固定され、人間に定められた能力を使いこなす「悪魔」的な存在が誕生した。権能は本文の通りで、様々な物質や生命を変質させる。まさに呪いである。「神の涙」は彼の体液を薄めた物。
「この世界」で悪徳の限りを尽くし滅ぼそうと目論み、ほぼそれが達成されかけた時に主人公が「この世界」に呼ばれた。