最悪な気分だ…。何度やっても全く慣れない。当たり前か。自分が自分じゃなくなる感覚はそうそう体験出来るものではない。
「どういう事だ…! 何故私の力が効かない!」
焦ってるな。まぁそうだろう。
「これが〝人間〟の力だ…。クソ野郎」
「人間如きにそんな事が出来るわけ無いッ!! 貴様…もしや人間では無いな!?」
「馬鹿言え…正真正銘〝人間〟さ。貴様が〝玩具〟と呼んだ人間だ」
「下等生物が!! もういい! 我が力で消し飛べ!!!」
「あまり〝人間〟を無礼るなよ!! 寄生虫!!!」
奴はその圧倒的な力で私に迫る! だが、私も今、
「!!! 何故だ! 何故貴様に我の力が通じんのだ!!」
「言ったろう! これが…これが〝人間〟の力だ!!」
適合のおかげで戦力差は多少は縮まったとは言え、未だにその差は3倍以上はある。だが、新しいこの力にも
奴の攻撃を〝いなし〟、〝逸らす〟! 危険な時ほど脱力を! そして…
ドゴォッッ!!!!
「ガハアッ!!!」
私の拳が奴に突き刺さる! 漸くかなりのダメージが入った! 続けて二撃!
「グボァアッッ!?」
良し!! 効果は覿面だ!!! たたみかける!
しかし、奴も即座に復元して反撃してくる。敵もさるものだ。だが甘い!
最早私は触れられた瞬間にカウンターを入れる事が出来る! 何度でも喰らうがいい!!
暫く私は、奴を一方的にボコボコにした。だが…多少のオーラの減少はあってもまだまだ奴は健在だ。それに…
「グッ…ハァッ!…ハァッ…おのれ…! 下等生物め…! だが、気づいているか? いつまでやっても我は滅ばぬ…! この星から力を得ていたからな…そして、
…その通りだ。私にも感じる。もうこの世界は滅びかけだ。そして私は、もうその力をかなり使っている。
だが、奴を滅ぼす為に必要なのは
私は〝聖光気〟を全て右拳一点に集中した。所謂《硬》だ。最早大気が震え、大地が振動する程のポテンシャルだ。
「…馬鹿め。
奴が何か言ってるが無視する。世界よ。一瞬でいい。一瞬でいいから
そして、その状態のまま私は奴の懐に飛び込んだ!
次々と凶悪な念弾が高密度で迫る! 避けられるのは避け、喰らうものは最小限に流しながら喰らう。そして…
「フハハハハ!! 馬鹿め! これで終わりだ!」
奴は接触する直前の避けられないタイミングで極大念弾を飛ばして来た!
「…勝った!! 危なかったぞ、〝救世主〟…しかし、我の勝ッ……!?」
その次の瞬間、私は右拳以外の
「く た ば れーーッッ!!!!!」
ズッガァッッッン!!!!
インパクトの瞬間、まるで核兵器並みの衝撃波が発生する!! 超高密度の奴のオーラを貫通し、肉体すら貫通する!!!
…だが、
「こ……これが…貴様の最後の切り札か…! だが…耐え切ったぞ!! 我の勝ちだ!!」
今だ! 世界よ!! 一瞬でいい!!!
〝外浸透勁〟!!!!!
「ガッ…ガアアァアァアッツ!!!?」
今まで
奴の中で凄まじいエネルギーが体内で乱反射する! 今までの鬱憤を晴らすかの様に暴力的に奴の肉体内を暴れ回る! そして…遂に奴の内側から崩壊が始まる!!!
「ば、馬鹿な…! この至高に至る我が…滅びるなどッ…! ガハァアアァッ!!」
「切り札は見せるな…見せるとしたら更に奥の手を持て、だ。これが〝人間〟の力だ!」
「おのれ……おのれぇぇぇッ!!! 後少しだったのに…! 許さんぞ…貴様だけは許さない! 我が最後の力をもって貴様を滅ぼしてやる!!」
!!!
その瞬間、奴の身体から凄まじいエネルギーが全身から放たれた!
「くっ!!!」
奴の力が全方位に放たれた為、逃げ場がない!! 〝聖光気〟を前面に展開して、必死に防御する!!
……何とか防御に成功した。奴は…〝聖光気〟と先程の力で消える寸前だ。
━━━━ここまで、か…。しかし、貴様は『この世界』をもうどうする事も出来ない…。無様に『この世界』で朽ちるがいい…。そして、我の最後の攻撃は〝呪い〟だ…。
奴は、そう笑いながら言うと消えていった。だが、私にはその〝呪い〟は感じない。世界が守ってくれたか、奴の負け惜しみだろう。最後に私に一泡吹かせたかったか。
奴が完全に消滅した後、「世界は晴れ渡った」。
今までの滅びる寸前の気配からしたら、大きな違いだ。今や見る影も無くなった「神都」に、朝の光が差し込む。
奴の消滅した後に、鈍く光る緑の石があった。
しかし、帰る前に私にはまだやる事がある。〝この力〟を使って、
このまま奴にいい様に蹂躙されて終わる結末など、
だからこそ、希望は必要だ。…例え、失われたものが帰って来なかったとしても。
幸い、奴が滅び、その莫大なエネルギーは世界に還元された。星のエネルギーを吸収する奴もいない。だが、人間も動植物すらも死に絶えたこの世界では遅かれ早かれ再び朽ち果ててゆくだろう。だからこそ。私は〝この力〟で再生させる。
まずは、瞑想し、世界へとアクセスする。
この世界隅々まで意識を行き渡らせるイメージ…。まずは植物だ。奴から吸収した権能を使用して、世界中の岩などから様々な植物に〝再構築〟する!
…かなりのリソースを使ったが、無事に出来た様だ。私の細胞には植物の要素も含まれるから、これはかなり得意かもしれない。…そして今。私の周りにも、緑豊かな草原が広がっている。
次は、奴が変化させた「マネキン」や「汚物」だ。マネキンの方は、活動を停止しているし、汚物は凶悪な性質をやめ、ただの液体に戻っている。これを再び溶かして、元の姿に固める…!
………かなり厳しい……。時間がかなりかかる……!
………
…
出来た…。3日程かかった…。驚く事に彼らはあの状態になっても
普通の世界からすれば、動物や虫、人間の数は余りにも少ない。そして、人間は愚かだ。私もよく分かっている。少ない資源を奪い合い、かなりの確率で再び滅びかけるだろう。だから私は最初に生やした植物に〝おまじない〟を掛けた。
植物の近くに居れば、争い事もなく、他者への労りの気持ちが持て、心穏やかに過ごせる、というおまじないだ。大きな効果はつけていない。ただ、少しだけ感じる程度だ。後は、彼等の努力次第だ。
しかし、同時に人間は強かだ。どんな苦難にあってもきっと乗り越えていけるだろう。一度は滅びてしまったが、今度こそは大丈夫と信じたい。
私の
だが、
この世界も未だギリギリの状態だ。だけど、きっと……必ずや復活する。
だって、世界はこんなにも美しいから。
私は戻ろう。私の場所へ。
また再び闘いが待っているだろう。
だけど、きっと帰れる。そして、「この世界」もきっと再生出来る。
それが、私の希望だ。
◇
「ここは…」
気づいたら、私は瓦礫の上にいた。私は〝神の呪い〟であの化け物になり、最後は汚物に成り果てた筈……これはどういう事かしら…。周りを見ると、辺り一面に緑の植物や花が咲き誇っている。
「夢…?」
それから、私は服を探して着て、周辺を見て回った。何人か人を見つけ、集まった。話を聞くと、周りには今迄姿を消した動物や虫もちらほら見られたみたい。夢かと思ったけど、夢じゃ無い。
どうやら、「神」は
元聖化隊の人も見つけた。一瞬怒りが沸騰しそうになったけど、この期に及んで殺し合いをする事もないわね…。と冷静になれた。不思議なことに、私の怒りはすぐに収まり、穏やかな気持ちになれた。元聖化隊も、今迄の事を涙を流しながら必死に謝っていた。周りの皆も、それを許していた。そもそもあれは、口にするのも嫌だけど、「神」、のせいだからね。
でも、こんなに穏やかな気分になれたのは本当に初めてかもしれない。
今迄は、〝穢れ〟から逃げ、聖化隊から逃げ、「神」を憎む…それしか無かったから。私は
あぁ、いい気持ち。これからはどうなるかわからないけど、何とかなりそうね…。
その時、身体を覆う草から、
………!!
「彼よ!! 彼がやったんだわ!!!」
私は飛び起きて叫ぶ。周りの人はギョッとした顔をするが構わない。
「私が会った最後の人…私の願いを叶えてくれたわ! きっとそうよ!!」
なんだなんだ、と皆が心配して集まってくる。でも思考は止まらない。きっと「彼」は、あの絶望的な世界をたった1人で闘い続け、ついにあの「神」を殺したんだわ…! あんな孤独な世界で、1人ぼっちで……どれだけ苦しかったでしょう。どれだけ辛かったでしょう。
今思うと…不思議な人だった。…不思議な力も持つ人だった。金髪で碧眼で、若いのに達観した様な表情をしていた人。
私は伝えなければならない。この世界を救った「彼」の事を。私達が無事なのも、この植物も、きっと「彼」がやったんだと思う。
なのに、「彼」を知っているのは私だけ…。
そんなのって、あんまりよ!
だから私は伝える…。知ってる限りの「彼」の事を。
絶望あふれる「この世界」に〝希望〟を齎した「彼」の事を。
それが、これからの私の役目よ。