アンブレイカブルハンター   作:エアロダイナミクス

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54、願い

 

 

 

 ………

 

 

 意識が覚醒する。ハッと飛び起き、戦闘態勢を取る。()()はどこだ? 私はどれぐらい眠っていた!?

 

 辺りを見回すと、巨大な世界樹が目前で聳え立っている。…良かった。戻って来れた…。山をも超える太過ぎる幹と…()()()()()()

 

 

 

 

 ……!!?

 

 

 

 何でまだ居るの!? 倒したよね!? そう思っていたら、奴が話しかけてきた。

 

 

 

 ────見事だ。ヒトの英雄よ。実に見事に我を撃ち破った────

 

 

 

「………もう闘わない?」

 

 

 

 ────貴様が望むなら良いのだぞ? 我も久しぶりに血沸き肉踊る闘いだった。まさか我がヒトに撃ち斃されるとはな────

 

 

「闘いはもういい。…それで…アンタは何でここに居る?」

 

 

 ────無論、我を斃した英雄に褒美を与えようと思ってな────

 

 

「それは…選ばせてくれるのか?」

 

 

 ────我の出来る範囲で有れば良かろう────

 

 

「ならば……私は帰りたい。()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

 

 ────そんな事でいいのか?────

 

 

()()でいい。それ以上は望まない」

 

 

 ────良かろう…貴様の願いは叶えてやる。だが、我を斃した者にそれだけでは余りにも狭量。故にこれをくれてやる────

 

 

 というと、奴は私の目の前に黒い球体を浮かせて見せた。…何やら吸い込まれそうな色味をしている。

 しかし…これをどうしろと?

 

 

 その瞬間、()()()()()()()()()()()()()、私の左腕に収まった。そして…()()()()()()()()()()()

 黒いスーツだ…。黒シャツ、黒ズボン、黒ネクタイ、黒ジャケット…。それに黒い手袋や靴下、靴、帽子までついている。確かに私はもう全裸に腕輪というスタイルだからありがたいが…。

 

 

 ────()()は防具だ。我の一部を使っておる。破損もしないし念じれば着脱も自由自在だ。…ヒトが全裸では心許無かろう────

 

 

「…変な機能はついていないだろうな」

 

 

 ────望むのならば付けるが…貴様には必要ないだろう────

 

 

「…ならばありがたい。では、帰らせてくれ」

 

 ────よかろう。…その前に一つ。貴様の運命に妙な気配がついておる。消してやるから動くなよ────

 

 

 と言うと、ノータイムで私にブレスを放ってきた。もうちょっと猶予をもてよ! …しかし、()()()()。そして、私の後方で小さな叫び声が上がった。

 

 

 ────これで良し…では貴様の願いを叶えてやろう…『フレースヴェルグ』! 見ていただろう! 姿を現すがいい!────

 

 

 

 

 

 一瞬、静寂が起きるが、次の瞬間に凄まじい念の圧が上空から迫って来る。

 

 

 

 ────フハハハハ!! これは愉快!愉快! 貴様がヒトに敗れるとはなぁ!『ニーズヘッグ』!────

 

 

 

 …巨大な鷲か。このドラゴンと同じぐらい強いぞ。

 

 

 ────このヒトの英雄は強かった…。良き闘争だったぞ────

 

 

 

 ────煽りも効かんか。詰まらん。まぁいい。良きモノが見れたからな。して、この人間を送れば良いのか?────

 

 

 ────その通りだ。我は海のアイツに嫌われておるからな────

 

 

 

 ────フン。貴様の受けた願いは貴様が叶えろと言いたいところだが……()()ならば仕方ないか。承った────

 

 

 ────恩に着るぞ。『フレースヴェルグ』────

 

 

 ────貴様の為では無い。いいものを見せてくれたヒトへの礼だ。あぁ、これで100年は楽しめるな────

 

 

 ────いいからサッサとしろ!────

 

 

 ────おぉ怖い怖い。ではヒトよ。乗るがいい────

 

 

 

 そう言って、大鷲は私に背中に乗る様に促す。私もそれに従った。

 

 

 

 ────しっかり掴まっておれ────

 

 

 

 次の瞬間には、凄まじい勢いで飛び出した! もうあんなに離れてる…。あっと言う間に着きそうだ。いよいよだ。いよいよ帰れる!

 

 

 

 

 遠くから、──貴様の運命に幸あらん事を──と言う声が聞こえて来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 あっと言う間に暗黒大陸の沿岸付近まで着いた。これまでの苦労は何だったのかと言いたいぐらいだ。しかし、そこで問題が起きた。

 

 

 

 ────ヒトよ。少し面白いものを見つけた。寄り道するぞ────

 

 

 

 と言って、沿岸沿いに進路を変更し始めたのだ。ちょっとフリーダム過ぎるだろ!

 

 

 ────怒るなヒトよ。()()()()()()()()()()()()()。貴様も見ていけ────

 

 

 

 ……!!?

 

 

 

 人間が!? ()()()()で彷徨っているのか? まさか…生き残りか!?

 

 

 

 

 ────チッ。すばしっこい。転移させるか────

 

 

 

 

 大鷲の背中に現れたのは、黒い長髪でゆったりしたフードとコートが合わさった様な服を着た人物だ。…誰だ?

 

 

「クソッタレ! 〝超越種〟に見つかったか……って、誰だオメー!!」

 

 

 

 ────珍しい。コヤツもヒトにしては中々の者だな。我が名は『フレースヴェルグ』。空を統べる者なり────

 

 

 

 いつの間にかミニヒヨコみたいになって、我々の近くにフレースヴェルグ?が来た。大鷲はそのままだから念獣みたいなものか?

 

「は〜っ。ここに来てえらいのに捕まっちまったなぁ。油断はしてなかったんだがな…。で、アンタは?」

 

「…カーム=アンダーソンですよ。人の名前を聞く前に自分の名前を教えてほしいですね」

 

「あーそうか。もう長い事人と関わって無かったから忘れちまってたよ。スマンスマン。俺はドン=フリークスという。よろしくな」

 

 !!

 

 

 ────しかし、良く1人で生きておったな。そんなに弱っちいのに────

 

 

「嫌味か! 確かに俺はお前らに比べると弱っちいが……俺には特殊な能力があってな。そいつのおかげよ」

 

 

 いや…謙遜してるけど、この人も十分強い。〝聖光気〟を使わなかったら互角だろう。

 

「しかし、そこのアンちゃん。オメーは強いな。」

 

「まぁ…鍛えられましたからね…。()()で」

 

「何? まさかとは思うが、出会った奴と全部闘ったのか?」

 

「……そのまさかですよ」

 

「…お前…良く生きてたな〜。フツー死んでるぞ」

 

 

 ────此奴は世界樹の『ニーズヘッグ』を斃す程の強者だぞ────

 

 

「マジかよ…。最早〝超越種〟じゃねぇか…。で、同じ〝超越種〟同士で何してんだ?」

 

 

 ────此奴は帰りたいらしいからな。()を倒した報酬よ────

 

 

「オメー今更()()()()に戻って何すんの? はっきり言うけど詰まらんぞ?」

 

「家族が待ってるんですよ………だから帰らなきゃ。随分と時間が経ってしまいました」

 

「……そっか。まぁ家族は大事だな。んで、()()()()()()()()?」

 

「一生来ませんよ! こんな所!」

 

 

 ────勿体ない…。貴様程の力を持つ者が ────

 

 

「…俺も同じ意見だぜ。勿体ねぇ。世界はこんなに広いのに」

 

「私には地獄にしか見えませんでしたよ…」

 

「な〜に言ってやがる! こんなに楽しい所はねぇぞ!」

 

「大体貴方の書いた本の所為でえらい目にあったんですからね!」

 

「お、アレ読んだのか! もうすぐ『西』も出来るぞ!」

 

 

 ────ほう。面白そうだ。少し読ませてみろ────

 

 

「いいぜ…メモだがな。ほら。これだ」

 

 

 フレースヴェルグの分身?は小さな身体で器用に本を捲り始めた。

 

 

 ────中々面白いぞ。ヒトよ。少し貸してくれ────

 

 

「そうしたいのは山々だが…まだ後ちょっと書けてねぇんだ。…もし良かったら一緒に行くか?」

 

 

 ────それはいい考えだ! ヒトよ。付き合ってやろう────

 

 

「ヘヘッ。悪ぃね」

 

 

 

 すっかり意気投合した2人(?)。ドンさんなんかホントに悪い笑みを浮かべてる。多分ロクな事考えてない。だが忘れて貰っては困る。

 

 

 

「先にこっちの用事からですよ。『フレースヴェルグ』さん」

 

 

 ────ん? …おぉ! 忘れとらんぞ! 先にそっちだな。わかってる、わかってる────

 

 

 ……絶対忘れてたな。全く…。もう遠回りはゴメンだ。その後、私たちはそれぞれの旅の話をした。ドンさんの話はとても魅力に溢れていて夢があった。智略を尽くしてダンジョンを攻略して凄いお宝を手にした話とか、知性を持つ怪物との手に汗握る交渉の話とか。内容は多岐に亘った。

 私もフレースヴェルグさんも暫しの間楽しく聞き入った。話し方も非常に上手い。頭がいいんだろうな。…しかし、とても同じ大陸を旅したものだとは思えないな…。彼の怪物達の躱しかたもとても参考になった。もう使う事はないだろうが。

 代わりに私の話を聞いたドンさんはドン引きしてた。「お前さん…本当に良く生きて来れたな…。だからこそその力か」と言っていた。フレースヴェルグさんは妙に納得してた。

 そうこうしながら楽しく過ごしていたら、もう限界海峡線に着いたらしい。巨大な門が見える。

 

 

 

 ────何をしに来た。『フレースヴェルグ』よ────

 

 

 

 ────久しいな。『リヴァイアサン』。何、ちょっとした届けものだ。人間界までは行かんよ────

 

 

 

 ────貴様の話は信用ならんが…乗ってる者達を見ると、どうやら本当らしいな────

 

 

 

 ────相変わらず過保護だな。そろそろ解放したらどうだ?────

 

 

 

 ────まだまだ、ヒトは弱い。偶に例外があるぐらいだ。もう少し力を付けねば、なす術もなく蹂躙されるだろう────

 

 

 

 ────それが過保護だと言うに…。まぁ良い。議論はまた次の機会にしよう。1人は〝我等〟を斃した者だ。その報酬でな。通してくれんか?────

 

 

 

 ────良かろう。…2人とも久しいな。特に貴様はヒトの進化の可能性を見せてくれた。()()を通る価値もある。貴様ならこれからいくらでも通してやろう…。して、もう1人はどうする?────

 

 

 

「俺はもうちょっと旅を続けるぜ。旅の道連れも出来たしな」

 

 

 

 ────それもまた良かろう。では、通るがよい────

 

 

 

 門が開き始め、我々は其処を通り抜けた。もうすぐだ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかしよぉ。コイツを届けてからの話だが、お前さんそんな図体じゃ碌に探索も出来んぞ? どうすんだ?」

 

 

 ────馬鹿にするでない。貴様達ヒトの大きさに変化するのは我には容易い事。それならば良かろう────

 

 

「そっか…それならいいな! さて、どっから探索するかねぇ!」

 

 

 

 何やら今後の話で2人は盛り上がってるな。しかし私の頭は帰る事で一杯だ。もう10年近く経ってしまった。流石に家族も諦めているだろうな…。なんて謝ればいいか…。

 

 

 

 そうこうしてると、フレースヴェルグさんが止まった。着いたのか?

 

 

 

 ────ヒトよ。我はここまでだ。後は自分で行くがいい。このまま真っ直ぐ行けば着くぞ────

 

 

「ありがとう。フレースヴェルグさん。とても助かりました。ドンさんも急に付き合わせてすみませんでした。そして楽しい話をありがとう」

 

 

 ────気にするな。我も楽しみが増えたからな────

 

 

「俺も気にするこたぁねぇ。また『西』を出したら読んでくれよな。……本当にまた来る事はねぇのか?」

 

 

「……私は〝人間〟として生活したいので。それが私の性分に合ってます」

 

「……お前さんは真面目だなぁ。まぁ気が変わったらまた来いよ。会えたら一緒に旅しようぜ。…最後に言っとくが、〝人間〟はどんな状況でも、気持ち一つで楽しむ事が出来る。『新大陸』なら尚更だ。珍獣・怪獣、財宝・秘宝、魔境・秘境…そういう〝未知〟のモノに〝人間〟はどうしても惹かれるモンだ。すぐに俺達の後追いも出て来るだろう。()()()()()()()()。そう言った冒険心って奴はよ…。()()()()()、お前さんも、もっと人生を楽しめ。あんまり真面目ばかりだと息が詰まっちまうからな…。人生の先輩からの有り難い言葉だ。覚えとけ」

 

 

「……分かりました。()()()()()〝人間〟というものですね。人生を楽しむ…。覚えておきましょう」

 

 

「ガラにもなく、クサい事言っちまった。じゃあ()()()

 

「ありがとうございます。……機会があるかは分かりませんが…()()

 

 

 ────話は終わったか? では行くぞ。さらばだ。ヒトの英雄よ────

 

 

 そう告げて、2人(?)は戻って行った…。去り際に

 

 

 

 

「おい、そういえば『ニーズヘッグ』だっけ? ソイツに報告に行くんだろう? ソイツも連れて行けねぇか?」

 

 ────その発想は無かった! それは実に面白そうだ! 奴もヒマしてるだろう。一緒に連れて行くぞ!────

 

「いやぁ、実に楽しい旅になりそうだな! これからは奥地も探索してみようかねぇ…」

 

 ────それよりも、さっきの話の続きを聞かせろ────

 

 

 

 

 ………そうして2人(?)は去って行った。実に楽しそうだ。……楽しむ、か。確かに久しく忘れていた感覚だ。帰ってひと段落着いたらまた旅をするのも悪くないな。まぁ暗黒大陸にはもう二度と行かないが。

 

 

 さて、本当にいよいよだ! 我が家まで後少しだ。

 

 

 

 思えば長い、本当に長い旅だった。

 

 

 

 もう駄目かと思う事も何度もあった。

 

 

 

 だが、そんな私を救ったのは

 

 

 

 〝家族への思い〟だった。

 

 

 

 だから、今私の胸は高まっている。

 

 

 

 例え、身体が〝人間〟とは少し異なるモノになってしまっていても。

 

 

 

 私は、〝家族〟に会いたい。

 

 

 

 どうか、皆が無事でいますように。

 

 

 

 どうか、私を暖かく迎えてくれますように。

 

 

 

 それが、私の……願いだ。




フレースヴェルグ
・大鷲の姿をした〝超越種〟。ニーズヘッグと同様、世界樹に居を構える。ニーズヘッグとは違い、世界樹の上層部にいる。名前には〝死体を飲み込む者〟という意味がある。偶にニーズヘッグと罵り合っているが、それは世界樹の中層に棲むラタトスクというリスのせいである。余談だが、このリス、後のドン=フリークスとフレースヴェルグ、ニーズヘッグの珍道中にちゃっかり着いて行ったとか。

追記
服装を一部追加しました。

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