アンブレイカブルハンター   作:エアロダイナミクス

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57、メッセージ

 

 

 

 その日、ヨークシンは震撼した。

 

 

 正確に言えばヨークシン在住の念能力者が震えあがった。

 

 原因は、()()()方向から想像を絶する程の量のオーラが()()()()()()()からだ。

 〝それ〟は、人間が出すオーラとはとても思えず、とんでもない怪物が誕生してしまった事を、文字通り身体で実感してしまった。

 屋外にいて不幸にも〝それ〟を見てしまった者は、決死の覚悟でヨークシンを脱出した。直ぐにでもこの場所が地獄になってしまう事を確信して…。

 

 

 

 しかし、()()()()()()()()もいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 な…何なのよ…アレは…! 今まで見た事も聞いた事も無い程の巨大なオーラ…! 正に雄大な山脈の様な……それ程の圧倒的な力! これが…()()()例の調査対象! まず間違い無い! 

 〝これ〟は私の手には負えない…。いえ、もしかしなくてもあの()()()すら…。しかし、ほっとくわけにもいかないわね…。先ずはジジイに知らせる。そして…本当に気が進まないけど、「調査」はしなきゃね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 Prrrrrr…

 

 

「…ほい。ワシじゃ。…なんじゃ、ビスケか。見つかったか?」

 

「ジジイ…よくも私に〝あんなの〟の調査を依頼したわね!」

 

「待て待て、落ち着け…。で、その様子だと見つけたんじゃな?」

 

「…見つけたわさ…と言うよりも()()()()()()()と言った方が正しいわね。本日午後3時48分。先程ね。ヨークシンの一等地近辺、恐らくアンダーソン家の敷地付近にて、莫大な量のオーラを観測した…。オーラの質から考えると、アレは()()()()()()()()。そして〝それ〟は人間に出せるようなものじゃない…! 恐れていた事が当たったわね…」

 

「……そう、か…。『六番目の厄災』…の可能性が高いという事か…」

 

「そうね。あれだけの力は最早厄災よ。ただ、希望があるとしたら、観測した『オーラの質』がそんなに害があるようには見えない所ね。儚い希望だけど」

 

「しかも、出た場所がよりによって()()()()()()…か。あそこは昔から協会との因縁が深いからのぉ…。して、一応聞いとくが、ワシと比べてどうじゃった?」

 

「……言っちゃ悪いけど、話にならないわね。もう人間の個人が対処出来るレベルじゃないわ。国家レベル…いえ、()()()()()()()()()()()()世界規模のレベルかもしれない」

 

「……」

 

「いい事? 私は今から決死の覚悟で現地に調査に向かうから、生きて帰ったら報酬たんまり弾みなさいよ! 生きてりゃまた連絡するわさ! じゃ!」

 

 

 ガチャッ。ツー、ツー…

 

 

「…相変わらず忙しない奴じゃ……すまんのう…。…ワシも覚悟を決めるか」

 

 

 

 

 

 

 

 

「改めまして…()()()()()()。Mr.カーム=アンダーソン。私がジョン=アンダーソン。アンダーソンファミリーの6代目のドンにして、十老頭の1人を務めています。試す様な真似をして申し訳ない」

 

 

 あれから、()()()屋敷の者達を介抱したり、目を醒めさせたりして、漸く話が出来たのは30分後だった。…私も流石に全力はまずかったと反省した。

 

 

「カームでいいさ…。Mr.ジョン=アンダーソン。あれは当然の事だ。恐らくマイケルの指示でもある…気にしてないさ。しかし、()()()、と聞いたが、マイケルと私の話はかなり詳細まで残っていたらしいね」

 

「こちらもジョン、でいいですよ。カームさん。お察しの通り、ご先祖、特に2代目のマイケル=アンダーソンの逸話は伝説に近い。彼は『アンダーソンファミリー』をヨークシンどころか、サヘルタ合衆国全域を支配する程まで発展させました。当時の大統領すら2代目の意向を気にしながら政策を進めたそうです。しかし、()()()()()()()()()()()()。それが貴方だ。カームさん」

 

「その通りだが…マイケルは随分と活躍したらしいね」

 

「だからこそ、〝伝説〟なのですよ。ここまでファミリーが発展したのはほぼ2代目のおかげと言ってもいい。十老頭になったのもマイケルさんからです」

 

「その……十老頭とはどういったものかな?」

 

「この世界の6大陸10地区を治めるマフィアのボス達の事を指します。我々はサヘルタ地区全域ですね」

 

 

 …朧げながらに思い出して来たぞ…! そういえば、いた。確か、「誰か」の襲撃を喰らって、アッサリ…そ、そうだ! ()()()()()()()()!!

 今は大丈夫だが、近い将来だろう。確認してみよう。

 

 

「…他の十老頭は健在か?」

 

「えぇ…気に食わない奴等ですがね。何故?」

 

「いや何…みんな()()()()か?」

 

「いえ…私だけですね。我々は家訓でね」

 

 

 やはりそうか…これ程の力を持っていればそう簡単にはやられまい。「誰」の襲撃だったか忘れたが、多少は苦労する筈だ。これも歴史が変わった、と言う事か? しかしまだ分からんか。

 

「家訓…ね。マイケルは私に対して何か遺してないか?」

 

「有りますよ。…これです」

 

 

 そう言って、彼はテーブルの下から花の様な金属が付いた大きな箱を取り出した。これは…蓄音機、か? 神字が至る所に書いてある。

 

 

「〝これ〟は2代目から貴方が来た時に聞かせるように、と代々厳命されているものです。まぁ貴方以外は起動出来ない様になってますけどね。針を乗せて再生ボタンを押しながら《練》をして、ご自分の名前をどうぞ」

 

 

 言われたとおりにしてみると、蓄音機が再生し始め、()()()()()()で語り出した。

 

 

「ジジッ……やあ、兄さん。これを聞いているという事は無事に帰って来れた様だね。クイズは楽しめたかな? 分かってるとは思うけど、アレは罰だ。約束を守れなかった事は反省して欲しい。残念ながら()はその場に立ち会うのは難しそうだけどね。出来れば私が直接やりたかったが無理そうだ…。でも、無事に帰って来れた事は心から祝福するよ。皆心配していたからね。私も能力が発動した時はどうなるか心配だったけど、流石は兄さんだ。兄さんを()()()()に遭わせた国とハンター協会にはキッチリと()()()()は付けて置いたから安心してほしい。帰って来たとしてもいい様にされる事はないだろう。だから、安心してこちらで過ごして欲しい。兄さんが帰って来た時の為に、私から様々な便宜を図る様に伝えておいた。これからの人生を何不自由なく過ごせる様にね。我々はあれからも楽しく過ごしたよ。後継者も順調に育っている。ちょっとやそっとでは崩れる事は無い。私は未だにファミリーのドンに相応しい男になったかどうか分からないが、少なくともファミリーは守った。そしてそれはこれからもだ。その中には()()()()()()()()のさ。兄さん。だから、これからの人生をどうか楽しんでくれ。私はそう、願う………。」

 

 

 

 マイケル……。お前は…約束を守ったんだな……。ありがとう…ファミリーを守ってくれて。ありがとう……私も守ってくれて…。

 

 彼の声が聞こえだしてから、私は涙が止まらなかった。それは、マイケルの強い愛情に触れたこと。そして、()()()()()()()()()()()ということ…全てがごちゃ混ぜになって私を襲ったからだ。蓄音機はそこから沈黙を続けている…。ジョンがたまりかねて「止めますか?」と聞いてきたが、私は首を振った。まだ彼は()()()()()()()()。少しでも彼の雰囲気を感じていたかった。すると、蓄音機は再び語り出した。

 

 

 

「………兄さん。〝あれ〟からもう130年だ…。例え帰ったとしても、兄さんは恐らく不老不死に近い状態になってるんじゃないか? これから先に帰って来れるという事は()()()()()だろう。違ったら問題ない。でももし、そうだったとしたら、兄さんはどうするんだい? また終わらない旅を始めるのかな? ……兄さんの事だ。帰って来たと言う事は〝人間〟としての安らぎを求めに来たのだろう。もし、それで苦しむことが有るならば、昔私に聞かせてくれた話を思い出すといい。修行時代に兄さんがその秘密と共に語ってくれた話を…。そこに解決策がある筈だ。頑張って思い出して欲しい……。私からはこれで最後だ。幸運を祈るよ、兄さん。さようなら。マイケル=アンダーソンより、愛を込めて」

 

 

 

 

 

 蓄音機は動きを止めた。……マイケルは…()()()()()()()()()()()()のだろう…。彼のメッセージは伝わった。私は…まだまだ立ち直れてはいないが、これからの人生を生きていこう。〝人間〟らしく、慎ましながらも地に足のついた人生を…。

 しかし、彼に語った話とは何だろう。私は彼に何を話した?

 

 ジョンは私をそっとしたかったのか、黙って席を離れてくれた。広い応接室で私は何度も蓄音機を再生した。5回も再生した時だろうか。()()()()()()()()()()()。……何故これ程の沈黙を?

 これ程の深謀遠慮のある男だ。無意味に長い沈黙を続ける様な事はしない筈だ。私は、試しにその部分に針を置いて再生してみた。…何も無い。ただの沈黙だ。耳を澄ますと確かに彼の息遣いが聞こえる。だが…()()()()。何か喋っている! 余りにも小さすぎて聞き取れないが、確かに何か行っている! まさか…。

 私は、蓄音機にセットされたレコードの様な物を取り出した。通常は表面だけに刻まれるが…()()()()()()()()()! 彼は多分()()()()()()()()()! それを繋ぎ合わせたのだ…。私は急ぎ、ひっくり返して再生した。…最初は沈黙だ。だが、()()()()()()()()()()()()()()…! そして…

 

 

「…………やぁ! 見つけたねぇ! 単純な仕掛けだからすぐバレると思ったけど、いかがだったかな? さて、これからは少しだけ込み入った話をする。周りに人は居ないかい? 5秒待つから確認を頼む。駄目だったら消してくれ」

 

 

 私は即座に隠した《円》を展開する。…居ないな。ジョンは台所で何かやってる。

 

 

「………………大丈夫のようだね。結構。さて、兄さんの話だ。兄さんは『この世界』がコミックであった世界から転生して来たと言ったね。あの時は半信半疑で、今も余り信じられないけど。そのコミックだった時代は、今よりずっと未来だ。確か1()9()9()9()()と言っていたよ。覚えやすかったから私も覚えていた。その時代までに帰れるかどうかは分からないけど、兄さんは修行時代にその中で使われた様々な能力を紹介してくれた。巨大な人型が具現化され、不可避の速度で巨大な手が百以上飛んでくる能力。相手の能力を盗む能力。オーラを煙に変えて、様々な攻撃方法に変える能力。オーラを電気に変えて攻撃する能力……今でも覚えているよ。部下を鍛える時に役立ったからね。さて、本題はここからだ。兄さんの〝能力〟は反則だ。私は生涯あの時点での兄さんに勝てる気がしない。特にありとあらゆる不具合に適応する能力。アレは凄まじいとしか言い様がない。だからこそ、兄さんが無事な場合には人間離れを簡単にするだろう。仮に死にたいと思っても、もう一つのこれまた反則的な〝能力〟が邪魔をするわけだ。だから、兄さん。もし、()()()()まで到達する事が有れば、その〝能力〟、捨てちゃいなよ。居るんだろう? 『能力を盗む奴』が。兄さんは今、どんな心境かは分からない。だけど、家族を失ったであろう今、その心境は想像に難くない。だからこそ、目標を持つ事だ。そうすれば前に進める。それに、こちらだけじゃ無くてカキンにも行かなきゃ。もし先に行ってたら申し訳無いけど、どうせこっちから先に来ただろうし。兄さんの言う通りなら師匠とやらも同類だろう。大丈夫。心配することはない…。希望はいいものだ。例え裏切られたとしてもそれこそが力となる。兄さん。希望を持って歩き出すんだ。私はそう願うよ……。では兄さん。()()()

 

 

 

 …思い出した……。何故私は忘れていたのだろう。()()()()()()()()()()()だ。そして…マイケル。本当にありがとう。私はまた歩き出す事が出来そうだ。確かに居た。能力を盗む奴が。そしてソイツは()()()()()()()だ。もう記憶が曖昧で、どのタイミングで出て来るか分からない。だが、ヨークシンで一大イベントがあった筈だ。もしかしなくても十老頭暗殺はコイツらが関わっているだろう。

 …そんな事はさせない。他の老頭は知ったこっちゃ無いが、ジョンとそのファミリーだけは私が守護る。そして、あわよくば私の〝呪い〟を押しつけよう。厄介な敵が出来るかも知れないが、能力のみを吸われた程度なら〝聖光気〟で直後に消滅させてやる。

 問題はいつ、どのタイミングで来るか…だ。確実なのは待ってる事だが、それだと後手になる。ならば…()()()()()()()()()()()()()()()。あそこには仮団員のヒソカがいる。何、あの変態も()()()()()()()()()約束をしたら、喜んで団員を売るだろう。

 

 

 …私はあの物語に憧れていた筈だ。いつからそれを失くしてしまったのだろう。だが、まだ間に合う。もう一度思い出そう。あの時の希望を。

 

 

 これからの人生の為に。


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