録音を何度も聞き終わり、ボーっと考えていた私に、部屋をノックする音が聞こえた。返事をすると、ヴィンセントさんが入ってきた。
「カーム様、お食事の用意が出来ました。食堂へどうぞ」
案内されるままに、私は着いていった。道すがらさっきは済まなかったと謝ると、「気にしないでください。むしろ本物だと確信出来ました」と言われた。…怖がらないでいてくれるのはありがたい。すると、食堂についた。
長テーブルの複数人が座れるやつだ。ジョンがそこに座っていた。カルロさんもいる。
「腹が減っては何も出来ませんからね。宜しければご一緒にどうぞ」
…誰かに食事を誘われるのは本当に久しぶりだ。ありがたく席に着くと、ヴィンセントさんが給仕をしてくれた。出て来たのは……
「これは…!」
「
「と、言う事は…」
「はい。私が作りました。…まさか私の代になるとは思いませんでしたがね。久しぶりに作ったもので味は保証出来ませんが、是非お召し上がりください」
マイケル…本当にお前って奴は…! ジョンが先程食堂にいたのはそれか! そこから皆で食前の祈りをして、頂いた。
……美味い!! 爽やかなトマトとニンニクの香ばしい香りが食欲を増進させる! ピリ辛の唐辛子も良いアクセントだ。玉ねぎやウィンナー、ピーマンなどの和え方もバッチリだ…。昔より美味いぐらいだ。私は夢中になって食べた。
「ドン…また腕を上げましたな」
「まぁ、唯一の趣味みたいなものだからな」
というカルロさんとの会話が聞こえた。これが実家の味という奴だろう。マイケルも代々受け継ぐ様に指示してくれたおかげで、私はこれにありつけるというわけか……。マイケル…本当に会いたかったな…。
◆
食後に出た高級ワインを頂きながら、一息つく。こんなにゆっくりできたのはいつぶりだろうか…。例え子孫であってもいいものだな。ワインをゆっくり飲みながら今後についての話をする。
「カームさん。2代目が言っていた様に、貴方の身分は我々が保証します。取り急ぎ、これがパスポートです。貴方は私の息子の1人、という事になってます。ですから、この国にいる限り何も起きず、何不自由なく暮らせるでしょう。貴方の口座はまだ有効ですからね。また、貴方にはこの隣に別宅を用意しています。よろしければ、そちらを家としてご利用ください。ホームコードと携帯電話があります。パソコンと電脳コードを含むネット環境も揃えてあるので、後でヴィンセントに使い方を聞いてみてください」
「……何から何まで済まない。ありがたく受け取るよ。しかし、国民データベースの様な物があった筈だが、そんなに身分は簡単に取れる物なのか?」
「えぇ。
「私の時代からも似た様なのはあったからな。例外は流星街の連中だけだ。しかし、これもマイケルの落とし前、という奴か?」
「その通り。実にマフィア的な落とし前の付け方ですが、まず2代目は国に対して莫大な賠償金を要求しました。そして、裁判沙汰で混乱している隙に国の末端から主要人物をありとあらゆる手で
「……成る程。ハンター協会は?」
「ほぼ同じですね。しかし、こちらは武力衝突もありました。他ならぬ2代目も、抗争の先頭に立ってドンパチやったという逸話が幾つも残ってます。まぁこちらは痛み分けに近いですが、今現在はある程度中枢に潜りこませる事に成功してます。そして、両者に『アンダーソンには不干渉』と『カーム=アンダーソンが帰還した場合、如何なる干渉をも禁ずる』という取り決めが為されました。前者はともかく、後者については正式に文書で交わされたので、まず正体がバレても問題ありません。2代目が言っていたのはその事です。まぁ未だにハンター協会とはぶつかる事もあるので、偶に相手してやってますがね」
「そうか……マイケルも本当に頑張ってくれたんだな。私も腑抜けている場合じゃないか…」
「今後はどうしますか? しばらくゆっくりされますか?」
「あぁ。悪いが2、3日程厄介になろう。その後、用事があるからカキンに向かいたい。…手配出来るか?」
「お安い御用ですね。…ヴィンセント。頼めるか?」
「かしこまりました。では3日後に飛行船を手配しましょう」
「ありがとう。助かるよ」
「どういたしまして…。しかし、私も正直半信半疑でしたが、本当に成し遂げたんですね。私も多少は自信があったのですが、さっきのでその自信が粉々になりましたよ。流石2代目が生涯敵わないと言わしめた方だ」
「いや…人間としてはマイケルの方がよっぽど上だよ。今回それを痛感した。私もまだまだだ…。それに、
「……お辛いでしょうが、当時何が有ったか聞かせて貰えませんか?」
「いいだろう……あれは、協会からシングルに認定された時から始まった……」
◆
その後、私は掻い摘んでこれまでの経緯を話した。話し終えるとジョンは「やはりもっとケジメが必要でしたね…!」と怒り心頭だったが、続けて気になる事を言っていた。
「アレを……
「えぇ。230年前の大失敗を受けて、暗黒大陸には不可侵とする条約がV5で成されました。当然ですね。ですが、各国は隠れて何度も渡航した…。サヘルタもです。当時はまだ国に抵抗勢力がいました。その差し金ですね。そして…何度か失敗して、漸く帰還者が出ました…。2名ですが。その積み荷に五大厄災の一つが紛れ込んでいたわけです」
「おいおい…! よりによって本当に持ち帰ったのか! 何も起きなかったか!?」
「起きなかった筈はないでしょう。特大のバイオハザードが起きました。当時のハンター協会と国、そして我々も含めて決死の作戦で何とか食い止めました」
「馬鹿じゃないのか…!! 一回で懲りたら良かったのに…!」
「愚かなもので、身近で大量の被害が出てから気付く様ですね。だからこそ、2代目は落とし前を付けたというのに…。まぁそれからは行ってませんよ。我々も許さないですし。その作戦を主導した議員は即
「いや……そんな事は無い。やはり私を救ったのはマイケル含む家族だ。ヤバい時にはいつも彼等の事を思い出す事で何とか乗り切れたよ」
「……伝承通り、とても家族思いな方ですね…私も安心しました」
その時、ヴィンセントさんが何やら外部からイヤホンで連絡を受け、ジョンへ耳打ちした。
「……ダブルか…。面倒だな…。カルロ、行けるか?」
「えぇ、お任せください」
そう言ってカルロさんは席を立った。
「どうした?」
「……いえ、ハンター協会が嗅ぎまわっているようです。先程ので何か感づいたのでしょう」
「……私のせいだな。…すまん」
「お気になさらず。たびたびある事です」
「そうか…
「……先程も思いましたが、どうやって察知してるのです?」
「何、簡単だ。瞬時に《円》を展開するだけだ。《隠》で隠してな」
「……やはり規格外ですな。ただ、念の為にお隠れになってください。私が相手します。カームさんはこちらの隠し扉から、隠し部屋へどうぞ」
「そうだな…私も今、ハンター協会と事を構える気は無い。本当にすまんが任せたよ」
そう言って、私は一旦屋敷の奥に引っ込んだ。《円》をされてもいい様に一般人を偽装して、だ。さて、ビスケット=クルーガー。思い出したぞ。原作主人公達の師匠だ。何故ここに居るのかは知らんが、原作前だからそういう事もあろう。もう一度話はしてみたいが、ハンター試験が終わってからだな…。
………
◆
暫くすると、ヴィンセントさんが迎えに来た。…終わったらしい。案内されて応接間に着いた。
「どうだった?」
「私とカルロで突っぱねましたよ。そんなのは知らん、とね。食い下がってきましたが、『アンダーソンには不干渉』を盾に知らぬ存ぜぬで通しました」
「ありがとう…。だが、また来るだろう」
「その時も同じですよ。例え会長が来ようが知らないで通します。あまりしつこいようなら我々を舐めてはいけないと言う事を思い出させます」
「……本当に迷惑をかけるな…。申し訳ない…。お詫びと言っては何だが、
私は、アイテムボックスを開き、
「…これは?」
「
「それが本当ならこれ一つで戦争が起きますな…。では有り難く頂きましょう」
「少し身体に副作用があるかも知れんが、死にはしない筈だ。私も食べたが問題は無かった」
「そう聞くと怖いですが…まぁ信じますよ」
そう言って彼は一気に食べた。すると、「ぐおぉぉぉ…」と悶え出した。ヴィンセントさんが駆け寄るが、彼は大丈夫、とジェスチャーし、暫くの間耐えていた。5分程悶えた後、
「ハァッ…ハアッ…す、凄いですな、これは……! ほぼノーリスクでここまで強くなれるとは…! 仮にオークションに出したら国家予算規模の額がつきそうです」
「暗黒大陸のリターンだからな。当然だろう。後1つ出しておく。好きに使うといい」
「こんなのを貰ったらお釣りがきて余りありますよ…」
「私からの感謝と捉えてくれ。
「…分かりました。それは大変心強いですな。…今日はもう遅い。別宅でゆっくりお休みください」
「ありがとう…。私の方針も決まったから、明日以降話そう」
◇
Prrrrrrr…
「ビスケか……生きておったか」
「生きて連絡してるんだからもっと喜びなさいな…。一応終わったわさ」
「まぁ生きとって良かったの…。最悪死んだかと思ったからのぅ」
「そんな生死も分からなくなる様な調査依頼出すんじゃないわよ…。例のオーラの出所はやっぱり『アンダーソン』で間違いない。当主と話した結果、そう確信したわ。知らぬ存ぜぬで突っぱねられたけど。また、かの家は、数時間前に
「やはり、か…。アンダーソンは昔っからアンタッチャブルに近いからのぅ。下っ端はともかく、上の方はかなりの念能力者の集団じゃ。しかも国と協会は中々手出しできん…。困ったもんじゃ…」
「…ジジイは何か心当たりがありそうね?」
「……先程調べて分かった事じゃが…古い話に一つあった。ワシが生まれる前じゃから伝説に近い。アンダーソンと我等には古い取り決めがあってな…。アンダーソンの縁者で昔、〝暗黒大陸〟に向かった者がおる。
「ジジイが生まれる前って…何年前よ!?」
「200年近く前じゃな…。今回のがもしそうだとしたら…」
「物凄い発見だわさ!! 宝石のリターンとか持ってるかしら…」
「だから! 手を出せんとゆうとるじゃろがい!!」
「ふ〜ん…破れないの?」
「破れないの! 大体お主…早速アンダーソンから抗議が来とるぞい。かなり無理矢理押し通られたとな!」
「あっ、大事な用事を思い出したわさ! 報酬は五割り増しで、いつもの口座によろしく!」
ガチャッ!ツー、ツー、…
切りおった…。全く…まぁ厄災でなくて一安心、といった所か…。しかし、まだ油断は出来んな。もう一度あの資料を探ってみるか…。もし本物ならば、何とか繋ぎを取れないもんかのぅ…。
◇
もしかしなくても、以前街で会った「カーム=アンダーソン」だわ! 私すら欺く程のオーラ技術! 確かに、あそこまでの体術があるのに念能力者じゃないなんて不自然すぎだわさ。何故気づかなかったのかしら? でも、目的は変わったけど、彼に会う事には変わりない。寧ろ、より優先度は上がったわ! ジジイは何か言ってたけど、要するに
ふふふ…。楽しみね。カーム=アンダーソン
◆
3日ほどのんびりさせて貰い、私はリンゴーン空港に旅立った。リムジンの送迎だ。これも中々落ち着かないが。
これからカキンに向かう。師匠のもとへ行くためだ。カキンは最近どうにもキナ臭いらしいが、空港から降りて仕舞えば関係ない。以前でさえ到達時間は1日を切っていたからだ。見つからずに急ぐ事はわけない。
空港からは1週間程で到着した。
以前は何だったのかと言いたいぐらいだ。帰りは再び1週間後。さて…急がなければな……と思ったら、私に話かけて来る人物がいた。
「あらあらあら…これは奇遇ですわね! カーム=アンダーソンさん!」
……ビスケット=クルーガーか。バレたか? どちらにせよ、先回りされたようだな…。
「これはこれは……。久しぶりですね、お嬢さん」
「ビスケ、でいいですわよ♡ カームさんはどうしてこちらに?」
「ちょっとした知己に会いに来たのですよ…。ビスケさんはどうして
「私、宝石ハンターをやってまして…その帰りですわ」
「そうですか……。では、またこれで」
「お待ちください! ここで会ったのも何かの縁。是非ご一緒したいですわ」
「そう言われましても…。その知己は人見知りでね。出来れば私1人で会いたいのですよ。申し訳ないですが…」
「そうでしたか…では、せめてこれからお食事でもどうですか?」
「ありがたいお誘いですが、先を急ぐので…」
「そうですか…。それは残念です。では次にお会いしたら必ず行きましょうね!」
「そうですね。その時は是非」
そう言ってアッサリと引き下がった。…引き際がいいな。付けて来る気かな? まぁいい。
◇
……なんて速さ! しかも
チッ。駄目ね…。これ以上は見つかるし、そもそも追いつけない…。しょうがない。また空港で張っておくしかないわね。余り派手に動くとジジイに怒られるだろうし、まだバレない様に動かなきゃね…。
◇
半日程で付近に着いた。港付近は流石に発展していたが、奥地は未だに田舎の様で助かった。
確か…ここらへんだったが…。居ない。あの庵も跡形もない。どうしたものか…。
…仕方ない。《円》を使おう。今の私ならば半径2、30キロはいける筈だ。念の為に《隠》をして、と……全力での《円》は久しぶりだな。
《円》!!
………いた!! これは…洞窟か!? 座禅をしてる…。
私は全力でその場に向かった。そして……師匠は
「ようやく戻ってきたか……馬鹿弟子め」
と、師匠は私にそう言った。
長々と書いてるのにあんまり進んでなくて申し訳ない…。ですが、もうそろそろハンター試験に入ります。