「それでは最終試験を開始する!! 第1試合! カームvsハンゾー!」
参ったな…。のっけからヤバい奴が来ちまった。まだヒソカの方がマシに思えるくらいだぜ…。オレも雲隠流の上忍だ。体術には自信はあった。
だが、目の前に立ってみりゃ分かる。コイツは…バケモンだ。見た目は普通に見えるが、重心の安定感、バランス、筋肉の密度、そして、隙の無さ…。どれを見ても超一流だ。オレと大して歳は違わない様に見えるが、どんな鍛錬を施したらこうなるかわかんねぇ。格が違うとはこの事だな。
奴は構えてすらないのにこれだ。普通なら舐められたと頭に来る所だが、これは当然の格差! 幸いこの試験は殺すのは無しだから良かったものの、殺し合いなら速攻で逃げ出してる所だぜ。
…まぁ、格上と闘ういい機会だ。世界は広い。オレも自分の全力を出し切れる相手はそうそういないから胸を借りてみるか。
当然、こちらから仕掛ける。いっちょ付き合ってくれや。
始めに煙玉で煙幕をはる。…奴には効果が薄そうだが、肢曲を併用して近づき、右手の仕込み刃で首を斬る! 万が一殺しちまったらそれでもよし、だ。多分無理だろうがな。
!!! 止められた!! やはり! どうやって……!!!
「
馬鹿な!!
「最初から全力で殺りに来るのは流石だな。だが、余りにも直線的すぎる。フェイントを幾つか入れるといいだろう」
奴が喋っているが、普通は首がそのまま飛んでくぞ。今までの相手はそうだったからな。再び喋ってる間に仕掛けるが、全てを片手で弾き落としている。喋りながらだ。…戦闘力が違いすぎる!
少し離れて、緩急をつけた残像を残して背後に回り、手刀を打ち込むも難なくその場で躱される。奴は「後ろを向いたまま」だ。そのまま幾つか攻撃を行い、全て躱すか弾かれたが、後ろに眼でもついてんのか!? だが舐めるなよ!
攻撃に紛れさせ肩口を〝掴んだ〟! このまま合気で膝を抜いて転ばす!
グッ!!
な…! 動かん…! 何故だ! 仕方ない、蹴りで…手を掴まれた! そのまま奴は
仕方なく合わせて回転するが、そのまま地面に叩きつけられそうになった為、顔面を仕込み刃で刺そうとするが躱される。だが、手は離してくれたので更に自分で勢いをつけて何とか足から着地する。この距離は不味い…!
無駄だとは思ったが2回目の煙幕を張り、特注の〝連発式吹き矢〟で離れながら各所に5発はお見舞いする。暫くすると煙が晴れたが…全て指に挟んでやがる…。
「ふむ…。見たところ自然由来の神経毒だな。中々やるじゃないか。さて…。ジャポンの体術、堪能した。私も昔習いたかったが状況が許さなくてね…。だからここで体験出来て良かった。だが、まだまだ君も伸びる。更に鍛錬を積むといい。あぁ〝これ〟は返すよ」
そう言って奴は矢をオレの足元に投げた。針は地面に埋まって見えなくなった。…バケモンめ。だが、ここまで差があると逆に清々しくなる。奴に暗器は通用しない。故に純粋な武で行く。オレも1人の武闘家として、コイツと出来る所まで試合ってみたい。そして…せめて一発でもお見舞いしてやる!
「ここからは一武人として手合わせを願う!」
「…いい貌になった。覚悟を決めたか。それこそが獣にはない〝人間〟の良さだ…。私もそれに応えよう」
奴も初めて構えを取る。先程以上のプレッシャーがくる。静かなのに重厚だ。右足を引いて足を前後に開き、左半身を前にして腰を落とし、両手を上下に構える…。カキン…だな。しかしかなり古い型だ。今の健康法のものとは訳が違う。本物の〝武〟だ。オレの全力がどこまで通じるか…勝負だ!
──張り詰めた空気が漂う。既にこの空間の空気は闘気でぐにゃりと歪んでさえいる。
オレは充分に攻撃プランを考え、先に奴へと飛び出した! 奴はまだ動かない。トップスピードで奴に迫り、最速の右拳のストレートをぶっ放す…! 奴がガードの構えを取った! 瞬時に切り替え右脇腹に蹴りを入れる! すると奴はジャンプして躱した! バカめ! それは悪手だ! 着地する前に攻撃を入れる! そのまま回し蹴り!
ガッ!!
当たった! しかし何だこの感触は!? まるで手応えが無い! …しかし、空中で激しく回転している。もう一度!
スッ
!?
馬鹿な!? 重さを感じないぞ!!
奴は、私の足から降りて言った。
「見事だ。あまりにもいい攻撃だったからつい〝ズル〟をしてしまったよ。では私からも攻撃に移ろう。いいか、
奴はその場でパンチを放ってきた。何の変哲もないパンチだ。…だが、〝これ〟はヤバい! 即座に脇目もふらず後方へ退避する。奴はそのパンチをそのまま地面に叩きつけた。
ピッシャーン!!!
雷でも落ちたかという程の衝撃が走り、地面が蜘蛛の巣状にヒビが入る。…駄目だ。こりゃ無理だわ。
「さて……続けるかな?」
「いーや…。オレの負けだ。まいった」
「いいのかな?」
「いい。アンタは
「礼を言うのはこちらだよ。付き合ってくれてありがとう」
「…アンタ程の奴がいるとは思わなかった。後で是非連絡先を教えてくれ」
「もちろん、いいとも。君も次を頑張ってくれ」
「あぁ…。じゃあな」
──世界は広い。オレもまだまだ未熟。試験が終わっても鍛錬は続けよう。そして、いつか…奴の顔面にクリーンヒットを入れてやる! それまで首を洗って待ってろよ!
◇
あぁ〜ッ!! いい♣︎ 実にいい!! 素晴らしい❤︎ 一体キミはいくつ引き出しを持ってるんだい? コレはもう…運命だ♦︎
彼はこの試合で殆どオーラを使ってない…一瞬足の上に乗った時ぐらいだ♦︎ そしてそれも何の念能力かさっぱり分からない…♣︎
コレで確定したね…彼はボクと闘った時も全然実力を見せてない♠︎ 本気の彼がどこまでの力かまるで分からない…こんな事は初めてだ♦︎
あぁ、キミは…どこまで…どこまでボクを、魅了するんだい❤︎
もう旅団すら、団長すらもどうでもいい キミは…キミは絶対にボクが殺る♦︎ 楽しみにしてるよ…❤︎
◇
なんなんじゃアレは…。ワシでも見た事無い程の練度! 彼には恐らくは凄まじい修練があった。そしてそれが実戦と経験によって更に極限まで研ぎ澄まされておる…!
驚くべきはあの動きに一切オーラ技術が含まれないという事じゃ。つまり純粋な体術と肉体性能のみであれだけの事をしおった! 使ったのはあの足に乗る時だけじゃ。
そして…あれはもしや、伝説の〝軽気功〟! 最後の攻防に使われたのは〝消力〟! 信じられん…。いずれも幻と言われる超高等技術じゃ。流石は真の暗黒大陸の帰還者じゃな。
ワシも歳甲斐もなくワクワクしておる…。奴に対してはワシは本当に挑戦者じゃ。もっとサビを落としておきたかったが仕方ない。
全力をぶつける…! 覚悟しておれよ、カーム=アンダーソン!
◇
それから試験は順調に進んだ。第2試合のヒソカvsクラピカはヒソカが完全に遊んでいた。まるで心ここにあらずで私の方をチラチラ見ていた。…逃げないからそんなに熱い視線をよこすのはやめてくれないかな…。結局、テキトーに闘った挙句、彼は「まいった」して次に進んだ。クラピカは納得いかなかったようだが、まぁ契約を律儀に守っているらしい。そういう所は妙に誠実だな。不気味だが。
第3試合はゴンvsハンゾーの試合となった。ハンゾーはゴンを拷問し、「まいった」を言わせようとしたが結局出来なかった。
私は両者の気持ちが何となく分かるので黙って見ていたが、中々辛いものがあるな。だが、それでも引かなかったゴンとハンゾーには拍手を送りたい。これこそが〝人間〟としての闘いであったからだ。実に美しい闘いだった。終わった後など涙が出そうだった。哀れゴンは負けを宣告したハンゾーにぶっ飛ばされて気絶した。
この結果にはキルアは納得がいっていなかったが、まだまだだな。これはそう単純な闘いじゃないんだ。まぁキルアも追々わかっていくだろう。
第4試合、ハンゾーvsポックルさん。なんかポックリ逝きそうな名前だが、彼ってマジでポックリ逝かなかったっけ? 具体的にはキメラアント辺りで。非常に無慈悲なやられ方が印象に残っている人物だ。確かポンズさんもそうか。当時あまりにも衝撃的でまだ覚えていた。…やっぱりクソ虫共に慈悲は無い。分かり次第マジで跡形も無く殲滅しに行ってやる。
試合はハンゾーが一方的にボコって終わりだった。ゴンと同じ形になって彼はすぐに「まいった」した…。やはりゴンは素晴らしい資質があると言うことだ。
第5試合はヒソカvsボドロさん。これはまぁ…。ヒソカがボコボコにしたとだけ。地力が違いすぎるからなぁ…。
第6試合、キルアvsポックルさんはキルアが余裕を見せてワザとまいったした。勝てる時に勝っとかないと良くないぞ、と言ったが「だってつまんないんだもん」と彼は言った。思春期の子の接し方は私も難しい。
第7試合はレオリオ対ボドロさんだったが、彼はボロボロだったので延期になった。
そして、第8試合、キルアvsギタラクル。これが問題だった。わかってはいたが、イルミの登場だ。しばらく黙って聞いていたが、彼のキルアに対するやり方はやはり気に食わない。キルアだって〝人間〟だ。
「ちょっと待った。聞き捨てならない。キルアはどう見てもお前の言う闇人形じゃないだろう。純粋に試合は出来ないのか?」
私も思わず口を出した。
「……これは家族の問題だ。部外者は口を出さないで欲しいな。…特にキミには関係して欲しくない」
「家族の問題をこの場に持ち込むな。やるなら試験を終わらせてからやれ」
「…キミは試験官じゃないだろう? 見てみなよ。周りを。これは許された行為だ。オレも、キルもね」
「
「ふ〜ん…。だってよ、キル。まずはこの試合を終わらせようか。でもキルはオレに勝てるかい? ……ムリだね。オレが口を酸っぱくして教えたからね。そして、オレが勝ったら家に帰るんだ」
「キルア。今回はいい。わざわざソイツの挑発に付き合う必要は無い。『まいった』を言え。その上でお前は私が守ってやる。お前には次の試合もある。だから気にするな」
「キミは何様だい? 口を挟むな。これはオレとキルの問題だ。キミには関係ないね」
「それをキルアが本当に望んでいるのか? お前の勝手な想像だろう。それを試合中に押し付けるな、と言ってるんだが?」
「家族間の問題だと言ってるだろう。分からないかな? それに試合中だ。部外者は黙ってなよ」
奴も不穏なオーラを放ち出すが、私も徐々にオーラを漏らし始める。気に食わない。家族の問題とは言え実に気に食わない。キルアは漸く自由意志を持ち始めたのだ。こんな小さな子供が殺人ばかりやらされて嫌にならない筈がない。私の家族とは大違いだ。それは〝愛〟とは呼ばない。〝エゴ〟だ。
家族は勿論大事だが、こんな奴の所にいたんじゃ歪んでしまう。一時的に避難も必要だろう。イルミが邪魔すると言うのなら、私が防ごう。あそこまで見せて、まだ私と敵対するなら上等だ。私も引けなくなった。向こうもそうだろう。
一触即発の空気が流れる。既に私も5000オーラぐらいは漏らし始めている。流石に試験官も止めに入れないようだ。もう1ミリでも動けば開始の合図になった時、キルアが叫んだ。
「まいった! オレの負けだ! ……だから、もう2人ともやめてくれ…オレは家に戻るよ…」
「キルア! それでいいのか!?」
「…あー良かった。穏便に済んだね! でもこれで分かったろう。お前に友達を作る資格はない。その必要もない」
「だからお前が決めるんじゃないと言っているんだ」
「……本当に黙っててくれないかな? 折角おさまったんだからさ。今回はキミの負けさ。大人しく引き下がったらどうだい?」
「貴様…!」
そうこうしているうちに、キルアが会場を飛び出していった。…私も追いかけたが、「来るな!」と、拒否されて、私はその場に立ちすくむしか無かった。
…彼とうまく信頼関係を築けて無かったのが悔やまれる…。今更、原作の知識が甦ってきた。…このポンコツ頭め!
会場に戻ると試合が始まっていたが、負けたボドロとの試合にキルアは現れず、不戦敗となった。
…必ず取り戻すからな。待っていてくれ。そしてイルミにも反省はさせてやる。…必ずだ。
結局、彼1人が不合格になり、最終試験は終了した。
後半のストーリーが雑になりすぎていたため改稿しました。後出しで申し訳ありません…。
追記
イルミさん辺りを少し変更しました。