もうちょいこのままのペースになりそうですが、今後ともよろしくお願いします。
「しっかし、伝承にしか残っとらん〝聖光気〟を会得出来た奴がおったとはのー。長生きはするもんじゃわい」
ここは飛行船。帰りの道中だ。ネテロ会長も行きの時とはうってかわってフレンドリーに話しかけてくる。まぁこの程度の雑談なら私も付き合うのはやぶさかではない。
「私のいた時代から使用者は希少でしたからね…。ネテロ会長が知らないならもう使い手は私以外いないでしょう。私も知っている限りでは師匠が唯一、でしたからね」
「……一応聞いとくが、その師匠はご存命かの？」
「いえ…つい先日お亡くなりになりました。最後まで私を待っててくださった偉大な方でしたが…」
「そうか……惜しい人物を亡くしたの…。会ってみたかったのぅ」
「会長とは気が合ったと思いますよ。ただ、俗世には降りてこない方でしたからね」
「……！ カキンに伝わる〝仙〟か！ 実在しとったか！」
「流石会長、これだけの情報で辿り着くとは…。正解ですよ。…本当に、偉大な方でした…」
「…辛い事を思い出させたようじゃの。すまんかった。じゃが、師の教えはお主にしっかり根付いておるようじゃな。お主の動きはカキンのそれが染み付いておる。〝向こう〟で無事だったのはそれもあるようじゃな」
「それは間違いないですね…。師匠の教えが有ればこそ、でしたよ。そして、私が師匠の技や叡智を知る唯一の人間になってしまった…」
「……伝えよう、とは思わんのか？ その〝技〟や〝叡智〟を」
「そう…ですね。私の目的の一つは終わりました。後一つ目的を終えたら私は自由だ。それも有りかもしれませんね」
「そうかそうか。少しは前向きになれたようじゃのぅ」
「…そんなにわかりやすかったですかね？」
「まぁな。追い詰められとるような顔をずっとしとったぞい。今は幾分かマシじゃな。教える、という事は自分を見つめ直す事にも繋がる。お主には丁度ええじゃろ」
「そうですね。私も教える事を約束した子達がいるので、そちらにしばらくは力を注ぎましょう」
「…羨ましいの〜。其奴らが。〝あの４人〟じゃろ？ 奴等は確かに才能溢れとるからのぅ。わからんでもないがな……。相談じゃが、ワシもそこにちょいちょいお邪魔してもえぇかのう？」
「えっ…いやそれは、会長…」
「何、ちぃ〜っと手合わせしてくれるだけで十分じゃ！ ハンター協会とは別口じゃからセーフじゃろ！ 老い先短いジジイの最後の頼みとして聞いてはもらえんかのぅ…」
「えぇ…」
何言い出すかと思えばこのジイサンは…この流れを狙ってやがったな！ さっきのいい流れが台無しだよ！ …でもまぁこの人には出来るだけ死んでほしくないしなぁ…。まいったなぁ。
「…しょうがない「ちょっと待った！！！」なぁ…って、ジンさん！ 操縦は！？」
「オートマにして来たぜ！ 着陸までは大丈夫だ！ 後、ジジイ！ テメェ、オレに不干渉っつっといて自分だけちゃっかりずりぃぞ！！」
「ワシはいーの！ それにまだライセンス発行しとらんからセーフじゃ！」
「ふざけんな！ だったらオレだってセーフだろ！ な？ そうだろ！？」
「……組織的に無理強いされるのは協定違反だし絶対ごめんですが、個人的に気に入った人にだったらまぁ…。ただし、対価は貰いますよ？」
「ワシは会長の特権をフル活用してお主に
「あ、汚ねぇ！ じゃあオレは…あ、金ならあるぜ！」
「此奴、仮にも『アンダーソン』じゃから金はいっぱいあると思うぞ」
「マジか…。お宝は…暗黒大陸帰りだからオレよりいいの持ってそうだなぁ…。なんてこった…。どうすりゃいいんだ…？」
「……ジンさんは、そう言えばゲーム作ってましたね。念能力者御用達の奴。アレを前払いでいいですよ。何本か。後、ジンさんの話も聞きたいなぁ」
「それでいいのか！？ すぐ都合つけるぜ！ 約束は守れよ！」
「ただ…お二人みたいな熟練の能力者にはそれこそ手合わせぐらいしかしませんが…それでもいいですね？」
「大丈夫だ！ 問題ねぇ！ どんなもんか分かるだけでも儲けもんだしな！」
「ワシも一向に構わん！ いやはや、長生きするもんじゃな」
「しかし、ジンさん…あんたゴン君に会っちゃいますけど、大丈夫ですか？」
「あ……。忘れてた…。それもどうすっかな…。探させてんのにこっちから会いに行くのもな…」
「なんかいい方法考えといてくださいね。まぁ親子の事は私には言えないから任せますけど」
「そう言えばお主、先程も言っとったがなんかあったのかの？」
「いえね…。昔〝向こう〟に行く前にとある奥地で怪物退治したら、被害に遭ってた部族の人達から御礼にその…ね。若気の至りでしたよ…。で、今になって調べてみたら…」
「子孫が繁栄しとった…と。お主…中々やりよるのぅ。お主とはいい酒が呑めそうじゃ」
「オレの事全然言えねーじゃねーか！ …まぁ少数部族はそうして多様性を増やす面もあるから一概には言えねぇけどな…。で、どうなった？」
「危うく『神』に祀られそうになりましたよ…。最大の支援を約束して何とか逃げ出しましたけどね！」
「ブハハハハハ！！ おもしれ〜なーオメー！ 気に入ったぜ！！ 話を聞かせてくれるだけでもいいわ！」
「あ、それワシも聞きたい」
「もう…ホントにアンタ達は…。ま、いいか。その代わり協定は守ってくださいね。後、この話は最上級極秘指定にしてください」
「おぅ。任せい。こんなにワクワクすんのは何年ぶりじゃろな！」
「オレも手を貸すぜ。とりあえず電脳ページからは辿れねぇ様にはしといてやるぜ」
「助かりますよ…そっちには疎くてね。ではまず、はじめの出発の時からいきましょうか…」
その後、私の能力はぼかしつつ、これまでの経緯を掻い摘んで２人に語った。迷宮都市突入や、その後帰れなくなって沿岸を彷徨った事、出会った怪物の話、異世界に行った事、聖光気を会得した事、そして…世界樹に到達して帰還できた事…。私はドンさん程話は上手くないが、それでも２人は目をキラキラさせながら聴き入っていた。いい歳してるのに少年みたいな反応だな。
ドンさんが言ってた事が何となく分かる様な気がした。怪物との闘いの事では、２人ともドン引きしていたが。
「…オメー良く生きてたな。フツー死んでるぞ」
「ホントにな…ワシは気持ちは分かるが真似は出来んぞ…。そりゃトラウマにもなるわいな」
「同じ事ドンさんに言われましたよ…。私も強くなる必要があったとは言え、正面突破しすぎたなーって…」
「そういや、〝作者〟は今何してんだ？」
「あぁ、多分西側の残りを探索中ですよ。今は
「愉快な仲間達とは…」
「私を運んだ大鷲と、世界樹のドラゴンですよ。
「〜〜〜〜！！ なんだなんだ！ その楽しそうな旅は！！！」
「ほんになぁ。ワシももうちょい若けりゃ着いて行きたいのぅ…」
「…アンタら話聞いてました？ 私はあそこのヤバさを存分に伝えた筈ですが？」
「それで怯むようならハンターしてねぇぜ！ なぁジジイ！」
「然り。ワシゃ武人としてじゃがの。しかし、１人のハンターとしても興味があるのぅ」
「全く…。ドンさんの言った通りですね。本当に度し難い。……まぁそれこそが〝人間〟って奴なんでしょうね」
「オレにとっては明確な〝目標〟が見えたからな。感謝するぜ、ジジイ」
「そういえば、何故ジンさんだったんです？ てっきりビスケさん辺りと思ったんですが」
「何、此奴も止めようが何しようが暗黒大陸にそのうち行くじゃろ。此奴は簡単には死なんと思うが、その前に目標ぐらいは見せとこうと思っての。後、ビスケは暴走しそうじゃったからな」
「ははぁ…ビスケさん、怒りそう。……ま、いっか」
「そうそう、人間、開き直りが大事じゃよ」
「アンタが言うな！ 後始末ぐらいはしてくださいね。私も必ず連絡するって言ってんだから、上手く誤魔化さなきゃなぁ」
「簡単じゃよ。アイツも〝こっち〟に引きずり込めばええんじゃ。ま、任せい」
「不安しか無いんですけど…お願いしますよ」
「じゃあコレがオレの連絡先だ。とりあえず方法考えてまた連絡するぜ」
「わかりました。私のはコレです。待ってますよ」
その後、ネテロ会長とも連絡先を交換している内に飛行船が到着場所に近くなったみたいで、ジンさんは慌てて操縦室に帰っていった。飛行船は無事に最終試験場のホテルにまた停泊し、我々は会長に案内されてホテルの講習会を聞いたところに向かった。
途中、会長はビーンズさんに会い、〝何か〟を受け取った後、私にそれをよこしてきた。
「これが、シングルハンターライセンスの〝更新〟された物じゃ。機能は一般的な物と変わらんが、意匠が若干違っておる。所謂〝レアモノ〟じゃな。売ったら高そうじゃの〜」
「…ありがとうございます。普通ので良かったのですが…まぁ有り難く受け取っておきますよ」
「ま、大した違いは無いからの。んで、これからお主はどうするんじゃ？」
「そうですね…もう遅いですし、どっかで一泊してから次の場所へ向かいます」
「そうか。ならここに泊まるがよい。ここはハンター協会所有のホテルじゃしの。融通が利くわい」
「今日は泊まりか。だったら呑みに行こうぜ！ ジジイ、この辺いい場所あるか？」
「そうじゃな…。近場だと完全個室の料亭があるぞい。密談には最適でワシも良く使っとる。じゃ、
「おいジジイ…仕事はいいのかよ。仮にも責任者だろ？」
「な〜に、ほとんど終わっとるわい。後はビーンズがやってくれるわ」
「全く…ビーンズの奴過労死すんじゃねぇか？」
「ビーンズさん…哀れな…」
「ワシを何じゃと思っとるんじゃ！ 後はちょっとした事務処理じゃし大丈夫じゃて。誰かと呑むのは久しぶりじゃの〜」
「駄目だこりゃ。完全に行く気満々だ。まぁ楽しいからいっか」
「私も飲み会は久しぶりですね。……楽しみです」
◆
そして、私達は料亭に向かい、夜がふけるまで飲み明かした。
３人で様々な事を語り合った。お互い笑い合って、愚痴り合って、夢について語り合った。くだらない話でも盛り上がり、話題は尽きなかった。
久しぶりに楽しく過ごす事が出来た。こういうのっていいな。お互いを尊重し、認め合う。私は少し視野が窮屈になっていたようだ。〝人間〟、余裕も大事だ。
また、近いうちにこの２人にも付き合って貰おう。
これからの長い人生、私も楽しまなければ。