アンブレイカブルハンター   作:エアロダイナミクス

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77、バイト兼修行

 

 

 

「これからいよいよバイトを行う。その前に、皆に紹介しておこう。ダブルハンターのビスケット=クルーガーさんだ。彼女はこう見えても熟練の念能力者で、君達への指導には最適な方だ。これからは彼女と私が共同で修行にあたるから、よろしく頼む。ビスケさん、自己紹介をどうぞ」

 

「今、カームさんから紹介がありましたが、ビスケット=クルーガーです。カームさんとは以前から親しくさせていただいたので、この度呼んでいただきました。みなさん、どうぞよろしくお願いしますね」

 

 

 

 早朝5時。いつもの様に全員起きてストレッチを始める前に、皆にビスケの顔合わせをした。皆一様にビックリしていたが、見た目は完全にか弱い女の子だからな。レオリオは「また幼女か…」と呟いていたが、そんな認識だと後々えらい目に合うぞ。

 また、カルトが若干警戒気味だが、ビスケも対抗して威嚇する様な目線を送っている。……気持ちは分かるが、何の為に呼んだか分からなくなるので仲良くしてほしい。しばらくはフォローが必要か…?

 その後、ビスケにはゴンを中心に質問攻めにあっていたが、上手くいなしていた。キルアに年齢を聞かれた時には若干イラっとしている様に見えたが、秘密という事で押し通していた。…確か彼女の年齢は……。いや、いかんな。女性の歳を考えるなぞ、1番やってはいけない事だ。後でキルアにはお説教だな。その前にゴンに怒られてるけど。ゴンさんはその辺私より紳士だからありがたいな。

 

 

 今日からバイトを行うが、その前に彼等の念の練度をビスケにも見てもらう事にする。習得してから約1週間。果たしてどの様な評価をするかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……カームさん。このコ達、本当に目覚めてから1週間でここまで?」

 

「えぇ。皆、素晴らしい才能の塊ですよ。私もあまりの早さに戸惑っています。カルトは元から《発》まで至っていましたが、まだ10歳ですからね。相当なものです」

 

「いえ、確かに才能は凄まじいとは思いますが…よくぞ1週間でここまで出来ましたね」

 

「この1週間は修行オンリーでしたからね。彼等は条件が揃えば最高のパフォーマンスを返してくれますよ。だからこそ、期待出来る。これからバイトがてら修行を行いますが、打ち合わせ通りに行きますのでよろしくお願いします」

 

「わかりました。本当に楽しみなコ達ですわね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、今日はこれからいよいよバイトを始める。朝食は用意して貰って向こうで食べる事になるから心配ない。私が皆の分を持っていくからな。始める前に、ちょっと特殊な『負荷』をかける。ゴン、クラピカ、レオリオは経験済みだな。キルア、カルト。今から私がやる事は守秘義務がある。守れるか?」

 

 

 経験したゴン達がゲッという表情になる。

 

 

「…何するかわからねーけど、ここにいる以外の誰にも言わなきゃいーんだろ? オレは大丈夫だぜ」

 

「ボクも、絶対…言わないよ」

 

「まぁ、君達を信用するとしよう。では、始めるぞ」

 

 

 

 ズズズズ…

 

 

「「!!?」」

 

 

 始めた瞬間、2人は同時に私から距離を取る。反応が同じで面白い。しかし、私もこの威圧感が出てしまうのはまだまだだな…。他のメンバーも離れはしなかったが、驚愕の表情だ。

 

 

 

「これは…《念》を覚えたからこそ分かる…。また〝別物〟だ!!」

 

「久しぶりに見たが、威圧感が半端ねーな…。どうなってやがるんだ?」

 

「カーム…。〝コレ〟は、一体何なんだ? また念能力とは違う様だが…」

 

 

 ビスケも口を挟む。

 

 

「コレが…〝聖光気〟! 古より伝わる伝説の闘気! コレは凄まじいわね…。あんた達! こんなモノは滅多に見れないからしっかり見とくんだわさ!」

 

 

 ビスケも興奮していたからか、口調に地が出てるぞ。まぁ別に知ってるからいいんだが。

 

 

「ビスケさんが言った通り、コレは念能力の先にある特別なものだ。ただ、習得難度は凄まじく高い。念能力を極めた先のものだからな。君達はまず、念能力を鍛える段階だからとりあえず気にしなくていい。コレがなくとも十分超人になれるからな。では、行くぞ」

 

 

 

 ズゥン…

 

 

 

「ぐっ…」

 

「久しぶりだけど、やっぱりキツい…。でも前よりマシかな?」

 

「あぁ、また始まるのか…」

 

 

 

「なんだこりゃ!? 身体が急に超重くなったぞ!」

 

「………!」

 

 

 

「カームさん…これが?」

 

「えぇ。彼等の身体だけ()()()()()をかけました。キルア、カルト。聞いての通りだ。これから基本的に修行時はこの重力下で行う。最初は3倍から慣らしていく。まずは慣れる事だ。ではバイト先に行くぞ。朝食の時間が遅くなるからな」

 

 

 

 

 そう言ってそのまま走らせる。キルアとカルトは四苦八苦しながらも走り出すが、しばらくすると慣れだしたのか、フォームが安定してきた。ゴン達などは3倍を経験しているから慣れたものだ。3倍ならこんなもんだろう。純粋に体重が3倍になるだけだからな。それに、だからこそこれまで沢山走らせたわけだ。さて…7時半までに着けばまぁ合格点かな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〝聖光気〟!? そんなものがあるなんて…。あんなに簡単に重力を複数に付与できるなんて信じられない。それに、まだまだ様々な事ができそう…。最早アレは人間の理を超えたものだ。まさに無敵の能力、と言っていい。多分ウチのアルカさえも凌駕するほどの…。 …僕は本当に幸運だ。その概要がわかるだけでも凄まじいリターン! この人は、絶対に逃せない!

 ただ、あのビスケットとかいう()()()()()も彼を狙ってるみたいだ。僕には分かる。そして、アレは絶対に年齢詐欺だ。だったら僕の方が有利だ。絶対に彼に気に入られる様に頑張らなくちゃ。まずはこの重力修行をクリアして、僕自身も鍛えていこう。誰にも負けないぐらいに…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これが、〝聖光気〟…。アタシは本当にラッキーね! こんなもの、一生に一度もお目にかかれるモノじゃない。ジジイすら完敗したってのも納得だわさ。さっきは思わず素が出ちゃったけど、気をつけなきゃね…。彼は正に〝至高の存在〟! 彼本人が何よりも価値のある究極の宝石みたいなもの! 本当に出会えた運命に感謝すべきね。これは天から与えられたチャンス。絶対にモノにするわ!

 弟子の女の子ってのも心配してたけど、あんなチンチクリンとは思わなかったわ。一丁前に彼を狙ってるみたいだけど、ここはアタシの大人の魅力で攻めるべきね。ふふふ…。まだまだガキんちょには負けないわよ。覚悟することね…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 走っている時、ビスケさんとカルトから不穏な空気が漂っていた。…何やら悪いことを考えている様だ。まぁ考えるだけなら別に構わないので放置しておこう。さて、ペースを落として走っているが、皆頑張って付いてきている様だ。

 3倍マラソンは結局慣れだ。如何に肉体を操作して適応していくかが鍵になる。そして、適応する中で自然と筋力やその他身体能力のアップに繋がる。元の世界では潰れるだろうが、ここは念能力のあるハンター世界だ。鍛えれば鍛えただけ、凄まじい強さになっていく。もちろん上限はあるだろうが、彼等は1000万人に1人クラスの才能を持つ者だ。どこまで伸びるか想像もつかない。本当に…楽しみだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 驚くべき事に、2時間で到着した。うん…。ちょっと彼等の事をナメてたな。ビスケも驚いている。いくら慣れた道とは言え、3倍の重力下だぞ? 帰りはもっとペースアップしても良さそうだな。

 まずは朝食だ。監督に挨拶に行き、場所を貸してもらう。現場はこの1週間でかなり設備が整っていた。他の作業員と共に持参したサンドイッチと紅茶をいただく。食後に軽くストレッチをした後、いよいよ修行兼バイトの始まりだ。

 

 

 それぞれにスコップと猫車を支給する。脚立も用意した。

 

 

「さて。準備が出来たな。バイトとは、トンネル工事だ。君達にはこれからこの山を掘り抜いてもらう。とりあえず、午前中いっぱいやって貰おう。ああ、ちゃんと高さや広さも確保してもらうからな。高さは5メートル。幅は15メートル、長さは約20キロ、ってところかな」

 

「おいおいおい…。トンネルって…マジモンのトンネルかよ!」

 

「そりゃそうさ。じゃないとバイトにならんからな。とりあえず人力で掘りまくってもらう。遅れるとバイト代出ないぞ。方向とか場所は監督が指示してくれるからな。さぁ、頑張れ。あと、昼までに10メートルいかなかったら飯抜きね」

 

「くそぅ…やるしかねぇか…」

 

「思った以上にキツそうだな…しかも3倍重力はそのままか…」

 

「みんな、とにかくやってこう! お昼抜きはキツいよ!」

 

「ボクもか…」

 

 

 

 さぁて。我々はどうしようかな。

 

 

 

「あの…カームさん。もしよろしければ、私とあっちで組み手をしませんか?」

 

「…ほう。いいですね。昼までヒマになりますから願ってもない事です。流々舞でいいですか?」

 

「えぇ。是非。私も教えるとなったらサビ落とししなきゃですからね。お手柔らかにお願いします」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐっ…キツいな…3倍の重力って奴は…」

 

「ホントに全身の筋肉が鍛えられるね…」

 

「レオリオ、大丈夫か?」

 

「…大丈夫なように見えるか? だが、昼飯抜きはごめんだからやるしかねーぜ…」

 

(あのオバちゃん…想像以上にできる! 僕ですら動きが見えない…! 参ったな…。こんな絶望的なぐらい差があるなんて…。仕方ない。僕も1から鍛え直さなきゃ。せめてアレぐらいになれるように…!)

 

「おい! カルト! 土砂運びにいつまでかかってんだ! ボーっとしてないで手を動かせ…って、早! いきなりどうした!?」

 

「兄さん、ボヤボヤしてる暇無いよ! 頑張って掘っちゃおう! それに…コレはオーラを上手く使う訓練でもあるからね」

 

「何…?」

 

「! 皆、スコップを良く見てみろ!」

 

「あっ…カルトのスコップがオーラに覆われてる! そうか…! そうすればスコップの()()()()()()()()()!」

 

「やってみるか…………できた。よし、これなら効率が上がるな」

 

「お前らアホか! 何でそんなすぐできんだよ!」

 

「レオリオは岩運びをお願い! これからいっぱい出てくるからね!」

 

「チッ。しゃあねぇ、オレも足腰腕にオーラ集めて運ぶか…」

 

 

 

 

 おっ。気づいたな。カルトもいるし当然か。カルトは途中までこっそり覗いてたが、今はガムシャラに励んでいる。だが、調子に乗ってるとスグにガス欠になるぞー。ま、それもまた訓練だな。しかし、ビスケさんは強いな。私もあまり気を抜けない攻撃が来る。極限まで鍛え抜かれた技か…流派が違うとまたこうも面白くなるとはな。私も刺激になる。多分まだまだ彼女の力はこんなもんじゃない筈だが、サビ落としだからかな? まぁ、楽しいからいいか!

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァッ、ハァッ…やりますわね…。流石ですわ…。殺す気で行ったんですけどね」

 

 

 一通りの攻防(3時間)を終えてビスケさんが呟く。

 

 

「いえいえ、ビスケさんも()()()()()()()()でしょう? 流石ですね。素晴らしいポテンシャルです」

 

「! 参ったわね…そこまで分かりますか」

 

「まぁそれぐらいは。今度是非見せてほしいものです」

 

「それは…またの機会に…。それよりも、私のことはビスケ、と呼び捨てにしてくださいまし。口調もラフで結構ですわ。私達は指導仲間、でしょう?」

 

「確かにそうですね…では、ビスケ。これでいいかい? そのかわり君も合わせてくれ。なんだか気恥ずかしいからな」

 

「わかりま…わかったわ。カーム。これからよろしく」

 

「ふふふ…まだ慣れないから恥ずかしいな。慣れる様にしていかないとな」

 

「えぇ、そうね。ふふふ。一緒に慣れていかなくちゃね」

 

 

 ゴゴゴゴゴ…

 

 

 むっ! 近づいてくる気配! これは…

 

 

 

()()()()()()掘り終わった。お昼の時間だよ」

 

 

 

 流石は暗殺者。気配の消し方が上手い。しかも、オーラをほぼ使い果たして疲労の極限にあるのにこれか…。やるな。ついでに妙な威圧感もあるが…

 

 

「あらあら、お子ちゃまはお腹がペコペコなのかしら。私たちの会話に割り込むなんて随分とせっかちね」

 

「昼食の時間を忘れるなんて、もうボケが始まってる? やっぱり高齢者か」

 

「あんですって!?」

 

 

 2人の間に不穏な空気が流れる。…はぁ。参ったな。

 

 

「あのね。訓練時にバチバチやるのはいいが、2人ともこんな時に挑発しない。あんまり酷いと2人とも夕食のデザート抜きにするぞ」

 

 

「あら、これは親しみを込めた軽い挨拶ですわ。ね? カルトちゃん!」

 

「これは仲のいい会話の一つだよ。誤解しないでね、カーム」

 

 

 

 この変わり身の速さ! 全く…絶対にそんな挨拶や会話じゃ無かったろ。これだから女子は難しい。…ちょっと不安になってきた。まぁ、大丈夫だと信じよう。

 

 

「それはそうと、カルト。男連中はどうした?」

 

「あぁ。兄さん達は入り口で疲労困憊で倒れて寝てるよ」

 

 

 

 やっぱりな。それが普通の反応だ。カルトはよく保ったな。念能力経験者の意地を見せたか。

 とりあえず彼等を迎えに行って叩き起こし、昼食の時間とする。本当に15メートル行ってるな。流石だ。昼は現場カレーだ。こういう所で食べるカレーって妙に美味いよな。ゾンビみたいな彼等もカレーには勝てなかったらしい。かなりお代わりしてモリモリ食べてた。彼等を労いつつ、私も美味しく頂いた。

 

 

 昼食後は1時間の休憩だ。具体的にはお昼寝の時間だ。流石にこの時は重力は解除してやろう。そして…いよいよビスケのターン!

 ビスケの【魔法美容師(マジカルエステ)】のクッキィちゃんだ。その中の特殊能力、まじかるエステの【桃色吐息(ピアノマッサージ)】!

 これは睡眠時間30分で8時間分相当の休息効果が得られるという、超絶チート能力だ。ビスケとの打ち合わせで決めた事で、彼女も惜しみなく使ってくれる事になった。

 うん…。やっぱりどう考えても凄まじいチート技だと思う。これで修行が捗るよ! やったねゴンちゃん!

 とりあえずゆっくりと休んで、次の修行を頑張ってくれ。次も厳しいからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1時間後。時刻は午後1時。皆完全に回復している事に驚いていたが、すかさず3倍の重力をかける。これからも引き続きバイトを続ける。この訓練は全身の筋力、持久力、精神力、オーラの総量を引き上げる効果とそれを操る技術力が向上する訓練だ。そして更に3倍重力で倍率ドン! だ。これを2週間続けたら基礎能力はバカみたいに上がる筈だ。これが第一段階。まずは耐えて頂きたい。カルトも基礎力を見直すいい機会だろう。慣れてきたら徐々に重力もアップしていくからな。お楽しみに。

 我々は午後は監視と組み手だ。ビスケも重力をかけて欲しいと言ったので、彼女には5倍をかけた。私も自分にかけたいんだが、重力適応しちゃったから無理なんだよな…。まぁ、肉体はこれ以上は鍛えられないからしょうがない。

 ビスケも人間としては極まった強さなんだが、更に強くなる事に貪欲だ。だからこそのこの強さなんだろうが。私も自身の修行を頑張らねばな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼等のバイトも午後5時で終え、バイト代を監督から受け取る。本日の成果は合計50メートル。中々のスピードだ。それぞれが大体80000ジェニーぐらいのバイト代だ。時給に換算すると約12000ジェニー。破格のバイトだ。ちなみに滞在費は差っ引いてこれだ。まぁ全て人力にも関わらず、進み方が異常だからな。危険だし妥当な金額だ。今回は崩落しそうな時は私が物質錬成などで対応するから全く危険は無いが。

 

 

 さて…皆疲れている所だろうが、これから容赦なくマラソンだ。早く帰らないとメシ抜きだからな。

 

 

 

 

 

 午後8時。皆ギリギリで食事に間に合った。流石に疲れた様だ。今日の夕食はスキヤキだ。案の定肉の争奪戦が勃発した。結局全員で10キロ分ぐらい食べたな。良く食べて成長してくれ。

 食後の軽いデザートを食べた後、皆撃沈していた。ゴンなんかはテーブルで寝始めたので、部屋に放り込んでおいた。まぁ最初だからしょうがないが、明日からはこの後《点》の瞑想を入れるからな。レオリオに関しては勉強時間の確保はクッキィちゃんで捻出してもらう。まぁ明日からだな。本当にビスケの能力はチートだ。

 さてさて、2週間後が楽しみだな。早く次の段階に行きたいものだが、焦るのも良くないからじっくり見極めてからやっていこう。




追記
バイト代、もうちょい上げました!
天空闘技場だともっとバカみたいに稼げるからなぁ。
後、肉ももっと食えるか、と増やしております。サイヤ人並み。

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