アンブレイカブルハンター   作:エアロダイナミクス

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79、系統別修行と会長の来訪

 

 

 いよいよ流々舞に取り掛かる。彼等もかなり念の使用に熟練してきたからだ。《周》はもちろんの事、ゴンが《硬》も発見出来たし、それが全員出来る様になったため、基本は身に付いたと判断した。

 この修行はオーラの攻防力移動の訓練であり、《流》と呼ばれる技術だ。これをしっかり身につけてから系統別修行に移行する。

 基本的には全員トンネル掘りだが、30分交代で2人抜けてローテーションする。その際、重力は解除してある。5人だとその内メンバーが変わるが、それがまた良いだろう。同じ相手ばかりだと相手の癖が分かってしまい、なぁなぁになりやすいからだ。スピードアップには良いが、より実戦的な緊張感をもってやってもらいたい。

 初めは当然ゆっくりだ。それでいい。これは2週間もすれば徐々に慣れていくだろう。流々舞をある程度出来る様になったら私やビスケとの手合わせだ。フェイント等の応酬も取り入れていくからカナリの戦闘経験が積める筈だ。だが、実戦はまた別だからなぁ。そこをどうしていくかが今の所課題だ。私も上手い事そこを訓練出来る様に色々と準備しなければ。

 

 我々もその間遊んでるわけではなく、ビスケとの手合わせや、修行内容の打ち合わせ、バイトについての打ち合わせなど、様々な活動を行なっている。

 ところで、ビスケは頑なに全力を出したがらないが、私は気にしないのになぁ。今度彼女にそう言って全力を見せてもらおうと思う。多分人類最強レベルの肉体性能だと思うんだけどな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、2週間が経った。流々舞もかなりのスピードで行えるようになり、私やビスケも相手になっている。トンネル掘りも順調で、重力も既に7倍まで上がって、更に低酸素化状態にまでなっている。高山トレーニングみたいなものだ。ちなみにコレは周囲を真空状態にしてくる敵から貰ったものだ。【自己貪食(オートファジー)】が大活躍した場面だった。

 それでもめげずに全員訓練を真面目に続けている。おかげでそろそろ下位ハンターでは既に基礎能力で敵う者はいないだろう。もうゾルディックの門も3から5ぐらい迄は開けられるんじゃないかな?

 

 

 休日は街に繰り出したり、湖で水遊びしたり、キャンプしたり、私が山の一角に掘り当てた温泉でのんびりしたりと、様々な遊びを楽しんだ。

 湖では当然水着だ。私含む野郎共は、トランクスタイプの水着で特に描写すべき所は無い。ただ、ビスケとカルトは、ビスケがフリルの着いたビキニで、カルトが黒のワンピースタイプの水着だった事は言っておく。ゴンさんと私でとても似合ってると褒めたら喜んでいた。私も調子に乗って岩の洞窟とかスライダーとか作って遊んだし、中々楽しかった。まぁ、その内水中訓練もやるから、今のうちに楽しんでおいて欲しい。

 温泉は寮近くの山で発見したので、早速私が隙間時間に簡単に工事した。どうせ我々しか使わないし。と思ったら使用人も使い出して、瞬く間に整備された。男女別と、水着で入る混浴が設置され、修行後や仕事後のひとっ風呂によく活用される様になった。

 クラピカは相変わらず遊びにはあんまり興味を示さず、独自に調査したり、1人で《点》をしたりしていた。余計なお世話かもしれないが、私から「気持ちは分かるが、緩急も大事だし、遊びの中で生まれる発想もある。視野を広く持つ事は重要だ」と説いてからは彼なりに2週間に一回は休日を設ける様になった。

 レオリオは夜遊びにハマっている様だ。変な病気とか貰って来ないといいが。まぁ本人が医者志望だし大丈夫かな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、第三段階目だ。系統別修行に取り掛かろう。彼等も午前中に300メートル以上掘れる様になってきているし、午後は修行に充てられる。また、走りも速くなって、その分を修行できる様になった。トンネルもあんまり掘りすぎると後続の作業員の整備が追いつかないからな。その後、《発》の開発をそれぞれ行なってもらう。カルトの場合はある程度出来てるから、系統別修行をみっちりやってもらう。

 まずは例によって座学。系統別の修行について簡単な概要を伝える。見事に全員系統が違っていたからとりあえず全部伝えとかないとややこしい。で、私とビスケで実演する。基本的には昔やった修行でOKらしい。ただ、中には変なのとか難し過ぎるのがあったらしく、ビスケも打ち合わせ時に呆れていた。

 とりあえず今日は全員レベル1からだ。カルト辺りは5までぐらいは行けそうだが。

 

 ゴンはトンネルから出た岩の塊を使って石割り。キルアは数字を変化させるやつ。クラピカはお猪口を具現化(物質化)して水汲み。レオリオはオーラの弾飛ばし。カルトは物質操作(煙)からスタートだ。初心者組は慣れないだろうから苦戦していたが、カルトは案の定レベル5までできた。

 これをそれぞれ日によってローテーションしていく事を続けていく。また、他にも午後に水中訓練や水に浮いた竹に乗る訓練、複数の木の杭の上でバランス感覚を養う修行など、様々な訓練を課した。カキンで私がやったやつだ。この上で移動しながら流々舞が出来れば上出来だ。

 また、寝る時にビスケ考案の瞬時に敵を察知する訓練も行なっている。屋外で座りながら頭上にある石が落ちない様にロープで持って寝る訓練だ。確かに睡眠時が1番狙われやすいから理にかなっている。これはゴンとレオリオが苦戦したが、1ヶ月で慣れた様だ。屋外だけでなく、屋内で寝てる時に襲撃しようとしても察知出来る様になった。順調だな。現在4月15日。これでほぼ基礎訓練は出尽くした。そろそろ《発》に取り掛かっても良いだろう。

 

 

 

 

 そう思っていたら、その日の夜遅くにネテロ会長が訪問してきた。

 

 

 

 

 

「や、元気かの? しっかりやっとる様じゃのぅ」

 

「お久しぶりですね、会長。中々来ないからお忙しいかと思ってましたよ」

 

「そこはすまんかったな。中々ワシも時間が取れんでな、漸くまとまって来れる様になったわい」

 

「どれぐらいですか?」

 

「3日、じゃの。すまんがその間こちらで世話になるぞい」

 

「連絡は受けてましたからね。滞在費はいただきますが、ごゆっくりなさってください。今回は()()()ですか?」

 

「あぁ。()()()はどう足掻いてもバレそうじゃから別の方法で接触したいそうじゃ。また連絡が来るじゃろ」

 

「なるほど。分かりました。とりあえずどうしますか?」

 

「まずはお主の訓練を見せて頂きたいのぅ。弟子の出来もな。ビスケも来とる様じゃし。その後お主と手合わせ願いたい。今日は夜も遅いし明日じゃな」

 

「ではこちらへ。一杯やりながら話しませんか?」

 

「ウム。ありがたい。馳走になるぞ」

 

 

 

 …ビスケにも知らせてはいたが、後で挨拶に行くとの事だった。いいのかなぁ。しかし、いいタイミングで来てくれたものだ。弟子の刺激にもなるだろう。明日が楽しみだ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トントン

 

 

「ん? カームか? どうぞ」

 

「お休み中失礼するわね…ジジイ」

 

「ゲッ、ビスケ…久しぶりじゃのう」

 

「ゲッ、じゃないわよさ。全く。まだアタシを呼ばなかった事は忘れてないんだからね」

 

「あん時も謝ったじゃろう? それにこの状況はお主にとっては結果オーライだと思うが?」

 

「もうそれはいいわさ。んな事よりも、これからの事よ。アタシの邪魔をするならいくらジジイでも許さないからね」

 

「……なんじゃ。お主、本気で狙っとるんか? お主もいい歳じゃろう」

 

「いい歳じゃろう、は余計だわよ! いくらジジイでも怒るわよ!」

 

「もう怒っとるじゃろがい……分かった分かった、分かったからデカくなるのやめい。ワシ、邪魔せん。誓うわい」

 

「フン。全く…。それにしてもよく時間取れたわね」

 

「まぁの。うまい事調整できたわい。パリストン辺りをかわすのがちと面倒じゃったがな」

 

「あんなのをよく副会長にしようと思うわね…。アタシにはムリだわさ。生理的に」

 

「だからこそ面白いんじゃがの〜。ま、お主にも後50年すりゃあわかる」

 

「それこそ分かりたくも無いわね。50年後とか想像もつかないからパス」

 

「……真面目な話じゃが、アヤツと共に行く気ならその辺もなんとかせにゃならんぞ?」

 

「……わかってるわさ。そのぐらい。そこはこれから考えないとね」

 

「まさかのノープランか! お主も本当に欲望に忠実じゃのう」

 

「うるさいわね…。それがハンターってもんでしょ」

 

「違いない。ま、上手くいくかわからんが応援しとるぞい」

 

「一応激励として受け取っておくわさ」

 

 

 

 ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよう。皆。今日はネテロ会長がお忍びで来てくれたよ」

 

 

 朝の5時に会長を皆に紹介する。当然だが皆ビックリしていた。ビスケはしれっとしてるから挨拶は済ませたのかな? とりあえず毎朝恒例の重力&酸素低下を施す。今度は会長が「そんな事も出来るのか…」と驚いていた。

 

 

 

 

 朝のランニング後、ストレッチを一通り終え、穴掘りに取り掛かる。

 彼等の様子を会長は難しそうな顔で見ていた。昼飯を食べて休憩後、午後の修行に移る。30分交代のローテーションで流々舞を行う。もちろん私もビスケも入ってだ。ネテロ会長は最初呆れて見ていたが、その内弟子たちの訓練にも参加し、1人ずつ交代で流々舞を付き合ってくれた。当然全員ボコボコになったが、あの会長とやればそりゃそうなるわな。だが、彼等にとって貴重な体験だったろう。

 その後、系統別訓練を行って、いい感じで疲れたらバランス訓練だ。木の杭でやるやつだ。ここで3人ずつ入って三つ巴の流々舞を行う。この訓練が得意なのはゴンとキルアとカルトだ。次点でクラピカ。レオリオはまぁ…ようやく落ちなくなってきたから進歩した方だろう。

 次は水面に浮かぶ竹に乗るやつ。これは流石にまだ皆難しいらしい。キルアとカルトがちょっとだけ乗れる様になってきたぐらいだ。まだまだ落ちるが。

 

 見本の為に私とビスケも隣で別々の竹に乗っているが、バランス感覚の極みみたいなものだし、一朝一夕でできる様なもんじゃ無いからなぁ。むしろ出来るビスケは流石だ。会長は面白がってまた別の竹に乗り、私に流々舞を仕掛けてきたが、私も対応した。それを見て、今度はビスケが呆れていた。

 

 弟子達が水に落ちて濡れたついでに、着替えて水中訓練だ。重力、酸素低下を再びかけつつ、湖を往復する。大体2キロ。地上よりも遥かにハードだが、皆頑張って泳ぎきった。うむ。素晴らしいな。満足気に見てると、会長が話しかけてきた。

 

 

 

「のぅ、カームよ。あやつらは本当に3ヶ月前まで念を知らなかったんじゃよな?」

 

「えぇ。本当に素晴らしい才能ですよね」

 

「……おっそろしい伸び方じゃな。新人どころか、普通に全員オーラ量が中堅ハンター手前ぐらいあるぞ? あの娘っ子なぞ、上位ハンターと遜色ないしの」

 

「彼等の才能に、うまい食事と適度な運動とビスケさんの能力のおかげですよ。ありがたい事に信じられないぐらい伸びましたね」

 

「お主の重力と酸素低下もな。そう考えると此奴らは幸運じゃな。こんだけ伸びた例は見た事ないからな。時に、《発》をまだやっとらんのはアンダーソン式か?」

 

「いえ、どちらかといえばこれは私の方針ですね。急激に成長した分、能力は自分の資質をしっかり見極めた上で作ってほしいと思いまして。メモリの無駄遣いや必要ない誓約とかをつけない為にもね。能力の選択をミスって勿体無い事にならない様にしたくて」

 

「…そういう考え方もある、か。理にはかなっとるが、そう簡単にいかんのが現実じゃ。それも含め、彼らは幸運じゃの…。さて、そろそろよいか?」

 

「えぇ。いいでしょう。やりますか。では勝負方式はどうします?」

 

「そうじゃなぁ。お主がワシの身体に打撃を入れたら終了、でお願いしようかの」

 

「面白そうですね。弟子達にも見せますが構いませんか?」

 

「無論、こちらがお願いしとる立場じゃしな。あまり吹聴せんでもらえると助かるが」

 

「承りました。…皆! 聞いての通りだ。これから私とネテロ会長の手合わせを行う。よって、ここで見た事は守秘義務が発生する。自信がないと思う者は今すぐ寮に戻れ。…………うん。大丈夫か。君達にとっても念での戦闘を見るいいチャンスだ。脳裏に焼き付けておくといい。皆の《発》のヒントにもなるだろうしな」

 

「……ならないと思いますわ。まぁいいですけど。……聞いたでしょう、貴方達! 今すぐ50メートルは離れなさい! 巻き込まれるわよ!」

 

 

 

 ビスケが弟子達を離れさせる。

 

 

 

「マジか…。どんな能力なんだろうな」

 

「ワクワクするね! どっちが強いのかな?」

 

「そりゃ会長に決まってんだろ! 身体に打撃を入れたら終了って、触らせねーって事じゃんか。カームが一方的にボコられて負けるに一票」

 

「いや…。彼の強さやオーラは人智を超えている…。この勝負、分からんぞ」

 

「どっちにしろ有り難いのは変わらんぜ。アイツの言った通り、脳裏に焼き付けようかね」

 

「………」

 

 

 弟子達が自分なりの予想を話す。

 

 

 

「さて、アンタ達…これから勝負が始まったらまばたき禁止ね」

 

「は? 無理だろ!」

 

「まばたきなんざしてたら見逃すわ。しっかり見ときなさい。《凝》も忘れずに」

 

「……マジか…」

 

 

 

 

 

 

 さて…いくか。最初から〝聖光気〟、と行きたい所だが、弟子達にも見せたいので普通のオーラから入る。会長相手だと〝聖光気〟無しでの全力でも行けるからありがたい。まずは《堅》。2回目だから様子見はしない。最初から踏み込んで…最短での時間と距離を稼ぐ!

 さて、どう来るかな? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数瞬の沈黙の後、「それ」は始まった。見ている者達からすれば、気づいた時には大地にめり込みかけてガードするカームと、いつの間にか祈りの形をとった会長と、攻撃を繰り出した百式観音の姿があった。音は遅れてやってきた。観戦者は確かにまばたきをしなかったが、見切れる者は居なかった。

 両者共にこれは挨拶だ。しかし、カームは驚いていた。

 

 

 

 速度が格段に上がっている。

 

 

 

 そして、威力もだ。

 

 

 

 

 あれから3か月しか経っていない。なのに、段違いの性能差になった攻撃を繰り出す百式観音とネテロ会長にカームは驚愕していた。自分で無ければ最初で潰れて終いだろう。何があったのか。正体を探るべく、彼は動き出す。彼のオーラの範囲は広い。まだまだギリギリ反応出来る。むしろ彼は喜んでいた。これは楽しくなりそうだと。彼は笑いながら、ネテロに向けて走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 一方、ネテロは落胆していた。本気で最初の一撃で潰すつもりだったのだ。いや、潰せないまでも〝聖光気〟までは引き出したかった。だが、まだまだガードしている。一体コイツはどれだけの強さを持っているのか。限界が見えない。しかも更に〝聖光気〟も控えている。この3か月、自分なりに試行錯誤した。そして、彼の技術すら取り入れながら、更に技が進化した。

 

 

 より、速く

 

 

 より、強く

 

 

 それでも通用しない事に落胆を隠せない。だが、受け流しや反撃をしない所を見れば、そこまで余裕があるわけではないらしい。その事がネテロを少し元気づける。百式観音は、それまで九十九乃掌以外は単発式であった。祈り、攻撃する、という行為故の限界とも言える。連撃もあるが、一動作の範囲の決められた型だ。だが、ネテロは実現した。

 

 

 

 ()()()()()を。

 

 

 

 祈りの連続化。ただそれだけの事だが、そこには一から全てを見直して血の滲む様な鍛錬を行った成果が確かにあった。はたからみれば、ネテロの姿は手がブレて本人が百式観音の様に見えるだろう。何度も祈り、何度も繰り返す。その行為が周りから見えず、手が分裂して見える為だ。不可避の速攻の連撃。これだけでも普通の使い手ならば何も出来ずに終わる。

 

 そして、ネテロは技自体の速さと共に威力の向上をも実現した。ヒントは相手にあった。

 

 

 「脱力」である。

 

 

 この3ヶ月、打撃を徹底的に見直した。試験の際に見た〝消力〟。これを自分なりに再現したのだ。そして百式観音に落とし込む事に成功した。おかげで今までの比じゃない程に威力が上がった。また、そうする事で、更に速度も増した。これには自分も驚いた。まだ力が入り過ぎて速度が犠牲になっていた部分があったらしい。そして、これこそが連撃を実現可能にした。ネテロはまだまだ技が進化する事に歓喜した。

 

 

 そして今

 

 

 正に、時間が止まっている様な速度の中での連続攻撃が繰り出される。相手は現在防戦一方だ。受け流しすら拒む速度で攻める!

 だが、相手もまた怪物。姿を現す観音に向かって亀の様にガードしながら反撃を試みている。

 時折、ネテロ本体に周囲の岩や砂などが形を変えて襲ってくる。物質操作だ。ネテロは驚愕しながらも躱して更に攻撃する。相変わらず引き出しの多い奴…。そう思いながらも連撃を止めない。はたから見れば、キルアの予想通りに一方的にボコボコに近いが、実情はかけ離れている。

 

 

 

 

 どんなに攻めようが、潰せない時点で厳しいのだ。

 

 

 

 

 そして、百式観音の手が止まる。ネテロが止めたわけではない。

 

 

 

 カームがガードしながらオーラを針状にして、剣山の様な状態で覆い、攻撃する手に刺さる様にした為だ。丁寧に返しまで付けてある為、抜けない。一瞬、ネテロは躊躇したが、その後、百式観音を消した。そして再び出そうとした所でカームを見失う。

 何処へ消えたか…と探すが、穴があった。土中に隠れた様だ。

 

 しばらくすると、ネテロの真下から何か飛び出してきた。反応して横から叩くと、特大の念弾だった。真正面からやったら腕が消滅する所だった。直後、大小百を超える念弾が次々飛び出してネテロの周囲を囲む。嫌な予感がしつつも警戒を怠らないネテロ。しかし、次に真下からネテロ目掛けて特大のオーラの奔流が襲う! 流石のネテロも潰せずに躱すと、周囲の大小の念弾がネテロ目掛けて向かってきた。百式観音で次々叩いて逸らしていくネテロ。だが、穴から悠々と姿を現したカームが同時に念弾を次々と生み出し、周囲を囲うと、その大量の念弾で襲わせる。落とせないのは躱し、直撃しても()()()()。だが、中には《隠》で隠した念弾や、時には念の刃、そしてそれを切り離した斬撃が飛んでくる。こればかりは躱さざるを得ない。そうしてネテロの処理能力の限度まできた所で、カーム本体が凄まじい速さでネテロに向かい、右ストレートを顔面に叩きこむ!

 ネテロはインパクトの後、錐揉み回転しながら吹っ飛んでゆく。誰から見ても致命傷だ。

 

 これで勝負は終わりだ。普通ならネテロの生死すら疑われる所だ。だが…

 

 

 

 

 …カームは奇妙な感覚を覚えていた。疑惑は途中からあった。そして最後。余りにも手答えが無さすぎる。疑惑は確信へと変わる。直後にネテロが何でも無い様な顔をして現れた。傷一つ無い。やはり。「そっち」はマスターしている。そして、もう一つ…もう「アレ」を掴みかけている、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アホか! 老い先短い老人を殺す気か!」

 

「いや、会長…そんなピンピンしといて説得力無いでしょう。しかし、今のは…」

 

「ふん。ワシぐらいになれば一度見れば大体分かるからの。分かったようじゃが〝消力〟を取り入れた。死ぬ程苦労したがな。それでも〝聖光気〟にすら届かんか…。残念じゃの」

 

「いや、それにしてもヤバい性能ですよ。それに…会長。まさか貴方、掴み始めてませんか?」

 

「…分かるか?」

 

「オーラと動きの端々に特有の流れが見えました。特に念弾の時。アレは〝軽気功〟…早すぎません?」

 

「まだまだ全然じゃがな。それでも早いと言うなら伊達に長生きしとらんという事じゃ」

 

「呆れる程、ですね…。これは。この3か月、どれだけの鍛錬を積めば…。しかし、〝聖光気〟はまだまだ先が長いですよ?」

 

「じゃろうなぁ…。ワシもやってみて愕然としたぞ。余りの難しさにな」

 

 

 

 

 ……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「…………」」」」」

 

 

 会長とカームの手合わせが終わり、談笑している中、見ていた者全員がまばたきすら出来ずに動けずにいた。誰も喋れない。今見た光景が信じられなかった。時が圧縮された様な中での戦闘。時間にすると僅か5分にも満たない。

 だが、超濃厚な戦闘であった。誰もが感動とも、畏怖とも言えぬ感情を持て余していた。やがて、1人が喋りだす。

 

 

「アレが……世界最高峰のレベルか」

 

 

 余りの戦力差に、絶望的な声が出てしまう。そんな弟子達の感情を酌み取ったか、ビスケがフォローを入れる。

 

 

「安心なさいな。アレはそんな生易しいモンじゃない。世界最高峰はもっと『こっち』寄りよ。アレは…化け物の領域。だからアンタ達は幸運よ。見れただけでもね。特にカームは特殊な念能力は使っていない。系統別の修練の極み! アタシ達の誰でもあれ程の事が出来る可能性がある…。悔しいわね…。アタシもそれなりに自信があったけど…。アレには勝てる気はしないわさ。ジジイにもね。アタシも更に鍛え直す必要があるわね」

 

「馬鹿な…どうやったらあそこまで…」

 

「だから化け物の領域って言ってんのよ。あまり参考にはならないと言ったでしょう? ただ、やるからには目指しなさいな。アレが究極! アンタ達の《発》もあれだけの物を打ち破れる様な能力を目指すといいわね」

 

 

 

(((((いや、無理無理!)))))

 

 

 

 全員の心が一致した瞬間だった。




ビーンズ「会長…仕事してください…」



修行編が大分長くなって申し訳ない!
そろそろ物語を加速させていきます。

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