アンブレイカブルハンター   作:エアロダイナミクス

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80、真夜中の交流

 

 

 

「ホントに何なんだよアレは…。どっちも同じ人間かどうかすら疑わしいぞ」

 

 

 夜の自由時間の時に、自然とゴンの部屋に集まり、先程のネテロとカームの手合わせについて議論が交わされる。

 未だに信じがたい、衝撃の闘いだった。カームの強さは薄々知っていたが、あれ程までとは思わなかった。まさかハンターのトップであるネテロ会長すら破るとは…。そして、その敗れたネテロ会長すらも衝撃の強さであった。

 

 

「……自分がもし、あの場に立っていれば…。一瞬も保たなかったな」

 

 

 クラピカの発言を受けて、全員が深く同意する。そして、瞬時に潰れたカエルの様になってしまう自分を容易に想像出来てしまった。

 

 

 

「しかも、カームはアレも使ってないんだよね」

 

 

 

 ゴンが言っているのは〝聖光気〟の事である。一体どれ程の力なのか。最早人間を超越してるとしか思えない。

 

 

 

「それも踏まえてオレたちも必殺技、つまり《発》を作っていくしかねーな」

 

「キルアは…何か浮かんだの?」

 

「んー…まぁ朧げながらな。奴等に対抗するには〝速さ〟が必要だ。カームはともかく会長の『アレ』を躱すぐれーの奴じゃないと話になんねーからな。そういうゴンはなんかあんのか?」

 

「いや…全然。でも、強化系って基礎修行を極めていくしかないらしいからね。必殺技ってワクワクするけど、いざ考えると難しいよね…。オレは自分を最大強化して闘うって事しか浮かばないよ…。でも、《硬》が出来た時に何となく浮かんだのも捨てがたいんだよね」

 

「クラピカはどうだ?」

 

「私は…具現化系だからな。ある程度構想している能力はある。今回見たもののおかげで大幅な修正をせまられそうだがな。だが、基本方針は変わらないつもりだ。それに…それが完成したら本格的に〝聖光気〟も習ってみたいしな」

 

「…アレだけはホントに意味わかんねー…。ホントに出来んのかって感じだよな」

 

「まずはカームの言う通り、普通の念をしっかり修めてからの話だろうな。超高等技術過ぎて最早伝説らしいからな」

 

「オレはパスだぜ…。正直、あんな化け物共に合わせてらんねー。今も昔もオレは医者を目指してるからな。医療の為の能力にするって決めてる。確かにあの癒しの力は魅力だが、ネテロ会長でさえ習得してない所を見れば難易度はお察しだぜ…。そう言えば、カルトの能力ってどんなんだ?」

 

「……普通は親しき仲でも自分の能力は開示しない。それが生死を分ける事もある。だから言えない。ただ、ボクも能力の改善の余地が見えてきたところ」

 

「そりゃそうか。悪い事を聞いた。すまなかったな。んじゃ、能力はそれぞれでって事だな」

 

「そうだね。ちょっと自信無いけど、頑張って考えよう!」

 

「最悪悩んだらカームかビスケに相談するといい。彼等なら的確なアドバイスをくれるだろうからな…」

 

 ………

 

 

 

 

 

 

 

 

「…《発》についてのアドバイスはせんのか?」

 

「概要は伝えましたがギリギリまで様子を見ようかと。変な方向に走りそうならアドバイスをするぐらいで。彼等の人生ですからね」

 

「ま、そういうこったな。こればっかりはそれぞれの生涯や生き方にも関わってくるからのぅ。…ちょっと過保護かと思ったが、それなら安心じゃな」

 

「また会長は人を試すような事言って…。ダメですよ。あまりそういう事してると人が離れますわよ」

 

「ブッ! ゴホッゴホッ。ビ、ビスケ、そうじゃな。ワシも気をつけるわい」

 

「……全く。気をつけてくださいまし。ねぇ、()()?」

 

「分かった、分かったから。ところでカーム。アヤツからまだ連絡無いかの?」

 

「いえ…ありませ『ピロロン♪』……今来ましたね。何々? 『大変申し訳ねーが、今すぐおめーさんトコのトンネルまで来てくんねーか? ジジイ達もいいぜ。ただし、ゴン達には絶対内緒な』…ですって。全く。相変わらず強引な人だなぁ。会長、行きますか? ビスケはどうする?」

 

「ふむ。ま、久しぶりに会うから行ってみるかの」

 

「私もご一緒しますわ」

 

「よし。では走って急ぎましょう。皆さんなら20分ぐらいで着くでしょう?」

 

「「………」」

 

「いや、何でそこで黙るんです?」

 

ヒソヒソ(コイツ…ナチュラルに人間の限界の数段上を要求しとるぞ。お主の男じゃろ? なんとかせぃ)

 

ヒソヒソ(いや、アタシに言わないでよ! 大体いつもの事だから諦めなさい! ジジイだっていつもやってるでしょ!) 

 

 

「あ、やっぱり大丈夫ですね。それじゃ、行きますか!」

 

「はぁ…しょうがないですわね…」

 

「もっと老人をいたわって欲しいもんじゃのう…」

 

 

 

 渋々だが、合わせて走ってくれる様だ。余り待たせるのも悪いしな。とりあえず全員で走る。2人ともなんだかんだで付いて来るのは流石だと思う。若干ビスケの姿が変わっていた様だが、気にしない事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よぅ! すげー早かったな! まさか30分以内に来るとは思わなかったぜ。カーム、ジジイ…と、オメーがビスケットか。はじめまして、だな。やたら疲れてるが、大丈夫か?」

 

「ハァッ、ハァッ…さ、さすがにきつかったわさ…」

 

「全力で走るのは久しぶりじゃのう…。ちょいとこたえたぞい…」

 

「お久しぶりです、ジンさん。お元気そうで。ここではアレですから事務所で座って話しましょう。今は夜ですから誰もいませんし」

 

「おう。助かるぜ」

 

 

 親方から借りていた鍵で事務所を開け、全員が落ち着いた時点でジンさんが話し始める。

 

 

「改めて、正直すまんかったな。オメーのトコ来るために潜入とか変装とか色々考えたが、どうやってもアイツにバレる気がしてな。とりあえずこの間の報酬持って来たぜ。3本だ。マルチタップ有りなら最大24人行けるぜ! これぐらいで大丈夫か?」

 

「えぇ。充分ですよ。ありがとうございます」

 

「…なぜお前がそれを求めたかオレなりに考えてみたが…。何となく察しはついた。オメーなら大丈夫だろう。ま、頑張れや。あと、アイツらを行かせるなら、ゴンはノーヒントで行かせてやってくれるとありがたいな」

 

「……? ゴン君の事は分かりましたが…。私が求めた理由を察したのですか?」

 

「あぁ。多分だが当ててやろうか? Sランク報酬『死者への往復葉書』、だろう?」

 

「な…! 何ですかそれは…!?」

 

「ありゃ? 外したか? もしかして知らなかった? オメーなら情報を得ているモンだと思ってたがな…。こりゃ失敗したか…。まぁいい。そういうモンがある。死者へ手紙を書くと返事が来るやつだ。どうだ? ヤル気は出たか?」

 

「………それが本当なら、凄まじいアイテムだ。本当にその効果が?」

 

「モチロン有るぜ! このオレ達が作ったゲームだ。生半可なモンじゃねーぞ! 他にも希少な宝石、希少な生物、他にも若返り薬とかどんな怪我や病気も一度だけ治してくれるアイテムとかがあるぜ!」

 

「希少な宝石…ブループラネット!」

 

「ちょい待てジンお主、そんな面白そうな事はワシにも教えんかい! 第一、アイテムの効能がヤバいが大丈夫か?」

 

「よく知ってんな。ビスケット。それで合ってるぜ。ジジイ、安心しな。ゲーム内でしかアイテムは使えねーし、持ち出せねー。超特別な条件を満たさない限りな。しかもゲットする為の難易度は高い。そして、コレは『念能力者限定』のゲームだ。よって一般人の目に触れる事はまずねー。もうゲーム出して10年経つが、そういった情報は殆ど出回ってねーだろ?」

 

「ふむ。ウワサには聞いとったが、また凄いモンを作ったな…。それ、ワシにも出来るか?」

 

「う〜ん。まぁそう言うだろうと思ってジジイ用にも一本余分に持ってきたが…やる時間あんのか?」

 

「そこじゃなぁ…。ま、時間は作るもんじゃ。何とかするわい。しかし、マジでどうやって作ったんじゃ?」

 

「……今だから言うが、絶対オフレコな。コレはオレ達が仲間と作ったゲームだ。相互協力型とかフルに使ってな。だが、根幹は違う。コレは()()()()()()()()()

 

「……どういう事です?」

 

「つまり、コレは人類圏にあった試練、だったモノだ。恐らく、暗黒大陸へ向かう者の為の訓練所とも言える。島1個丸々使った、な。試練は鬼の様に厳しいモンだったが、その報酬もぶっ飛んだモンだった。相当力のある古代人があっちから持ち込んだか作ったんだろうな。オレ達は昔遺跡探索を続けた果てにその島に辿り着いた。そして様々な試練をクリアして、古代遺跡を発見した。その中心部にコントロールルームがあったのさ。んで、どうするか悩んだが、普通に報告するんじゃつまらんからな。だからオレ達が作り替えた。ゲームという形でな」

 

「そりゃまた…怒ったらいいのか褒めたらいいのか判断に苦しむのぅ…」

 

「ま、誰も文句を言う奴はこの10年で現れなかったからな。結果オーライだ」

 

「全く…まぁええわい。ワシもちょっと興味が湧いてきた。やってみようかのぅ」

 

「おぅ。ドンドンやれ。そろそろクリア者が欲しいからな。ゴンの刺激にもなんだろ」

 

「会長…貴方がやってたら皆にバレて怒られますわよ。その辺はどうするんですの?」

 

「な〜に、名前を変える事は出来るんじゃろ? ついでに変装でもすりゃあバッチリじゃ!」

 

「…またビーンズが嘆きますわね…。いつも仕事丸投げして…」

 

「失敬な。ワシャ自分の仕事はこなしとるぞい。で、カームよ。お主は…やるんじゃろ?」

 

 

 

 私は3人の会話を聞きながらも、頭の中は『死者への往復葉書』でいっぱいだった。昔の記憶にはまるで無かった。しかし、言われてみればそういうアイテムも有った様な気がする。何故忘れていたのだろう…。だが、それさえ有れば…! 私も家族と話が出来る…! たとえ会えはしなくとも、文章で言葉を交わせるだけでもありがたい! 絶対にやらねばならない。

 

 私の目的が一つ増えた。

 

 

 

「えぇ。ありがとうございます。ジンさん。予想以上にヤル気が出てきましたよ。私も近々やります。では…そろそろやりますか?」

 

「あぁ。頼むぜ。最初は普通にやって、その後〝聖光気〟で頼む。あと、ジジイにやったあの技とかも使って欲しい」

 

「…大丈夫ですか? それに、アレは効きますよ?」

 

「もちろん、ボコられんだろうけどな。頼むわ。ただ、どうしようもねー時は回復してくれると助かるぜ。なるべく耐えられる様にするがな」

 

「分かりました。では、移動しましょうか」

 

「あぁ。よろしく頼むぜ!」

 

 

 我々全員で場所を移動する。場所は現場から少し離れた広場だ。

 

 

 

「では…行きます」

 

 

 早速攻撃を仕掛ける。目にも留まらぬ速さでだ。これは会長の攻撃とほぼ同じ速度だ。しかしガードした! 普通の使い手ならば何も出来ずにぶっ飛ばされて終わりだ。流石だ。ジンさんも世界の5本指に入る達人なだけあって、顕在オーラは半端ない。人類最上位を遥かに凌駕している。現時点で会長並みだ。楽しくなってきた。

 そしてジンさんが攻撃を仕掛ける! 右ストレート! 速さも申し分ない。頭を振って躱す。…と思ったら、いつの間にか腹部に拳が突き刺さる! 直前に受け流したが…なんだこれ!? これが彼の能力か!? とりあえず反撃! ジンさんも受け流してからのクロスカウンター! 躱してトリプルクロス! …が、空を舞い、更にそのカウンターでのローキックが入る。足を上げてガードする。…一旦離れよう。

 

 

 

「…やりますね。私に攻撃を入れるとは。それが能力ですか?」

 

「ちげーな。()()()()()()()()だ。オレは『気合』って呼んでるがな。その状態なら多少は効果が有るらしいから良かったぜ。さぁ『気合』入れてくぞ」

 

 

 絶対んなわけない。アレは能力級の何かだ。…そうだよね? そしてこの人は尻上がりだ。テンションが上がれば上がる程オーラが増大してくる。どこまで上がるんだろう。強化系…だな。多分。だが、オーラ技術を見るに他系統も極限まで鍛えてるな。これはいい感じだ。こちらも気合を入れよう。

 

 そこからガチガチの肉弾戦が始まったが、彼は指で特大の念弾や散弾を作って至近距離で放ってきたり、腕からオーラの剣を作って薙いだりしてきた。だが、私も合わせて相殺したり、ブレードでガードしたりした。時折、先程の『気合』とやらで危うく喰らいそうになったが、何とか受け流した。《隠》を使った攻撃も複数同時に飛んでくるから油断出来ない。

 本当に引き出しが多いな…この人は。世界最高峰と言うのも頷ける。一発一発が通常の能力者と比較しても致命的に強い上に、独特の体術と豊富な技。そして、次第にこちらの動きにも対処して更に上回ってくる。おかげで私も更に引き出しを出す事を要求される。闘いで成長するタイプか…。しかも本人がヒソカ並に戦闘勘が天才的なタイプだ。そしてこの気迫。こりゃ強い。

 だが、そう簡単に私を攻略出来ると思われるのも癪だ。私も大人気なく全ての攻撃を受け流し、攻撃に転ずる。そして徐々に攻撃の回転を上げてゆく。

 ジンさんはどこまでも喰らいついてきた。この人は…まだまだ伸びる! それが恐ろしい。

 

「ハハハハハッ! 楽しいなぁ! 楽しすぎだろオイ! だが、オメーはまだまだ全然こんなもんじゃねーよな!? 頼む! 見せてくれよ! 『伝説の技』をよ!」

 

「素晴らしい…。ジンさん…貴方はやはり選ばれた者だ。貴方なら…」

 

 

 シュウウウ…

 

 

 

 私は〝聖光気〟状態に移行する。最近漸く掴めてきたが、違和感無いスムーズな移行が出来る様になった。

 観戦していた会長も思わず口を挟む。

 

 

「お主…これは…」

 

「自然な状態での〝聖光気〟ですよ。違和感や威圧感を減らしてみました。そこまで不自然じゃないでしょう?」

 

「また訳の分からん事をやっとるのう…。つまり、あの独特のオーラを《隠》の様な技術で隠しとるわけか。何に使うんじゃ?」

 

「まぁ、色々ですよ。こうなる度にビビられるのも面倒ですからね」

 

「おっそろしい奴…これじゃ殆どの奴が違和感に気付くまい。しかしオーラと同じ様に操れるんじゃな」

 

「普通のオーラよりは難易度が高いですけどね…ジンさん、用意はいいですか?」

 

「待ってたぜぇ…〝この時〟をよぉ…! 行くぜ!」

 

 

 ジンさんが、矢も盾もたまらず、と言った風情で襲い掛かって来る。しかし、「この状態」になった以上、いかんせん地力に差がありすぎる。もちろん体術は素晴らしいし、技も豊富だが、オーラ差によって攻撃する手足が傷ついてゆく。私の攻撃もガードはしっかりしているが、それすら強烈に貫通して大ダメージを受けている。1分もしない内にボロボロになってしまった。

 

 

「……続けますか?」

 

「ゲホッゲホッ…ペッ! 今ようやく面白くなってきたトコだ。やめんじゃねーぞ! 次は例の技を使ってくれ」

 

「…わかりました。行きますよ」

 

 

 そう言って私はジンさんに接近し、胸に手をそっと当てて〝内浸透勁〟を打ち込む! ヒソカにやったのよりは強めだ。致命傷の一歩手前ぐらいだろう。直後、ジンさんは穴という穴から血を吐き出して倒れ伏した。

 

 

「大丈夫ですか!?」

 

「ぐっ…グハッ…。こりゃあ…効くなぁ…ゲホッ!」

 

「すぐ回復しますね!」

 

「ありがてぇ…。これはちょっと…キツい…」

 

 

 

 

 

「……アレは本当にヤバいのぅ…。マジで必殺技、というのに相応しい技じゃ。しかも特殊能力じゃない所が恐ろしい」

 

「ジジイは喰らったの?」

 

「あぁ。闘った時にな。全身のオーラが強制的に跳ね回って内臓関係がぐちゃぐちゃになる。マジでエグい技じゃ。奴の力加減次第で即死技になるんじゃろなぁ。しかし、コレは恐らく相手のオーラに瞬時に同調せんといかん。難易度もエグいぞ」

 

「……おっそろしい技ね。アタシは出来る気がしないわ」

 

「じゃが、できんといかんぜ。お主が奴に付いて行こうと思っている限りはな」

 

「……そうね。アタシもやってみせなきゃね…」

 

「それにしても…ジンの奴、楽しそうじゃのぅ…」

 

「えぇ…ホントにね…」

 

 

 

 

 私はジンさんを癒した後、ジンさんの要望で闘いを再開した。また浸透勁を打ち込んで欲しいと言うジンさんの正気を疑ったが、言われるままに打ち込むと、また倒れ伏し、また癒す。

 メンタルが半端ないな。凄まじい激痛と苦痛のオンパレードな筈だが…。

 しかし、繰り返す度に違和感がでてきた。効きが悪くなってきている。まさか…もう掴み始めたか?

 そして、5回ぐらい繰り返した時、『それ』は起きた。

 

 

 

 〝内浸透勁〟!

 

 

 

 ………殆ど効いてない!

 

 

「ようやく…〝覚えた〟ぜ。オメーの技をよ…」

 

 

 驚いた…彼はこの技の性質を掴み、オーラが掻き乱される寸前に自分で自分のオーラを操作してぶつけ合い、被害を最小限にして無効化したのだ! 何という成長速度! 天才というにはまだ足りない、怪物級の才能だ。

 

「オレは天才だからな。一度喰らった打撃系は大体マネ出来る。だが、『コレ』は打撃じゃねーし、難易度も桁違いだったから苦労したぜ。だが、()()()()()使()()()。ついでに〝聖光気〟の秘密も分かった。ヒントは『同調』だ。違うか?」

 

「驚きましたね……。正解です。私がそれを習得するのにどれぐらいかかったか…。恐ろしい人だ」

 

「まぁな…だが、初見でガチで闘ってたらアウトだな。全くもってありがたいこった。ところで、この技の名前はなんて言うんだ?」

 

「あぁ。言ってませんでしたか。〝内浸透勁〟と言うんですよ」

 

「……おい。〝内浸透勁〟って事は…」

 

「ご明察。内があるなら当然外もある。…喰らってみますか?」

 

「いや…大体察した。やめておこう。そのオーラをブチ込まれたら確実に死ぬ」

 

「ま、それが賢明ですね。必要な分は見せました。後はご自分でどうぞ」

 

「おう。ありがとよ! これで最低限は整った。後は自分で出来る。助かったぜ」

 

「どういたしまして…。会長、ビスケ、お二人はどうしますか?」

 

「では、是非ワシももう一度やってみようかの。今度は〝聖光気〟で頼む」

 

「私は…カーム。会長の後で大事なお話があります」

 

「…分かった。ではまず会長から行きましょうか」

 

 

 

 それから、誰もいない工事現場の近くで激闘が繰り広げられた。会長は何やら手応えを感じたらしく、非常に満足しながら倒れた。…そのまま逝くんじゃないかと心配したので、早急に治療した。

 ビスケだが、その後の大事な話とは、自分も強くなりたいそうな。今まで我慢してきたが、2人と私の闘いを見て我慢が出来なかった様だ。そして……

 

 

「今の私は仮初の姿。本当はカームが思っているよりは私の年齢も上だし、真の姿は相当ゴツいのよ。騙していた様で悪かったわ。本当にごめんなさい。……それでもカームは…私を受け入れてくれますか?」

 

 

 

 私にとっては今更だが、本人にとっては重大な問題だったのだろう。女性だしな。…彼女の心理もなんとなく分かる。だが、ビスケはビスケだ。だからこそ、伝えねばならない。今でも彼女は不安そうに待っているからだ。

 

 

 

「私には分かっていたよ。ビスケの大体の年齢も、その肉体も。だから心配する事は何も無い。でも、ようやく打ち明けてくれて嬉しかった。ありがとう。私にとってビスケはビスケだ。今ではとても大切な友人だと思っている。今までも、これからも。そう思っているのは私だけかな?」

 

「………」

 

 

 ヤバい。外したか? だが、返事を待とう。

 

 

「カーム……。ありがとう。とても…救われたわ…」

 

 

 

 ゴキゴキゴキ…

 

 

 そう呟きながら、ビスケは身体を()()姿()()戻し始める。来た来た来た…! これだ! 絶え間ない修練の果て! 女性の身でありながら、これ程の肉体を得る為に、一体どれ程の犠牲を払って来たのか。オーラも身体が変化するにつれ、ドンドン倍化してゆく…。これまでにどれ程の研鑽があり、どれ程の修羅場をくぐり抜けてきたのか…その姿が、今完成する!

 

 

 シュウウウウ…

 

 

 

「………美しい」

 

 

 

 私は思わず呟いた。正に修練の極み! 宝石の様な肉体美がそこにはあった。

 

 

 

「ありがとね…そう言ってくれて嬉しいわ。じゃ、行くわよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジジイ…アイツ、カーム狙ってんの?」

 

「そのようじゃな。友人、とか言われとってご愁傷様かと思ったが、中々いい感じのようじゃのぅ! こりゃ面白そうじゃ」

 

「ふーん…。ま、好きにしなとしか言えねーけどよ…。しかし、ジジイも始めてたか」

 

「うむ。一武闘家として実在がハッキリした以上、目指さん選択は無いからな。そういうお主も目指し始めとるじゃろ?」

 

「まぁな…。やってみて分かったぜ。ありゃ反則だ。絶望的なぐらい力の差がある。そもそもアレが無くても()()()()()()()()()。癪な話だがな。ジジイも分かってんだろ?」

 

「あぁ。見てみぃ。ビスケも最上級クラスの強さは有る。特に真の姿を晒した後はな。じゃが、それでも奴には余裕がある…。殺そうと思えばいくらでも殺せるじゃろう。ワシら3人がかりでもな。人間か怪物かどうかで揺れるわけじゃ」

 

「……悔しいな。力がねーってのはよ。久しぶりだぜ。こんな思いすんのは」

 

「全くじゃ。だが、楽しみも増えた。どうやらワシはこの歳になっても挑戦者らしいからの」

 

「せいぜい足掻いて奴に一泡ふかせてやろうぜ。オレ達でな」

 

「分かっとる。このままじゃ終われんわい。……もう少し早く出てきて欲しかったもんじゃがな」

 

「な〜に。何とでもなるさ。その為のオレのゲームだ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一通り手合わせが終わり、一旦事務所に戻る。寮から持ち込んでいたツマミや酒で宴会が始まった。反省会兼飲み会だ。ビスケも吹っ切れた様な顔をしていて安心した。もう元に戻ってしまったが。残念だ。

 話は皆が先程の手合わせの反省会や、ジンさんのゲームについて語り合い、大変盛り上がった。私の暗黒大陸紀行の話も部分的にしながら楽しい時間を過ごして、あっという間に夜中の12時を回る。そろそろお開きかな。

 もうジンさんは満足した様で、これからまた別の場所に向かうという。ジンさんも早く気兼ねなく会える様になるとよいが。ゴンが見つけないといけないのがなぁ。ジンさんに話したら、ゲームをクリアして、更に条件を揃えたら会える様に設定したらしい。本当かと尋ねた所、ちょっと意地悪していたらしいが、それも無しにするという。それならば更に彼を鍛えておこう。少しでも早く会えるように。

 まぁ何にせよゲームはやらねばならない。私の為にもだ。まずは目的の一つを済ませてからだな。

 楽しい時間も終わりを告げる。だが、まだこれからも続いていく。そう思えるだけでも私にとっては希望となる。願わくばこの希望がずっと続きますように……。




気合

彼の言う通り、ただのフェイント。だが、彼の気迫と技術と力により、相手は彼の攻撃をほぼ確実に誤認する。よって、場合によってはどの念能力よりも強い作用を齎す。正に究極のフェイントである。原作ではウサメーンにその片鱗を見せている。



大分間があいてしまって申し訳ないです…。ジンの力を考えるのが難しかった…! そして全然進んで無い…! もうすぐ、もうすぐ加速します!

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