アンブレイカブルハンター   作:エアロダイナミクス

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84、蠢動

 

 

 

 

 ───ヒソカは語らない

 

 

 ヒソカは過去を語らない。過去にあんまり興味がないからだ。

 

 

 ヒソカは自分以外の誰にも属さない。自分が最強だと理解しているからだ。

 

 

 

 

 

 だが、そのアイデンティティは危機を迎えた。

 

 

 

 

 あの日。初めて完膚なきまでに敗北した。長いこと狙った獲物を狩り続けていたが、そんな事は今まで一度も無かった。そして、その時の相手が全く本気でない事も正しく理解した。

 

 

 

 獲物だった筈の奴に気を遣われ、優しく手加減されたのだ。

 

 

 

 ヒソカは麻痺毒で全身が痺れたまま、初めての屈辱という感情を楽しんでいた。そして、今の自分ではどうシミュレートしても本気の彼には接戦すら持ち込めないとも。

 

 

 

 ───新しい力が要る

 

 

 

 ───圧倒的な力が

 

 

 

 

 

 彼に勝つ為には、自分を進化させるしかない。そのビジョンはうっすらとだが見え始めた。彼の事をもっと知らなければならない。彼の力がどこまでの物かを知っておかなければ、勝つ事は不可能だ。ヒソカの頭の中では既に旅団など眼中になかった。最大最高の、究極のオモチャが見つかったからだ。

 

 

 

 これは恋だ。

 

 

 

 ヒソカは恋をしていた。

 

 

 

 3日目の夜。ヒソカの恋慕が呼び寄せたのか、転がっているヒソカに「悪魔」がやって来て語りかける。

 ()が欲しければくれてやる。その代わり我が僕になれ、と。だがヒソカは笑いながら拒否する。ヒソカは自分以外の誰にも属さないからだ。

 次に「悪魔」は手を組もう、と唆す。それにヒソカは条件付きで許可する。ボクは誰の指示も受けない。力もいらない。彼は自分が殺す、と。その代わり協力はしてやるから情報を渡せ、と。

 

 

 

 

 ───取り引き成立だな。と「悪魔」は嗤う。ヒソカも嗤う。最終的に行きつく先は破滅だろう。そんな事は理解ってる。だが、()()()()()()()()()()()

 彼をよく知り、愛し合った(殺し合った)上で殺す。これ程の極上の快楽があるだろうか。

 それが実現するならば。むしろ破滅すら愉しめる。

 ヒソカは嗤う。これから始まるであろう究極の快楽への旅路に。「悪魔」も嗤う。破滅のラッパが近い内に鳴らされる事に。

 

 

 

 

 ───その日、新たな1匹の悪魔が産声をあげた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よくやった。あのヒソカを相手によくあそこまで闘えたものだ。流石はゴンだな」

 

「……でも、遠かった。ヒソカは遊んでたよ」

 

「並の使い手ならば、アレでも保たない筈だ。その点は修行の成果が出たと考えた方がいいだろう。気にするなとは言えないが、生き延びただけでも充分だ。あと、クラピカ、安心しろ。少なくともあのヒソカよりは旅団は厄介じゃない筈だ。近い実力はあるだろうし、能力も未知数だがな」

 

「欠片も安心出来ない情報をありがとう。私もまだまだ修行が足りない様だ。通常の戦闘では勝ち目が薄い。上手く能力を差し込んでいくしか無いか」

 

「肉体性能は旅団の方が近い筈だ。あのヒソカは異常だ。まぁ修行不足は同意だけどな。後は念での戦闘に慣れろと言うしか無い。君もリベロとの戦闘や、ここまでの闘いで成長している。あまり自分を下に見る事もないだろう。さて、ゴン。何はともあれ、目標は達成したな。レオリオも勉強があるだろうしな。クラピカも金額の目処はついただろう? これからだが…どうする?」

 

「私は当然、アンダーソンに就職をする。早ければ早いほどいいだろう」

 

「オレは…目的も終わったし、クラピカを見届けたら一旦くじら島に帰ろうかな。ミトさんにも会いたいし。みんなもおいでよ。紹介したいからさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局、全員でアンダーソンに行ってからくじら島に向かう事になった。これで天空闘技場とはおさらばだ。見送りにズシとウィングさんが来てくれた。彼等とも短い間しか交流出来なかったのは残念だったが、また会えるといいな。

 

 船ではまたオーラ技術主体の訓練だ。何しろ時間が無い。少しでも技術を向上させる必要がある。応用技の訓練や《発》の改良、スムーズな《流》など、やる事は多い。加えて基礎オーラの向上だ。どれだけやってもやりすぎではないだろう。弟子達はヨークシンに着く頃には遂に《練》の8時間持続を達成した。つまり潜在オーラが少なくとも約50000は超えたという事だ。本来ならばここで終わりにしてもいい。何せ、もう彼等に敵う奴の方が少ないからだ。だが、私はヒソカが気になっていた。

 あのレベルが本気で立ち塞がったらまだひとたまりも無い。キメラアントの上の方もそうだ。だから極限まで行かなくとも、抵抗は出来るぐらいにはしておきたい。

 やはり、念での実戦訓練は急務だ。天空闘技場に残ってもいいが、今のところあそこには満足出来るレベルの者が居ない。ヒソカは別として。そのヒソカも、もういないだろう。その点、クラピカとゴンは同等や格上の相手と闘えて幸運だったと言える。…そろそろ私も相手をしなければならないな。

 そうそう。ビスケも以前からこっそり鍛え始めている。今、50倍の重力と低酸素で訓練中だ。まだまだ飽くなき強さを求める彼女は、やはり真の武闘家だと言える。見習わなくては。ただ、私はこれ以上行くと自分の身体が完全に化け物スタイルになりそうなので悩みどころではある。オーラ技術も完全に頭打ちになっているしな…。よって、〝聖光気〟の習熟がメイン修行である。まだまだ〝聖光気〟も奥が深い。オーラと同等のレベルで扱える様に少しでも訓練しておきたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待たせたな。ここに5億を持ってきた。確認をお願いしたい」

 

 

 現在、アンダーソンの家の応接間でジョンと対面している。仲間は私の別邸で寛いでいる。日付は7月15日。約束より20日は早い。

 

 

「……2ヶ月と少しで揃えて来たか。中々優秀じゃないか。確かに確認出来た。リベロ! カームの手助けや援助等は一切無かったな?」

 

「はい。寧ろ難易度を意味不明なレベルで引き上げてました」

 

「ははっ。カームらしいな…。ではクラピカ。これをもって、君を正式なアンダーソンの構成員の一員として認めよう! これより我らは家族だ。裏切りや命令違反等は一切許されない! その代わり、我々も君を家族の一員として扱おう。いいな?」

 

「分かった。これからは貴方に忠誠を誓おう。ドン=アンダーソン」

 

「さて…。君は試験も含めて早くもアンダーソンに貢献した。だから私も君に報酬を与えなければならない。アルバート、アレを」

 

 

 当代コンシリエーレのアルバート=ルチアーノさんだ。彼が、ある包みを手に持ってくる。

 

 

「コレは…」

 

「開けてみろ」

 

 

 

 困惑しているクラピカが中を開けてみると…緋の眼が入ったガラスの容器が入っていた。

 

 

 

「まさか…! これは…」

 

「言っただろう。我々は家族だ。よって、君にそれを譲ろう。家族に貢献する者に対しては、私も協力は惜しまない。新しく入った君に対しても当然それは適用される。…私は君には期待している。だからこそ、私の期待を裏切るなよ? クラピカ」

 

「あぁ……あぁ……ありがとう…ドン=アンダーソン」

 

 

 クラピカがジョンの前に跪き、彼の手の甲にキスをする。古いマフィアのしきたりだ。これはドンに忠誠を誓うという意味がある。…プライドの高い彼が自らこれを行ったという事は、よっぽど感極まったらしい。ある意味貴重な場面ではある。しかし、それもそうか。長らく探していたものが一部とはいえ見つかったのだから。私とリベロは邪魔しないようにそっと退出する。後は彼等で今後の事を詰めるだろうから。

 

 

 

 30分程して、アルバートさんが先に出てきた。彼はとりあえず自分の役割は終わったので退出したとの事。彼は如何にもなメガネでオールバックのインテリヤクザで、ジョセフの遠い子孫にあたる。灰色の高いスーツを着こなした40代半ばで、これまた強力な念使いだ。ただ、見た目に反して割とフランクなおっちゃんなので、私も以前はよく彼と話していた。だが、決める所は決める男で、ジョンの信頼も高い。

 私は彼とリベロとで、食堂でお菓子をつまみながら雑談していた。緩い所もある様に見えるが、やる時はやるヤツらだから頼もしい。しばらくすると、ジョンとクラピカが食堂に姿を現した。打ち合わせは済んだ様だ。彼等も非常に打ち解けている。ジョンはやはり当代のドンなだけに、人心掌握が非常に上手い。あの気難しい神経質で理屈屋のクラピカの性格を把握し、打ち解けるとは中々できるものではない。

 クラピカはしばらくアンダーソンの仕事をしながら、念戦闘の実戦訓練をさせて貰える様だ。良かったな。ここは人材が豊富だ。対戦相手には事欠かないだろう。また、クラピカの頭脳もアンダーソンの役に立つ筈だ。来る2ヶ月後の闘いに向けてしっかりと準備して欲しい。

 

 

 その後、待機していた仲間達を呼び、食事会が行われた。皆談笑しながら穏やかに食事を共にする。マフィアの中枢での食事会とは思えない様な穏やかな光景だ。ビスケとカルトがジョンにやたらとアピールしていたが、ジョンは微笑ましげにこちらを見ながら揶揄ってくれた。…私は身を固める気はないんだがなぁ。

 

 

 

 食事が済むと、弟子の成果を見たいというジョンの要望で、中庭の修練場に集まった。こうして口実をつけているが、実際は私の要望だ。アンダーソン側は、リベロとカルロがタッグだ。こういう時はいつも駆り出されるらしく、なんか哀れにも思えたが、その分危険手当が出るらしいのと、勝ったら更にボーナスというジョンの言葉により、彼らのヤル気は十分だ。

 

 

 

 離れて見ていたアルバートさんが「…ま、ウチの負けでしょうが、意地は見せて欲しいものですね」とボソッと言っていた。まだ対戦相手が決まってすらいないのにだ。彼はカンと予測能力が高いからまず外さない。…彼等には悪いがボーナスは無しだな。だが、問題は結果ではなく過程だ。

 

 

 

 

 対するはキルアとレオリオコンビ。天空闘技場で不完全燃焼だった様なので、私が指名した。オーラ的に互角に見えるが、経験としては遥かに格上だ。更にタッグマッチという事で、いい経験になるだろう。ルールは殺しは無し。戦闘不能かまいったで終了だ。お互いに20メートル離れてからスタートする。

 

 

 

 まずはキルアが帯電して飛び出す。遠い距離を一瞬で詰めるが、カルロが壁になる。その間、リベロが念弾を撃ち出すが、雷の反応で悉く躱す。接敵して、まずはカルロを倒す事に決めた様だ。電気を纏ったキルアの連撃を成す術なく喰らうカルロ。電撃で痺れて反撃も出来ない。遂に膝をついてしまう。…カルロもそんなに弱くは無い。寧ろタンクとしては十分機能出来る男だ。今回は相手が悪かった。そんなカルロを抜かしてリベロに迫るキルア。リベロも念弾を打ち出したり、蹴ったりするがやはり当たらない。後方から近づくレオリオは蹴った念弾を一発貰い、リベロにイエローカードを宣告されたが、手のダメージは反対の手で回復していた。レオリオはカルロに辿り着き、痺れて動きの悪い彼を抑え込んで気絶させる。カルロはせめてもの抵抗でレオリオの足腰にオーラで象った肉を作り出して覆い、レオリオの足止めに成功した。彼の能力の応用だ。本人は【入れ替わり他人の人生(ドッペルゲンガー)】は戦闘用じゃないと言っていたが、アレは奥の手みたいなものだろう。気絶しても能力が解除されないのは流石の一言だ。

 一方のキルアはいよいよリベロに迫り、同じ様に連撃を仕掛ける。リベロも必死に蹴りやガードで抵抗するが、速さ負けして同じように貰ってしまう。このまま勝負が決まるか、と思った時、リベロが喰らいながら()()()()()を宣告し、キルアの動きが止まる。

 

 

「がふっ…。随分とハデにやってくれたな…。キルア、オフサイドでPKだ」

 

 

 彼の『奥の手』が発動する! これは彼が仲間と共闘する時限定の能力で、仲間や念弾すら抜かれて本体が5発以上のダメージを貰った時に、相手にオフサイドを宣告する事で強制的にPKが発動する能力だ。当然、両腕と手からの《発》も封じられる。リベロが後方に一気に10メートル近く離れ、そこからボールを5発次々と蹴り出す! キルアの場合は手以外からの帯電も可能だが、その場から動けない事もあり、流石に避けられずに辛うじて肩等でガードした。しかしかなりのダメージを負ってしまう。アレは折れたな? しかし、次の瞬間後方からレオリオのオーラが飛んできて、キルアを治癒する! 【細胞干渉(セルリカバリー)】だ。骨折が見る間に回復している。中々の治癒力! そして、キルアがダメージを負ったら次々と回復させる。レオリオが近づく程に治癒力が増す為、這ってきてほぼ真後ろに控えている。キルアは急所をかろうじてガードしながら、その場で回復を繰り返す。その間、兜と手甲を具現化し、充電している様だ。

 

 そして、5発のPKが終わり、キルアは再び接近すると上空に飛び上がり、今度は溜めた電気を一気に落下させる! 【落雷(ナルカミ)】と言うらしい。さすがのリベロも大ダメージを喰らった様で、痺れとダメージで動けない所を、落ちて来たキルアの手刀を喰らい、敢えなく気絶した。

 

 

 

 

 

 

 

「いや〜、見事なまでに負けちまったな! 『奥の手』まで使ったのに負けちまうとは参ったぜ」

 

「お前はまだいいだろ。俺なんか今回全くいいトコ無かったぜ」

 

 

 レオリオが全員回復させ、反省会が始まる。中々見応えのある闘いだった。カルロは嘆いているが、仕方ない部分もある。相性が悪かった。

 

 

 

「いや…今回、アレを喰らった時は正直ヤバかった…。レオリオがいたから何とかなった様なもんだ。それに、カルロのおっさんもオレの能力がなきゃ厳しい相手だったと思うぜ?」

 

「ものすげぇ威力と速さだったな…。それにあの足止めが付くとか…ホントによく勝てたもんだよな。天空闘技場の奴らなら、なす術なく終わっちまうぜ」

 

「慰めはいらんよ。お前さんらは強かった。俺たちもまだまだ修行が足らんという事だ」

 

 

 カルロがそう締めくくる。まぁその通りだが、弟子もそろそろプロの上位ハンター下位ぐらいの実力はあるからそこまで落ち込む事も無いだろう。弟子達の成果にジョンも驚いていた。

 

 

 

 この日はこの後私の別邸でクラピカの送別会をやり、次の日からクラピカ除く全員で、くじら島へと出発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミトさーん!」

 

「ゴン! そして、お客さんも!」

 

「ただいま、ミトさん」

 

「おかえりなさい! 連絡貰ったから良かったものの…電話貰ってすぐとは思わなかったわ。まだ何も用意してないわよ」

 

「いいよ、テキトーで」

 

「そんな訳にはいかないでしょ!! 今準備するから待ってなさい! お友達の皆さんも、はるばるここまでようこそ。ゆっくりしていってくださいね」

 

 

 

 ……………

 

 

 

 我々はゴンの実家で歓迎を受けた後、ゴンにくじら島を案内される。彼の親友というコンがくれた魚をみんなで焼いて食べ、くじら島唯一の旅館に宿泊する。キルアはゴンと家でそのままお泊まりするようだ。流石に我々全員では迷惑だからな。

 

 次の日、ゴン達と合流したが、ゴンは不思議な箱を持ってきた。…ジンからのハンターになったら渡して欲しいというシロモノだ。これがジンが残した手掛かりだな。彼は念で開ける事は分かった様だが、律儀に合流するまで待っていたらしい。なんでも、私に義理を感じているようだ。そんな事は気にしなくてもいいのに。…ありがたい事だ。

 

 

 ゴンがみんなの前で箱を持ったまま《練》をすると…箱がバラバラになって分解し、中からカセットテープとメモリーカードと指輪が出てきた。コレが…グリードアイランドの指輪とセーブデータか。箱の素材には神字がびっしり書いてあった。そして、カセットテープ。ジンのメッセージだな。マイケルのと似た様な物だが、機器に時代の変化を感じるな。

 カセットテープを聞くときは席を外そうか? と問いかけたが、ゴンはみんなで聞いてほしいらしい。なんでも、みんなに聞いてもらって意見が欲しいとの事。それならばと全員でゴンの部屋に移動する。

 

 

 デッキを用意して、ダビングの準備をキルアが提案したが、私が止めた。無駄だからだ。カセットにはうっすらと、しかし強い念が込められている。《凝》でも見えない程度だが、私にはわかる。恐らく聞き終わったら何らかの方法でオーラが顕在化し、音声は消滅するだろう。条件付きの発動タイプ。操作系だな。ジンさんも本当に器用だ。つまり、これを聞けるのは一度だけだ。

多分私なら止められるが、ジンさんもそれは望まないだろう。

 ゴン達にその事を伝えると、感心していた。念の可能性、というか利便性にだ。だからこそ、ジンは慎重に音声を残した。マイケルもそうだ。声だけで相手を解析する能力もあるからな。なんなら呪いをかける事も可能だろうし。

 

 

 そんなこんなで準備が整い、ゴンが再生ボタンを押す。

 

 

 

『………よぉ、ゴン。やっぱりお前もハンターになっちまったか』

 

 

 ジンさんの声が再生される。全員静かにジンさんの話を聞き入る。…何というか…やっぱりあの人はひねくれてるというか…。まぁそうだからこそ、あの人なんだろう。

 

 

『捕まえてみろよ。お前もハンターなんだろ?』

 

 

 彼の声は一旦止まる。しかし、()()()()()()()()()。ゴンも気付いている様で、テープを止めようとしたキルアを止めた。

 しばらく待つと、彼の声が再び聞こえだす。

 

 

 

『………あ──。一つ言い忘れたぜ。お前の母親についてだ。知りたければこのまま聞いてくれ。別にいいならここで止めろ。一分待つ』

 

 

 ゴンはテープを止めようとした。実際にストップボタンを軽く触れた。当たり前だが誰もゴンを止めはしない。だが…もう二度と聞けないという私の言葉を思い出したのか、葛藤しているようだ。そして、遂にボタンから手を離した。聞く事にしたようだ。

 

 

『………お前の母親は、オレが言うのもなんだが…何というか…ちょっと変わっててな。お前を産んでしばらくしたらどっか遠い、別の場所に行っちまった。……死んだわけじゃねーぜ? アイツはカンタンに死ぬようなタマじゃねえ。ただ、オレもアイツを探している。それほど遠い場所だ。お前がどうするかは任せるが、気になるなら探してみるといい。ま、まずはオレを捕まえてからだな。名前だけは伝えておく。……イヴリス、と言う。それがお前の母親の名だ』

 

 

 

 今度こそ、完全に音声は沈黙した。すると、テープ自体が自動で止まり、そのまま巻き戻して上書き録音を始めた。完全に上書きが完了して、テープは今度こそ完全に沈黙した。

 

 

「……オレの母親はやっぱりミトさんだけだよ」

 

「ゴン…。いいのか?」

 

「うん。ジンは探すけど…。母親はいいや。今まで育ててくれたミトさん以外を母親とは思えないし」

 

「そっか……」

 

「それよりも、他の二つのも見てみようよ! 指輪はともかく、コレ、何だろうね?」

 

「うん? 知らねーの? これ、ジョイステのメモリーカードじゃん」

 

「ジョイステ…?」

 

「あぁ。ゲーム機の事だな。正式にはジョイステーション。割と有名なハードだ。オレも遊んだ事があるぜ。ハードさえありゃ、どんなゲームが入ってるかわかるんじゃねーか?」

 

「よし! 早速調べてみよーぜ!」

 

「???」

 

 

 

 ゲームをやった事のないゴンとビスケとカルトが困惑してる中、レオリオとキルアが主導で調べ始める。私は持ってるが、どのように調べるかを見てみよう。まずはゲーム機をネット通販で購入した。届くまでの3日間はのんびりと過ごす。その間、ビスケやカルトと釣りをしたり(ゴンに穴場を教えてもらった)、森でキャンプをしたりした。こんな休日も悪くはない。ゴン達ものんびり羽を伸ばしていた。レオリオは旅館にこもって、私が貸した参考書でずっと勉強してた。感心、感心。

 

 

 3日後、遂にジョイステが届き、メモリーカードの内容を調べる。中身は全てグリードアイランドだ。ネットで早速調べるも、普通に検索してもゲームについては出てこない。ネットカフェに入り、ハンターライセンスを使って調べてみると、1987年に100本限定で出されたゲームであり、念能力者が協力して作ったゲームである事がわかった。その相場はなんと58億! 一財産ではあるが、ハンターサイトでは入手難易度はGだ。どうするか悩んでるな。そろそろ切り出すか。

 

 

「あ──。悩んでる所を悪いが、そのゲームなら私が持ってる」

 

 

「!?」

 

 

「はぁ!? カーム! お前、なんで言わなかったんだよ!」

 

「ゲームの情報にどうやって辿り着くか知りたくてね。それに、私が持っていても不思議じゃないだろう?」

 

「ヤな奴だなー! まっ、持ってるなら丁度良かった。早速やってみよーぜ!」

 

「それなんだが、このゲームはマジで別の場所に飛ばされる。しかも中々帰還するのは難しい。ゴンはミトさんに一言断っておいた方が良くないか?」

 

「そっか…確かにそうだね。それに、ホントにそうならオレの部屋でプレイするのは難しいし…」

 

「オレんちもムリだぞ」

 

「キルアんトコは当たり前だろうが! …オレの家もダメだぜ。つーかそんなのんびりゲームできるような環境じゃねぇ」

 

「ま、ここは私の家が1番無難だな。ただ、ゴンは帰って来て早々だから、もう少しのんびりしてもいいんじゃないか?」

 

「そうだね…。折角帰ってきたから後1週間ぐらいはのんびりしようかな? みんな、それでいい?」

 

 

 

 ゴンが問いかけ、全員が了承する。偶には修行を忘れてのんびりする事も必要だろう。休みが明けたら再び闘いが待っている。今のうちに英気を養っておくといい。

 これまでノンストップで走り続けた。だが、これも未来の悲劇を防ぐ為だ。私の目的も後少しで達成出来る。だからこそ、束の間の休息を……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「通してくれない?」

 

 

───それはできん。貴様の力は〝楽園〟にはあまりにも強大だ───

 

 

「もう〝救世主〟はいるんだろ? ならいいじゃないか」

 

 

───それをやったらキリがない。実際貴様の様な奴が後を断たん。仮に全て通したとしよう。さすればあの楽園は終焉を迎えるだろう───

 

 

()()()()はどうなのさ? アイツらも〝救世主〟が出たら動き出すぞ。いや、もう動いてるかもしれん。だが、オレなら何とか出来る」

 

 

───それこそ、〝救世主〟の出番だ。貴様はお呼びでは無い。さぁ、元の場所に帰るがいい。厳しくも、美しい世界へ───

 

 

「チッ。相変わらず融通の利かない奴…。だが、こちとらハイそうですかって引き下がれねーんだよ。()()()()の為にもな」

 

 

───信じて待つ、という事が何故出来ん。特に此度の〝救世主〟は我等にも匹敵する力を持つ。人類が出て来る力をつけるまで、大人しく待っているがいい───

 

 

「待つのは嫌いでね…。そんなオレが、もう()()()()待った。十分だろう。押し通るぜ」

 

 

───()()()()()よ……。貴様も彼我の力の差が分からん程愚かでは無い筈だ……それでもやるか。……仕方あるまい。思い出させてやろう。我こそが〝楽園〟の守護者にして〝門番〟 〝渦を巻く者〟 そして〝深海に潜む神〟 ……貴様の事情を酌んで殺すまではせん。だが、相応の覚悟を持って挑むがいい───

 

 

「クソッタレが…。いつまでもテメェの『お遊び』に付き合ってると思っているなら大間違いだぜ。覚悟すんのはテメェだ。くたばれや、老害」

 

 

 

 

 

 

 

 ───その日、メビウス湖の南西側の限界境界線付近で、人類の常識を覆す程の力の激突が巻き起こった。その力の奔流は人類には観測出来なかったが、近辺の諸島の土地や生態系に多大なる影響を与えた……。


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