それから1週間。ひたすら聞き込みを続け、遂にフラグと思わしきものを発見した。何故これほど迄に時間がかかったかと言うと、該当のNPCがずっと家に篭りっきりだったからだ。周りの話からも繊細な男で、ずっと部屋に篭ったままだという。部屋の外から話しかけても返事は無い。唯一、その男が外出するのが月一で開催される街の文芸サークルの会合だそうだ。
とりあえずその日まで待ち、該当の日にそのサークルに参加してみたが、参加条件は短編でもいいから何らかの作品の持ち込みだった。…仕方がないので、昔の文学の授業の知識を総動員し、何とか書き上げた。内容は所謂パニックホラーだ。別世界の化け物一体がこの世界に紛れ込んだら、と言う内容だ。割と好評だったのでホッとした。リアリティがあって良かったらしい。リアリティも何も実体験だからそりゃそうだ。
ビスケは恋愛ものの大作を書き上げ、絶賛されていたが。
とにかく、サークルに参加し、作品の品評会を行うが、その時例の男が話しかけてきた。何でも作品に感銘を受けたらしい。これはアレだな。一定の評価を得る事でフラグが立つやつだな。
曰く、彼は亡くなった文豪の父親の背中を追って自分も作家を目指していたが、どうにも才能が無い。父が持っていた不思議な葉書で父親からアドバイスを貰っているが、上手く書けない、との事。
そして、何とか上手く作品を書ける方法を教えてほしい。自分が作家として大成できるならば、その不思議な葉書を譲ろう。と言う。
間違い無くこれがフラグだ。不思議な葉書こそが例のアイテムだろう。…しかし、どうしたものか。恐らく、彼の望みは我々が普通に教えても無理だろう。と、言う事は、別のアプローチが必要だ。考える事しばし。すると、唐突に答えが閃いた。
答えは指定ポケットカードのアイテムにあった。つまり、No.42「超一流作家の卵」を渡す事で解決するだろう。…何というか、良く出来ているな。しかし、我々のカード探しもまた振り出しに戻った。仕方ない。またマサドラで魔法の買い出しだな。フラグは立ったはずなので、早く探さないとな。【
◆
マサドラに一旦戻り、買い出しをする。品薄で1日1袋しか買えないが、連日朝早く並び、購入する。3日目で漸く【
カードが出ない間はひたすらビスケとの組手や念修行に付き合った。例の変身もかなり完成が近づいてきている。重力下でも15分は保つ様になってきている。姿形はもう完璧に妙齢の女性となっていて、変身後はスピードやパワーが更に上がっている。人類(女性)のスペックは大幅に超えているだろう。これだけの習得スピードは、やはり彼女のこれまでの絶え間ない鍛錬の賜物だろう。
後は…彼女の言った通り、若返り薬を使うかどうかだな。だが、私は既に持っているからなぁ。その辺をどうするかはちょっと保留だ。
さて、本格的にゲットしたい所ではあるが、これまた困った事に期限が近づいてきた。そろそろ現実に帰還せねばならない。ギリギリまでやってから、後は次の本格プレイの時にゲットする方向でいくか。
出る前にやっておかねばならない事があるからな。
『やぁ。初めまして。私はカームという。ツェズゲラさんだね?』
『……私に【
『あぁ、
『……どういう事だ?』
『
『…それがどうした?』
『そんなに警戒しないでくれ。私が君の取引先に取り引きを持ちかけたくてね』
『ふむ…。カームとやら。お前も雇われ希望か?』
『それがちょっと違う。実は私は今複数人でプレイしているんだが、それでも2本、ソフトが余っていてね。使わないから君の雇い主に条件次第では格安で譲ってもいいかなと思っているんだ。君のボスは集めているんだろう? それにヨークシンのオークションでも狙っているだろう。格安でソフトを手に入れるチャンスだ。一度君から伝えて貰えないかな?』
『……なるほど。しかしそれが本当である証拠は? 偽物を掴ませて大金をせしめようとするのは〝ここ〟や〝現実〟でもよくある手段だ』
『まぁそうなるよな。だから私のファミリーネームも教えておこう。私はカーム=
『……良かろう。私から伝えておく。いつ行けばいい?』
『私はこれから一旦出るから、25日に来てくれ。待っているよ』
『分かった。ではな……』
これで一旦OK、と。あとは相手次第だが、釣れるのを待つか。
◇
「まさかそう来るとはな…。何が起こるか分からんもんだ」
「ツェズゲラ、信じるのか?」
「…『ヨークシンのアンダーソン』を騙る奴はまず居ない。マフィアの重鎮十老頭の中でも別格の力を持つ家だ。仮に騙る奴がいれば奴らは黙っていない。これまた別格の念能力者の集団から草の根分けてでも探し出されて
「まぁ、な。確かにそのウワサは良く聞くが…。ハメられたんじゃないか?」
「仮にそうだとしても、先程の奴にメリットがない。嘘だったらすぐにバレるからな。アンダーソン氏はバッテラ氏とも懇意だから、調べなくとも分かるだろう。どの道出る必要があったから丁度いい」
「なるほどな。ではちょっと予定を早めるという事か」
「うむ。そうなるな。今日が23日か…。少し急ぐか」
◇
さて、一旦出よう。ビスケもそれには同意してくれた。港へ向かい、所長を二回ぶっ飛ばしてチケットをもらい、帰還する。帰りに来た時と同じ様な別の案内人がいて、その人からヨークシンに近い港に飛ばしてもらった。
ヨークシンに着き、久々の自分の家に戻る。ジョン達やクラピカとも会い、ゲームでの様子を伝えた。後でジョンに大富豪の話をしたら、彼は知っていて、ビジネス上で懇意にしているらしい。名をバッテラ、という。そういえばそういう名前だったな。彼かツェズゲラさんが来たら教えてもらう様にお願いし、上手くいけばアンダーソンの利益にもつながるかもしれないので、綿密に打ち合わせをした。
ビスケは出てからは重力等を一旦解放して例の姿で過ごしていた。重力無しの戦闘無しなら恐らく1時間は保つとの事。本人曰く、3時間が目標の様だ。まだ気を張ってないといけないらしいが、しばらく慣れる為にずっと変身を維持する訓練をするつもりらしい。初めて見たクラピカは腰を抜かす程驚いていた。ジョンも顔には出さないが驚いていた様だ。そりゃそうか。私もビックリしたしな。
弟子達はまだ帰って来ない。大方ギリギリまでプレイするのだろう。その方がこちらとしても都合がいいからな。
1度電話があったらしく、ツェズゲラさんから私の所在の確認と、25日の午前中にバッテラ氏と伺うという主旨の内容を告げてきたらしい。よし。かかったな。
1日間が空いたので、アンダーソンの別宅内でのんびりと映画を観ながら過ごす。ビスケも一緒にだ。だが、何かビスケも大人の姿なので落ち着かない。1時間で元に戻るが。…ぶっちゃけちょっと扱いに困る。私もあまり女性の扱いは慣れてないんだ。前の姿の方が気軽に接する事が出来ていた気がするが、同一人物だからできるだけ態度を変えない様にしないとな。
午後、仕事を終えたクラピカと実戦訓練を行う。彼もかなりの実力者になってきている。よって、私とビスケで徹底的に扱いた。ありとあらゆる状況に対応できる様に、様々なシチュエーションで襲い掛かり、対処する訓練だ。後半から死んだ魚の様な目になっていたが、これも彼の為だ。ケガは自力回復や、酷い時は私が回復し、オーラ枯渇や疲労はビスケが癒すから正にノンストップ! 12時間程続けて、明日の仕事に影響が出ると言う事で終了した。
終わった後のクラピカのホッとした表情が印象的だった。
◆
次の日、午前9時に彼等が訪問して来た。ツェズゲラさんと護衛を複数連れてリムジンでやって来た様で、別宅の前まで誘導してもらった。ツェズゲラさんが誘導し、バッテラ氏が出て来た。もう老人と言って良いが、シャッキリしている。
「初めましてかな。私がバッテラだ。君がカーム=アンダーソン殿かね?」
「殿はいりませんよ。バッテラさん。私がカーム=アンダーソンです。御足労いただきありがとうございます。では中へどうぞ」
そう告げて、バッテラ氏を案内する。ちなみにビスケも同席している。私1人でいいと言ったのだが、邪魔しないからとくっついている。最近はゴスロリファッションの他にもドレスなどを好んで着ている。今日はドレスだ。
「ふむ。奥方かな?」
「いえ、違いま」「オーッホッホッホッ! 素晴らしい慧眼ですわね! でも残念ながら違うんですの。今は一緒に暮らしてますけどね!」
いや、間違っては無いが盛りすぎだろ! 滞在させてるだけだからな! 誤解をまねくだろ! と、目で訴えるが、ビスケは気づかないフリをしている!
「それは失礼な事を。しかし、カーム君もこんなに美しい女性を側に置いておくとはスミに置けませんなぁ」
「あらあらあら、見る目のある方だこと! そう言って頂けるとは光栄ですわぁ!」
オーッホッホッホッ! と上品に高笑いするビスケは絶好調の様子だ! …もう仕方ない。さっさと用件を済ませよう。
「ゴホンッ! バッテラさん。本題に入りましょう。ツェズゲラ氏からお聞きでしょうが、再度お話しします。私は現在3本のグリードアイランドのソフトを持っています。内1本は使用していますが、後の2本は使っていない。…こちらです。これからも使用する事は恐らくないでしょう。しかも最大16人プレイ出来るソフトの状態だ。オークションにも7本流れますが、高額になる事が予想される。私は先に貴方にこれを格安で譲ろうかと思いましてね。…定価の半値でどうですか?」
「ツェズゲラ、どうだ?」
ツェズゲラさんがソフトをセットして起動させる。その為にゲーム機は用意しておいた。しばらく調べていたが、調べ終わったのかこう言った。
「……2本とも、ほぼ本物に間違いありませんな。加えて、ソフトのみの状態というのも価値が高い」
「………条件は何だね?」
「気付きましたか。コレを格安で譲る代わりに、私から貴方に
「…いいだろう。話してくれたまえ」
「では……。バッテラさん。貴方程の大富豪が、このゲームを金に糸目を付けず血眼で探して、更にハンターを雇ってクリアを目指す…。私はその理由が知りたい。嘘偽りなく正直に教えて貰えば、私もコレを一つ30億で譲りましょう」
「!! それは……」
「答えるもここで帰るも全ては貴方次第。よくお考えください。ただし、お帰りになるのであれば、私はこの2本を売りに出す気は全く無いとだけ言っておきましょう。あぁ、勿論、ここで聞いた話は他には絶対に漏らさぬと誓いましょう。なんなら誓約書も書きますよ」
「…相場の3倍で買い取るが?」
「いや、私としては金はそこまでいらないのです。大事なのは先程の条件だ。純粋に興味があるのですよ。よって、いくら積んでもこの条件は変更しません」
「………少し…時間をくれないか?」
「いいでしょう。我々は少し席を外します。15分後に戻りますので、その時答えをお聞かせください」
そう伝えて、我々は席を立とうとしたが、バッテラ氏が引き留める。
「……待て! ……やはり、君に話そう。だが、聞くのは君だけだ。他の者は退室してくれ」
「バッテラさん! それはあまりにも危険です!! お考え直しください!!!」
ツェズゲラさんが止めに入る。まぁ当たり前だ。しかしバッテラ氏は構わず続ける。
「金を持つという事は力を持つ事と同義だ。こういう時の為に私は常に誓約書を持参している。ツェズゲラ君。君にも使わなかったが、こういう時には役に立つ」
そう言って、懐から紙切れを取り出したが…。念が込められているな。なるほど。そう来たか。
「私の秘密を知りたがる者は多い。そしてそれを使って私を引き摺りおろそうとする輩もな。カーム君。申し訳ないが、君の事はアンダーソンの縁者という事を差し引いても、やはり信用出来るものではない…。57億という値段は決して安くは無いのだ。その十分の一でも人が何人も死ぬ…。今、ここで話しても良いが、聞くのであればこの誓約書にサインを書いて貰えるかね? 私も相応の覚悟を持っている。これを拒否するのであれば、仕方ない。諦めよう」
ふむ。何々………。色々と複雑に書いてあるが、簡単に言えば、バッテラ氏に危害を加えない事と秘密遵守だ。守れなければ死を以って償え(要約)、か。うーん。これを作った奴は結構な実力者だな。しかし、ここまで来たらもう安心だな。
「いいでしょう。では」
サラサラっとサインする。すると、誓約書の文字が飛び出して、私の体内に吸収された。…心臓の血管辺りに纏わりついたな。誓約の内容を破れば、これが血管を破るとかそんな感じだろう。良くできている。
私にはこの手のは効かないから申し訳ないが、喋る気もないからセーフだろう。
「ほぅ…臆せず、躊躇いなくサインするか。……分かった。ツェズゲラ君。コレを預かって、そのまま部屋の外で待っていてくれ」
「なるほど…。これなら安全が担保されますな。分かりました。出ておきましょう。皆、行くぞ」
「ビスケもすまないが外で待っていてくれ」
「分かりましたわ」
そうして我々2人を除いて全員がゾロゾロと退出する。
「ようやく聞けますね。ではお話ください」
「うむ……。こうして差し向かいで秘密を話すとなると気恥ずかしいものがあるな。しかし君はあの誓約書にも迷わずサインした。キチンと話すのが誠意と言うものだろう…。まず、これを…」
そう言って、懐からペンダントを取り出した。中には若い女性の姿があった。
「……お孫さんですか?」
「いや……私の恋人だ」
「! 恋人…ですか」
「あぁ…。名をエリナ、と言う。だが、今は意識も無く死の淵を彷徨っている。事故でな」
「それは……。ですが、貴方程の富豪ならば何とかならなかったのですか?」
「勿論、八方に手を尽くした。だが、如何なる手段をもってしても、どんな名医でも回復は叶わず、現状維持が精一杯だと言われた…。エリナはいい女だった。遺産目当てと思われるのが嫌だったんだろうな。私のどんな高価な贈り物もつき返されたよ。私の拙い手作りの写真立てなどを喜ぶ様な……。お互いさえいれば他に何もいらない。資産を全て処分し、一緒になろうと誓い合った矢先だった…」
「………」
「そんな時、
「そうだったんですね……」
「……君が何を思って理由を知りたがったのかは分からない。それこそ、命を賭けてまで…。だが、私の理由は以上だ。満足したかね?」
「……バッテラさん。安心しましたよ。では、私が理由を知りたがった訳を話しましょう…。単刀直入に言います。
「!? 馬鹿な……! この10年で如何なる手段も無理だったのだぞ!?」
「そうでしょうね。だが、私は違う」
「誰だってそう言うのだ! だが無理だった!!」
「信じるか信じないかは貴方次第…。だが、私の能力や所持するアイテムで間違い無く可能だ。…もしそれが出来たなら。貴方は私に何をしてくれますか?」
「……もしそれが叶うなら、私は君にほぼ全ての資産を譲ってもいい。元々処分するつもりだったからな。だが…本気で可能なのか?」
「可能ですよ。言葉で言っても信じて貰えないでしょうがね。では、出来たなら資産の話に加えて私に『協力』して頂きたい。また、貴方も先程の契約を逆にやってもらう事になる。それこそ、みだりに触れ回っては困る力なのでね」
「本当にできるならいくらでも守秘義務は守ろう。命を賭けてでもな。協力もいくらでもしよう。……同じ様に言った医者や能力者もいたが、結局匙を投げていたがね」
「ま、こればかりは見ないと信じませんよね。では、早速準備だけしてください。彼女を病院から、貴方の邸宅か、誰もいない個室に移動させる事を。貴方ならすぐにでも可能な筈だ。私はそこに貴方と2人きりで行き、彼女を目覚めさせる。若返りはその後でいいですね?」
「……いいだろう。やってみてもらおうか。私にはデメリットがあまり無いからな」
「では、これからすぐに取り掛かりましょう。まず……」
◆
我々はその後、ソフトを渡したと見せかけて一旦解散した。バッテラ氏は半信半疑だったが、とりあえずエリナさんを邸宅に移送させた様だ。私はその後、教えてもらった場所へ単身で赴き、バッテラ氏直々に案内される。周りには誰もいないが、医師がかなり離れた場所で待機しているのが分かる。
エリナさんは邸宅の一室で、まるで眠る様にベッドに横たわっていた。ただし、さまざまな機械に繋がれていた。
「紹介しよう。彼女がエリナだ。外見は眠っている様にしか見えんが、今もいつ亡くなってもおかしくは無い状態だ。所謂脳死状態に近い。怪我などは身体の見えない部分だが、内臓関係が絶望的に損傷していて、生命維持装置で何とか長らえている…。ここに運ぶのも本来は厳しいのだ。君が失敗すれば、即病院に返さなければならない。だから、やるなら早くしてくれ」
「分かりました。では、まず診せて貰いましょう」
近づいて彼女を診る。…確かにこれは脳死状態に近いな…。それに、損傷もいつ死んでもおかしくない。だが、魂はまだ残っている。彼への想いがそうさせたか。これなら何とかなるか。
「よし。では始めます」
〝聖光気〟状態に移行する。そして……人を治癒する〝奇跡〟を強めにエリナさんへ行う。見る間に損傷が回復してゆく…。そして、ケガの治療が完了した。だが…全てが終わったわけではない。
「終わりました。ケガは100%治しました。脳死状態すら元通りです」
「本当か!? ……では、何故彼女は目覚めない?」
「彼女が瀕死になっていた原因は他にもある、という事です。バッテラさん。これは〝呪い〟だ。よって、更にこれから除念を行います。そろそろ、出てくる筈ですよ。もしかしたら貴方にも少し感じてしまうかもしれないので、離れてください」
バッテラ氏は訳がわからない顔をしながらも離れてくれた。…そろそろだな。
しばらくして、彼女の中から黒いオーラが噴き出してきた。……複数あるな。これじゃ苦しむ訳だ。寧ろ今までよく生きていたものだな。余程エリナさんは精神力の強い女性なのだろう。
──憎い…憎い…憎い…! アタシの金…! アタシの…!──
うん。何となく事情が分かるな。しかしそれをこういう手段にでるのは間違ってる。複数の怨念じみたオーラがまとまって叫んでいるな。これは割と強い。放置してたらまた同じ事にすぐなるだろう。よって、これらを消滅させよう。
私は手をかざし、〝呪い〟に向かって〝死〟の概念を纏った炎をぶつける。ニーズヘッグのやってた技だ。
──ぎゃあああぁ! 熱い! 熱い! 消える! 消えてしまう…──
そう断末魔をあげて彼等(?)消えていった。感触的には全部死者じゃないな。生者の念、つまり生霊だ。念能力かどうかは分からんが。恐らく事故もコイツのせいだろう。
そして、無事に〝呪い〟は死んだ。……この術者はどうなっただろうか。オーラの大部分が死んだ訳だから、最低でもただじゃ済まないだろう。まぁ10年も人を苦しめた報いだと思って甘んじて受け入れろ。
「…終わったのか…?」
「えぇ。終わりましたよ。もしかして、少し見えましたか?」
「……いや、見えはしなかったが…感じた。何か悍ましいモノが取り憑いていたのか?」
「えぇ。いわゆる生霊ですね。それが〝呪い〟となってました。複数いましたよ。彼女もよく生きていたものです。事故もこれが原因でしょう。しかし、今全て消滅させました。もう安心ですよ」
「そっ、そうか…」
フラフラとエリナさんに近寄るバッテラ氏。すると、10年目覚めなかったエリナさんの瞼が開き始める。長い眠りからの目覚めだ。
「んっ……。ここは………? バッテラ…?」
「エ、エリナ…! エリナ〜〜っ!!」
「……長い…長い夢を見ていたわ………。ふふ……相変わらずいい歳して甘えん坊なんだから…」
ここから先は私は見てはいけない。静かに退室するとしよう。愛の形は様々だが、どんな形であれ美しく、優しい。
外で待つ間、バッテラ氏達の事を考える。……羨ましいものだ。私も、将来そう想える相手が出来るだろうか。ふと、ビスケやカルトの姿が脳裏に浮かんだ。だが、私は……どう繕っても肉体的には怪物だ。そして、それを弟子達や彼女らに伝える事を恐れている。だが、今のままではいけない。私も伝えなければ。それで拒絶されるのならそれは仕方のない事だ。卒業を以って伝える事にしよう。
卒業は……