アンブレイカブルハンター   作:エアロダイナミクス

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89、襲撃前夜

 

 

 

地下競売(アンダーグラウンドオークション)のお宝は全て厳重に金庫に管理されている。よって、狙うのはお宝が会場に運ばれて競売に入る直前だ。フェイタン、フランクリン、シズクは現地強奪班だ。マチ、ノブナガ、ウボォー、シャルは会場を固めろ。お宝を奪って客を殺ったら合流して脱出しろ。フィンクス、コルトピ、パク、ボノレノフ、ヒソカ、リプルはオレと待機だ」

 

「脱出の方法は?」

 

 

 金髪の優男、シャルナークが問いかける。

 

 

「気球を使う。お宝を積み込んだら全員そこに乗れ。当然追いかけてくるだろう。引きつけてから殺れ」

 

「へっ、楽しくなってきやがったぜ! 全員殺っていいんだよな?」

 

 

 ウヴォーギンという名を持つ男が吠える。

 

 

「当然だ。塵も残すな」

 

「けっこー大胆に行くんだね」

 

「そうだ。不満か?」

 

「いや、これ以上ないってぐらい素敵なプランだよ、団長」

 

 

 そこに、着物の女、マチが水を差す。

 

 

「団長……あたしは反対だね。やっぱりこの仕事は嫌な予感がする」

 

「ほう……〝勘〟か?」

 

「そう、〝勘〟だ。でも今までにないぐらい嫌な予感だ」

 

「いい加減その弱腰やめるね。本気で殺されたいか?」

 

 

 黒髪の小男、フェイタンの発言を発端として空気が歪み始める。クロロは少し考える様子を見せ、やがて喋りだす。

 

 

「待て。マチの勘はよく当たる。仮にマチの勘が本物だと想定した場合、十中八九オレ達の行動がバレて待ち構えられている、といったところか」

 

「おいおい…作戦は今聞いたばっかりだぜ? そんなんがリークされる訳ねーだろ!」

 

「普通はそうだ。だが…例えば敵に予知能力の様な能力を持つ者がいたとしたら?」

 

「う〜ん…。そんな能力があんのか?」

 

「あくまで仮定だ。しかしゼロではないだろう」

 

「そりゃヤベェな…。向こうは準備万端で待ってるってか」

 

「ケッ! だったら待ち構えてる連中全部蹴散らせばいいだろが!!」

 

 

 侍風のノブナガの発言にウヴォーギンが反発する。

 

 

「その通りだ…と言いたいところだが、万全を期そう。作戦を少し変更して明日の朝伝える。それでいいか? マチ」

 

「……わかったよ。団長に従う」

 

「では、全員明日に備えて休んでおけ。ただしアジトからは出るな。不審な事があったら報告しろ。以上だ」

 

 

 

 クロロは団長としてそう締めくくると、静かに読書を始めた。団員はそれぞれの場所で寛ぎだす。古参のメンバーは気づいていた。予知能力などよりも余程現実的である可能性を。すなわち、〝裏切り者〟の存在だ。

 団長が命令変更を決定したのは、マチの勘を重要視しているということ。そしてアジトから出るな、としたのは、〝裏切り者〟によるリークの可能性を警戒したのと、〝裏切り者〟を動かさない為に他ならない。

 団員はそれぞれ寛ぎながらも警戒していた。怪しいのは古参以外のメンバー。その中でも特に新しいナンバーの者。即ち、No.8のシズク、No.4のヒソカ、()()()()()のリプルである。しかし、シズクは天然で毒舌ではあるが、旅団の掟にこだわるところもあり、裏切り者とは考えにくい。

 やはり怪しいのは後の2人である。ヒソカは笑みを浮かべながらカードを切っている。以前にも増して満面の笑みだ。また、1年前に団長の肝煎りで入団した全身白スーツと白帽子の男であるリプルは、かなりの実力者で真面目な男だ。だが、全員彼の本音を読めるほど親しくはない。彼は今のところは穏やかな笑みを浮かべて座っている。

 

 

 スフィンクスの様な被り物をした男、フィンクスが2人に声をかける。

 

 

「よォ。2人とも久しぶりだな。調子はどうだ?」

 

「ふふ…急にどうしたんだい? ボクはいつも絶好調だよ♣︎」

 

「ケッ。だろうな。当初の予定ならオレ達は待機だ。だが、どんな任務が来てもいいように準備しとけ」

 

「分かってるよ♠︎ ねぇ、リプル❤︎」

 

「…あぁ。そうだな。フィンクス、心配しなくてもいい。どんな状況でも私はすぐに動けるよ」

 

「フン。そうか。2人ともトチるなよ」

 

 

 そう言って2人の元を去るフィンクス。だが、今のは警告だ。オーラがそう物語っている。言葉の裏の威圧を受けた2人は依然として態度が変わった様子は見られない。むしろヒソカなどは満面の笑みを更に歪めている。リプルはそれを見ながら苦笑いをしている。

 

 

 場は何とも言えない様な雰囲気が漂う。全員が押し黙ったまま、ただ時間だけが過ぎてゆく。辺りはすっかり暗くなり、夜の気配が忍び寄る。だが、全員動く気配がない。

 重苦しい空気の中、静寂を破ったのはリプルだ。彼は立ち上がって団長に話しかける。

 

 

 

「団長、提案がある。明日はかなりデカい仕事だ。私は今のところ待機組だが、万が一が無いように団長に能力を()()()()()()()。そうすればより盤石の態勢で明日を臨めるだろう」

 

 

 クロロが本から顔を上げ、リプルを見つめる。

 

 

「いいのか? お前は能力が使えなくなるぞ?」

 

「団長は私の能力も知っているだろう。それに、能力が無くても私は問題ないからな」

 

「フ……そうか。ではその言葉に甘えるとしよう。オレについてこい。シャル、パク、お前らも来い」

 

「「了解」」

 

 

 4人で広場とは別の一室に向かう。その様子をヒソカは笑みを浮かべながらも鋭い目つきで見つめていた…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかし、団長。私の能力は()()()()()だ。それでもいけるのかな?」

 

 

 リプルが移動中に話しかける。

 

 

「そのタイプは今まで無かったが…可能だ。ただし、発動はオレの本を開いた状態のみになるな」

 

「なるほど…それはちょっと微妙だな」

 

「そういや、リプルの能力って何さ」

 

「あぁ、簡単に言えば再生能力だ。どんな怪我、致命傷でも瞬く間に復元する」

 

「はぁ? 何それ!? そんなヤバい能力ってアリ!?」

 

「あるからこうしているんだ。だが今の話だと、団長に貸した場合は本を開かないと発動しなくなるからな。だから微妙だ」

 

「いやいやいや、充分ヤバいでしょ! 団長無敵になるじゃん!」

 

「そうね…そんな能力、聞いたことがないわ」

 

「これからの事を考えると、私が持ってるよりも団長が使った方がいい。私は何とでもなるからな」

 

「フ……頼もしいな。だが、助かる。この仕事が終わったら返そう」

 

「はぇーすっごい自信! リプルって意外と自信家なんだね」

 

「私も伊達に修羅場を潜ってないからな……おっ、着いたか」

 

 

 廃ビルの一室、そこそこの広さの部屋に到着した。以前は会議室か団欒ルームかといったところだが、今は見る影もない。クロロはボロボロのソファーに座り、同じくボロボロのテーブルの上に念で作った本を出す。表紙には手形がある。シャルナークとパクノダは、団長の両側に控えて立っている。準備が整ったところでクロロが話し出す。

 

 

 

 

 

「まずはお前の能力名を教えて貰おう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかしよォ、マチも心配症だなァ」

 

「………」

 

「おい! マチ、聞いてんのか?」

 

「…ん? あぁ、考え事してた」

 

「何だァ? まだなんかあんのか?」

 

「さっきからずっと違和感があるんだ…。何かはわからない。小骨が喉に引っかかってる感じ」

 

「あぁ? いい加減にしろよテメー!」

 

 

 フィンクスとノブナガがマチに対してキレ始める。だが、マチはずっと考え込んでいる。

 

 

「まぁ待て。マチ、なんでもいいからその違和感とやらを話してみろ」

 

 

 傷だらけの大男、フランクリンが仲裁し、マチに話す様に促す。

 

 

「……じゃあみんなに聞きたいんだけど…あたし達は全部で13人、だよね?」

 

「ハァ? 当たりめーだろ! それがどうした?」

 

()()()()()()?」

 

「うん? 団長入れたら14人じゃねーか…」

 

「そこがおかしい。それだと片足が余る」

 

「……そう言えばそうだな…。だが、団長が決めた事だろ?」

 

「そう言われるとそうなんだけど…あの完璧主義者の団長が、そんな事する?」

 

「……確かにな。今まで気にもしなかったが、かなり不自然だ。普通なら抜け番で入るからな。そして、そうなった原因は…」

 

「「No.13のリプル」」

 

 

 マチとフランクリンが同時に結論を出す。

 

 

「まさか…奴が〝裏切り者〟か!? もしそうだとしたらヤベェぞ! 今2人は付いてるが、団長は手薄だ!」

 

 

 メンバーはそれぞれ顔を見合わせ、団長達が向かった部屋に()()()急行した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「能力名は【地獄を見る男(ヘル・シー・マン)】だ」

 

「制約と誓約を含めた特徴は?」

 

「先程言ったように、強力な再生能力だ。細胞を操作して致命傷からも復帰できる。操作系能力だな。制約として、傷の程度によってオーラの使用量が増える事と、超回復はできないという事、そして、生物への操作系能力が一切使えなくなるというデメリットがある」

 

 

「……いや、それデメリットじゃなくない?」

 

 

 同じ操作系のシャルナークが思わず突っ込むが、団長は構わず続ける。

 

 

「想像以上の能力だ。ずっと欲しくなるな…。では、この本の手形にお前の手を合わせろ」

 

 

 

 そう言って右手に持ったまま本を差し出す。リプルはゆっくりと手を伸ばし……手形に触れる直前に()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!」

 

 

 

 

 瞬時に嫌な気配を感じ取った側の2人が動き出そうとするも、背後から針の様な物で刺されて動けなくなる。崩れ落ちる瞬間、《凝》で見るとリプルからオーラで象った尻尾の様な物が2本伸びていた。だが、気づいた時にはもう喋る事も出来ない。様々な後悔が押し寄せる2人だが、団長の盾にすらなれず、そのまま意識が途切れた。

 

 

 

 クロロは瞬時に嵌められたと悟った。コイツこそが裏切り者だと。どうやったかは分からないが、偽の記憶まで差し込まれていた事も理解した。だが、リプルは既に手形を合わせている。()()()()()()()。中断はできない。そして何より、凄まじいオーラが弾力を持つ束となってクロロ自身を拘束している。いつの間に拘束されたのか全く分からない。分かることと言えば、抵抗出来ないということだけだ。

 そして、【盗賊の極意(スキルハンター)】は、普段はダウンロードに時間はそれほどかからないが、何故か今回は時間がかかっている。コイツの狙いは何だ。盗む時間が終了するまでクロロは質問することにした。

 

 

「……何が狙いだ?」

 

「簡単な事だ。君に私の能力を奪って欲しかった。この呪われた力をね」

 

「…オレに押し付けようという事か。それ程の力を」

 

「身の丈に合わなくてね。私は人間らしく生きたいのさ」

 

 

 問答を繰り返す中、手形から呼び込まれる圧力がクロロを蝕む。尋常な能力ではない。クロロは初めての感覚に思わず嘔吐する。身体が書き換えられる様な感覚と凄まじい圧迫感が襲う。常人なら破裂しているところだ。

 

 

「………貴様、何者だ。狙いはオレの命か」

 

 

 クロロが朦朧としながらも質問する。既に彼の肉体は限界に近い。後少しで文字通り破裂するだろう。そんな中、質問できるこの男はやはり常人ではない。

 

 

「いや、殺さない。完了するまでは。だが…()()()()()()()()()()()()()。これ以上は君が破裂する。私の能力が移った気配も無い。…そして、タイムアップか」

 

 

 

 一旦手形を外し、再びリプルは白スーツ姿に戻る。次の瞬間、団員が大挙して部屋に乱入してきた。

 

 

「リプル!! 何をしている! 団長はどうした!!」

 

 

 彼が立ち上がる。既に団長も気絶している。その光景を見て、全員が納得した。やはりコイツが〝裏切り者〟だったと。その〝裏切り者〟は平然とした様子で彼らに語りかける。

 

 

「残念だった…。本当に…。だが、そこまで落ち込んではいない自分もいるから、これも皆のおかげだな」

 

 

 

 ブチッ

 

 

 

 ほぼ全員の堪忍袋の尾が切れる音が聞こえる程に全員がキレた。

 

 

 

「「「「ブッ殺す!!!」」」」

 

 

 

 飛び出す直前、フィンクス、フェイタン、ノブナガ、ウボォーギンが急に倒れる。そこから彼らは動かなくなった。リプルはいつの間にかすぐ側に立っていた。

 

 

 

「君達はすぐにでも全員始末出来るが、それをやってしまうと少し不都合があってね。心配しなくても殺しはしないよ。()()

 

 

 

 4人同時にやられた事で、残りの旅団員は散開しようとした。しかし、気づいた時には次々に倒れてゆく。全員一流の使い手であるにも関わらずだ。

 

 

 

「いい判断だ。だが、私からは逃げられない」

 

 

 

 マチが唯一遠くに脱出できた。やはり予感は本当だった! このままじゃ幻影旅団(クモ)は壊滅する! 態勢を立て直して反撃しなければ、どうして、自分だけでも、などの、様々な疑問や考えが走馬灯の様に浮かぶ。考えがまとまらない中、凄まじいオーラの《円》が展開される。次の瞬間にはリプルは目の前に居た。

 

 

「あ…」

 

「どうも君は〝勘〟がかなり鋭い様だね。念入りに対処しておこう」

 

 

 

 

 

 

 

 そして旅団員は、気付いたら誰も抵抗出来ないまま、()()意識を失った……

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

「……やっぱりキミはイイ!! 最高だよ❤︎ まだこんな事が出来るなんて……ボクもまだまだだねぇ♣︎」

 

 

 奇術師は気絶した()()から目覚め、倒れている団員を掻き分け、クロロに向かう。

 

 

「さて…キミが何をしようとしたか、なんとなく分かったよ♣︎ でも、キミには無理さ♦︎ ()()()()()()()()()()()()()()()ね❤︎」

 

 

 奇術師の独白は続く。彼はクロロにたどり着き、ソファーに腰掛ける。そして、クロロを撫でながら語りかける。

 

 

「クロロも災難だったねぇ…〝あんなの〟に目をつけられるなんて♠︎ キミ程度じゃ彼を受け止める事なんて不可能さ♣︎ やっぱりこのボクじゃないと❤︎ ま、生きてるだけでも儲けものだと思えばいいよ♠︎ 多分忘れてるだろうけどさ❤︎」

 

 

 奇術師は笑みを浮かべ、クロロにオーラを伸ばす。

 

 

 

「おっ…あったあった♣︎ 劣化コピーぐらいは出来たみたいだねぇ…優秀、優秀❤︎ でも、キミじゃ使いこなせないだろうから、ボクがありがたく頂いてくよ♦︎ 明日から頑張ってね♠︎ ボクの考えだと全員死ぬケド❤︎」

 

 

 

 禍々しいオーラがクロロから力を引き出す。ひとしきり目当ての能力を奪った奇術師は満足した様に壮絶な笑みを浮かべる。

 

 

 

 

「【真夜中のサーカス(シルク・ド・ミニュイ)】開演日までもう少し…楽しみにしていてね… ♣︎ それまではキミのショーを観客席から見物させてもらうよ、『壊れない男(アンブレイカブル)』❤︎」




カーム…凪
リプル…さざ波


という安直な命名。

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