アンブレイカブルハンター   作:エアロダイナミクス

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91、沼

 

 

 

 

「…追ってきているね。アレが団長の言ってた『陰獣』かな?」

 

「ようやく姿を現したか! 待ってたぜェ!!」

 

「警戒しろ。奴らの能力はかなり強力だ。複数で対処するぞ」

 

「あぁ!? ここまでストレスためて、それはねーぜ!」

 

「先ほどのように撤退する羽目になるよりはマシだ。我慢しろ」

 

「チッ! しゃーねぇなァ…わかったよ。まったく、覚悟しろよ!」

 

「おーこわ。相手が可哀そうになるね」

 

「お宝のありかとか知ってそうだね」

 

「ま、あとはアイツらに直接聞くね」

 

 

 

 

 

 

 

 ──ヨークシンの東 ゴルドー砂漠

 

 

 『陰獣』9名で合流し、幻影旅団と相対する。旅団も気球から降りて、砂漠の一角の岩石地帯で向かいあった。

 

 

 

 

「よォ、お前らオークショニアやスタッフ皆殺しにしといてズラかろうとは太ぇ奴らだな。大人しく付いてくるか、ここで死ぬか選ばせてやるぜ」

 

「お前ら『陰獣』か?」

 

「そうだと言ったらどうする? 逃げるか?」

 

「お前ら、客と宝はどこにやった?」

 

「これから死ぬ奴に言うわけねーだろ。バカが」

 

「じゃあ喋りたくなるようにしてやるね」

 

「結構好戦的だな。うん」

 

「構えろ、来るぞ」

 

 

 

 

 そこから、一方的な蹂躙劇が始まった。『陰獣』も弱くはない。癖はあるが、マフィアの最強戦力である。プロの中堅ハンター以上の実力はある。

 ただ、相手が悪すぎた上に、全員が全力でかかってくるからたまったものではない。何名かが足止めしている隙に「梟」が【不思議で便利な大風呂敷(ファンファンクロス)】で纏めて閉じ込めようとするも、拘束役が纏めて吹っ飛ばされて肉片になる始末だ。毒を注入しようと飛びかかるも、糸や刀で細切れにされる。戦闘と言うよりは、正に蹂躙と言った方がいい内容だった。

 

 

 

 

 そして、旅団は気づいた。「梟」が運び屋だと。

 

 

 

 

 ──数分後、「梟」以外の『陰獣』は全滅した。「梟」も糸で厳重に拘束され、ズタ袋を被せられている。

 

 

「あっけなさすぎね」

 

「でも、コイツら9人しかいなかったよ?」

 

「と、いうことはソイツが客を消した奴だな」

 

「まだわかんないけどね。とりあえずコイツに聞いてみようか」

 

「………」

 

 

 

 

 旅団はその場で「梟」への尋問を始める。拷問役のフェイタンがすぐさま彼の爪を剥がし始める。「梟」はすぐに吐くだろう。これから彼を待つのはただ苦痛のみである。そして、終わったとしても解放はされない。その能力すら奪われる事になるのだ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待て! クラピカ! 今行ってどうする!」

 

「奴らがいる。私にはそれだけで充分だ」

 

「死ぬぞ! お前も見てただろ!!」

 

「関係ない」

 

「おい! ゴンもやめろ! それは無謀通り越して自殺行為だぞ!!」

 

「アイツら…あんなにカンタンに殺して…。拷問までかける必要ないじゃないか!!」

 

「だーっ!! 今行ったら仲良く死体の仲間入りだろが! 目ェ覚ませ! カーム! 何とかしてくれ!!」

 

「ふむ……やっぱりこうなったか。仕方ない」

 

 

 

 憤り、今すぐ敵地に乗り込もうとする2人の前に、突然花畑が広がる。もちろん幻覚だ。だが、そのあり得ない光景を見て2人も冷静になれたようだ。

 

 

 

 

「さて、落ち着いたかな? …クラピカ、君は行ってどうするつもりだった? 君の目標は玉砕する事か?」

 

「………」

 

「君もだ、ゴン。行ってどうするつもりだった?」

 

「オレは……あの人を助けようと…」

 

「勇気と無謀は違う。彼らはその道のプロだ。当然ああなる事も考慮の内だ。君にはそれがあったか?」

 

「……だからと言って…!」

 

「君達の行動は最も愚かしいものだ。一時の感情で暴発すれば、生命がいくつあっても足らん。時にはそれが必要な時もあるが、それは今じゃない。第一、死ねればまだいい方だ。あの様に拷問にかけられて仲間を危機に晒す事も充分考えられる。……しっかり見ておけ。あれが生命を懸けた闘いで負けた者の姿だ」

 

「………ごめんなさい」

 

「……すまなかった」

 

「分かればいい。奴らはまたきっと来る。これで諦めるような奴らではない事は分かった筈だ。クラピカよ、怒りはその時までとっておけ」

 

「……承った。作戦通りに、だな」

 

「その通り。では戻ろう。奴らが動き出す前に」

 

 

 そうして、その集団は姿を消した。次に彼らに遭遇した時こそが、死闘の開始だと理解しながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「梟」から情報を得た旅団員は、一旦アジトに戻り、首尾を報告する。お宝は見つからなかったが、手掛かりは掴めた。団長は早速「梟」から【不思議で便利な大風呂敷(ファンファンクロス)】を奪い、自ら旅団を率いてお宝の強奪に向かう。「アンダーソン」を警戒して、全員態勢だ。最後の「陰獣」も待ち構えているだろう。油断なく、確実に奪りに行く。時刻は夜8時半。まだまだヨークシンの長い1日は終わらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バカな!?()()()()()()()()()()!!?」

 

「それが…別の会場で開催していると連絡が入っています…」

 

「ふざけるな! 『商品』はこちらに移した筈だ!! 奴らは『何』を競売にかけている!!」

 

「それについてはアンダーソン様からメッセージを頂いています…こちらです」

 

 

 ──諸君、ごきげんよう。どうやら襲撃があるとの情報がこちらにも入ったので、一旦会場を移してオークションは予定通り開催した。今も開催中だ。事後承諾になって済まないね。だが、君らも同じ事をしたんだから構わんだろう。そちらにある商品は全て『贋作』だ。こんな事もあろうかと用意しておいた。これで諸君を含めた我々の威信は守られたな。昼にも言ったが、心配なら身の回りを固めておけ。自分の身は自分で守る。マフィアじゃなくとも基本だな。私は現在競売の真っ最中だ。本日は連絡は繋がらないと思ってくれ。諸君の健闘を祈る。ジョン=アンダーソン──

 

 

 

 

 

 

「〜〜〜!! あんの小僧め〜〜!!!」

 

 老頭の1人がジョンからのメッセージをビリビリに破き捨てる。

 

「不味いぞ!! 予言では今日開催したら我々全員が死ぬ!! 急いで対策せねば!!」

 

「『陰獣』はどうした!? すぐに呼び戻せ!!」

 

「それが…全員全く繋がりません!」

 

「クソっ!! やられたか!! 肝心な時に使えん奴等だ! …そうだ、ゾルディックを呼べ!!!」

 

「もうやっておる!! じゃが、どんなに急いでも今日中には間に合わんとの事だ!」

 

「……『陰獣』が死んだと仮定すると、襲撃者は奴らから情報を得て、『贋作』の方を狙って来るんじゃないか!?」

 

「……儂はまだ死ねん。あと3時間で日が変わる。すぐにでもここを出て、予言を成就させない為に、競売を中止させよう!」

 

「馬鹿が。すぐに出るのは当然だが、アンダーソンが主催していて、しかも別会場で競売を行っているなら最早我々には止められん。どうせスタッフ諸共奴らの幹部連中が仕切ってるだろうからな!」

 

「武力行使は?」

 

「それこそ最悪の選択だ。そもそも武力では奴等には勝てん。200年以上も国を武力で支配していた奴らだぞ。第一、それをやったら我々が悪者になる」

 

「〜〜〜仕方ない。我々で直接会場に向かって止めるしかない」

 

「それがベターか…。薄い望みだがな。それに賭けるしかあるまい…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 9人の老頭達の誤算は、競売が行われているという情報を遅れて受け取った事であった。もちろんこれはジョンがワザと遅らせた。彼らが受け取ったのは、オークショニアとスタッフが皆殺しにされ、客を安全の為に移動させたという部分のみだ。ジョンは新会場を厳重に封鎖し、競売中は絶対に情報が漏洩しない様に蟻の子一匹通さない体制を整えた。また、ビル周辺に待機している護衛等も解散させる徹底ぶりだ。流石に十老頭であり、主催者であるジョン自らそう言えば、周りの護衛も従わざるを得ない。

 マフィアの世界は綺麗事ばかりでは回らない。気を抜けば蹴落とされたり裏切られたりする事など日常茶飯事だ。ジョンはその中のトップだ。それぐらいの事は平気でやる。むしろ、出来ないようじゃファミリーを守るドンは務まらない。さもなければ蹴落とされるのは自分達だからだ。

 これで少なくともアンダーソンの面子は保たれる。ジョンにとってはハッキリ言って他の老頭など知ったこっちゃない。この後はこれから控える幻影旅団との抗争が待っている為、そちらに集中しようと手早くオークションを進めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 老頭達が準備を終えてロビーまで到達した時、奇妙な大男と侍風の男が現れた。護衛達は警戒し、銃を抜き警告を発するも、彼らは構わず進む。遂に至近距離まで到達し、護衛達も先頭の大男に発砲するも、まるで応えた様子がない。瞬時に念能力者だと判断し、護衛の念能力者が前に出るも、片っ端から紙切れの様に引きちぎられていく。その間、侍風の男は後方にいる何人かの首を気付いた時には切り落としていた。

 1分後、ホテルマンや受付、一般客以外をあらかた始末した彼らは無言で撤退する。彼らはホテル前のマフィアの車を強奪し、逃走を開始する。当然ホテル内は大騒ぎになり、すぐさま通報を受けたパトカーや連絡を受けた老頭達の部下のマフィアが2人の車を追跡する。

 

 

 

 

 

「おーおー。追いかけてくんぜ。ご苦労なこった」

 

 

 背後には大量のパトカーと黒塗りの車が迫っている。

 

 

「チッ、はえーな…。だからテメーと組むのは嫌なんだよ。遊びすぎだろ」

 

「ガッハッハ! 充分早かっただろが! 最速記録だぜ!」

 

「サッサと済ませりゃいーんだよ! 遊んでねーで! で、どうすんだ? 後ろの奴らはよ」

 

「んなもん、こうすんだよ! ぬうぅん!

 

 

 大男、もといウボォーギンはいつの間にか隣に座らせていた十老頭のうち1人の死体を、ドアを開けて勢いよくブン投げた。約80キロの物体が高速で1番前のパトカーに衝突し、大破する。後続車も次々と巻き込まれて追跡が止まる。

 

 

「っし! ストライク!!!」

 

「何でんなモン持ってきたかと思えばその為か。とりあえずは距離は稼げるな」

 

「運転は任せたぜ。…しかしよォ。アイツら妙な事言ってなかったか?」

 

「……まぁな。()()()()()()()()()()()()()()()って奴だろ? ブツもねーのにどうしてんだ?」

 

「…あの『陰獣』のヤローが言ってる事はウソじゃねぇ。フェイタンとパクが聞いたんだから間違いない。だとしたら……考えられるのはオレらをハメようとしてる奴が他にいるって事だ。恐らくソイツらが『アンダーソン』だろ。もしかしたら金庫の方も偽物かもしれねぇ」

 

「…オレもその可能性は考えたぜ。で、団長に連絡は?」

 

「さっきから掛けてんだが繋がんねーんだよ。電波が悪りーってな」

 

「おま!? そーゆーコトは早く言えよ!! もしかしたら向こうがピンチかもしれねーじゃねーか!!」

 

「それはねぇ」

 

「何でだよ!」

 

「いや、言いすぎた。ほぼねーだろ。団長の班は集団だ。ちっとやそっとじゃ手を出せねぇ筈だ。もしオレが敵で、狙うとしたら…」

 

「……人数の少ないオレ達か!」

 

「その通りだ。楽しくなってきやがったぜ。オレの考えが正しければそろそろ来るぞ」

 

「チッ。戦闘バカめ。だからテメーと組むのは嫌なんだ」

 

「いいからちゃんと運転しやがれ……来たぜ!」

 

 

 そろそろヨークシン郊外に出ようとしたところで、辺りが一面の霧に包まれる。数瞬で車は五里霧中の様な中を走行している状態になってしまった。

 

 

「クソッタレ! これじゃどこ走ってるかわかんねー!」

 

 

 次の瞬間、車が凄まじいスピードで何かに衝突する。衝突した瞬間、2人は瞬時に脱出する。

 

 

「あっぶねー! …って、どこだよここは!!」

 

 

 相変わらず辺りは深い霧に包まれている。一寸先も見えない状況だ。

 

 

「霧で何も見えねーな。しゃーねぇ、背中合わせろ」

 

「チッ…やっぱりこうなるか。サッサと『コイツ』をぶっ殺して団長達と合流するぞ」

 

 

 2人は背中合わせで戦闘態勢をとる。これまでもっとヤバい状況でも、この2人は生き延びてきた。その真価が今、問われようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──時は少し遡る。

 

 

 

 

 ホテルのロビーで阿鼻叫喚の騒ぎに包まれる中、その合間を縫って奇妙な風体の集団がホテル内に侵入していく。目指すはホテル内に設置された大金庫。暗証番号含めて「梟」から聞き出している。彼らは比較的あっさりと金庫を開け、目当ての物を奪い、小さく収納する。

 そして彼らは、ホテルの非常階段から悠然と脱出する。陽動の2人は上手くやってくれたようだ。そのまま、来た時と同じ様にアジトに向かって移動する。

 

 

 

「あっさりだたね」

 

「『敵』が張ってるかと思ったが、んなこた無かったな」

 

「…………」

 

「団長、どうしたの?」

 

「いや……お前らの言う通りだ。()()()()()()()()()()()()()()()。『アンダーソン』とはこんなものか?」

 

「いや、ノブナガ達の方にいたんじゃねーの? アイツ、最後までゴネてたけどな」

 

「だとしても、何かが引っかかる…。何か見落としている様な…」

 

「とりあえずアジトに戻ろうよ。話はそっからだよ」

 

「……そうだな。確かめたい事もできた。急ぐぞ。ウボォーとノブナガも先に戻っている筈だ」

 

「合流できたら祝杯だね! 楽しみ!」

 

「………」

 

 

 

 旅団はそれぞれの思惑を胸に、一路アジトを目指す。先に陽動の2人が戻ってくる事を信じて。あの2人はコンビだと無類の強さを発揮する。きっと大丈夫だろう。それは長年旅団を支えてきた特攻の役目を持つ2人だからこその信頼。だから、どんな状況でも必ず戻ってくる。彼らはそういう存在であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──だが、それは甘い想定。彼らはあまりにも強く、それ故に気付けない。自分達の想像を遥かに超える怪物が潜んでいる事に。そして、彼らはすぐに気づくだろう。自分達が既に底なしの沼に飲み込まれている事に。それに気づいたところでもう手遅れだ。すぐに頭まで飲み込まれるだろう。

 皮肉にも、蜘蛛は捕らえられた。彼らは、もがけばもがく程絡まる糸に触れてしまっていた──


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