アンブレイカブルハンター   作:エアロダイナミクス

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やっと…やっと冬休み…!


95、突入前

 

 

 

 

パクノダの衝撃的な死の後、弾丸を撃ち込まれたメンバーは即座に理解した。

 

 

 「誰」にここまで自分達がコケにされたか。そして、現在の危うさを。団長は理解すると同時に即座に命令を出す。

 

 

 

 

「全員、ここから離れろ!!!」

 

 

 

 

 その剣幕に、古参のメンバーは納得しながら、弾丸を受けてないメンバーは訳が分からない表情をしながらも、団長に従うように動こうとした。しかし、次の瞬間、ビル周辺が霧に包まれ、ビル以外が()()()()()()()

 

 

 

「くそッ!! 遅かった…!!! パクが命懸けで教えてくれたのに!」

 

「マチ、どういう事? 一体何が起きてるの?」

 

 

 困惑しながらもシズクがマチに問いかける。

 

 

 

「アタシ達は、()()()()ハメられていた! ウボォーもノブナガも、お宝も、全て! アタシ達全員が全部最初からソイツの策略にハマってたんだ!! 丁寧に記憶まで消されて! パクだけは能力のおかげで気付けたのに、ソイツのせいで今まで伝えられなかった!!!」

 

「そんな…。私達全員相手にそんな事が出来るの…?」

 

「許せねェ…! 『リプル』!! ブチ殺してやる…!!!」

 

「だが、本性を現した奴の力は強大だ。今の今まで我々を欺いてきたんだからな。そして、この状況だ。どう対抗する? 団長」

 

 

 フランクリンが問いかける。クロロは沈黙しながらも、ビルを見つめていた。

 

 

 

「……どうやら向こうからお出ましのようだ」

 

 

 

 

 見ると、玄関の自動ドアが開き、1人の男が歩いて出て来る。白スーツに白いボルサリーノ帽子。リプルだ。

 

 

 

 

「やぁ。皆さん、お揃いで。久しぶりだね。リプル改め、『陰獣』の『鵺』だ」

 

 

 

 

 その瞬間、フランクリンが【俺の両手は機関銃(ダブルマシンガン)】を発射し、フェイタン、フィンクスが両サイドから飛び掛かり、攻撃を加えようとするも、フランクリンの念弾は謎の障壁によって阻まれ、2人同時の攻撃はそれぞれ片手で掴まれた後、そのまま両者は来た場所へ投げ返される。旅団員3名の全力攻撃をものともしないリプルに、全員が戦慄を覚える。

 

 

 

「おっと…。ま、気持ちは分かるが、落ち着け。後で存分に相手してやる。今すぐここでやってもいいが、君達に恨みを持つ者もいてね。ちょっと相手してもらおうかと思っている。弟子の育成にも丁度良くてね。悪いけど、君達のような悪党には拒否権は無い。質問があったら受け付けるよ?」

 

「テメェ…! ノブナガとウボォーはどうした!!」

 

 

 投げ返されて、体勢を整えたフィンクスが問いかける。

 

 

「あぁ。彼らね。彼らもここにいるよ? 私を倒せたら返してあげよう」

 

 

 リプルはあっさりと、彼らはここにいて返すと認めた。言い方からして生きているかは不明だが。

 

「生きてんのか!?」

 

「さてね。それは自分で確かめたらどうだい?」

 

 

 かなりそっけなく返される。これ以上は聞けなそうだ。

 

 

「……お宝は?」

 

 

 

 今度は団長が尋ねる。

 

 

 

「それがねぇ、残念ながらもう売り捌いたよ。昨日の時点でね。ま、ハンターサイトも権力とコネで情報を遅らせる事も可能だからね。売り手は全部アンダーソン子飼いの奴らだから情報操作も容易にできる。ただ、君達もそれじゃ萎えるだろうから私から君達に提案がある」

 

「…拒否権はないのだろう? 聞くだけ無駄だな」

 

「まぁそう言わず。私はこれからこのビルに入る。最上階で待ってるよ。道中には君達を倒そうとする刺客がわんさか待ち構えている。それらを打ち破って、更に私を倒す事が出来たなら、褒美をあげよう。信じるか信じないかはどうでもいいが、実は私は()()()()から来ていてね。地下オークションなんざゴミに見えるようなお宝を山の様に所持している。一例を挙げようか」

 

 

 

 そう言うと、リプルは腕を掲げる。するとそこから空間に穴ができ、次々と品物を取り出す。

 

 

 

 

「これが、輝晶石、オーラを流すと光輝く。こちらは飛行石、文字通り所持者は空を飛べる様になる。素材でいうと、これなんかはすごいぞ。加工すればありとあらゆる温度に適応できる毛皮だ。こちらは念能力をノーリスクで新たに発現させる植物、強烈な呪いをかける目玉、若返りの水……まだまだ沢山あるが、私の所まで辿り着けたら陳列しといてやろう。先程のパクノダは見事だった。君達は予想以上に強いからチャンスもあるだろう」

 

 

「ほう。つまり、我々が貴様の元に辿り着いて貴様を殺せば、そのお宝も手に入る、そう言いたいのか?」

 

 

「その通り。ヤル気は出たかな?」

 

 

 

 

 ゴッ!!!

 

 

 

 

 

 団長や団員から凄まじいオーラが噴き出す。彼らもここまでバカにされた事は初めてだ。その怒りは頂点をとっくに通り過ぎていた。

 

 

 

「いいだろう。乗ってやる。今! ここで!!

 

 

 全員が示し合わせたかのようにリプルに向かい出す。既に団長は【盗賊の極意(スキルハンター)】を開いており、その中の【不思議で便利な大風呂敷(ファンファンクロス)】でリプルを物品ごと捉えようとしている。マチやヒソカも会話の段階で《隠》で糸やオーラを伸ばして仕込みを完了させている。そして…0.1秒にも満たない接敵する瞬間、リプルは影も形もなく消え去った。

 

 

 辺りに声が響く。

 

 

 

 

 ──君達の相手は後だと言ったろう? ちゃんと上で待ってるから昇っておいで。後、分かっていると思うが、そこからは外には()()()()()。君達はいずれにせよそのビルに入る事になる。精々頑張って私の所に来るといい──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソッタレ!! 何もかも! アイツの掌の上だってか!?」

 

 

 

 パクノダを道の脇に寄せて簡単に弔った後、旅団員は怒りに震え、また、現状のどうしようもなさを口にする。

 

 

 

「あんなムカつく奴初めてね。ちょとじゃ済まないぐらい念入りに殺すよ」

 

「だが…奴のあの力は一体何なんだ? それに妙な事を言ってたな。()()()()から来た、だと?」

 

 

「……なるほどな。道理でそれだけの力があったのか。恐らく先程の宝は本当に奴の言った効果があるだろう」

 

 

 団長が口を挟む。

 

 

「? どういう事?」

 

「我々が世界地図だと思い込んでいる物は、実はこの星のほんの一部だ。外界の海は海ではなく、巨大な湖だ。昔盗んだ『新世界紀行』という本にその外の世界の記述があった。刊行当時は与太話かと思われていたが、実際の調査で真実だと判明した」

 

「なんだそりゃ!? 世紀の発見じゃねェか! でも何でそれが広まってないんだ?」

 

 

「厄災だ」

 

 

「厄災?」

 

 

「各国はこぞって調査に乗り出したが、帰還者はごく僅か。それほど過酷な環境だと推察される。そして、帰ってくる度に凄まじい厄災が齎された、という。その威力は人類を簡単に滅ぼせるレベルだと言えば想像つくか?」

 

 

「いや、全く」

 

 

「だろうな。だが、奴はそこから来たと言った。本当ならば最低でもそこで生き抜くレベルはあるということだ。そして、こうまでオレ達が弄ばれた力量を見るならば、その信憑性は否応無しに増す。つまりオレ達は、最悪人類を滅ぼしかねない厄災と同等の奴と敵対している事になる」

 

 

「だけどよ…だからといってこのままじゃ終われねェ! パクノダやウボォーギン、ノブナガの仇は取ってやんねーとな…!!」

 

「その通りだ。どの道逃げられないようだからな。全員で登って、全員で叩く。そうすれば解除される可能性も高い。だが、一から十まで奴の思惑に乗る必要もない。シズク、この霧は吸い込めるか?」

 

「ん。やってみる。デメちゃん! この霧を吸い込んで!」

 

 

 シズクは掃除機型の念獣を具現化し、霧を吸い込もうとするが、一向に吸い込めない。

 

 

 

「ん〜ムリ。この霧は念能力だね。私が吸い込めないなんてそれしか考えられない」

 

 

「なるほど…フィンクス、フェイタン。ビルから離れてどこまで行けるかやってみてくれ」

 

「「了解」」

 

 

 2人は霧の向こうへ消えていった…が、しばらくしたら2人して来た道から戻ってきた。

 

 

「ん? 何でお前らがここに…って、このビルは、戻って来たのか!?」

 

 

「ふむ…。ヒソカ、ビルの壁は登れるか?」

 

「お、ボクかい? やってみるよ♣︎」

 

 

 ビルは2階から上は霧に包まれている。ヒソカがオーラを飛ばし、壁にくっつけようとしたが、霧の壁に弾かれた。更にジャンプして登ろうと試みるが、しばらく登ったかと思えば降りてきた。

 

 

「ん〜これは無理だね。登っても登っても窓が無いよ♠︎ キリが無いし、壁も頑丈だし、霧も凄い♠︎ 上からの侵入はちょっとムリじゃないかな❤︎」

 

「なるほどな…恐らくこの霧は奴の能力。そして…恐るべき事に、奴は我々に認識を誤らせる能力がある」

 

「は? どういう事?」

 

「完全な催眠、思考誘導状態、と言えば分かるか? そもそも我々に見えてるだけで、()()()()()()()()()()()()。奴が我々の中に自然に溶けこんでいた事を考えても、それぐらいやってもおかしくはない。そして、それに気付いて無理矢理逆らってもパクノダの様に死に至る」

 

「なんだよそれ…無茶苦茶じゃんか…どうやって対抗するのさ」

 

「手は無くはないが、これはかなり条件が厳しい。だが、原因の1つは今解決できる。シズク、パクの身体から()()()()()()()()()()吸い込めるか?」

 

「わかった。やってみる。デメちゃん、パクの身体からアイツのウィルスを吸い込め!」

 

「ギョギョー!」

 

 

 ブォォォォ!!

 

 

 黒い霧状の靄が死んだパクノダの身体から出て、デメちゃんに吸い込まれる。

 

 

「よし。では全員、同じ様に吸い込ませる。全員、手の甲に傷を作れ」

 

 

 言われた通りに全員が切り傷を作る。すぐにシズクがデメちゃんで吸い、全員からウィルスが取り出された。

 

 

 

「まずは物理的に抵抗して死ぬ事はなくなった。これは必死に抵抗していたパクノダのおかげだ。奴の誘導に物理的な干渉は無い。ウィルスを媒介していた事からそう考えられる。我々がパクノダの様にならなかったのは、これがパクノダの記憶だったからだ。そして、肝心の催眠、または思考誘導対策だが…」

 

「どうするんだ?」

 

「無い」

 

「は?」

 

「対策が無いと言った」

 

「いや、ちょっと待って! 団長、そりゃ無いよ!!」

 

「ハッキリ言うが、この範囲で催眠をノータイムでかけられるなど、念能力の常識を超えている。普通は面倒な条件が幾つかあるはずだが、それも該当するものがいくら考えてもさっぱり分からない。完全にお手上げだ。よって、対策は無い」

 

「じゃあどうすんだよ!!」

 

「慌てるな。実は一つだけある。それは…」

 

「それは…?」

 

()()()()()()()

 

「えっ…」

 

「出逢ったもの、全てを敵と見做せ。仮にウボォーギンやノブナガが出てきてもだ。突入後はオレの言葉すら信じなくてもいい。お前達はそれぞれが敵も仲間も信じずに、ただひたすら己を信じて敵を殺せ。突入後は旅団内での会話は禁ずる。話しかけてくる奴は仲間に見えたとしても敵だ。殺せ。恐らくかなり高い確率で分断されるだろうから、その後遭遇した喋らない仲間は無視するか逃げろ。幸い、奴は慢心している。わざわざオレ達の前に姿を現したり、弟子に相手させようとしたりする事からもな。そこにつけ込む。それぞれが自分の役目を果たし、奴の元に辿り着く。即ち、見敵必殺(サーチアンドデストロイ)だ。今言った事を決して忘れるな」

 

 

「……なるほどな。まぁ実際問題それしかねェか。後にも引けねェしな」

 

「そういう事だ。1人でも多く上を目指す。まずはそれからだ」

 

「へっ。結局最初と変わらねェ訳だ! いいぜ。必ず奴の元に辿り着いてブチ殺してやるぜ!!」

 

「う〜ん❤︎ なんだかワクワクするねぇ♠︎」

 

「そこの戦闘バカ。アンタも敵に引っ掛けられないようにね」

 

「よし、用意はいいか。では、行くぞ」

 

 

 

 ザッ!!!!

 

 

 

 

 全員が意を決してビルの内部に向かって歩き出す。クロロは最後尾に付く。突入する直前、クロロは一瞬立ち止まり、1人呟く。

 

 

 

 

「……ウボォーさん、ノブナガさん、パクノダさん。安らかに…オレ達がこれから奏でる奴らの死に際の悲鳴こそが、貴方達に送る葬送曲(レクイエム)だ」


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