アンブレイカブルハンター   作:エアロダイナミクス

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一部オリジナル技が出てきますので、ご注意を。


96、突入

 

 

 

 玄関から次々と中に入る旅団員。いつ襲われてもいいように、全員警戒態勢だ。瞬時に戦闘に移行できる状態を保っている。中は洒落た半円形の受付があり、その先は吹き抜けのロビーとなっている。

 

 

 

「…………」

 

 

 

 誰もがいつもの様な軽口を叩かない。突入前の団長の言葉を守っているからだ。近くにはエレベーターが見えるが、それに乗るのは棺桶に入る事と同義だろう。眼前に見える大きな階段を一歩ずつ昇ってゆく。昇りきった先には長い廊下と、その両脇にオフィスが続き、一般的なオフィスビルの様相を呈している。彼らは意を決して進もうとするが、一歩踏み出した瞬間、再び例の濃霧が襲う。そして、今度は先程とは比較にならない程の濃さだ。それでも彼らは沈黙を保つ。団長の予想通りだからだ。やがて、隣の人物すら見えなくなり、どこをどう歩いたか分からなくなる。

 

 

 それでも、前へ進む。こうなる事は分かっていた。だが、それでも。パクノダやウボォーギン、ノブナガの仇は取らなければならない。1人でも先へ。1人でも上へ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふん。ここまでピンチになるとはな」

 

 

 

 無限に続くかと思われる回廊を1人歩くフランクリン。現在の状況に思わず愚痴が出てしまう。だが、やらねばならない。例え向かう先が絶望だとしても。蜘蛛はもう捕われてしまったのだから。

 

 

 

 

 「ここ」は明らかに不自然だ。長い直線の道があるかと思えば、急に曲がりくねった道になる。唐突に階段が現れる事もある。大方リプルが関与しているのだろう。そうでなくてもアンダーソンの念能力者だろう。扉が道の途中のそこかしらに設置されているが、彼は目もくれない。とりあえず階段を探して一階ずつ昇っていくフランクリンだったが、歩いた道の果て、大きなホールを見つけた。会議室と思われるソレは、頑丈そうな扉が付いている。恐らくここに例の刺客とやらがいるのだろう。フランクリンは躊躇いもなく、【俺の両手は機関銃(ダブルマシンガン)】をぶっぱなす。

 

 

 

 

 ドガガガガガガ!!!

 

 

 

 

 大きな音を立てて扉が数秒で無残な姿に変わる。フランクリンが慎重に中を覗くと、中はかなり広く、高さもかなりある。部屋の大部分に会議に使う様な頑丈そうな大きなテーブルがあるが、フランクリンの注目を引いたのはそこではない。

 

 そこに待っていたのは()()()()()()()()()。縛られた状態で椅子に座っている。

 

 

 

 

「フランクリン! 丁度良かった!! コイツを解いてくれ!!!」

 

 

 

 

 フランクリンは無言で近づく。

 

 

 

 

「助かったぜ…すまねェ。ヘタこいちまった」

 

 

「あぁ。気にするな」

 

 

 

 次の瞬間、フランクリンは指の銃口を向けて【俺の両手は機関銃(ダブルマシンガン)】を連射した。

 

 

 

 ガガガガガガ!!!

 

 

 

 ウボォーギン()()()()()は発射の瞬間飛び退き、鋼鉄製のテーブルに身を隠す。拘束などされていなかった。だが、至近距離から受けた為に何発かを被弾している。死にはしないが重症な筈だ。

 

 

 

「テメェ! いきなり撃つ奴があるか!」

 

 

 テーブルの向こうで相手が叫ぶ。

 

 

「ハッ! 笑わせやがる。仮に本物でも撃ってたぜ。ウボォーなら笑って許してくれらぁ。で、くたばれや偽者」

 

 

 

 フランクリンが隠れている場所すら破壊して、始末しようとした時、彼の耳に風切り音が微かに聞こえ、そちらに片手で弾丸を向けるとカナリの威力の念弾が複数飛んできていた。

 

 

「まぁ複数で張ってるわな。まとめて死ね」

 

 

 念弾で相殺する。数は大した事は無い。自分の方が数も、威力も上だ。発射元の能力者は念弾を浮かべて次々と発射させるが、フランクリンはものともせずに乱射して次々と撃ち落としていく。敵は負けじと多数の念弾を撃ち出すが、いかんせん弾数の差がありすぎた。点に対して面で制圧している様なものだ。あっと言う間に術者に大量の弾丸が迫る。敵は躱しながら、時には相殺してかろうじて凌いでる状態だが、それもまもなく詰むだろう。だが、次の瞬間に背後に気配を感じ、そちらにも銃口を向けると、先程のウボォーモドキが近くまで接近していた。かなりのケガを負わせた筈だが、と考えたが、構わず片手で乱射する。しかし相手はそれを掻い潜り、別のテーブルへと避難する。

 

 

「ガラの割にすばしっこい野郎だ。だが無駄だ」

 

 

 【俺の両手は機関砲(ダブルキャノン)】!!

 

 

 一瞬銃撃が止まる。フランクリンは指先を窄め、そこから超巨大な念弾が生成して発射する。

 

 

「「!!!?」」

 

 

 

 ドゴオオオン!!!

 

 

 

 

 凄まじく巨大な念弾が周囲を襲い、辺り一面のテーブル等が粉微塵に破壊される。念弾を撃っていた人物も、念弾ごと掻き消されて煙に包まれる。

 ウボォーモドキも位置的に避けられない場所だったせいかモロに喰らってしまっていた。

 

 

 

 

「へっ。口程にもねェ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「『アンダーソン』を…ナメんな!」

 

 

 

「!!」

 

 

 

 

 いつの間にか近づいていた中年の男、カルロは背後から貼り付く。彼は予め肉の鎧を分離して、自分は《隠》をして接近していた。消されたのは肉人形の方だ。だが、彼もダメージは相当なものだ。肉の鎧で瞬時に《堅》をしていてもその凄まじい威力は彼の身体を貫通していた。現在、腹部と右腕、右脚を抉られている。彼が動けるのは、自身の能力で肉を作り出し、補助している為だ。だがそれも気休めだ。今、気力で動いている。

 

 

 

「リベロ!! テメェ、あの程度でくたばってんじゃねぇぞ!! サッサとしやがれ!!!」

 

 

 

 咄嗟にフランクリンは背中に向けて念弾を発射しようとするが、腕が上がらない。いつの間にか腕が大量の肉で覆われていた。足も同様に絡め取られていて、咄嗟に身動きが取れない。

 

 

 

「どうだ? オレの【入れ替わる他人の人生(ドッペルゲンガー)】は? リベロォ!! 生きてんなら早くしろ!!」

 

 

 

 次の瞬間、一際強力な念弾が飛んできて、一直線に向かってきた。進退極まる中、フランクリンは腕の肉を引き剥がし、念弾を発射しようとする。

 

 

「ウオオオオオ!!」

 

 

 ブチブチブチィ!!!

 

 

 ようやく片腕の肉を引っぺがした時、直前まで念弾が迫っていた。

 

 

 ダダダダダダ!!

 

 

 

 複数の弾丸が襲うが、リベロの念弾はフランクリンの念弾を弾き飛ばし、フランクリンの右腕に当たる。

 

 

「ぐっ…!」

 

 

 ベキベキベキッ!

 

 

 

 嫌な音が響く。複雑に骨折したのは間違いない。だが、この能力の恐ろしさは威力ではない。

 

 

 

 

「ゴホッ、ゴホッ…ぺっ! …イエローカードだぜ、デカいの」

 

 

 

 リベロが瓦礫の脇から姿を現す。その姿は控えめに言っても満身創痍だ。特に右手が焦げ付き、炭化している。

 

 

「そしてもう一丁!!」

 

 

 念弾を生成し、オーバーヘッドで蹴り飛ばす。凄まじい威力の弾が再び迫る。先程から片手の弾丸が出なくなっている事には気づいている。よってもう片方で迎撃する。

 

 

 ブチブチブチブチ!!

 

 

「無駄だ! テメェの念弾なら弾く特別性だッ! キャノンを溜める時間もねぇぞ!」

 

 

「フン。ならば()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 腕を背後に回したフランクリンは、もう気絶しているカルロを肉ごと引っぺがして前に掲げる! 

 

 

「バカ共め。仲間のタマで死ねるんだ。本望だろう?」

 

 

 念弾がカルロに迫る。だが、いつの間にか起きていたカルロが、小さな声で呟く。

 

 

 

「バカはテメェだ…『アンダーソン』をナメんな」

 

 

 

 瞬間、凄いスピードで迫る念弾は()()()()()()()、カルロを避けてフランクリンの左腕に当たる!

 

 

 

 ベキベキベキィッ!!!

 

 

 

 

 同じ様に左腕も粉砕される。すかさず

 

 

 

「レッドカード! PKだッ!!」

 

 

 

 カルロは床に落とされ、フランクリンはその場で動けなくなる。両腕から能力を発揮するフランクリンのタイプは、こうなったら致命的だ。

 

 

 

 リベロはすぐさま5発の念弾を浮かばせる。

 

 

 

「カルロのおっさん、ありがとよ。生きてりゃビール奢ってやる」

 

 

 そこからは一方的な攻防だった。フランクリンも《凝》や《硬》で対抗したが、巧みなボール捌きによって致命傷クラスの傷を負った。

 

 

「ラストだ。コイツで倒れろ」

 

 

 リベロは不安だった。コイツはPKを耐えかねない。両腕を骨折し、4発の致命的な攻撃を受けたにも関わらず、立っている。正直、自分も限界だ。万が一立っていたら、相打ちに持ち込もう。そう決意し、最後の念弾を蹴り飛ばす。念弾は複雑な軌道を描かず、真っ直ぐフランクリンに向かう。

 

 

 ドスッ!!!

 

 

 鈍い音を立てて、フランクリンの心臓部に突き刺さった念弾は、フランクリンの動きを止めた。そして…

 

 

 

 ズン…

 

 

 

 

 後ろ向けに倒れた。()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「!!」

 

 

 

「こうでもしねェと腕が上がらなくてな。最後だ、くたばれや」

 

 

 

 巨大な念弾が両手に集まりだす。すぐさまリベロは念弾を打ち出そうとするが、間に合わないし、最早離脱できるような威力では無さそうだ。彼は覚悟を決め、念弾を固めて発射し、受け流しながら生き残る活路を見い出そうとしていた。そして

 

 

 

 

 

 

 発射された念弾は明後日の方向に飛んでいった。

 

 

 

 

 

 

 【入れ替わる他人の人生(ドッペルゲンガー)】だ。カルロがフランクリンに触れ、それを手繰って腕を引き寄せたのだ。おかげで念弾はカルロを掠り、壁を粉砕して空中へと消えていった。

 

 

 

「チッ…。もう何も出ねェ。殺せ」

 

 

 

 近くに念弾を浮かべて寄って来たリベロにそう告げる。だが、リベロも弾を浮かべたまま動かない。その時、新たに1人の男の声がした。

 

 

 

「うん。まぁ及第点。だが、被弾多すぎ」

 

「師匠!」

 

 

 出てきたのは、当代コンシリエーレのアルバート=ルチアーノだ。彼はリベロの師でもある。

 

 

「新手か。まぁどうでもいい。殺せ」

 

「う〜ん。全員重症だな。あと、お前さんは殺さんよ。そういう約束だから。というわけで今はお休み」

 

 

 ガツッ! と頭を蹴って脳を揺らし、フランクリンを気絶させると、2人に語りかける。

 

 

「お前ら、あの最初の引っ掛けはなんだ? バレバレじゃん。危うくいきなり死ぬトコだったぞ? んで、カルロ、オメーは肉で顔とか覆えばもっとラクだったんじゃねぇの? リベロもだ。念弾を《隠》で隠せるようにしろって何回言や分かるんだ?」

 

 

「いや、師匠…分かりましたから、マジでカルロとか死にそうなんで、説教は後にしてもらっていいっすか…?」

 

 

「全く…まぁいい経験になったろ。とりあえず応急処置すっから連れてくぞ。野郎ども、頼む」

 

 

 すると、何処からかワラワラと黒服軍団が現れて、3人を連れて行く。アルバートは粉々に破壊されて壁に大穴が空いた部屋の様子を見て、呟く。

 

 

「……アイツらもまぁこんなのに良く勝てたモンだな。ボーナスあげてやんねぇとな」

 

 

 そうして彼は、頭をポリポリ掻きながら部屋を退出していった。


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