えむの演技の練習に雨が付き合うことになった。
えむが、役者の練習に付き合って欲しいとねだられたからである。
「雨くん!今日はよろしくね!」
「よ、よろしくお願いします…」
えむが出演する舞台は、弁慶と牛若丸の物語である。
えむが牛若丸の役。雨が弁慶の役である。
雨は弁慶の台本を、何気に必死で読んでいた。
(人が作った物語、か…)
と、雨は弁慶のセリフを割と本気で覚えていた。
「雨くん!いくよ!」
「あ、はい」
雨は感じるのだった。
(えむさんって、こんな凛々しい表情が出来るんだ…)
と、感心した。
最初から最後まで通しでの、芝居練習だった。
「その…司さんのセリフを読んで、演技したらいいのですか?」
「うん!そうだよ!」
「そ、それじゃあ…」
雨は恥ずかしいと思いつつも、弁慶を演じるのだった。
「その太刀を置いて立ち去れ!
さすれば、命まで取らぬ!」
えむと雨は、クライマックスのシーンの練習演技をしていた。
雨のセリフが回って来て…
雨は思わず、感情移入をした。
「何をくだらん、御託を並べている!
かくなる上は、我が薙刀を受けてみよ!」
と、雨が勢いよく、薙刀を使うフリをした、
演技を披露した!
「おっと」
と、雨の攻撃の演技を避けた。
えむは、牛若丸の如く、踊るように動き、
楽しい気持ちを表現した。
「貴様、ふざけているのか!?
子供とはいえ、武士ならば、その太刀、
抜いて戦う覚悟を決めろ!」
と、雨が演技のセリフを言いだす。
えむは、少年風の声を出し続けている。
普段のえむの事じゃない。と、雨は思い、
逆に心が動いてしまう。
「そう言われると、ますます、相手にする気がなくなるものだね。
よっ、ほっ、よっと」
雨の薙刀のフリの攻撃を、えむが避け続ける。
えむは雨から、少し離れた。
雨は叫んだ。
「貴様ーっ!」
えむは、ニヤッと笑っていた。
(えむさん…!?)
雨は演技の続きをした。
「せいっ!」
と、雨が叫んだ。
「く…!」
雨は思わず、苦労した。
えむは雨の薙刀の演技をギリギリで避けていた。
目も雨の方を向けていた。
(こ、これが、演技!これが、芝居!)
これが…えむさんの本気!?)
雨は弁慶の役をやりつつも、何故かムキになっていた。
演技なのか?感情なのか?
きっと、両方ともだろう。
えむは楽しそうだ。
「ええい!ちょこまかと!」
えむは牛若丸の演技として、
雨が演じる弁慶をからかっていた。
「よっ!」
(弁慶の後ろに回って…こう!)
えむは雨の後ろに回った。
「やれやれ…骨が折れる。
けれど、君のような暴れん坊をからかうのは、
なかなか面白いね。
どうかな?もっと、大きな相手をからかったら、
ますます、面白いと思わないかい?」
「な、何を言っている!?」
と、雨の感情は昂っていた。
えむは続きの台詞を言った。
「源氏の再興には、興味は無いが、
君のように威張っている奴らをからかうのは、
興が乗った、ということだよ。
どれ、少し世をからかってやるか。
弁慶とかと言ったか。君も来るかい?
きっと、楽しい景色を見せてあげるよ」
「…!」
雨は思わず、心が奪われてしまった。
こうして、演技の練習が終わった。