雨はホテルの客室に入った。
(姉さんが泊まるはずの部屋…宿泊費も一泊分払っているとはいえ…
この部屋は、僕には広すぎるな…)
狭い部屋とはいえ、一人にしては広い洋間の客室。
ベッドと机、イスが置かれており、
トイレとシャワーが別々の部屋に設置されていた。
雨は特にすることが無かったので、シャワーを浴びた後、
身体を乾かして、大人しく寝ようとしていたが、
全く寝付けなかった。
すると…
(眠れないの?)
雨は思った。幻聴にでもなっているのか?
と、一瞬、振り向くと、ニーゴのレンの姿が…
(雨くん…驚かせてごめんね…心配だから、つい…)
「僕は幻覚でも見ているのですか?」
ニーゴのレン。雨が誰もいないセカイで仲良くしている、レン。
彼が雨の前に幻覚として、真夜中に現れたのだった。
(そうだね…ボク。幽霊みたいだね…
でも、雨くんが心配で、どうなるのかなって思って…
それで、気が付いたら、こうなっていて…)
「そうだったんだ…」
雨の前にいる、ニーゴのレンは、全体的に薄かった。
幽霊みたいに、透明な部分が目立っていた。
だが、レンの姿は雨の目ではハッキリ見えていた。
「どうして、僕が心配に…?」
(雨くん。ずっと、ずっと、何か迷っていたり、
悩んでいたり、辛そうにしていたから、
それで、ボクも雨くんの役に立てたらなって、
ずっと、思っていた…だから…)
「ありがとう…そうだな…一人でいるのもアレだし、
大勢も好きじゃないですが…レンがいてくれたら、
僕は幸せかな?」
(ボクがいてくれるだけで?)
「あぁ、お世辞じゃない。これは。
傍にいてくれるだけで良いから」
(傍にいてくれるだけで?)
「あぁ、そうだ。外に出ますか?」
(えっ?うん…)
雨と誰もいないセカイのレンは、夜空の元、浜辺で散歩をしていた。
「山には結構、入っていたけど、海を見るのは初めてなんだ」
(ボクは海も山も観たこと無くて…)
「山にはね、先生がいたんだ。昔ね」
(えっ?先生?)
「僕の人生の生きる道しるべになった先生がいたんだ」
(そんな凄い人がいたの?)
「人じゃないですけどね…」
(えっ?)
「ごめん。喋り過ぎた…」
(ごめんね…変なこと言っちゃって…)
「そんな事無いですよ。少し僕が喋り過ぎただけ」
(雨くんは、そ、その…幸せ?)
「そうだと思う…かな?」
(えっ?)
「レンがそう思うなら、そうじゃないの?」
(うん…ボク、疲れちゃったよ…)
レンは、砂浜に体育座りで、
雨は足を崩して、座り込んで、
二人きりで海をじっと見つめていた。
「これから、どうなるだろう…」
(う、うん…)
「きっと、何とかして見せるさ」
雨は思った。おおかみでも、人間でも無い。
ならば、それでも、死が来るまで、
最期になる、その時まで、生きると誓った。