たまには地球がチート臭くても良いのではないかと 作:ヤマトとトマトはなんか似てね?
朝から重めでもイケる方向きです。
さて、女性同士の会話というのは男から見て華やいだものと思う方も多いかもしれない。
だが、実際のところはどうなのだろうか?
確かに世の中には知らなくても良いものも存在するのだが……
「薫先輩、待たせちゃいましたか?」
「気にしなくていいわよ。早紀ちゃん」
ここは呉ではなく東京はお台場にあるお洒落なカフェレストラン”トラットリア・ポルコ・ロッソ”。
何やら目の前が東京湾だというのにアドリア海の飛行艇乗りが出てきそうだが、名前の通り豚肉料理が自慢のイタ飯屋だ。
今夜ここに集ったのは、旧姓:新見の現”古代薫”と、旧姓:藤堂の現”
ヤマトの出航まで1ヶ月を切ったこの日、なんで薫が東京にいるのかと言えば……特に深い理由はなく、宇宙軍の研究所に用事があったからだ。それなりに機密性と専門性の高いやり取りが必要だったのでこうして出向いたのだが、用事自体は直ぐ済んでしまい、時間を持て余していた時に、沖田十三との結婚式の後に休職していた早紀から「食事でもしないか?」と連絡が入ったらしい。
なんでも、細かい行先や理由は言わなかったが、沖田から薫が今日東京に来ることを聞いたらしい。
ちなみに沖田は休みのたびに呉から東京へ通ってるらしいが……夫婦仲は円満のようで何よりである。
当方、地球連邦軍はブラックではございません。
「こうして早紀ちゃんと二人で食事するの、随分と久しぶりな気がするわ。私の結婚前だったっけ?」
「そうですね。でも、会うこと自体はそこまで久しぶりって感じはませんね? ほら、この間の私の結婚式で」
早紀はジェーンブライド、つまり6月初旬に結婚式を挙げ、今は7月の後半なのでまだ実質1ヶ月ちょっとしか経ってない。
無論、新見改め古代夫妻も夫婦揃って参列している。
夫の守は沖田と強い縁があるし、お忘れかもしれないが薫と早紀は軍大学の研究職、その先輩後輩であり良い友人でもあった。
「ただ、おじ様、じゃなかった十三さんに会えない日々が長くて長くて……」
「あー、はいはい。その辺はわかってるから、目からハイライト消さないの」
「あっ、私また”掛かって”ました?」
君はどこぞのウマ娘かと思わず問いたくなるセリフであった。
「沖田さんがらみだと早紀ちゃの場合、いつものことだからね。こちとら慣れたもんよ♪」
折よく食前酒とそのおつまみ(専門店風に言うならアペリティーボとストゥッツィーノ)が運ばれてくる。
女二人は、おしゃべりよりも料理に舌鼓を打つ方を選んだようだ。
***
「でも意外だったなぁ。早紀ちゃんがヤマトに乗らないって。絶対、ついてくると思ってたわ。沖田さんに反対されたの?」
看板メニューの一つ”豚肉のスカロッピーネ”は確かに絶品だった。
コースも終盤、お待ちかねの
「そういう訳じゃないんですけど……ねえ、薫先輩、実は今日、二人だけの食事じゃないんですよ?」
と下腹部を撫でる。無論、それは満腹を示すサインではない。
まだそこまで目立ってこそいないが……
「早紀ちゃん、貴女もしかして……?」
”こくり”
「まだ全然目立ってないですけど、三ヶ月だそうです♪」
「それって早紀ちゃんが沖田さんをぱくりと行ってすぐってこと? さすがは歴戦の猛将、沖田さん。抜群の命中率ね?」
「命中率だけじゃなくて装填速度も早いんですよ? その辺の若い男には負けません♪」
そろそろ大きくなり始めた胸をえっへん!と張る早紀である。ちなみにこの世界線の沖田十三は旧作準拠でまだ52歳。鍛え抜かれたあのガタイなら、なるほど早紀の話もあながち贔屓目だけとは言い切れない。
薫は溜息をつきたい気分だったが、何とか抑えて、
「もしかして結婚式が妙に早かったのも?」
「十三さんが本格的に忙しくなる前っていうのと、私のお腹が目立つ前にってお父さんが」
そりゃそうだと薫は思う。娘が後輩を襲ってデキ婚なんて、いくらなんでも体裁が悪すぎる。ただでさえ親子ほどの歳の差(実際、沖田の一人息子は早紀と大して歳が違わない)に加え、ボテ腹ドレスでデキ婚アピールとかなんの冗談かと。
ついでに言っておけば、薫は知らない事実だが、早紀の幼い頃からの恋心を成就させるべく全面バックアップした共犯者は、よりによって妻の千晶である。藤堂平九郎の心中は察して余りあるものがある。
「
「その時期はもう過ぎましたよ? だから食事に誘ったんですから」
「なるほど……」
結婚式のすぐ後から早紀が休職した理由も納得した。要するに、仕事ができる状態ではなかったということだ。
地球連邦軍は割と個人情報の管理がなされていて、誰彼が産休を取ったという情報は本人が言わない限り早々入ってはこない。
まあ、時々酷くザルな部分がある気もするが。
「おめでとう……で、いいのかしら?」
「もちろんです♪ ありがとうございます、先輩」
ニコニコとほほ笑む早紀に対し、薫は思案顔で、
「早紀ちゃんがヤマトに乗らない、いいえ、乗れない理由はわかったけど……でもいいの?」
「何がです?」
「あと1ヶ月もしないうちに、沖田さん、順調に行っても二年は地球に戻れない航海に出るのよ?」
心配そうな顔の薫だったが、
「それって、医療用ナノマシンを避妊モードにしておけばって意味ですか?」
「まあね。少なくとも私は守くんとそうしてるし」
するとスッと早紀は目を細め、
「逆ですよ。薫先輩」
「逆?」
「ええ。逆です。薫先輩、今回の航海って長期間/長距離っていうだけでなく、かなりの潜在的危険があると考えています。停戦が成立している訳ではないガミラスの支配領域を抜けて、ヤマト単艦でイスカンダルへ向かうんだから、当然ですよね?」
「それは……そうね。一応、ガミラスからエスコート艦隊を出すって聞いてるけど」
「それはどこまで信頼できますか……?」
聡明な早紀に噓や誤魔化しが通じないのは長年の付き合いでわかってる。
「正直、未知数よ。ガミラスの中は、決して一枚岩じゃない。だからこそのエスコート艦隊派遣でしょうし」
「今度の航海は、何が起こるか分からない……でも、私は十三さんを止められない。地球の未来がかかってる任務なのに、私の我儘で止められる訳はないから……」
そして、綺麗な瞳を濁らせてゆく……
「だから証が欲しかったんです。例え万が一のことがあっても、短い時間でも十三さんと私が確かに愛し合えたっていう証が」
結局、藤堂という姓を名乗って頃の早紀の最後の一押しをしたのは、「子供の頃から大好きだったおじ様が自分の手が届かない遠くへ旅立ち、もう二度と会えないかもしれない」という恐怖感だったのかもしれない。
確かに彼女は思い切りのよい、一度思い立ったらどこまでも突き進む娘なのかもしれない。
だが同時に、どうしようもないくらい”女”だということも自覚していた。
(あちゃー。覚悟、ガン決まっちゃってるわねぇ~)
となれば、薫が聞くことは決まっている。
「沖田さんは知ってるのよね?」
「もちろんですよ」
「ならいいわ。出産祝いは、帰ってきてからでいい?」
「ありがとうございます! 先輩♪」
そして、夜のしじまに二つのグラスが重なる澄んだ音が鳴った……
人にはそれぞれの生き方がある。
どれが良い、どれが悪いと簡単に決められるものではない。
だが、夫についてゆく古代薫も、夫の帰りを待つことに決めた沖田早紀も、幸せであった。
重要なのは、ほんの小さな、そんなことなのかもしれない。
子作りは後回しにして、旦那についていく方を選んだ旧姓:新見の現古代薫さんと、旦那と愛し合った証をすぐに欲しがった旧姓:藤堂の現沖田早紀ちゃん……
正反対の答えに達した二人を一度しっかり対面させて書いてみたいなーと思い完成したエピソードです。