永遠なる皇帝とストイックモンスターメスガキが、主人公を大岡裁きするお話 作:ぐっちSKG
今回の話は毛色が少し変わります。今回の話を書いていて、キャラが勝手に動くようになるっていうことが本当にあることだと知りました。
というわけでメスガキちゃん主役回だよ。みんなメスガキ好き?僕は大好きさ!
朝は嫌い。
まだ暗い朝とは言えない時間帯、私は目覚まし時計に頼ることなく覚醒する。
行うのはいつものルーティーン。
冷たい水でよく顔を洗った後、タオルに10秒間顔を埋める。タオル越しに顔を粘土遊びのように揉む。
にひっ♡
タオルから顔を上げ鏡を見る。わたしがいる。いつものわたし。生意気で人を揶揄うような笑みを浮かべたわたしが。
さっ、いこっか♡
ジャージに着替え、硬貨の数枚入った小銭入れをポケットに入れる。そしていつものようにランニングへ出かけるのだ。
わたしの名前はブルーインプ。恐らく学園でたった1人、トゥインクルシリーズに敵愾心を持つウマ娘だ。
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ランニングを行いながらも思考は止めない。最適な足の運び方。重心移動や最短で走れるラインを常に想定する。
気持ちよく走るわけではない、むしろ苦痛の方が大きいだろう。どのように、どうやって、どうして。常に自分が踏み出した一歩一歩の意味を理解しなくてはならない。走りながら難題のドリルを解いているような気分になる。
『ラリーチャンピオンを目指すなら漠然と走るな。常に思考しろ。次の一歩を踏み出す為だ。』
母の言葉だ。トゥインクルシリーズに背を向け、ラリーチャンピオンを目指し、そして叶えられなかった母。
舗装されたトゥインクルシリーズではなく、ラリーという未舗装の道を選んだ母。そんな母と同じようにラリーレースへと私は進むつもりだった。ここトレセン学園ではなく。
トレセン学園へ来たのは、競い合いたいだの、名誉のためではない。
わたしが求めるのは金だけだった。
これから本格化を迎えるわたしはどうしても金がかかる。日本のウマ娘ラリー文化はかなり遅れている。URAのトゥインクルシリーズという化物コンテンツがほぼ全てを独占しているのだ。
母は才能に溢れたウマ娘だった。才能も努力も熱意も誰よりも持っていたのに、ラリーチャンピオンになれなかったのは十分なバックアップがなかったからだ。
あったのは父の母への愛情と献身的な支え、くたびれたラリー用シューズ、そしてレースの参加資金を算出するだけの金。
他国のチームは入念なバックアップの元、万全な体制でレースに臨む中、わたしたちは笑いものだった。
それでも母が上位入賞を果たした時の奴らの悔しそうな顔は、愉快で愉快で仕方なかった。本当にスカッとした。
母が成し遂げたことは、間違いなく偉大なことだ。少なくとも世界に指をかけた。あれほどの金をかけながら、いつまでも世界に勝てずまごついてるトラックレースの連中よりも遥かに先を行ったのだ。
だが帰国して愕然とした。誰も知らないのだ。ニュースにもならない。トゥインクルシリーズのGⅢの方が扱いが良かった。ラリーレースはせいぜいが雑誌に小さく扱われるくらいだ。
もはや笑うしかない。現地の海外メディアは毎日のようにテレビ放送していたのに。
その時決めたのだ。誰も知らないのなら、誰も彼もわたしたちを無視できないようにしてやる。
見ていろ。わたしがラリーレースをトゥインクルシリーズの高さまで押し上げてやる。
そうしてラリーチャンピオンを目指すべく母に師事した。最初は戸惑っていた母も、わたしの覚悟を感じたのだろう。最後には許可してくれた。
そこから先は地獄のような練習の日々だった。母は虐待一歩手前、あるいは踏み越えているかもしれないレベルまでの厳しい練習を課した。
母の持ちうる全てを注ぎ込まれたわたしは、もはや同年代では敵なしだった。国際ラリー大会ジュニア部門でも最年少で優勝した。誰が呼んだのかは分からないが、未来のラリー界の至宝とまでいわれるまでになった。相変わらず日本では知られていないが。
だけどそれでもわたしの夢には足りない、足りないものが多すぎる。金あるいはスポンサー。わたしを支えれるだけの専門のチーム。トップチームが使うような高価なラリーレースの設備。そして何よりも競い合う相手が国内にはいないのだ。それではラリーチャンピオンになれても、この国を変えることはできない。
そんな時だ、トレセン学園の理事長からスカウトの声がかかったのは。
理事長との話はとても有意義なものだった。金が必要な私に、稼ぎ場と最高の設備を無料で提供してくれるというのだ。もちろんトゥインクルシリーズで結果を残すことが条件ではある。一応こちらもいくつかの条件は提示したが。
そうして入学したトレセン学園の設備は素晴らしいものであったが、授業は過保護の一言に尽きた。下らないゲート練習にうんざりしていると、面白い話が聞こえてきた。実に楽しそうな横紙破りだ。
渡りに船だった。内申点なんてどうでもいい。ただあのときはトラックレースの連中を揶揄ってやりたかったのだ。
結果だけ言うならばあのレースでは2位だった。だがその気になればあの時のシンボリルドルフを撫で斬りにするくらいわたしには簡単だった。
あの時後方で走っていたのは中央のターフの感触を確かめるためだ。ターフは滅多に走らないので、どの程度の足で走ればいいのか、スタミナ配分はどうするればいいのかを確認する必要があった。
ある程度の情報を集め終わった後、本格的に走り出そうとして前を見て気がついた。恐らくあそこにいた中でわたしだけが。
前を走る2人の内の1人のミカドランサー。わたしには一目ではっきりとわかった。彼女は類稀なるラリーの才能を持っていた。
どんな地形でも踏破できるだろう強靭な足腰。足の衝撃を逃すための全身の柔軟性。勝負に賭ける意識の強さ。そして何よりも足首が異常に強い。
技術はまだまだ未熟だし頭も悪いと思うが、そこは鍛えればどうとでもなる。
その時本当に感謝した。中央トレセン学園に入り、好きでもないトラックレースを走ると決めた自分の決断を。目の前を走るウマ娘は、まるでラリーを走るために生まれてきたかのようだった。
追い越そうと思えば追い越せた。でも出来なかった。叶えられるか分からない夢を、彼女が一気に現実へと引き寄せたのだ。
わたしは走った。彼女の後ろをずっと追いかけるように。少しでも長く見ていたかったから。
わたしはポケットの中で揺れる小銭入れに意識を向ける。その中に縫い付けた1枚の紙切れに思いを馳せる。ああこれが本当に何でも叶えてくれるならどれだけ良かったか。
トレセン学園へ来たのは、競い合いたいだの、名誉のためではない。
わたしが求めるのは金だけ"だった"。
理事長との契約に、学生へのラリーレースのスカウト許可を入れておいて本当によかった。
彼女はラリー界の、いやわたしのものだ。お前たちには渡さない。彼女の才能はお前たちでは輝かせられない。
絶対に。絶対に。絶対に手に入れてやる。たとえどんな手を使ってでも。
「なんてね♡」
二つに分けた思考の一つを消す。
踏み込みを強め、わたしはぐんっと加速する。胸の内にあるもの。熱く、痛くそして暗く燃えたぎる火の熱を感じながら。
メスガキちゃんは割とメラメラですわ!可愛い可愛い生意気メスガキがこれじゃまるでヤンデレ重バ場ですわ!
理事長がスカウトの許可を契約に入れることを了承したのは、優秀なウマ娘をスカウトしようとしても、超人気のトゥインクルシリーズに背を向けて、マイナーなラリーレースに行く奴なんておらんやろと考えていたからです。考えが甘いんだよなぁ。
メスガキちゃんとミカドランサーちゃんはラリーでなら大成するよ。それは間違いない。
ルドルフとブルーインプで大岡裁きされることになるミカドランサーちゃんかわいそうですね。彼女の今後に期待したいです。