永遠なる皇帝とストイックモンスターメスガキが、主人公を大岡裁きするお話   作:ぐっちSKG

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或いは、誰かを助けたかった男の話。


日蝕に挑んだ男の話

「いや、私は遠慮しておく」

 

わたくしの特製味噌汁を無碍もなく断るだなんて!一口、一口だけでも飲んでみませんか?案外いけるかもしれませんわよ!

 

トレーナーは嫌そうな顔をしながらわたくしの作った味噌汁の入った味噌汁をお玉でかき混ぜる。トレーナーはお玉に掬い上げられた味噌汁をマジマジと見た後そっとお鍋の中に戻した。

 

「カロリー制限中だろうとなかろうといやだ。そもそも砂糖が溶け残ってるじゃないか・・・というよりなんでよりにもよってザラメを使ったんだ?まるで意味がわからんぞ」

 

スーパーにある砂糖で適当に選びました。あとわたくしはカステラのジャリジャリのやつが好きなので!好きなものと好きなものが合わされば最強感あるじゃないですか!ゴジータみたいなものですわ!

 

「いいとこベクウだな。とんでもない合体事故になってるのが見るだけでわかるぞ」

 

トレーナーは断固拒否の構え。ぐぬぬトレーナーのいけず!もういいですわたくし1人で食べますから!後で一口くれと言っても絶対あげませんからね!

 

「是非ともそうしてくれ。あと外にある流し台には流すなよ。詰まると清掃員に怒られるからな」

 

 

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むきー!と怒ったかと思えば、最後には美味しくないよぅと言いながら味噌汁を啜っていたアホがトレーニングの為に出て行った。

 

捨てればいいのに最後まで飲み切ったのは感嘆するが、間違いなくアレは罰ゲームで飲む類いのものだ。

 

私物のアームチェアに体重を預けると、それはぎぃぎぃと悲鳴を上げる。その後に加えて今日の予定を考えると憂鬱になる。

 

なんせミカドランサーのトレーニングが終わった後は私の番なのだ。トレーニングが終わり次第こっちに合流し、私の運動に付き合うつもりらしい。

 

食事制限と並行して運動を行うのは理にかなっているが、まさか両方に付き合うつもりだとは思わなかった。おかげでジャンクフードもコーラもお預けだ。

 

初めはここにでも適当なウォーキングマシンでも持ち込もうと思っていたが、ミカドランサーによって却下された。別に従う理由もないのだが、持ち込んだら片っ端からぶっ壊すと脅されては仕方がない。

 

どうやら私の悪評が立ち始めているのを改善するためらしい。この体型でどすどす外を走り回る事の方が恥ずかしい事だと思うのだがな。

 

『それは違います。このトレセン学園には努力を笑う人はいませんわ。隠す必要のない努力はどんどん他人にアピールするべきだと思いますわ。頑張っていることを知っていればきっといつか助けてくれますわよ』

 

アホか。

 

アホだアホだと思っていたがあいつは本当に底無しだ。リギルを潰されたのを忘れたのだろうか?悪意に対して鈍感すぎるぞ。私が自分の噂について知らないとでも思っているのか?

 

そもそもミカドランサーを引き抜いた時点で色々言われるのは百も承知だ。全員尻込みしていた癖に、後からなら好き勝手に言うやつばかりだ。

 

あれは他人を信じすぎる。他人に対して信を置きすぎている。ああ認めよう間違いなくミカドランサーは私を『信頼』している。あれ程やめろと言ったのに。

 

はははと薄ら笑いが溢れる。愉快でたまらないし悪くない気分だ。・・・腑がねじ切れそうなほどに。

 

私は奥歯を噛み締める。歯軋りの音が部屋に響く。

 

信頼。

 

そんなものはただの盲目だ。欺瞞から目を逸らすためだけの偶像に過ぎない。ただのろくでなしの言い訳。

 

信頼という言葉に縋った男をよく知っている。間違ったことにも気づかず走り続けた男をよく知っている。それでどうなったかもよく知っているはずだ。

 

結局私はどこまで行っても私だ。忘れるな。無様で愚かな男を。

 

思い出せ自分自身を。

 

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私の生まれついての才能は誰にも負けない武器だった。才能を持っていた。自分で言うのもなんだが天才と言ってもいいだろう。

 

持て余す自分の才能を何かに使ってみたかった。使い切ってみたかった。困難へ挑んでみたかった。前代未聞に挑んでみたかった。

 

一度でいい。私の持つ全ての才能を、私の全身全霊を何かに注いでみたかった。

 

その為にトレーナーの道を選んだのはたまたまだ。活気が有ればなんでもよかった。なんならサッカーでも野球でもよかった。少なくともその時は。

 

国内で活動するトレーナーとしての最難関と言われていた中央トレセンのライセンスを取得した。最難関と言われても私にとっては所詮こんなものかと思うほど簡単だった。

 

中央のライセンスを取りながら、企業チームにトレーナー志望として入ったのは、トゥインクルシリーズのような面倒な制約が少なかったからだ。たとえどこであろうとものし上がる自信は私にはあった。

 

企業チームのサブトレーナーとして実務を学ぶ。あっという間にサブトレーナーを卒業し、トレーナーとして担当するべきウマ娘のリストを渡される。

 

実績作りのために担当した最初の1人として、私はリストにあった中で1番のみそっかすを選んだ。誰でもよかった。適当に選んだのが1番みそっかすだっただけだ。

 

地方から中央に来て自身がただの賑やかしだと気づき挫折した。その癖に未練がましくレースにしがみついている。そんなどこにでもいる経歴のウマ娘。手始めにそいつから始めた。

 

私は・・・できる事をした。できうる限りの事をしたんだ。私の才能を惜しげもなくそいつに注ぎ込んだ。

 

そいつのぐちゃぐちゃの図面を新しく引き直す。まず徹底的に壊し、パラメーターを整え、新しいフォームを書き上げる。丁寧に丁寧に。

 

不要なものを削ぎ落とし必要なものを付け足す。羽化する蝶のように劇的に変わっていく様を見るのは、まるで夢のような時間だった。

 

前の図面を書き上げたやつは無能だなと思いながらも根気よく行う。新しいそいつはなかなか馴染まなかったが、何度か走らせるうちに変わっていった。みそっかすの才能でも磨き上げればそれなりに見れるものにはなるんだなと思った。

 

無気力で後ろ向きだったそいつはメキメキと実力をつけた。自信は覇気となり強さとなった。そしてそいつは企業リーグのトロフィーを嬉しそうに掲げた。泣きながら私に礼を言いに来たのをよく覚えている。

 

私は成功し名声を手に入れた。

 

達成感は満たされない。足りなかった。まるでまったくもって理想とは程遠い。こんなのは私の全身全霊からは程遠い。

 

だけど駆け抜けるのは楽しかったしやりがいはあった。だからもっと先へ。そいつにはまだ先があった。

 

磨きあげる。研ぎあげる。何度も微調整を繰り返し、より強く、より高く理想の果てを目指す。

 

そいつは勝った。勝った。勝って勝って勝ち続けて・・・潰れた。

 

予後不良。精神に肉体がついていかなかった。完璧に仕上げ万全のケアをしていた筈の肉体は、限界を超え砕けた。

 

そいつは泣きながら私に謝った。なぜ私に謝るのか分からなかった。私は謝られるようなことはしていない。私があいつを壊したのに。

 

だがいくら止めるように言っても謝るのはやめない。そいつの目の私に対する信頼は全く欠けていない。結局私を最後まで一度も責めなかった。

 

走れなくなり居場所をなくしたそいつはチームを抜けた。

 

次の担当はそうはさせまいとした、次も、次の次も、次の次の次も。手は抜いていない全力だった。新しい理論を組み、安全マージンだって十分とったはずなんだ。

 

どの子も素晴らしいと言える戦績を残した。輝く栄光を手に入れた。

 

そしてみんな潰れた、潰れた、潰して潰れた。引退する前担当した子たちは誰一人として恨み言は言わない。感謝の言葉を残して私の前から去っていく。

 

貴方しかいない。もう一度勝ちたい。あいつらを見返したい。1番先頭でゴールしたい。勝ちたい。栄冠が欲しい。信頼に応えてみせる。

 

ありがとう。いい夢が見れた。やり切った。ありがとう。感謝している。ありがとう。信頼に応えられなくて、ごめんなさい。

 

やめろ。

 

やめろ。

 

私はそんな男じゃないんだ。私はただ自分の才能を十全に奮ってみたかっただけなんだ。誰もみたことのない傑作を作りたかっただけなんだ。その傑作を作る為のベースにしただけなんだ。

 

私は・・・自分が楽しみたかっただけなんだ。

 

私はなにをした?なにをしていた?大人しく腐っていればよかったんだこのひとでなしめ。

 

担当を壊すことしかできないのに・・・こんなこと始めるべきじゃなかったんだ。史上最高のウマ娘を設計するだなんて。

 

するべきじゃなかったんだ。(Eclipse)に挑むだなんて。

 

だから全てを捨てた。ミカドランサーには私のプランは与えない。壊れる担当を見るのはもう沢山だ。

 

『トレーナーができる人っていうのはわたくしなんとなくわかりますの。今は貴方のことを信用に留めておきますが、ダイエットに成功したらわたくしが信頼してあげますわ!だから一緒に頑張りましょうね!』

 

黙れ。

 

信頼が欲しいわけじゃない。

 

ミカドランサー・・・お前を引き入れたのはあくまでデータ収集の為だ。お前につけたウェアラブルデバイスから送られてくるデータが目的なんだ。

 

それなのに信頼?私はただ利用しているだけだ。

 

アームチェアがわたしの体重でぎぃぎぃと悲鳴を上げる。

 

私はお前なんてどうでもいい。お前たちでなくてもよかったんだ。お前たちは鬱陶しいんだ。

 

やめろ。だからそんな目で私を見るな。

 

私を慕うな。

 

私を信頼するな。

 

もううんざりなんだ。

 

その言葉はすごく痛いんだ。

 

だから・・・私を信頼しないでくれ。

 

 




相当・・・難産でした。100話記念にクソシリアスを入れるなんて・・・。

いつか出そうと思っていた話。元々ベースは随分前に書き上げていたのですが相当削りました。一万文字から減ったなぁ。

トトロはデータ収集という言い訳をしないと、誰かに手を差し伸べられない男なんです。拗らせ男でしょう?
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