永遠なる皇帝とストイックモンスターメスガキが、主人公を大岡裁きするお話 作:ぐっちSKG
はっ、はっ、はっ
林道を走るあいつの影を追う。
クソッ、何が様子見ですか!絶対ガチでしょこれ!
10mほど先で走るブルーは綺麗なフォームで走っている。ターフで走るほどの速度ではないものの、明らかにわたくしは突き放されている。
ズルッ
ひぃぃぃ〜!!す、滑りましたわ!今!この速度で転んだら!転んだら!わたくし死ぬ!死んじゃう!
もし死ななくても怪我でもすれば、選手生命に関わることになるだろう。普段よりも全然飛ばしていないのに、道がわたくしのことを丸かじりしそうな気すらしてくる。恐怖がわたくしを包んでいた。
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は?わたくしのシューズ?これじゃダメですの?
そう言って今履いているシューズをブルーに見せる。そこまで高級品ではないが、いわゆるハイテクスニーカーと呼ばれている。ランニングもできる普段履き用シューズとして使っている、赤くて派手派手でカッコいい、わたくしのお気に入りの靴ですわ。
「林道を走り抜けるなら、もっとラリー向けのシューズにしないと死んじゃうよ」
ジョギング程度ならそれでもいいけど。ブルーはそういうと、自分の鞄からもう一足の無骨なシューズを取り出す。えっそれわたくしの?用意がいいのですわねぇ。
ブルーは自前の靴をわたくしに履かせ調整を行う。わたくしの足元にかがみ込むブルーの顔は真剣で、わたくしはつい黙り込んでしまう。
「さっ、準備完了だよ♡走ろっか!・・・どうしたの?」
なんでもありませんわ!
ラリーレースはタイムトライアル性で、こうやって同時に近くで走ることはないそうですわ。それでも今回は5mくらい離れての走行となったのは、ブルー曰く教導のためらしい。
わたしの走りを見ながら後ろからついてきてね♡と言っていた。言っていたのに・・・・
ちぎられないようにするので精一杯ですわ!なんですの!一体何が違いますの!
本来ならすでに見えない位置にいるであろうブルーがまだわたくしの視界に残っているのは、あいつが見えなくなりそうになったら足を緩めているからだ。
そうでなければとっくにちぎられている。
歯を食いしばり加速しようとする。すると途端に足が滑る。んがぁぁぁぁぁ!どうしろっていうのですかぁぁぁあ!
全くスピードが出せない。体のコントロールが効きませんわ!
前を走るあいつは滑っていない!あるはず!何が理由があるはずですわ!よく見ろわたくし!
そういえばこうやってあいつの走り方を近くで見るのは初めてですわねと考えながら、あいつの走り方を観察する。
・・・足の運び方が違う?
確かにこうして近くで見ると、わたくしのフォームとかなり違う。というよりも普段ブルーが学園で走っているフォームとも違う気がする。上から踏んでいる。そして体を前へと押し出すように脚を踏み込む。
いやそんな・・・思いっきり踏み込んだ方が早いんじゃ。そう疑問に思いながら、なんとなく真似してみる。
恐怖を押し殺しながら、深呼吸。すぅー・・・・はー。
上から・・・踏む!・・・そして、押す!
グイッと体が前に進む。足が滑らない。
・・・・・ふ。ふふふ。ふふふふふふ。
こんな秘密があっただなんて!いつも通りに思い切り踏み込まない方が速いだなんて!畜生ブルーのやつ最初に言って欲しいですわ!
意地悪なブルーへの仕返しを考えながら、わたくしは前を走る青いのを追撃した。
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退屈だ。これで何本目だろう?見込み違いだった?いやそれだけはありえない。
母親の教えに習ってミカドちゃんにも、わたしが昔されたことと同じように教導する。
母の教えはまず自分で気づかせることから始まる。彼女の前を走り、フォームと速さの違いを見せつける。言葉よりもずっと雄弁にわかるように。ミカドちゃんには肉体的な才能は間違いなくあるし、センスだって悪くないと思う。ならあとはやり方を仕込むだけだ。根気よく何度も何度も。
振り返らなくても音でわかる。地面とシューズが擦れる音。
踏み足が地面に当たる音。踏み抜ける時の音。彼女の状況が手に取るようにわかる。
その中でも特に、シューズが地面を滑る耳障りな音が耳を貫く。
ダメなんだよ。それじゃあダメなんだよミカドちゃん、普段通りのフォームじゃ。それじゃあ踏み抜けられない。林道だと地面にしっかりとトラクションをかけないと、体は前には進まないんだよ。
思い切り踏み込むのはベテランでも難しい。踏み込める場所を判断しなくてはならないからだ。だからこそ脚が触れた地面にギリギリ滑らないパワーを出せるかが1番重要なのだ。
ああ、横で併走しながら手取り足取り教えたくなる。それは間違ってるんだと伝えたい。
気づいて わたしに あなたに 違うのは何処か はやく はやく!
そう考えていると後ろの雰囲気が変わった。
パンッ!
音が変わった。
ああ、やっとか。
やっと退屈しなくて済む。
この音だ。ずっと待っていた。
ミカドランサーの目覚める音だ。
わたしは耳を前に折りたたむ。今日の教導はこのくらいでいいよね。
ここからは全力走行だよ、頑張ってついてきてねミカドちゃん。じゃないと・・・置いて行っちゃうから。
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先ほどまで恐怖を感じていた感覚はありませんわ。足は滑らない!自分の走りができてますわ!
一度目の成功から、何度も試行錯誤を繰り返す。どのくらいの足場ならどのくらいのパワーか。どれだけ脚を回すのか。前にすごく参考になるお手本があるのだ。一つでも多く盗め!わたくし!
ズルリ。ほんのわずかに僅かに滑る。パワーを抑える。
踏み込む。ここならまだ行けそうだ。踏み足を強くする。
少しずつ、その間に刻むように学習する。少しでも速く走れるように。
慣れない林道で崩れていたフォームが戻る。新生する。ターフでどのくらい効果があるかはわからないですけど。これは使える技術であるのはまちがいありませんわ!
これが新しいわたくしのフォーム。名前は・・・名前は・・・あとで考えますわ!とりあえずニューわたくし参上!
あとは追い抜くだけ!覚悟しなさいブルー!って遠い!
さっきまですぐそばにいたのに。まだまだ上のギアがありましたのね!先程までとは段違いのスピードですわ。
もはやこっちを振り返らないブルーからは、青いオーラが迸っているようにすら感じますわ。
これが本気のブルー・・・ターフで走っているときよりもずっと気合が入ってるように見えます。
勝てないかもしれない、でも逃がしませんわ。やっと林道のコツが掴めたのに、置き去りなんて死んでもごめんですわ!
わたくしはブルーを追いかけるため、さらに必死に脚を回す。まてぇぇえ!
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2人揃って林道の脇にへたり込みスポドリを飲む。2人とも泥まみれだし、着ていたシャツが汗でびっちょりですわ。肌に張り付いて気持ちが悪い。
わたくしは勝てなかった。というか大差負けだった。おそらくは踏み込む技術だけではない。多分他にも必要な技術がまだまだ沢山あって、わたくしにはそれが足らなかった。ブルーめ、こいつ実はとっても凄いやつでしたのね。
ですが妙な高揚感がある。ターフとは違う満足感。思いっきり踏み込み風を切り裂くこととは違う。体の隅々までコントロールし自分で操る快感。
ブルー。
「・・・どうしたのミカドちゃん」
置き去りにして、ちょっと後ろめたいのだろうか?少しためらいがちに返事をするブルー
その、ラリーって・・・結構楽しいですのね。
「・・・うん、うん!」
感極まったように頷くブルー。凄く嬉しそうだ。普段とは全く違う素直な反応にちょっとびっくりする。
ていうかなんで貴方目元が潤んでますの?
というわけでラリーレースもどきでした。今は林道を走っただけですが、そのうちウマ娘ラリーレースも設定を煮詰めないと。距離が違うから現実のカーラリーはそのままは流用できないしなぁ。でもまぁなんとかなるでしょメイビー。
メスガキちゃん。最初はミカドちゃんの才能しか見ていません。才能を磨き上げ、ラリー界発展のために役立ってもらおうとしか考えていませんでした。
ですが今回の話で、ミカドちゃんは同好の友達になってしまったんですね。それは間違いなくいい事なんですけど、メスガキちゃん同好で同年代の友達って今までいなかったからなぁ。掛かってしまうかもしれません。
彼女はストイックモンスターですが普通の女の子なんです。可愛いですね。