永遠なる皇帝とストイックモンスターメスガキが、主人公を大岡裁きするお話 作:ぐっちSKG
春だ。春である。春の日差しが桜の花の隙間から差し込んでいる。
つい数週間前までの寒空は、春の陽気に蹴り出されたのかもはや影も形もない。
そんな春を謳歌するように植物が花をつけ、微笑むかのように世界を美しく彩っている。
春に芽吹くのは花に限ったことではない。
今日もまた1人のウマ娘が、大望を胸に抱き、自らの才能を芽吹かせるべく中央トレセン学園の門を叩く。
この季節にありふれている光景ではある。花開く前の蕾のように青々しく、そして迸るほどの情熱を秘めた新入生として。
トゥインクル・シリーズの栄光をその手に掴むために、入学してくるウマ娘は多い。その中の1人であり、今はまだ無名のウマ娘にすぎない。だが後に多くの観客の心を掴むことになる一つの星。
彼女の名はミカドランサー。
彼女の歩みと同時に揺れる、自慢の葦毛をなびかせながら。
自らの思い描く未来を一切疑わず、彼女は前へと進む。
これは数多くのライバルたちと競い合い、流星のように駆け抜けた彼女の物語である。
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中央トレセン学園、正式名称は日本ウマ娘トレーニングセンター学園。
3000人を超えるウマ娘を抱える、日本で最も大きいトレーニングセンター学園である。
ウマ娘はもちろんトレーナーや設備等も含めて、世界中の名門トレーニングセンターと比べても比肩しうる、限りなく高品質のものが揃えられている。
そのようなことができたのは、これまでの先達が血の滲むような努力を積み重ねてきたからである。
故に全国のウマ娘の模範となれるよう、我々は文武両道とならねばならない。これまでの先達らに恥じない、そして未来の後輩たちを導けるような立派なウマ娘になってほしい。
とそんな感じのことを、現生徒会長であるシンザン先輩が昨日の入学式の壇上で話していたのを思い出していた。
(やっべぇですわ・・・入学早々やっちまいましたわ・・・!)
背筋に冷や汗が伝い、焦りからか視界がぐにゃりと歪んだように感じる。
先ほどまで行われていた各自の自己紹介が終わり、最初の授業が始まろうとしたときにそれは起こった。いや気付いてしまったと言ったほうが正しいだろう。
さあ鞄から教科書とノートを取り出そうと、カバンを開けたのだが、彼女の目に飛び込んできたのは予想とは違う光景だった。開かれたカバンから目に飛び込んできたのは教科書でもノートでもなく・・・
週刊少年ジャンプだった。
(ちっくしょう!昨日ですわね!昨日購買に寄ったときですわね!)
昨日の入学式の後、寮の先輩に引率されながら学園の施設を案内されたとき購買にも寄ったのだが、その時気がついてしまったのだ。
トレセンの購買・・・ジャンプが1日早く発売してますわ!
あとで寮で読もうっと、と考えながら寮の先輩にバレないように購入し、おろしたてのカバンに突っ込んだ。
その夜、荷ほどきそっちのけでジャンプを読みそのまま就寝。忘れられた哀れな教科書は段ボールの中に置き去りとなった。
(なんですのその顔は!キメ顔で表紙を飾るのなら、今の私を救ってみせなさい!やって見せろよジャンプ!)
愛読する週刊少年ジャンプの表紙を飾る、人気漫画の主人公を心中で八つ当たりしながら、ミカドランサーは考える。
(落ち着け・・・落ち着くのですわたくし。この程度のピンチは何度も乗り越えてきたでしょう。なんとでもなるはずですわ!)
(教科書を忘れたことなんて珍しいことではありませんわ。わたくしは今まで教科書だって、宿題だって、なんならランドセルだって忘れたことがありますのよ!その時のことを思い出すのですわ!)
(教科書を忘れた時のように素知らぬ顔で授業を受ける・・・流石に机の上に教科書もノートも筆記用具もないのは誤魔化しきれませんわ!)
(それなら宿題の時はどうしましたっけ、確か・・・宿題のプリントがヤギに食べられたって言ったんですわね。だめですわ、あれは先生にくっそ怒られたんですわ。)
(ランドセルを忘れた時は・・・学校ばっくれて大騒動になって親にしこたま拳骨を喰らったんですわね。流石に二度とごめんですわ!)
今思えば全然切り抜けられていない。そんな自分の経験値に絶望している間にも時間は過ぎていく。
(やはり正攻法のせんせー忘れちゃった隣の子に見せてもらう作戦で行くしかありませんか。正攻法よりも機転と度胸でピンチを切り抜けるほうが漫画の主人公みたいで好みのスタイルなのですが・・・)
彼女にとって今日会ったばかりのろくに知らない相手に、教科書を見せてもらうように頼むのは難しいことではない。彼女にとって重要なのはいかに漫画の主人公のようにカッコよく切り抜けるか、その一点なのである。
だがこれがミカドランサーの少年漫画に染まりきった残念脳みその限界なのだろうか?賢さが不足しているようですね。
もはや最初の授業から忘れ物をする、ウカツ者の謗りは避けられないのだろうか。カッコ悪い。
(もはやいっそジャンプは人生の教科書と言い張るという手も・・・)
絶対通らない理屈でありながら、無駄に足掻こうとするミカドランサー。そんな彼女に隣の席の少女が少し躊躇いながら声を掛けてきた。
「さっきからカバンに向かって百面相をしているようだが、体調でも悪いのか?」
隣の席の少女は保健室に連れて行こうか?と気がかりそうにしていた。
・・・・せんわ
「えっ?」
教科書が!ありませんわ!
隣に聞こえる程度に叫ぶという器用なことをする。そんなミカドランサーはすごくカッコ悪かった。
「それなら先生に教科書を忘れたと正直に言えばいいだろう」
それはカッコ悪いでしょう!
「えぇ・・・・」
少し引き気味な反応をした隣の席の少女は腕を組み、少し考えたあとに口を開く。
「今日は授業の概要を話すだけなはずだから、教科書は使わないはずだ。ノートをとっていれば何も言われないと思う。」
まじですの?!救いはあるのですか?!
「絶対とは言い切れないが、昨日先輩が言っていたから間違い無いと思う」
じ、実はノートも鉛筆も持っていませんの
「君は何をしに教室に来たんだ」
隣の席の少女は真顔になったが、自分のルーズリーフ数枚と、予備の鉛筆を手渡してきた。
メシア・・・っ!貴方はメシアですわ・・・!
「・・・君は大袈裟だな。」
隣の席の少女が苦笑したと同時に、教員が教室に入ってきた。
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ふぅ、助かりましたわ・・・入学早々ご迷惑をかけましたわね。
午前の授業をなんとか乗り越えて昼休憩。食事後は少し時間が空いてから午後は実技授業に入る。つまり今日はもう教科書は必要ではない。なんとか教科書なしという状態から逆転できたわけだ。
びっくりハプニングを乗り越えて、嫌な顔一つ助けてくれた隣の席の少女に感謝の言葉を述べる。
そこでわたくしは改めて彼女の顔を見る。
無表情とか冷たい・・・というわけではないがとっかかりがないというか、掴みどころがないような、明らかにクラスメイトのウマ娘達とは雰囲気の違う少女だった。
だが決して不快感はない。開かれた瞳からだけでも高い知性が感じさせられ、いずれ誰もが知るウマ娘になるだろうという予感を思わせる。そのような要素が合わさり、同年代ながらどこか大人びたような雰囲気を纏っていた。
わたくしの名前はミカドランサーですわ。これからよろしくお願いしますわ。
改めて貴方のお名前を伺っても?という言葉に隣の席の少女は僅かに微笑みながら返答する。
「私の名前はシンボリルドルフだ。こちらこそよろしく頼む。ミカドランサー。」
*小話*
購買案内中の寮の先輩「明日の授業はさわりだけだろうけど、筆記用具は購買で買ってしっかり準備しとけよー」
ミカドランサー「ジャンプ!ジャンプデスワ!」←聞いてない